男の子に多い副腎白質ジストロフィー(ALD)とは?初期症状では、発達障害を疑われることも。早期発見が大切【専門医】
副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystrophy以下ALD)という難病があります。ALDは、遺伝性疾患で、発症年齢が幅広く、染色体の関係で男の子(男性)に多く発症する特徴があります。発症年齢が広いとはいえ、約30%は、3~10歳の小児期に発症します。ALDの診療にあたる、東大病院脳神経内科 松川敬志先生に、ALDの初期サインや特徴、治療について小児期を中心に聞きました。
発症頻度は米国で出生男児2万1000人に1人。日本も同程度と考えられている
ALDは、遺伝性疾患です。米国では出生男児2万1000人に1人が患者と報告されていて、日本でも同程度と考えられている、まれな病気です。
――ALDについて教えてください。
松川先生(以下敬称略) ALDは遺伝性疾患で、脳の白質と、腎臓の上にありホルモンを作るはたらきをする副腎と呼ばれる内臓などに障害がみられる進行性の病気です。大脳型の場合、発症後は急速に進行することが多く、無治療だと数年で寝たきりになることが多いとされています。
発症頻度は米国で出生男児2万1000人に1人、出生女児は1万4000人に1人が保因者と報告されています。男性患者の報告数は、フランスでも同程度です。
日本は、過去の診療データを調査する方法でのアンケート調査を行っていて、3~5万人に1人の男性患者の頻度が推定されていますが、おそらく欧米と同程度の男性患者がいると考えられています。
――男の子(男性)に多いのはなぜでしょうか。
松川 ALDの原因遺伝子はX染色体にあり、男性はX染色体を1本しか持っていないためALDの遺伝子に異常が生じると発病します。女性はX染色体が2本あるため、片方の遺伝子に異常が生じても基本的には発病せず、保因者となります。
ただし、年齢を重ねると足が突っ張るなど軽い症状を認める女性もいます。
発症年齢は3歳~成人と幅広く、急に学力が低下したり、落ち着きがなくなることも
ALDは、発症年齢が幅広いのが特徴ですが、早い子では3歳から初期症状が見られることもあります。
――ALDの初期症状を教えてください。
松川 発症年齢は幅広く3歳~成人です。初期症状は、
●落ち着きがなくなる、攻撃的になるなど性格・行動の変化
●視力・聴力の低下
●急な学力の低下
●言葉の理解の低下、記憶力の低下などです。
落ち着きがなくなる、攻撃的になるなど性格・行動の変化とは、たとえば小学校で授業中に席に座っていられない、友だちとのトラブルが急に増えるなどです。そうした様子が見られることから、初めに発達障害のADHD(注意欠如・多動症)が疑われることもあります。
――もし、こうした初期症状が見られたらどうしたらいいのでしょうか。
松川 最初は、かかりつけの小児科に行くのが一般的だと思いますが、そのときに家族歴を必ず医師に伝えてほしいと思います。
ママ・パパの両親、きょうだい、いとこ、親せきなどにALDの患者さんがいる場合は、必ずそのことを医師に伝えてください。大きな病院を紹介されると思います。家族歴の把握については、さまざまな考え方があると思います。親族と交流が浅く、把握していない場合もあるかもしれません。しかしながら早期治療のためには、家族歴は必要な情報であるということを認識してほしいと思います。
――ALDは、種類があるのでしょうか。
松川 発症年齢によっていくつかの病型に分けて考えられています。小児から10代で発症するのは、主に次の四つです。
【小児大脳型/CCALD】
発症年齢は3~10歳。性格・行動変化、視力・聴力低下、知能の障害、歩行障害などを発症し、数年で寝たきりになることが多い。
【思春期大脳型/AdolCALD】
発症年齢は11~21歳。症状は小児大脳型に似ている。
【Adrenomyeloneuropathy/AMN】 発症年齢は10代後半~成人。足が突っ張り、徐々に進行する。軽度の感覚障害を伴うことが多い。
【アジソン型】
発症年齢は2歳~成人。無気力、食欲不振、体重減少、皮膚の色素沈着など副腎不全症状が見られる。前述の病型に合併することもある。
――この中で最も発症率が高いのは、どの病型でしょうか。
