「子どもの鼻の穴にビーズが詰まって取れない…!」そんなとき、あわててやりがちなNG対応【耳鼻科医】
「鼻腔異物(びくういぶつ)」って知っていますか? 鼻の穴に異物が詰まった状態のことを指し、患者のほとんどは3~5歳ごろの子どもなんだとか。子どもが遊び感覚で鼻に小さなおもちゃを詰めてしまい、取れなくなったとき、親はどう対処したらいいのでしょうか? 自身のYoutubeチャンネル「はるか耳鼻咽喉科」で医学情報をわかりやすく発信している、耳鼻科医の中西悠先生に聞きました。
原因として多いのが、丸くて小さい異物です
子どもが鼻の穴に詰めてしまうもので多いのは、ビーズのような小さくて丸いもの。角張っていないため、入れるときの痛みもなく、思いがけず、するっと入ってしまうことがあるんだそうです。
「子どもが鼻の穴に詰めてしまうものは、ビーズなどの小さなおもちゃ、パチンコ玉、小石、種、豆など、さまざまです。おもちゃの形状によっては引っかかって、取り出しにくいものもあります。鼻の穴に入れてから広がってしまうティッシュやシールのようなものの場合もあります。くるくるっと筒状に丸めて入れたら鼻の中で広がって、取りにくくなるのでしょう。
実は異物のサイズは、子どもの鼻の穴の直径より大きいことも多いです。鼻の穴の手前のほうは、ママ・パパが思っているよりも伸びるんですね。穴の直径の1.5倍ぐらいの大きさのものも入ってしまうと思っておいたほうがいいでしょう。ただし、鼻の奥側はあまり伸びないので、そこに詰まると簡単には取り出せなくなることがあります」(中西先生)
大人の常識では「鼻の穴に物を入れるなんて信じられない!」と思いがちですが、子どもは遊び感覚で入れてしまうことが多いそうです。
「すべての子どもが、鼻の穴に物を入れて遊ぶわけではないですし、入れてしまっても詰まらずにすぐに出てくれば問題ないので、鼻腔異物は頻繁に起こるものではありません。私のクリニックは、比較的子どもの患者が多いですが、鼻腔異物で受診しにくるという子は滅多にいません。ただ、時々、緊急センターの当番医をしていると一晩に鼻腔異物で2~3人が受診に来るということもあります。入浴後、子どもが1人で遊んでいるときなど夜に起こることが多いイメージです。3~5歳くらいの未就学児がとくに多く、『男の子が多い』などの性別の傾向は見られず、男女どちらもいます」(中西先生)
鼻腔異物に気づいたら、家庭で無理に取り出そうとするのは厳禁
鼻腔異物は子どもが訴えてきて見つかることも多いそうです。子どもが黙っていたために、親が見過ごしてしまうことはあるのでしょうか。
「異物感があれば、子どもは親に訴えますし、言わなくても異物感から鼻を気にするなど、いつもと違う様子が見られます。ビーズなどの子どものおもちゃが原因の場合は、カラフルなものが多いので、親が鼻の穴を見たときに比較的見つけやすいでしょう。色合いが地味だと、すぐには見つからず、1~2日経過する場合もあるかもしれませんが、親が長期間気づかないというのは考えにくいです。『数カ月気がつかず、ずっと鼻に異物が入っていた』というケースはこれまで聞いたことがありません」(中西先生)
もしママ・パパが鼻腔異物に気づいたらどうすればいいのでしょう。家庭でできることはあるのでしょうか。
「家庭でできることは、基本的にありません。耳鼻科を受診して医師にまかせましょう。親がピンセットなどを鼻に入れて無理に異物を取ろうとすることで、逆に奥に押し込んでしまうこともあります。鼻吸い器で吸引して出そうとするのも避けたほうがいいでしょう。大人であれば、異物が詰まっていないほうの鼻の穴を指で押さえてふっと鼻から息を出すという方法もありますが、子どもにさせるのは難しいもの。
ほとんどの異物には危険がなく、すぐ取り出さなくてはいけないほどの緊急性はありません。気がついたのが夜間の場合は、翌日受診すれば大丈夫です。ただし、ボタン電池を詰めた可能性がある場合、ほかの異物と違って迅速に取り出す必要があるので、早急に受診しましょう。電池の通電により体の組織がダメージを受ける恐れがあるからです」(中西先生)
医師は、専門の器具で鼻の奥から異物を取り出します
受診した場合、医師はどんな方法で子どもの鼻の穴から異物を取り出すのでしょうか。
「鼻に詰まった異物と鼻腔の間にできたわずかなすき間をねらい、先端がフックの形をした針金のような専用の器具を使ってかき出すように取り除く処置を行うのが基本です。処置は鼻の穴にライトを当てて、手足を動かないように押さえて行いますが、子どもはもう何をされるのか不安でいっぱい。おそらく大人でもこわいと思いますよ。私はいつもいきなり処置にかからず、子どもと少し話して緊張をほどいてから一度で確実に取り出すようにしています。
異物が鼻の穴を完全にふさいでいるように見えると、『取れるの?』と親は心配しがちですが、私が今まで診た鼻腔異物の中で、異物が取り出せなかったことはないので、心配しなくていいでしょう」(中西先生)
鼻腔異物について、親に気をつけてほしいことが3つあると中西先生は言います。
「1つ目は、子どもの鼻に異物が詰まったときに家庭で無理に取り出そうとしないことです。
2つ目は子どもを過度に責めないでほしいということ。『こんなものを詰めて!』などと、ママ・パパに散々しかられ、病院で泣いている子も結構います。親に強くしかられたことで『とんでもないことをしてしまった。これからどんなことをされるのだろう』と、治療への恐怖心が高まり、スムーズに処置できないこともあります。鼻腔異物で受診した子の中で、もう一度同じ症状で受診する子を私は見たことがありません。親が過度にしからなくても、処置にこりて二度としなくなると思います。
3つ目は予防法として大切なことですが、未就学児のいる家庭では、鼻の穴に入りそうなサイズのものは、子どもの手の届く範囲に置かないことが基本です。とくにボタン電池の取り扱いには細心の注意を。とはいえ、外で石ころなどを詰めてしまうこともあります。もし、子どもが遊び感覚で鼻に物を入れようとしていたら、『詰まると大変だよ』などとやめるように言い聞かせるといいでしょう」(中西先生)
監修/中西悠先生 取材・文/永井篤美、たまひよONLINE編集部
鼻腔異物は、子どもの遊び感覚でアクシデント的に起こります。子どもの鼻に異物が詰まって取り出せなくなったら、親はついあわててしまいがちですが、子どもを過度にしかるのはNG。子どもの鼻の穴にピンセットを入れたり、鼻吸い器で吸引したりして無理に取り出そうとするのも避けて。ボタン電池でなければ緊急に取り除く必要はないので、落ち着くことが大切です。受診して医師に処置してもらうといいでしょう。
中西悠先生(なかにしはるか)
PROFILE
医学博士。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本抗加齢医学会認定専門医(アンチエイジング)認定補聴器相談医。宮崎大学医学部卒業。宮崎大学耳鼻咽喉科を経て2017年より耳鼻咽喉科サージクリニック老木医院医員、2019年よりその分院のはるか耳鼻咽喉科院長。自身のYouTubeチャンネルで、医学情報をわかりやすく発信している。
●記事の内容は2023年9月の情報であり、現在と異なる場合があります。