SHOP

内祝い

  1. トップ
  2. 赤ちゃん・育児
  3. 日本の子どもの予防接種、ほかの先進国と日本との間にある「ワクチン・ギャップ」は解決した?【予防接種の30年・前編】

日本の子どもの予防接種、ほかの先進国と日本との間にある「ワクチン・ギャップ」は解決した?【予防接種の30年・前編】

更新

Photo by wacomka/gettyimages

かかると重症化しやすい感染症から、子どもを守るために欠かせない予防接種。ここ数年の新型コロナウイルス感染症の流行で、予防接種・ワクチンがかなり注目されたのではないでしょうか。
「たまひよ」創刊30周年企画「生まれ育つ30年 今までとこれからと」シリーズでは、30年前から現在までの妊娠・出産・育児の様子を振り返り、これから30年先ごろまでの流れを探ります。今回は小児科専門医で2児の母でもある森戸やすみ先生に、子どもの予防接種・ワクチンについて、ここ数年の動きと最新情報について聞きました。

世界的に予防接種率が低下し、麻疹やポリオの感染者が増加

熱で泣くアジアの赤ちゃん
●写真はイメージです
mapo/gettyimages

――最近の予防接種の動きについて教えてください。

森戸先生(以下敬称略) 赤ちゃんがいるママ・パパにまず知ってもらいたいのは、2023年4月1日から、定期接種の四種混合ワクチン(ジフテリア・破傷風・百日せき・ポリオ)が、生後2カ月から接種にできるようになったこと。これまで四種混合ワクチンは生後3カ月から接種することになっていましたが、生後2カ月からに変更されました。前倒しされた理由は、6カ月未満の赤ちゃんがかかると重症化しやすい百日せきに、3カ月より前にかかってしまう赤ちゃんがいるからです。四種混合ワクチンが2カ月から接種できるようになったことで、ヒブ、小児用肺炎球菌、B型肝炎、ロタウイルスと合わせて、5種類のワクチンの同時接種ができるようになりました。

――年齢の高い子の話になりますが、同じく4月から、9価のHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンが公費で受けられるようになりました。

森戸 HPVワクチンは小学6年生から高校1年生の女子を対象として、2013年4月に定期接種となりました。しかし、接種後に慢性の痛みや運動機能障害など多様な症状が報告されたため、2カ月後の6月に接種の「積極的な勧奨」が中止に。この措置は世界的に批判されることとなりました。
厚生労働省は、HPVワクチンの効果と安全性に関する評価を行い、さらに国内外の最新の報告などを踏まえ、ワクチンの安全性に懸念が認められないことや、接種によって得られることが副反応のリスクを明らかに上回ることなどを確認し、2021年11月26日に接種の積極的な勧奨を再開しました。

そして2023年4月1日から、従来のHPVワクチン(2価、4価)に加え、9価HPVワクチンも定期接種に加わることに。また、従来9価ワクチンは3回の接種が必要でしたが、15歳になる前日までに1回目を受けた場合は、2回の接種でもいいことになりました。なお、1回目の接種が15歳以降の人は、従来どおり3回接種が必要です。

――9価ワクチンが新たに加わるのに、2価や4価のワクチンが引き続き使われるのはどうしてでしょうか。

森戸 9価ワクチンは子宮頸がんを防ぐだけでなく性感染症の尖圭(せんけい)コンジローマも予防します。そして、HPVワクチンは原則として、すべて同じ種類のワクチンを接種することがすすめられています。すでに1回目、2回目を2価や4価で受けている人がいますから、2価や4価のワクチンも必要です。また、複数の会社が作る複数のワクチンがあることは、安定供給のために大事なことです。

――5月には、インドから帰国した男性が麻疹(はしか)を発症し、電車の同じ車両に乗っていたほかの人も感染していることがわかりました。

森戸  厚生労働省が公表した2021年度の麻疹・風疹予防接種の実施状況によると、第1期MRワクチン実施率の全国平均は93.5%で、MRワクチンの2回接種をスタートした2006年以降で最低でした。麻疹排除を継続するには予防接種率95%を維持する必要があったのですが、新型コロナウイルスの感染症による受診控えなどの影響などで、MRワクチンの接種率が下がってしまったのです。

――日本国内で前回麻疹が流行したのは15年ほど前。ワクチン接種率が下がっていると、流行するおそれがありますか。

森戸 近年中に流行するおそれは、かなりあります。新型コロナのパンデミックにより、世界中で基本的なワクチンの接種率が低下していますから、世界的に危機的な状況でしょう。今回の麻疹の国内感染でもわかるように、麻疹は空気感染するので、免疫を持っていない人が多いと、簡単に広がってしまいます。

――根絶が期待されていたポリオも、現在海外で流行のきざしがあるとか。

森戸 もうすぐ根絶達成というところまできていたのに、残念ながら感染者が増えてきています。野生株由来のポリオはアフガニスタン、パキスタン、モザンビーク、マラウイで見られ、不活化ポリオワクチンの接種率が高いイギリスやアメリカでも、生ワクチン由来のポリオが発生しています。今のところ日本ではまだ新たな感染者が出ていないとはいえ、油断はできません。