松川 小児大脳型(CCALD)の発症頻度は約30%。Adrenomyeloneuropathy(AMN)は約25%です。
大脳型ALDは、早期発見が第1。新生児マススクリーニングも有用となる可能性がある
大脳型ALDは治療の道筋が立っています。しかし課題もあります。
――ALDが疑われた場合、どのようにして診断がつくのでしょうか。
松川 血中の極長鎖脂肪酸が高値であること、遺伝子検査での診断になるのが一般的です。ALDの患者さんが家族・親族にいるとわかっている場合は、十分にこの病気について説明、理解いただいたうえで検査を行います。
――ALDは早期発見が大切なのでしょうか。
松川 大脳型は早期発見して、発症後病変の拡大が認められれば、速やかに造血幹細胞移植をすると、移植後1年以内に症状の進行が抑えられることがわかっています。
そして、早期発見には、生後4~6日の赤ちゃんのかかとから少量の血液を採血して、先天性の病気を調べる新生児マススクリーニングが有効な可能性があります。男児のみオプション検査を行っている自治体もありますが、まだそんなには多くないと思います。
――こども家庭庁は、新生児マススクリーニングの検査対象に脊髄性筋萎縮症(SMA)と重症複合免疫不全症(SCID)を公費負担で受けられるようにすると発表しました。早々に動き出した自治体もあるようです。
松川 脊髄性筋萎縮症は、早期発見・早期治療をすると正常なたんぱく質を作るのに効果的な治療薬「ゾルゲンスマ®」、「スピンラザ®」、「エブリスディ®」が製造・販売されて保険適用になっています。
重症複合免疫不全症は、ロタウイルスワクチンなどの生ワクチンを接種すると重篤な副反応を引き起こすことがわかっているため、ロタウイルスワクチンの接種スタートの前に見つけることが大切で、有効です。
――新生児マススクリーニングでALDが陽性になった場合について教えてください。
松川 新生児マススクリーニングで、ALDが陽性でも、すぐに発症するわけではなく、症状はさまざまで、小児大脳型の発症時期は3歳以降です。成人になって発症する人もいます。ですので、新生児マススクリーニングでALDの陽性が判明した場合は、専門の先生などから十分な説明を受けたあとに、定期的に神経診察や脳のMRI検査、血液検査をして、症状の進行を早期に発見することが重要です。
――ALD陽性と判明してもすぐに治療をしないのはどうしてでしょうか?
松川 合併症を考えてのことです。たとえば大脳型ALDに有効な治療法であると考えられている造血幹細胞移植をする場合は、5日ほど抗がん剤を使い続けるために、つらい副作用を伴います。また移植による合併症もあり得ます。吐きけ、嘔吐、感染症、貧血などの症状や肝臓、皮膚、消化管、腎臓、肺、心臓、中枢神経などに障害が起きることもあります。また、AMNの症状には、造血幹細胞移植が有効かどうかはわかっておりません。
生まれたばかりの赤ちゃんは何も症状がなく元気です。発症時期もわからないため、ALDと伝えられた家族は混乱し不安を感じることでしょう。そのため検査をするということと、判明した場合の家族へのていねいな説明はセットで考えて、家族へのフォローをしっかりしていく体制作りが必要です。
――大脳型ALDの進行を抑える、造血幹細胞移植に課題はあるのでしょうか。
松川 造血幹細胞移植には、HLAという白血球の血液型をある程度以上合わせる必要があります。きょうだいだとHLAが一致する確率は4分の1ですが、親(または子)とHLAが一致する確率は約30分の1です。
ドナーが見つかっても、すぐに移植手術ができるとは限らないため、大脳型ALDを発症してからのタイムラグが課題になっています。
お話・監修/松川敬志先生 協力/認定NPO法人ALDの未来を考える会 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
ALDは乳幼児健診などでは発見が難しい病気です。異変に気づくのは主に家族ですが、初期はADHD(注意欠如・多動症)が疑われることもあります。診断は家族歴がカギとなります。
●記事の内容は2023年12月の情報であり、現在と異なる場合があります。
松川敬志先生(まつかわたかし)
PROFILE
医学博士。東京大学大学院医学系研究科 神経内科学助教。神経内科、神経遺伝学の診療、研究に従事。
内科認定医、総合内科専門医、内科指導医、神経内科専門医、神経内科指導医、臨床遺伝専門医。