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おたふくかぜが治った1週間後、「左耳が聞こえづらい」と・・・。まさか娘の片耳が聞こえなくなるなんて【ムンプス難聴体験談・医師監修】

更新

2017年1月に人工内耳の手術を受けた直後。友花さんは11歳でした。

「ムンプス難聴」ってワードを聞いたことがありますか。おたふくかぜに感染した後遺症で起こる難聴で、片耳のことが多いですが、両耳が難聴になることもあります。難聴といってもその多くが「失聴」まで進行するそうです。
佐賀県在住の山口友花(ともか)さん(17歳)は、8歳のときに左耳が聞こえづらくなり、「ムンプス難聴」と診断されました。母親の眞丘さん(42歳)と友花さんに、ムンプス難聴を発症したときのこと、左耳が聞こえなくなってからの生活のことなどについて聞きました。全2回の1回目です。

二女の保育園でおたふくかぜが大流行。妹から友花にうつってしまい・・・

二女の保育園でおたふくかぜが大流行。妹から友花にうつってしまい・・・

眞丘さんには友花さんのほかに、現在21歳の息子と、13歳、7歳の娘がいます。上3人が小学生・保育園児だった時期は子育てがとても忙しく、しかもパートタイムで仕事もしていたので、毎日あっという間に過ぎる生活だったと言います 。

「子どもたちを感染症から守るために予防接種があることは理解していました。だから、定期接種になっているワクチンはもれなく受けなければ!と頑張ってスケジュールを立て、小児科に通いました。でも任意接種のワクチンは、受けなくてはいけないという考えはあまりなく、また、受けるとなると、仕事と子ども3人の予定を調整するのが大変です。しかも、ワクチン接種代の自己負担分はそれなりの出費になります。
まわりを見ても、任意接種まで受けさせているママ・パパがあまりいなかったし、『任意というくらいだから受けても受けなくてもいいということよね』と考え、3人とも任意のおたふくかぜと水ぼうそうの予防接種は受けていなかったんです」(眞丘さん)

そんな中、二女が通う保育園で、おたふくかぜが大流行しました。2015年1月、二女が4歳、友花さんが8歳のときでした。

「当時、二女の保育園には75人の子どもが在籍していて、その8割の子がおたふくかぜを発症。二女が例外ということはなく、二女もおたふくかぜにかかり、そして二女からうつり、友花も発症してしまいました」(眞丘さん)

おたふくかぜが治った1週間後に「左耳が聞こえづらい」と言い、重いめまいも

人工内耳の手術を行う直前、入院中の病室で。「友花の明るくおおらかな性格に助けられました」と眞丘さん。

二女も友花さんも症状はそれほど重くなることはなく、発熱と耳下腺の腫れという、おたふくかぜの典型的な症状が現れた程度でした。

「予防接種を受けていないので症状が重くならないか心配したのですが、2人とも1週間程度で元気になりました。同じ保育園に子どもが通うママと小児科クリニックで会ったときには、『お互い、おたふくかぜにかかっちゃってよかったね。強い免疫ができたから、もう一生心配いらないね』なんて話をしていたんです。感染したことを喜ぶなんて、今振り返ると、なんてバカなことを言っているんだろうと、悔やんでも悔やみきれません」(眞丘さん)

友花さんの様子に変化が見られたのは、おたふくかぜが治ってから1週間くらいたったときのことでした。

「友花が『なんだか左耳が聞こえづらい気がする』と言ってきたんです。しかも、激しいめまいもするらしく、体が前後に揺れていました」(眞丘さん)

「左耳は膜が張ったようにぼわ~んとして、家族の声やテレビの音が遠くから聞こえるような感じでした。そして、嵐の中の船に乗っているように体が揺れ、立っていられません。1日中目がまわっているような感じで気持ちが悪くてしかたなかったことを、今でもすごく覚えています」(友花さん)