日本では、ポリオは不活化ワクチンを1歳6カ月までに4回受けるのが標準的ですが、先進国の多くの国では5〜6回接種し、最後に受けるのは4~14歳です。日本でも5~6歳で5回目の接種を受けることが推奨されてはいます。しかし、5回目は自費になってしまうため、接種率が低く、現在、5回目の定期接種化が要望されています。

ワクチンは「医学史上最大の発明品」 といわれる理由

インフルエンザまたはコロナウイルスワクチン
●写真はイメージです
DragonImages/gettyimages

――そもそも、予防接種とはどのようなものなのでしょうか。

森戸 予防接種とは、毒性を弱めた病原体(ウイルスや細菌)や毒素を、その病気にかかる前に体の中に入れることで、その病気に対する免疫を作り、かかりにくくするもの。予防接種のときに投与するものがワクチンです。
1796年にイギリスの医師エドワード・ジェンナーが、牛痘患者の病巣から得た液を植え付けて天然痘を予防する「牛痘法」を発表したのが、予防接種の始まりです。
ワクチンは受けた本人を感染症から守る効果だけでなく、たくさんの人が接種することで、さまざまな理由から予防接種を受けられない人たちを社会全体で守る、集団免疫効果もあります。ワクチンは「医学史上最大の発明品」といわれています。

――日本では、予防接種に定期接種と任意接種の2種類があります。

森戸 「予防接種法」に基づいて公費で実施されるのが定期接種、それ以外が自費で行われる任意接種です。万一重大な副反応が起こったり、後遺症が残ったりしたときにはどちらも補償が受けられますが、定期と任意では補償の額が違います。

――2020年10月にロタウイルスワクチンが定期接種になったことを受け、接種間隔の見直しが行われました。

森戸 注射の生ワクチン同士の接種は、これまでどおり27日以上の間隔をあけますが、それ以外のワクチンで接種間隔のルールはなくなりました。
ただし、同じ種類で複数回受ける必要があるワクチンは、ワクチンごとに決められた間隔を守ることは従来どおりです。

――日本の赤ちゃんが1歳前に接種する主なワクチンは6〜7種類。何回か接種するワクチンが多く、接種回数は15回以上にもなります。

森戸 必要な免疫をできるだけ早くつけて、子どもを病気から守る「予防」ということが大切な目的ですので、ワクチンの同時接種で受けましょう。日本で同時接種が積極的に行われるようになったのは10年ほど前からですが、アメリカでは20年以上前から、早産で予定よりも早く生まれた赤ちゃんでも生後2カ月から6種類を同時接種で受けています。
同時接種を行うと通院回数を減らすことができ、予防接種スケジュールが簡単になるというメリットもあります。

「ワクチン・ギャップ」は改善されつつ あるが・・・

●写真はイメージです
wacomka/gettyimages

――日本はほかの先進国と比べて、公的に受けられる予防接種(定期接種)の数が少ない「ワクチン・ギャップ」が問題視されてきました。

森戸 かつての日本は、むしろ予防接種に積極的だったんです。数多くのワクチンが定期接種になり、1965年に高精度日本脳炎ワクチンが開発され、1974年には世界初の水痘ワクチンが日本で開発されました。
ところが、1980年代後半から、百日せきワクチンや日本製MMRワクチン接種後の副反応による訴訟が続いてしまい、ワクチンへの不信感が高まってしまったのです。そうしたことから1994年に予防接種法が大きく改正され、義務接種から努力義務に変わったこともあり、このころから日本の予防接種は、ほかの先進国におくれを取るようになってしまいました。

――ほかの先進国とのギャップは開いたままなのでしょうか。

森戸 WHOが「すべての地域に向けて推奨」とする予防接種は、BCG、ポリオ、DPT、麻疹、風疹、B型肝炎、ヒブ、小児用肺炎球菌、HPV、ロタウイルスの10種類です。

2000年代の麻疹の流行や、新型インフルエンザのパンデミックなどで、ワクチンへの関心が高まったこともあり、2013年に国が「予防接種基本計画」を出して、予防接種の推進をめざしました。そうした流れを受け、日本では2013年からヒブ、小児用肺炎球菌、HPVが、2016年10月からB型肝炎が、2020年10月からロタウイルスが定期接種となり、10種類すべてが定期接種となりました。
つまり、子どもが受ける予防接種のワクチン・ギャップは、改善されつつあるといえます。

とくに、ヒブと小児用肺炎球菌のワクチンが定期接種になってから、細菌性髄膜炎で命を落としたり、後遺症が残ったりする子どもは大きく減少しました。
しかし、定期接種化のおくれによって接種率が低くなっている世代への対応措置など、解決しなければいけないことは残っています。

