SHOP

内祝い

  1. トップ
  2. 赤ちゃん・育児
  3. 赤ちゃんの病気・トラブル
  4. 胃や腸が押し上がって肺が育たない。おなかにいるときに病気がわかったわが子と過ごす日々。「1人で悩むまず、支え合える場所を作りたい」【医師監修】

胃や腸が押し上がって肺が育たない。おなかにいるときに病気がわかったわが子と過ごす日々。「1人で悩むまず、支え合える場所を作りたい」【医師監修】

更新

2歳半ではまだ、風邪をひくと酸素が必要でした。

寺川由美さん(39歳)の2018年に生まれた二男は、重篤な疾患・先天性横隔膜ヘルニアと診断されています。寺川さんの周囲に同じ状況の人がいなかったため、悩みを相談できず、1人で抱えこんでいたそうです。同じ思いでいる人を孤立させないため、2020年「先天性横隔膜ヘルニア患者・家族会」を立ち上げるまでの経緯を聞きました。
全2回のインタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

1歳で酸素ボンベが必要なくなる

初めてお兄ちゃんと面会したときの様子です。

――二男の晴貴くんが、妊娠14週で先天性横隔膜ヘルニアと診断されたそうです。どんな医療ケアが必要だったのでしょうか?

寺川さん(以下敬称略) この疾患は生まれつき横隔膜に孔(あな・病的変化などにより、臓器の壁にあいた穴のこと)あいていて、胃や腸が胸に入り込んでしまうという病気です。生まれてすぐに横隔膜を閉じる手術が必要です。肺の成長が不十分なため、うまく呼吸ができず、人工呼吸器が必要で、晴貴も生まれた直後から人工呼吸器をつけることになりました。

人工呼吸器は生後11日で卒業できたのですが、その後「ネーザルハイフロー(ハイフローセラピー)という、鼻から高流量の酸素を投与する呼吸補助治療を受けていました。生後50日くらいから酸素カニューラ(鼻の下に当てて、酸素を流出させるチューブのこと)に移行し、生後62日目に初めて酸素ボンベを背負い、長男と窓越しに面会できました。

生後3カ月半入院し、退院後も1日中酸素カニューラをつけて過ごしました。少しずつはずす時間を増やしていきながら卒業となる子もいるようですが、晴貴は1歳になってすぐの外来で心臓エコー検査などの結果から「今日から酸素は必要ありません」と言われました。突然の卒業となったんです。体の一部のようになっていたので、最初はおそるおそるでした。

――現在の晴貴くんの様子を教えてください。

寺川 晴貴は現在6歳です。2歳から保育園に通い始め、園にいる間はケアが必要ない状態です。現在は運動制限もありません。友だちと活発にかけっこをしたり、こま回しをしたりして楽しんでいます。感染症にかかって酸素が必要なときは保育園に行けず、私か夫が自宅で見ていますが、成長と共に酸素が必要になることは減っています。小学校は、今のところは通常学級に進学予定です。現在は、2カ月に1回ほど病院に行き、気管支ぜんそくの吸入薬を処方されています。

とはいえ、この疾患は基本的に一生つき合っていく必要があるものです。胎児のときに肺の形成が不十分だったため、肺の機能もほかの人より低いです。発達の問題や側弯症(そくわんしょう)などの、起こるかもしれない合併症を含めると、ずっと見守っていく必要があると感じています。

旅行先でぜんそくを発症し、1週間入院したことも

旅行先でぜんそくを起こしました。

――これまで入院をしたことはありますか?

寺川 産後3カ月半入院していました。退院後も何度か入院しています。生後7カ月、9カ月、11カ月で呼吸器感染症にかかり、1週間ほど入院しています。1歳5カ月のときは旅行先で体調を崩し、入院することになりました。そのころの晴貴は、酸素は卒業していましたが、風邪をひいたときは必ず酸素が必要でした。まだそんな状態だったので、事前に酸素会社に「ここに行きます」と伝えておくと、指定した場所に酸素を置いておいてくれるんですが、その時は「今回はいけるかな」と甘く考えて手配しなかったんです。

旅行先でちょうど台風が来てしまい気圧が変化した影響で、ぜんそくを発症してしまったんです。基準値が96~99%くらいといわれる酸素のサチュレーションが80%まで下がり、急きょ病院に運ばれることになりました。私が付き添い、1週間ほど入院して新幹線で帰宅しました。

医師と連携し、家族会を立ち上げることに

先天性横隔膜ヘルニアを抱える晴貴くんは外遊びが大好きです。

――2020年、患者・家族会を立ち上げたとのことです。どのようなきっかけがあったのでしょうか?