耳鼻咽喉科で左耳は「高度難聴」と。「ムンプス難聴」のことを初めて知る

2023年10月に長崎に出かけた際、三姉妹で撮った写真。2人の妹にとって友花さんは、とても頼りがいのあるお姉さんです。

これはただごとではないと眞丘さんはあせり、近所の耳鼻咽喉科に友花さんを連れて行きます。

「聴力を測定したら右耳は13db、左耳は81dbでした。先生の説明は、20db以内は正常、30~40dbは軽度難聴(小さい声が聞き取りにくい)、60~70dbは中度難聴(日常生活に支障が出る)で、80~90dbは高度難聴(日常会話がほとんど聞こえない)と診断するとのことでした。そう、友花の左耳は高度難聴の状態だというのです。

つい最近おたふくかぜになったことを話したら、『ムンプス難聴かもしれない』と。このとき初めて、ムンプス難聴という病気があること、それはおたふくかぜの後遺症で起こることを知りました」(眞丘さん)

その場でムンプス難聴について、医師から説明されたそうです。

「先生は耳の模型を使って説明してくれました。おたふくかぜを起こすムンプスウイルスによって耳の奥の絨毛(じゅうもう)にダメージを受けたことで、左耳が聞こえなくなっている。突発性難聴は聞こえなくなって2、3日のうちにステロイドを内服すると回復する可能性があるけれど、ムンプス難聴の回復は厳しい、とのことでした。
先生が目を診察しているとき、眼振(眼球がけいれんしたように揺れること)が私にもはっきりとわかりました。聴力を急激に失うと、強いめまいが同時に起こるのだと説明を受けました。

予想もしなかった事態を飲み込めなくて、そのときは先生の話をよく理解できていませんでした。自宅に帰ってからインターネットで必死に調べ、先生が言っていたのはこういうことだったのか、とわかったんです。
とりあえず、漢方薬を飲んで数日様子を見ることになりました。でも、めまいはいっこうによくならず、友花は学校にも行けない状態でした」(眞丘さん)

ムンプス難聴と確定。片耳が聞こえなくても支障はないってどういうこと!?

2022年、高校2年生のときに佐賀総合文化祭デザイン部門で、特賞を受賞した友花さんの作品。片耳難聴の聞こえ方を表現しました。

小さな耳鼻咽喉科では詳しい検査ができないので、自宅近くにある総合病院を受診しました。

「その病院は耳鼻咽喉科の専門医が常駐していないとのことで、自宅から車で1時間半くらいの場所にある別の総合病院を紹介されました。すぐにそちらの病院に向かい、詳しい検査をすることに。MRIを取ったり、聴力検査をしたり、3時間くらい検査をしたと思います。このときの聴力検査では左耳は105db。日常の会話が聞こえない『ろう』の状態でした。
すべての検査が終わったあと、医師から告げられたのは、『ムンプス難聴で、左耳はほぼ聞こえていません。ムンプス難聴は回復が望めない難聴です』。忘れもしない、2014年1月28日のことでした」(眞丘さん)

このときの医師の言葉で、「今でもどうしても納得できないことがある」と眞丘さんは言います。

「ムンプス難聴と診断されたことについては、自分なりにいろいろ調べたあとだったので、『やっぱりそうだったか・・・』と、比較的冷静に受け止めることができました。でも、そのあと医師が『片耳が聞こえなくても問題はないでしょう。保障もとくにありません。普通に生活してください』『この病院にも、片耳が聞こえなくても健聴者と同じように仕事をして生活している人がたくさんいます』と。
片耳が聞こえなくなったことで、友花の生活にはたくさんの不具合が出ているのに、『片耳が聞こえなくても問題ない』と言われる意味が全然わかりませんでした」(眞丘さん)

現在の日本の考え方では、片耳難聴は片方の耳は普通に聞こえるので生活に支障はない、ということになってしまうのだそうです。

「友花は左耳が聞こえないことで、どちらの方向から音がするのか判断しづらいことがよくあるようでした。また、左側から話しかけられると気づけなくて会話が止まってしまうなど、コミュニケーションにも影響が出ていました。めまいの問題もあります。体を動かすとよけいにめまいがひどくなるので、体育の授業はずっと見学していました。それなのに、『生活に支障はない』と言われるのは、見はなされたように感じました」(眞丘さん)

