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「髄液検査でどろっとした液体が・・・」。専門医が、今も思い出すと緊張すると語る髄膜炎の子ども患者。子どもたちを感染症から守るため【専門医・シンポジウム報告】

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のベビー
●写真はイメージです
violet-blue/gettyimages

2023年10月5日に「感染症予防アクションを考えるシンポジウム」が行われました。シンポジウムは2部制で、第1部は、神谷元先生(国立感染症研究所感染症疫学センター予防接種統括研究官)が自身が診てきた患者の経験談や今の日本の予防接種・ワクチンの現状の講演でした。その内容をリポートします。

髄液検査でどろっとした液体が・・・。「細菌性髄膜炎の患者さんの治療を思い出すと、今も緊張する」

神谷先生が研修医だった2000~2004年ごろの日本での定期予防接種の状況。(シンポジウムで神谷先生が発表した資料より)

海外の予防接種事情にも詳しい神谷先生の講演は、研修医時代の経験談から始まりました。

「私が研修医だった2000~2004年ごろ、日本ではヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンは、任意でも接種できませんでした。
当時、私がいつも行っていた理髪店には、小さなお子さんがいたのですが、ある日の夜中、救急外来に店主が飛び込んできて、『息子の様子がおかしいんです』と訴えます。
診察したところ首の後ろがかたく、目はうつろ。高熱も出ていました。即入院となり、髄液検査をすると、通常は背中に針を刺すと透明でさらっとした液体である髄液が出てくるのですが、あの時はとろろのようなネバネバした液体がドロッと出てきました。『なんだこれは!?』と驚きつつ急いで調べてもらったら、白血球が1万個/㎣以上もいたんです。正常時は髄液には多くても3個/㎣くらいしかいない白血球が多すぎてドロドロになっていたんです。ただごとではありません。『これは髄膜炎だ!』と診断し、あわてて抗生剤を投与しました」(神谷先生)

幸い、この子は合併症も残らず完治したとのことですが、「今思い出しても緊張する」と話す神谷先生の声と表情から、髄膜炎の治療現場の緊迫した状況が察せられました。

「ヒブワクチンが任意で接種できるようになったのは2008年から。三重県のデータでは、それ以前は5歳未満10万人のうち10人くらいが髄膜炎と診断され、後遺症が残ったり、亡くなったりしていました。しかし、2013年にヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンが定期接種になると患者数が激減。ヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンは世界的に見ても効果が高く、きちんと予防接種を受ければ髄膜炎を予防できます。この2つのワクチンが定期接種になったとき、私は本当に心から喜びました」(神谷先生)

でも、ワクチンは適切な時期に接種しないと、感染予防効果が期待できなくなると、神谷先生は言います。

「ヒブ(=インフルエンザ菌b型)は生後6カ月ごろ、肺炎球菌は生後12カ月ごろに感染リスクのピークを迎えます。そのため感染リスクが高くなる前にワクチンを打って、病気を予防できるように体の準備をすることが大切です」(神谷先生)

ワクチンは接種した瞬間から効果が出るわけではありません。そのことも理解してほしいと神谷先生は説明をします 。

「ワクチンは種類にもよりますが、接種後2週間から4週間くらいかけて効果が高まっていきますが、数回打たないと十分な抗体が得られないものもあり、効果が出るまでには時間がかかります。予防接種の回数やスケジュールは、根拠に基づいて決められているので、ママ・パパにはそのことをきちんと理解していただきたいと思います」(神谷先生)

抗体の下がった学童期の子どもたちから、百日せきの流行が!?

乳児に百日せきをうつしたのはだれが多いのかを示したグラフ。同胞(きょうだい)が4割近く占めています。(シンポジウムで神谷先生が発表した資料より)

神谷先生たちの研究班では、日本全国で百日せきにかかった赤ちゃんの感染源を調べたそうです。

「感染源として一番多かったのはきょうだいで、次が両親、その次が祖父母でした。諸外国では両親が圧倒的に多く、きょうだいや祖父母はごく少数です。
2018年の百日せき発症のデータによると、学童期の患者がとても多いです。4回の定期接種を受けた子どもたちが百日せきにかかり、ワクチンを打てない小さな赤ちゃんにうつしている可能性が高いのです。

学校に入る前にもう1回百日せきのワクチンを打って、学童期の患者を減らし、赤ちゃんへの感染を予防する必要があると私は考えています。
就学前に追加接種を行うと、抗体がしっかりと上がり、百日せきの感染予防効果が高まります。安全性にも問題がないことを、研究班で確認しました。

こうした研究はほかのワクチンでも行われていて、確かなデータがそろっています。しかし、それがなかなか予防接種の政策に結びつかず、守るべき子どもたちが感染症にかかってしまう、という現状があります」(神谷先生)

ワクチンで防げる病気から子どもたちを守りたい!アメリカの予防接種の現場で学ぶ

神谷先生が公衆衛生に携わるきっかけとなったのは、臨床研修病院で出会った白血病の女の子だったそうです。

「私が担当した忘れられない女の子は、幼くして小児白血病を発症しました。2年近いつらい治療を乗り越え、ようやく家に帰ることができ、保育園にも通うことになりました。ところが、保育園で流行していた水ぼうそうに感染し、治療で体が弱っていた彼女の水ぼうそうは重症化してしまい、退院した1カ月後に、病院に戻ってきてしまったのです。一命はとりとめたものの、1カ月以上治療が必要になりました。その約1カ月後に白血病の検査を行ったところ再発が見つかり・・・。頑張って治療に向き合ってくれましたが、大変残念なことに亡くなりました。