寺川 妊娠14週で晴貴が先天性横隔膜ヘルニアだとわかってから、同じ疾患をもつお子さんの出産、子育てのブログをよく読んでいました。大学の小児外科のホームページなどを見て勉強もしましたが、やはり、同じ立場のママ・パパと悩みを共有する場所が欲しかったんです。

たとえば、赤ちゃんのころの晴貴は、ほとんどおっぱいを飲みませんでした。そんなとき、どうしたらいいかはすべて手さぐりでした。同じ疾患がある子や家族が情報交換をしたり、さまざまな悩みに対し共感ができたりする家族会があったらいいなとは考えていたんです。

私は医療従事者でもあるので、2019年に日本小児外科学会が開催されると知りました。そのなかで行われた先天性横隔膜ヘルニアのシンポジウムに参加したところ、日本先天性横隔膜ヘルニア研究グループの医師の1人が「次に先天性横隔膜ヘルニアの診療ガイドラインの改定を行う時には患者や家族の意見を聞きたい」ということを発表の中でおっしゃっておられました。

そこで、スライドに記載されていた連絡先に連絡をしてみました。そこから日本先天性横隔膜ヘルニア研究グループの先生方とのつながりができたんです。私が「家族会があったらいいなと思っています」と話すと「ぜひ立ち上げてください」と応援してくれました。医師の協力もあり2020年5月、7名の初期メンバーとともに「先天性横隔膜ヘルニア患者・家族会」を立ち上げました。

――初期メンバーは、どのように集まったのでしょうか?

寺川 同じ病院に入院していたお子さんのママがインスタグラムで呼びかけてくれたところ、考えに共感してくれた人たちが集まりました。7人から始まった患者・家族会の会員数は2021年5月には32人くらいになりました。2024年10月現在52名の会員がいます。
最初に会員数が増えたのは、研究グループの先生方のおかげでもあります。2020年末から2021年にかけ、研究グループに所属している病院の患者を対象に「先天性横隔膜ヘルニア患者・家族会のことを知っていますか?」と、アンケート調査を実施してくださりました。また、外来診察でリーフレットも置いてくださったんです。そのおかげで一気に周知が広がりました。

悩みを発信すると、すぐに答えてくれる人がいる心強さ

2024年4月にフランスで行われた、先天性横隔膜ヘルニアインターナショナルカンファレンスで発表をしたことも。

――患者・家族会では具体的にどのような活動をしていますか?

寺川 年に1回、総会を開催しています。会報にも力を入れていて、年に2回会員限定で発行しています。毎回、研究グループの医師のコラムや、家族や当事者の思いなどをつづっています。たとえば、就学に向けてどんなことを行っているかなど、実際に経験したことなどが書かれています。また、オンラインや対面で交流会も開催しています。

――患者・家族会を立ち上げてよかったことはありますか?

寺川 活動するなかですてきな人たちと出会え、日々学ぶことが多いです。会員でLINEのオープンチャットをしているのですが、だれかが相談するとすぐに「うちはこうしたよ」とか「こういう制度が利用できたよ」という返信がすぐに来るんです。さまざまな職種の人がいますし、経験も豊富で、どの回答も親身で心がこもっているんです。皆「自分も困ったから役に立ちたい」と考えているんだと思います。

また、研究グループの先生方のお力添えも大きいです。診察や手術、研究で忙しいにもかかわらず、医療講演会をしてくださったり、時間をさいて横隔膜ヘルニアのことを考えてくださっているんだと実感します。

学会にも積極的に参加しています。2023年、日本小児外科学会の国際シンポジウムで、患者・家族会の立ち上げについて発表しました。2024年4月には世界中から参加者が集まるフランスで先天性横隔膜ヘルニアの国際学会に参加しました。患者・家族会で実施したアンケート調査の発表をしました。その間、子どもたちは夫が家で見てくれました。私の活動を理解してくれる夫に感謝しています。

妊娠中のママ・パパの気持ちが尊重されてほしい

家族旅行の宿泊先のホテルの様子です。

――患者・家族会を立ち上げ、感じたこと、気づいたことはありますか?

