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子どもは愛してる。でも母親になったことに後悔はない?【専門家】

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妊娠中のうつ病から苦しんでベッドの中で新生児にフォーミュラミルクのアジアの母保育園給餌ボトル。ヘルスケアシングルママ母性ストレスの概念.
●写真はイメージです
paulaphoto/gettyimages

2022年3月にイスラエルの社会学者オルナ・ドーナト著『母親になって後悔してる』(新潮社)が日本で刊行され、話題となりました。本には「子どもは愛しているけれど母親であることを後悔してしまう」という23人の女性の思いがまとめられています。「後悔」と聞くとドキリとしますが、「多少なりともわかるかも・・・」「なんか気になる・・・」などと感じる人も少なくないのではないでしょうか。
母親という役割に課せられる責任の重さについて、家族社会学が専門の大阪大学招へい研究員 元橋利恵先生に話を聞きました。

日本の母親たちの現状は?

イスラエルの女性社会学者 オルナ・ドーナトが23人の母親にインタビューし「母であること自体の困難」について証言をまとめ、その原因となる社会構造について分析した『母親になって後悔してる』(新潮社)。書籍は2016年にドイツで刊行されると大きな反響を呼び、世界15カ国・地域で出版が決定。日本でも2022年3月に刊行されました。

――先生は「母親になった後悔」をどのように考えますか?

元橋先生(以下敬称略) 「母親になって後悔してる」と聞くと、どこか心がざわざわする、ほうっておけない、ちょっとわかる、なんか気になる、と感じる人がいるのではないかと思います。
オルナ・ドナートの著書『母親になって後悔してる』では、「子どもを愛する気持ち」と「母親という役割に対してのつらさ」は分けられて、両立するものとされています。
子どもは愛しているけれど、母親であることにモヤモヤする・・・。そしてそのモヤモヤは、「葛藤」と「後悔」とに分けられると分析されています。「葛藤」というのは、母親の役割の重さを感じ、母親じゃない人生を選べばよかったと考えることがあって最終的には現状肯定に戻ってくるパターン。
一方「後悔」は、人生をやり直せるなら絶対母親になる選択はしない、というくらいかなりかたい決意を持っているパターンです。

このように葛藤や後悔をする母親たちの言葉を通して、この本は、社会の構造や制度の中で、子育ての負担が圧倒的に母親にかたよっていることに目を向けさせることを主題にしていると思います。

――現在の日本の母親たちはどうなのでしょうか?

元橋 日本におけるいちばんの課題は、子育てが自己責任化し負担が大きすぎることだと思います。子どもを持つことは基本的に家族の責任になっている、それはつまり母親の責任になっているというのが現状です。

経済面での負担が大きいこともあるでしょう。最近、「子育て罰」という言葉も聞かれるように、子どもを持つことによって、母親は自分の仕事やキャリアを失うのではないかという不安を感じたり、実際に失ってしまったりすることも多いです。そして、母親自身も、キャリアを失うのは自分が子育てを選択したからしかたないと思ってしまいがちです。子育てに対する社会の冷たさが、母親たちに後悔を感じさせる一つの要因になっているのではないかと思います。

子育ての責任は、社会全体にある

――母になった後悔があるとしても、それを口に出せば批判されると予想され、表面化しにくいのが日本の状況でしょうか。

元橋 自分が母親になったことを後悔していたとしても、現実にはなかなか口にできないのが現状ではないかと思います。SNSなどで匿名性が確保された場所でなら、書くことはあるかもしれません。

現代の日本では、子育てが社会の一部として位置づけられているとは言えず、子育ては女性が本能ですること、女性なら当たり前に行うことのように結びつけられやすい状況になっていると考えられます。
「後悔」を感じる人がいるということは、この社会にかたよりがあるからなのに、社会の問題とは認知されず、女性が単に「わがまま」を言っているように受け止められてしまっている状況ではないでしょうか。だから「母親になった後悔」は批判されやすい、反感を買いやすいのだと思います。

女性たち自身も、母親になったことは個人や家族の中の問題で、それに対して不満を言うこと自体意味がないだろうし、言ってもしかたがないこと、と思ってしまっているのでしょう。

――それは、子育てに対する社会の不寛容さのようなものがあるということでしょうか?

元橋 今の日本社会は、女性の無償のケア労働に依存しています。育児も介護も無償でケア労働してくれる女性がいないと困るから、今のまま続けてほしいという社会の雰囲気を感じます。
社会が女性の自己犠牲によって成り立っていると考えられませんか。その社会で、女性たちが「後悔してる」と言い出されては困るし、そういった感情自体持たないでほしいし、見えないことにしていたいのでしょう。

社会全体が、母親が自分の意思でネガティブな感情を持つことを見たくないし、抑えたい、ということではないでしょうか。少子化の問題でもっと産みなさいと言われつつ、でも子育ての多くを母親がやりなさい、と押しつけられるのは、理不尽だし「無理ゲー」ですよね。

息抜きは、母親にとって必要な時間です

――出産した女性タレントが赤ちゃんを預けて出かけるとSNSで批判されたり炎上したりします。世間から母親のあるべき姿を求められるのはなぜでしょうか?

元橋 自分がよい親であろうとするのはすばらしいことですが、なぜ他人をバッシングするのでしょうか・・・。難しい問題だと思います。
息抜きで出かけること、友だちをおしゃべりしたり遊んだりすることは、よいケアをするために必要なことだと思います。息抜きをきちんとしながら日々に向き合っていることは、むしろよい母親ではないでしょうか。よいケアをするためには、自分も大切にして自分をよい状態に保たなければならないものです。がまんしすぎるとバランスを損ねてしまい、よいケアにつながりません。

世間で共有されている「よい母親像」は、子どもによいケアをすることは見過ごされ、自己犠牲のことを指しているからかもしれません。世間のよい母親のイメージが、ケアの現実と乖離(かいり)している問題もあるのではないかと思います。

お話・監修/元橋利恵先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

「子どもと離れて自分の時間を持ち、息抜きをするのは母親にとって必要なこと」と元橋先生。「母になった後悔」が注目される今、社会の子育てに対する価値観が変わるべきときではないでしょうか。

●記事の内容は2023年7月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

元橋利恵先生(もとはしりえ)

PROFILE
1987年大阪府生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科博士課程卒業。博士(人間科学)。大阪大学大学院人間科学研究科 招へい研究員。著書に『母性の抑圧と抵抗 ケアの倫理を通して考える戦略的母性主義』(晃洋書房)がある。

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