最先端企業が集まるシリコンバレーで幼稚園を開設した3児の母に聞く「0~5歳の教育で大切にしたいこと」「アメリカの幼児教育のトレンドは?」
幼稚園教諭の資格を持ち、日本で私立幼稚園に勤めていた中内玲子さん。その経験の中で徐々に大きくなってきたのが、「もっと個性を伸ばせる幼児教育をしたい」という思い。その思いがさらに強くなり、20代前半で単身渡米。アメリカでモンテッソーリ教育の国際免許を取得。その後、大学進学、モンテッソーリの幼稚園勤務を経て、2011年に念願の幼稚園をアメリカ・シリコンバレーに設立しました。三児の母でもある中内さんにアメリカ幼児教育のトレンドや、小学校入学前の教育で大切にしたいことなどを聞きました。
世界的に、子どもの「なんで?」に答えを出すことが目的ではない教育が注目されている
――アメリカの幼児教育のトレンドを教えてください。
中内さん(以下敬称略) アメリカでは少し前までモンテッソーリ教育がとても人気でした。モンテッソーリ教育は、フェイスブックの共同創業者であるマーク・ザッカーバーグさん、グーグルの共同創業者であるラリー・ペイジさんとセルゲイ・ブリンさん、アマゾン創業者であるジェフ・ベゾスさんなど数多くのアメリカの著名人のほかに、日本ではプロ棋士の藤井聡太さんが幼少期に受けた教育法として知られています。
私の暮らしている西海岸では、最近、レッジョ・エミリア教育が注目を集めてきています。イタリアの都市「レッジョ・エミリア」が発祥で、造形美術などのアート活動を取り入れ、子どもたち自身が展開したい事柄や物事を中心に、プロジェクト型の教育を行うことなどが特徴です。
レッジョ・エミリア教育は、子どもの可能性や創造性を引き出すことを大切にした幼児教育で、Googleの社員が利用する保育所でも取り入れられています。子どもたちが主体的に活動することや、それぞれの個性を引き出すことを大切にしていて、今まで主流だったモンテッソーリ教育から、小さなグループに分けてアクティビティをしたり、ディスカッションしたりという形に変わってきているのを感じています。
たとえば「どうして空は青いの?」と子どもに聞かれたとします。レッジョ・エミリア教育では「どうしてだと思う?」と質問を返し、子ども同士の議論を促します。「答えを出す」ということを目的にしておらず、子どもたちにとことん考えさせることで、「子どもの考える力」を養う教育の考え方です。
レッジョ・エミリア教育は、モンテッソーリ教育のように単位や免許を取得した先生がいるわけではありません。あくまでも、「小さな街の独自の取り組み」として始まった教育なので、教育者はワークショップに参加したり、取り入れている園を見学したりしてその教育理念を理解します。
日本の幼稚園・保育園は「そろえるもの」や「行事・イベント」が多い印象
――日本の幼稚園・保育園について、どんな印象がありますか?
中内 日本にはたくさんの幼稚園・保育園があって重視する教育方法もさまざまなので、一概には言えません。ただ、園によってはまだ「みんなと一緒」ということを重要視する傾向が強すぎる所もあるのでないでしょうか。
また、これも園によりますが、アメリカと比べると保護者の負担が大きいのではないかと思っています。保護者が用意するべきものがたくさんあったり、行事やイベントが多かったりする印象があります。たとえば、お弁当を食べるときのランチョンマットやお手ふきセット、コップとそのコップを入れる巾着袋、上履き用の袋など、小道具が多いなと感じます。上履きを使用する園の場合、毎週持って帰ってきて洗うことが一般的だと思うのですが、私が住んでいるアメリカの西海岸では1学期に1度です。
――レッジョ・エミリア教育はこれから日本でも取り入れられると思いますか?
中内 これからの教育には柔軟な発想が必要だと思うので、日本でもレッジョ・エミリア教育の考え方を積極的に取り入れたほうがいいと思います。すでに取り入れているところもあるかもしれません。
ただ、これまでの日本の教育では、「どうして空は青いの?」と子どもに聞かれたとき、先生が子どもたちに「答えをわかりやすく教える」というアクションをすることが多かったと思います。レッジョ・エミリア教育では、子ども自身の発想や可能性を重視するので、これまでの日本の教育法を変える必要があるかもしれません。
幼児期に大事なことはバランス教育
――中内さんの幼稚園ではどんなことを大事にして子どもたちとかかわっているのでしょうか?