寺川 先天性横隔膜ヘルニアは、胎児のときに診断される場合が少なくありません。診断される時期によっても悩みは違うと思いますが、どなたも不安や孤独を感じるかと思います。この時期に、疾患についての正しい最新の情報を知ることはとても大切だと思いますし、自分の経験から、この時期に周囲の方などからサポートをしてもらったり、自分の気持ちを聞いてもらえることは、その後の人生につながってくると思っています。私は、ママ・パパたちが正しい情報を知って悩んで考えて出した答えはどれも間違いではないし、尊重されるべきだと思います。不安や孤独な思いをしているママ・パパの気持ちをお聞きして、そばにいたい、できる限りのサポートをしたいと思っています。

――今後、どのような活動をしていきたいと思っていますか?

寺川 患者・家族会には胎児診断された人、子育て中の人、成人した人、子どもを亡くされた方などさまざまな人がいます。どんな立場の人たちにとってもこの患者・家族会が安心できる場所にしたいです。また、必要としてくれる人に対し、誠実に向き合っていきたいと思っています。患者・家族会だからこそできる情報発信や交流もずっと続けたいです。さいわいにも、研究グループの先生方からも支援していただいているので、引き続き連携していけたらと考えています。
昨年、運営メンバーの交代もありましたが、新しい風を吹き込んでくださり、活動の幅が広がって感謝しています。

患者・家族会を立ち上げ、本当にたくさんの温かい優しい思いに触れる機会がありました。すばらしい出会いに恵まれたと思います。この疾患と向き合う人たちにとって、安心できる場所であり続けられるよう、頑張っていきたいです。

【臼井規朗先生から】患者・家族会は、患者家族にとっても医療者にとっても大切な存在

病気を診療する医療者にとって、患者さんやそのご家族が実際にどのような事で困られたり、悩まれたりしているかを知ることは非常に大切です。その事により診療や研究が今後進むべき道筋が明らかになるからです。私たちは患者さんやそのご家族の思いをフィードバックしていただける患者・家族会の存在を大変ありがたく感じています。
また、医療者側から理解しにくい悩みを、互いに支えあっていただける患者・家族会はとても貴重です。同じ病気で悩む患者さんやご家族のためにも、今後もピアサポートの活動を続けていかれることを心より応援しています。

お話・写真提供/寺川由美さん 監修/臼井規朗先生 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部

患者・家族会の立ち上げについて話をする寺川さんは、とてもおだやかな雰囲気でした。自身の経験を踏まえ、疾患に向き合う人たちが安心できる場所を作った行動力はとてもすばらしいと感じました。今後もさまざまな活動を続けていくに違いありません。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

先天性横隔膜ヘルニア患者・家族会のURL

寺川由美さん(てらかわゆみ)

酸素ボンベを持ちながら旅行に行きました。

PROFILE 
2018年、妊娠14週で二男が先天性横隔膜ヘルニアを診断される。2020年「先天性横隔膜ヘルニア患者・家族会」を立ち上げる。

臼井規朗先生(うすいのりあき)

PROFILE
大阪母子医療センター副院長。小児外科医。大阪大学医学部卒業。2015年「新生児先天性横隔膜ヘルニア診療ガイドライン」の作成、2021年同改訂版の作成を手がける。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年10月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

赤ちゃん・育児の人気記事ランキング
関連記事
赤ちゃん・育児の人気テーマ
新着記事
ABJマーク 11091000

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第11091000号)です。 ABJマークの詳細、ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら→ https://aebs.or.jp/

本サイトに掲載されている記事・写真・イラスト等のコンテンツの無断転載を禁じます。