――日本の子どもは受けておらず、ほかの先進国の子どもは受けている予防接種はありますか。

森戸 髄膜炎菌ワクチン、A型肝炎ワクチン、黄熱ワクチン、男子のHPVワクチンがあります。ただし、HPVワクチン以外は、住んでいる地域で流行しているのでなければ必要性は低いです。反対に、日本では定期接種の日本脳炎ワクチンは受けない国が多いですし、アメリカはBCGを行っていません。

――住む地域の状況で必要になるワクチンは違うということですね。

森戸 そうです。そのため、海外旅行や海外出張・転勤の際には、出向く地域での感染症に対応する「トラベラーズワクチン」が必要になります。トラベラーズワクチンは接種した人の健康を守ると同時に、帰国時に病原体を日本に持ち込まないという役割もあります。

日本のトラベラーズワクチンはまだ課題が多く、厚生労働省や外務省が渡航者への注意喚起を行っていますが、浸透していません。日本では未承認で使えないワクチン(腸チフス、コレラ、ダニ媒介脳炎など)もあります。グローバルに人が移動するのが当たり前の時代ですから、トラベラーズワクチンのギャップも早急に解決しなければいけない問題です。

「子どもは新型コロナに感染しても重症化しない」は古い情報

アジアの下痢病の子供の患者、病院のベッドに横たわっている子供の入院患者。医療疾患のヘルスケアの概念。
●写真はイメージです
Pornpak Khunatorn/gettyimages

――新型コロナウイルスのワクチンが世界的に注目されたことで、ここ数年は予防接種への関心が高まったように思います。

森戸 新型コロナウイルスワクチンの接種により、多くの人がワクチンの必要性を感じることができたのは、ワクチン接種のためにいい影響を与えたと思います。
その反面、新型コロナの感染拡大で、子どもを病院に連れて行くのを控えた人が多くいたため、乳幼児健診や予防接種が予定どおりに進まないことが問題になりました。

――新型コロナウイルスワクチンで「副反応が嫌だから打たない」という選択をする、子どもへの接種を控える、などの動きはありましたか。

森戸 子どもは新型コロナウイルスワクチンの副反応が出ることが少ないのですが、そのことを知らない人は、子どもへの接種を控えているようです。でもほとんどの人が、「○○だから接種しない」というしっかりした理由があるわけではなく、「まわりの子が受けていないから、うちもやめておこう」という“様子見”のような感じで接種を控えているように思えます。

理解してほしいのは、「子どもは新型コロナにかかっても重症化しにくい」というのは、コロナ禍初期のころの情報で、今は、基礎疾患のない子どもも重症化する危険性があるし、命を落とすこともあるということです。「子どもはかかっても軽く済むからワクチンは必要ない」という考えはアップデートする必要があります。

ワクチン接種を受ける受けないの考え方は人それぞれですが、一つだけ確かなことは、ワクチンを接種せずに新型コロナに感染した場合、重症化する、後遺症に苦しむ、命を落とすというリスクは、だれにでもあるということ。私は自分だけでなく家族にもそんなリスクを負ってほしくないので、今後もワクチンを打てる機会があるなら迷わず接種します。

――乳幼児や小児の場合、新型コロナ のように突発的なワクチンが増えたときも、優先させるのは定期接種でしょうか。

森戸 現在は、インフルエンザワクチン以外のワクチンは、新型コロナウイルスワクチンと前後2週間あけなくてはいけないので、どの予防接種を優先させるかは、月齢や年齢、流行状況などによって変わります。
子どものまわりで新型コロナがはやっていたら、ほかのワクチンよりも新型コロナのワクチンを優先したほうがいいでしょう。一方、一度もロタウイルスワクチンを接種していない、家族が百日せきにかかった、水ぼうそうが保育園ではやり始めたなどのときは、定期接種を優先してください。いずれにせよ、かかりつけ医に相談しながら進めましょう。

お話・監修/森戸やすみ先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

●記事の内容は2023年7月5日の情報であり、現在と異なる場合があります。

「たまひよ」創刊30周年特別企画が続々!

『たまごクラブ』『ひよこクラブ』は、2023年10月に創刊30周年を迎えます。感謝の気持ちを込めて、豪華賞品が当たるプレゼント企画や、オリジナルキャラクターが作れる「たまひよのMYキャラメーカー」など楽しい企画が目白押しです!たまひよ30周年特設サイトをぜひチェックしてみてください。

「たまひよ」30周年サイトはこちら

「たまひよ」では初めて孫が誕生する祖父母向けの無料マガジン特別創刊! 今どきの育児の常識・非常識のお役立ち特集や、孫の誕生をきっかけに家族の絆が深まるお楽しみ提案などをお届けします。

『孫ができたら最初に読む本』について詳しくはこちら

赤ちゃん・育児の人気記事ランキング
関連記事
赤ちゃん・育児の人気テーマ
新着記事
ABJマーク 11091000

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第11091000号)です。 ABJマークの詳細、ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら→ https://aebs.or.jp/

本サイトに掲載されている記事・写真・イラスト等のコンテンツの無断転載を禁じます。