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「昨日までは普通に見えたのに、朝起きたら二重に」スマホが原因の子どもの急性内斜視が増えている!?【小児眼科医】

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少女は、彼女の手で彼女の目をカバーします。
●写真はイメージです
GOLFX/gettyimages

2016年以降、デジタル機器(スマートフォン、タブレット端末、携帯ゲーム機器など)の長時間使用が関連していると思われる急性内斜視が報告されるようになりました。さらに、その低年齢化が問題になっています。デジタル機器が子どもの目の成長に与える影響を研究している、国立成育医療研究センターの眼科医・吉田朋世先生に、小児の急性内斜視について聞きました。

「昨日までは普通に見えたのに、朝起きたら二重に見える」それほど急に発症

「内斜視(ないしゃし)」とは、右目か左目どちらかの黒目が内側に寄っている状態のことです。生後6カ月以内に発症した内斜視は「乳児(先天)内斜視」といい、6カ月以降に発症する内斜視のうち、急激に発症するものを「急性内斜視」といいます。

「急性内斜視の主な症状は、物が二重に見える『複視(ふくし)』です。昨日まで普通に見えていたのに、朝起きたら物が二重に見えるようになった・・・というくらい突然発症します。急性内斜視の原因としては、片方の目の急な視力低下、精神的ストレス、近視の矯正不足などが挙げられます。

しかし近年、そういった原因がないのに急性内斜視を発症する人がみられるようになり、デジタル機器の長時間使用が関係している可能性が指摘されるようになりました」(吉田先生)

デジタル機器と急性内斜視の因果関係は解明されていません。そのため、あくまでも「仮説」ですが、デジタル機器が目に及ぼす作用について、吉田先生は以下のように説明します。

「小さな画面を至近距離で見ると眼球が内側に寄ります。画面から目を離したり、見るのをやめたりすれば元に戻りますが、長時間見続けていると眼球を動かす筋肉のバランスが崩れて元に戻りにくくなります。このようなことから、デジタル機器を長時間使用することが習慣化すると、急性内斜視を発症しやすくなるのではないかと推測されます」(吉田先生)

デジタル機器に関連した急性内斜視の症例は、2016年に韓国で初めて報告されたそうです。

「この報告では、それまで斜視を指摘されていない7才~16才の子どもが、スマートフォン(スマホ)を1日4時間以上、少なくとも4カ月以上にわたって使用したあと急性内斜視を発症していました。そして、スマホの使用制限を行ったところ、斜視の症状の改善が認められたとされています。この論文をきっかけにして、デジタル機器と急性内斜視発症の関連が疑われる症例が、いろいろな国から報告されるようになりました。

日本でも日本弱視斜視学会が、2019年10月~2021年12月に、急性内斜視と診断された5才~35才の患者を対象に、急性内斜視とデジタル機器の使用に関する全国調査を実施。登録された患者さんのうち、小学生以下の子どもが約3割を占めていました。そして患者さんの多くが『デジタル機器と目の状態に関係がある』と考えていることがわかりました」(吉田先生)

保育園休園でデジタル機器の視聴時間が増え、2才7カ月で発症した子も・・・

デジタル機器の長時間使用が原因として考えられる急性内斜視は、スマホなどの利用時間が長い10代~20代に多いといわれていましたが、日本弱視斜視学会の調査でも発症年齢の低年齢化が進んでいることがわかります。吉田先生がこれまで診察・治療を行った、デジタル機器の使用が関係すると思われる急性内斜視の子どものうち、最も低年齢の子は2才7カ月だったそうです。

「コロナ禍で保育園が休園となり、ママ・パパは子どもが家にいる状態で在宅勤務をせざるを得なくなりました。子どもにつきっきりになると仕事ができませんから、しかたなくスマホやタブレット端末を見せることが多くなってしまったそうです。2カ月程度そのような生活が続いたあと、片目をつぶっていることが多くなったのに親が気づき、おかしいと感じて受診されました」(吉田先生)

急性内斜視と診断された場合、眼球を動かす筋肉を調整して目の位置を戻す手術を行ったり、プリズムで光を屈折させて像に合わせる眼鏡(プリズムレンズ)をかけて複視を矯正したりします。

「この子の場合は、低年齢での発症だったこともあり、手術とプリズムレンズでの矯正の両方を行いました。今のところ目の位置は正常に戻っており、経過は良好です。

目の手術といっても、子どもの場合は全身麻酔を行うため入院が必要です。入院期間は病院によって異なりますが、成育医療研究センターでは術前・術後の検査を含めて5、6日程度の入院となります 」(吉田先生)

子どもの目は大人の目より疲れにくい。だから止めないと長時間見続けてしまう

「子どもの目は大人の目よりも急性内斜視になりやすい要因があるため、とくに注意が必要」と吉田先生は言います。

「子どもの目は近くを見るとき、大人よりも眼球が内側に寄りやすい傾向にあります。その一方、子どもの目の筋肉は大人より強く、長時間至近距離を見ていても疲れにくいので、大人よりも長い時間画面を見続けることが可能です。さらに、本当は目が疲れているのに夢中になると疲れを自覚できず、見続けてしまうのも子どもの特徴です。こうしたことから、ほうっておくと子どもは急性内斜視を発症するリスクが高くなるといえます。

子どもが急性内斜視を発症した場合、その特徴である複視を本人が気づかなかったり、変だなと感じていても大人に説明できなかったりして、悪化してしまうことも考えられます。急性内斜視に限らず、子どもの斜視を放置していると、物を立体的に見ることができなくなり、距離感を把握するのが難しくなります。その結果、階段で転びがちになったり、球技が苦手になったりすることがあります。日常生活で不便なことが増えるだけでなく、大人になってから、大型免許や第二種免許の許取得が難しくなることなどがあり、希望する仕事につくのが難しくなる可能性があります」(吉田先生)

子どもは自分の目の状態を言葉にできないことが多いので、以下のようなしぐさや行動が見られたら、一度眼科で相談しましょう。

<2~5才ごろの急性内斜視が疑われるしぐさ・行動>
□頻繁に片目をつぶるようになった
□以前より階段をゆっくり下りるようになった
□エスカレーターを怖がるようになった。あるいは、うまく乗れなくなった
□以前はボールをキャッチできていたのに、突然下手になった

「今の生活はデジタル機器が不可欠になっているので、子どもにまったく見せないのは無理かもしれません。でも、乳児~幼児期は目の機能が発達するとても重要な時期です。

未就学児のデジタル機器の使用は1日1時間以内を目標とし、30分使ったら少なくとも5分は休憩して目を休めてください。また、デジタル機器を使わない遊びをする時間や、外をお散歩する時間を積極的に作るといいでしょう。
乳幼児期にデジタル機器に頼りすぎない生活を習慣化させると、学校でデジタル機器の使用が始まる小学生以降も、適切な使い方ができるようになるでしょう。それは、子どもの目を守るために非常に大切なことです」(吉田先生)

お話・監修/吉田朋世先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

デジタル機器と急性内斜視の関係は明らかになっていないとはいえ、何らかの因果関係はありそうです。デジタル機器に頼りすぎないように注意するとともに、子どもの目の位置やしぐさが気になるときは、できるだけ早めに眼科を受診しましょう。

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

吉田朋世先生(よしだともよ)

PROFILE 
国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部 眼科。2012年鹿児島大医学部卒。14年より同センターに勤務。小児の視機能におけるICT(情報通信技術)機器の影響に関する研究に取り組んでいる。

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