「なんとかなる」と思いつつも、めまいや耳鳴りに悩まされる日々が続く

ムンプス難聴と診断がついたとき、友花さんは8歳でした。どのように説明したのでしょうか。

「難しいことを話しても理解できないと思ったので、『おたふくかぜにかかったことで、左耳が聞こえなくなったの。もう聞こえるようにならないんだよ』とだけ伝えました。ありがたいことに、友花はおおらかな性格なこともあり、わりと淡々と受け止めてくれたように感じました」(眞丘さん)

「母からこの話を聞いたときのことは覚えています。社会に出たときの不便さなどを思い悩む年齢ではなかったこともあり、『なんとかなるでしょう』と、楽観的にとらえていました。
でもその一方で、このまま左耳が聞こえないのは、不自由で嫌だなあと思いました。めまいのせいで体育の授業がほぼできなくなったのも悲しかったです。また、耳鳴りにも悩まされていました。突然、キーンとすごく大きな音がして、まわりの音が聞こえなくなるんです。耳鳴りがすると頭がぼぉっとしてしまいます。これが1日に何度も起こりました」(友花さん)

二女と友花さんがおたふくかぜになったとき、長男にはうつりませんでした。

「友花がムンプス難聴とわかったとき、予防接種さえ受けていればこんなことにならなかったかも・・・と、ものすごく後悔しました。一つ間違えば、二女もムンプス難聴なっていたかもしれないのです。怖くなって、感染していなかった長男には、すぐに予防接種を受けさせました」(眞丘さん)

その後、眞丘さんは、友花さんの左耳のためにできることはないか、さまざまな情報を集めました。

「ムンプス難聴は治らないので、友花は一生、聞こえない左耳とつき合っていかなくてはいけません。今の状態を少しでも改善する方法はないのか、インターネットや本で調べまくりました。そして、人工内耳という方法があることがわかったんです。
人工内耳の手術を受けるにはどうしたらいいのか、かかりつけの小児科で相談したところ、子どもの難聴や人工内耳に詳しい先生が長崎にいると、神田幸彦先生のことを教えてくれました。私と友花はさっそく、神田先生に相談に行くことにしたんです。2015年8月15日のこと。ムンプス難聴と診断されてから、ほぼ7カ月後のことでした」(眞丘さん)

【神田幸彦先生より】ムンプス難聴は就学前・学童期の子どもと、30歳代の子育て世代が多く発症しています

ムンプス難聴は、内耳障害で一側性(片耳)に急性発症を生じます。 聴力の損失は重症のことが多く、 改善しにくいなどの特徴があります。随伴症状として、 耳鳴り、 めまいを伴うこともあります。一般に一側性の発症が多いとされますが、 両側性(両耳)の発症が極めてまれというわけではありません。
2015~2016年の2年間の日本耳鼻咽喉科学会のデータでは、359人が罹患し、発症年齢はとくに就学前および学童期と、30歳代の子育て世代にピークが認められました。一側難聴は320人(95.5%)、両側難聴は15人(4.5%)で、そのうち一側難聴では290人(91%)が高度以上の難聴で、両側難聴の12人(80%) は良聴耳でも高度以上の難聴が残存していました。
このように、ムンプス難聴は予後が非常に悪いため、ワクチンの定期接種化が望まれます。ムンプスウイルスは赤ちゃんが将来、重度難聴になったり、睾丸炎から無精子症となって子どもが望めない体になったりする、危険なウイルスです。そのため、ワクチン接種が推奨されています。

お話・写真提供/山口眞丘さん・友花さん 医療監修/神田幸彦先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

おたふくかぜの後遺症でムンプス難聴を発症し、8歳のときに左耳が聞こえなくなってしまった山口友花さん。母親の眞丘さんは、友花さんの生活の不便さが少しでも改善されるように、人工内耳手術が受けられないか模索し、神田幸彦先生の病院にたどりつきました。

神田幸彦先生(かんだゆきひこ)

PROFILE
神田E・N・T医院理事長・院長。長崎大学医学部耳鼻咽喉科臨床教授。医学博士(論文:ランセット)。0歳児から高齢者まで医学的評価に見合った、補聴器適合と人工内耳適合、装用者のための聴覚・言語のリハビリテーション、聴覚を管理し活用する教育などを行っている。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年12月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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