彼女が病院の外で自由に過ごせた時間は、3カ月しかありませんでした。その貴重な日々の1カ月分を、予防できるはずの病気の治療に使うことになってしまった。『楽しい時間を感染症に邪魔された』と、非常にくやしい思いをしました」(神谷先生)

「どうすれば、彼女のような子どもを減らせるのか」。その答えを求めて神谷先生はアメリカへと旅立ちます。

「予防接種の取り組みを学ぶために、サンディエゴ郡保健所予防接種課で研修および勤務を行い、ACIP(ワクチン接種に関する諮問委員会)にも参加しました。ACIPの目標は、(1)ワクチンによって防げる病気の予防接種を進めるために、政府などに助言を行う、(2)公衆衛生の維持、改善のために医学的根拠に基づいた指針を提示する、(3)現在行っている予防接種プログラムの評価とワクチンの安全性を監視すること。一般市民もオブザーバーとして参加できます。

専門家の知識が集まるACIPがあることで、『なぜこのタイミングでこのワクチンが必要なのか』という共通理解が医療従事者の間でできます。どの医療機関でも医師は同じ説明をしますから、市民は安心して接種を受けることができると感じました。ACIPのような予防接種の専門家会議は、イギリス、ドイツ、台湾、シンガポールなど120以上の国で設置されていますが、日本にはありません」(神谷先生)

ワクチンを打てない人も感染症から守るために、集団免疫が必要

日本の予防接種政策の課題について話が及びました。

「国民が等しく医療を受けられる日本の保険制度はすばらしいです。でも、医療へのアクセスがよいがゆえに感染予防よりも治療に意識が行っている印象があります。予防接種を保険でカバーしていないことからも、それは言えると思います。せっかく恵まれた医療保険制度があるのですから、予防接種による感染症予防に力を入れることができれば、世界に誇れる医療システムになるでしょう」(神谷先生)

日本の予防接種は「努力義務」で「強制」ではないからこそ、予防接種の必要性について深い理解が求められるとも、神谷先生は言います。

「今や日本には接種できるワクチンがたくさんあり、ワクチンギャップはほぼ解消されつつあります。しかし、免疫不全の人や妊婦さんなどは、生ワクチンは打てません。ワクチンを打てない人も感染症から守るためには、健康な人がワクチンを打って集団免疫を作る必要があるのですが、85~90%くらいの人が予防接種を受けないと集団免疫はできません。非常にたくさんの人がワクチンの重要性を理解し、接種する必要があるのです」(神谷先生)

近年、世界中で問題になっている「ワクチンヘジタンシー(忌避)」についても説明がありました。

「ワクチンを接種できる環境が用意されているのに接種を遅らせる、あるいは、接種をしないでいる状態が『ワクチンヘジタンシー』です。WHO(世界保健機関)は2019年に、人類の健康に対する10大脅威の一つにワクチンヘジタンシーを挙げました。

日本はほかの国に比べ、ワクチンの効果に対する評価よりも、副反応への抵抗感が強いと感じます。それによって予防接種が避けられてしまうのは、大きな問題です。予防接種・ワクチンの効果と安全性をしっかり議論する、ACIPのような組織が日本にも必要だと私は考えています」(神谷先生)

さらに、「医療従事者への教育も必要」と神谷先生は言います。

「私が学生だったころ、日本の医学部では、予防接種については小児科の授業で少し勉強する程度でした。一方アメリカでは、予防接種の現場に則した教育カリキュラムがあり、それを受けて合格しないとワクチンを打てません。日本にもこのようなプログラムが必要です」(神谷先生)

神谷先生のスマートフォンには、アメリカの保健所に貼ってあった予防接種のポスターの画像が保存されているのだとか。

「ポスターには、炎天下に出るときに子どもに帽子をかぶせる様子や、子どもがヘルメットをかぶって自転車に乗っている後ろ姿、車で子どもをチャイルドシートに乗せている写真とともに、『予防接種はご両親が子どもを守る最も重要な手段の一つです』とのメッセージと、子どもが予防接種を受けている写真が添えてあります。子どもに予防接種を受けさせるのは、それくらい当たり前のことだと。そのメッセージ性に感じ入り、今も大事に保存しています。

髄膜炎など重い感染症にかかった子どもは、とてもつらそうな顔をしています。子どもたちが常に笑顔でいられるように、予防接種の推進に向け、皆さんと一緒に進んでいきたいと考えています」(神谷先生)

取材協力/感染症予防アクションを考える実行委員会 監修・画像提供/神谷元先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

シンポジウムの第2部は、6つの患者会からの話がありました。「感染者患者会同士の連携を発展させ、公衆衛生行政にかかわる人たちとの連携が大切」とのこと。私たち一人一人が予防接種・ワクチンの効果と必要性を理解するとともに、予防接種推進のための国の取り組みを見守っていく必要もあるのではないでしょうか。

知ることで感染症予防アクションを考えるシンポジウム

●記事の内容は2023年11月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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