中内 モンテッソーリ教育とレッジョ・エミリア教育のそれぞれのいいところを取り入れつつも、自由に子どもらしく遊ぶ時間も大切にしています。いろいろなことがバランスよく、みんなが心地よい空間であるというところにも重点を置いています。
教室の中にはいろんな子どもがいます。活発な子もいれば、じっくり何かを観察したい子もいます。どんなタイプの子がいても居心地のいい、どんな子もそこで花を咲かせることができるような環境作りを大事にしています。
――小学校入学前の年齢別に子どもの教育にとって大切だと思うことを教えてください。
中内 0~2歳はいかに五感を使うかがカギだと思います。また、自分とかかわるものとの関係性を築きあげる時期なので目で見たものを触ってみたり、においをかいでみたり、音を聞いてみたりとあらゆるものを体感する機会をたくさん与えてあげるといいでしょう。
3~4歳になると、自分の考えや疑問が出てきます。思考力や質問力をふくらませる絶好のチャンスなので、一緒に考えたり、その子の意見に耳を傾けたりしてあげてください。また、この時期に基本的生活習慣を身につけたほうがいいです。食事やトイレのマナー、基本的なルール、何時に起きて何時に寝るなどの日々のルーティンをしっかり身につけられるといいですね。
5~6歳はお友だちとの関係性を築く時期です。だれかと協力をしたり、一緒に遊んだりするなかでさまざまなことを感じる時期なので、いろいろな人と触れる機会があると社会性が身についていきます。
――「たまひよONLINE」読者のママ・パパにメッセージをお願いします。
中内 子どもが自分らしく輝くための手助けをすること、子どもを信じて自立できるよう見守ること、そのための土台となる環境づくりをすることが親の愛情だと私は考えています。
育児や教育の記事を読まれるママ・パパ、普段から子育てに積極的でとくに頑張っている方々だと思います。なかなか自分の時間は取れないでしょうが、自分自身のケアにもぜひ気を配ってほしいと思います。
ママ・パパ自身のコップが水で満たされていないと、子どもに水をあげることができません。自分のコップが満たされていたら、心に余裕が生まれ、子育てがもっと楽しいものになるでしょう!
お話/中内玲子さん 取材・文/安田ナナ、たまひよONLINE編集部
日本の教育には日本の、アメリカの教育にはアメリカのそれぞれのいいところがあるもの。幼稚園・保育園によっても重視している教育方法はさまざまでしょう。中内さんは「教育に関しては多種多様な意見があり、時代が変われば教育も変わるもの。さまざまな情報を取り入れることは日々の子育ての力になりますが、人の意見や情報に振り回されないように『自分の軸』を持つことも大切」だと話します。まずは親が自分自身もケアして心の余裕を持ち、「自分の軸」で取り入れる教育方法を選べるといいでしょう。
●記事の内容は2023年7月の情報であり、現在と異なる場合があります。
中内玲子さん(なかうち・れいこ)
PROFILE
台湾生まれ、日本育ち、アメリカ在住のトリリンガル(日・英・中)。3人の子どもたちもトリリンガルに育てた、2男1女(10歳、6歳、2歳)の母。日本の保育に疑問を抱き、英語も話せない、知人もいない、お金もないまま24歳で渡米。さまざまな難題を乗り越え、2011年にカリフォルニア州認可幼稚園を設立。教育事業のアドバイスをするコンサルタントとしても活躍中。
『シリコンバレー式 世界一の子育て 』
最先端企業が集まるアメリカ・シリコンバレーで、モンテッソーリ教育・レッジョエミリア教育を取り入れた日英バイリンガル幼稚園を開設した著者が「これからの時代を生きるわが子へ親がするべきこと」、「世界に羽ばたく子の育て方」をまとめた一冊。
中内玲子著/1980円(フローラル出版)