絵本の読み聞かせは、声色を変えたり、上手に読んだりしなくていいんです【吉田明世×加藤貴子】
9歳と6歳の2人の男の子を育てる加藤貴子さん。子どもたちに本を好きになってもらうにはどうしたらいいか、悩んでいるのだとか。そこで、「たまひよONLINE」でも育児エッセイを連載中で、保育士や絵本専門士の資格を持つフリーアナウンサー吉田明世さんと対談をすることに。絵本の選び方や読み聞かせ方のポイントや、仕事と子育ての両立のことまで、話は多岐にわたりました。加藤さんが育児にかかわる悩みや気になることについて専門家に聞く連載第22回です。
読み聞かせのポイントは、子どもと一緒に絵を楽しむこと
加藤さん(以下敬称略) 本屋さんに行くと絵本ってすごくたくさんあるから、どれを選べばいいんだろう?ってよくわからなくて・・・。
吉田さん(以下敬称略) たくさんの絵本をそろえて毎日違う本を読む必要はないんです。家に置くのは何冊かにしぼってOK。子どもって何回でも同じお話を楽しめるし、むしろ自分が知っている展開になる、思ったとおりになることに喜びを感じるんですよね。
赤ちゃんの絵本が典型的でしょう。『いないいないばあ』 (松谷みよ子 文、瀬川康男 絵/童心社) は同じことの繰り返しですよね。でも、子どもは次のページは「ばあ!」って出ると予想して、やっぱり「ばあ!」って出ることに喜びや楽しみを感じます。同じ本を何度も繰り返して読んで、親と子どもの思い出の1冊があるほうが、その子が大人になって子どもを持ったときに受け継げるのかなとも思います。そういう意味では絵本は究極のエコ商品とも言えるのかも。絵本を繰り返し読む時間は、子どもの記憶にも残りますから、大切にしたい時間ですよね。
加藤 絵本を選ぶ際に、選び方のポイントってありますか?
吉田 本屋さんや図書館で、お子さんが好きなものや、季節に合ったお話を選ぶのもいいと思います。昔から親しまれているベストセラーの絵本は間違いないと思いますし、自分が子どものころに好きだった絵本を子どもにも読んであげるのもいいと思います。
自分が読んでいた絵本を子どもに読み聞かせると、意外に新しい発見があることも。たとえば『かいじゅうたちのいるところ』(モーリス・センダック作、じんぐう てるお訳/冨山房)は、主人公マックスがかいじゅうたちのいる島に行ったのは夢だった、というお話ですよね。物語の初めにはマックスの部屋から見えるのは三日月ですが、物語の最後にマックスが寝室に戻った場面では部屋の窓から見えるのは満月になっています。ということは、おそらく月日がたっている。つまり、マックスは夢ではなくて実際にかいじゅうたちのいるところに行っていたのかも、というメッセージを感じることができます。絵本の魅力は絵からの情報がぎっしりつまっているところだと思います。
加藤 へぇ! そんなメッセージがあったんですね! そう言われてみて自分のことを振り返ると、絵をじっくり見て読んでいなかったかも・・・。
吉田 大人はつい文字を上手に読もうとして、どんどんページをめくってしまいますよね。活字が苦手な人こそ、子どもと一緒に絵本の絵を楽しんでみるといいかもしれません。読む年代や自分の環境によって、感じ方も変わってくるもの。子どもと一緒に何度も同じ絵本を読むのは楽しいものです。
読み聞かせは、上手じゃなくても、声色を変えなくても大丈夫!
加藤 私は子どもに毎日のように読み聞かせしていたけれど、どんな物語か、ということはあまり記憶に残っていないから、絵本の楽しさをじっくり味わえていなかったのかも、と気づきました。吉田さんのお話を聞いて、読み聞かせのやり方がくつがえされている感じがします!
吉田 読み方は上手じゃなくてもいいんです。登場人物によって声を変えたりもしなくて大丈夫です。大人が読んでいる小説などはカギカッコの上にはだれの発言か、など発言者の名前が書いてあるわけではないけれど、読んでいれば自分で想像して理解しますよね。それと同じで、絵本もあえて声色を変えたりしないで読むことで、子どもが自分で「これはくまさんが言ったんだな」「これはうさぎさんが話したんだな」と、考えて感じることができるんです。それが読解力の基礎になると思います。
絵本に書かれている文字のとおりに読まなくても、途中で親の感想を挟んでもOKです。びっくりする展開があったら「こんなことになるなんてびっくりだね!」と言ってみたり、絵を見て不思議に思ったら「この子は何してるんだろうね?」と問いかけてみたり。お話がわからなくなったら、「あれ?ちょっと前のページに戻ってみようか」とすぐ戻ることができるのも紙の絵本のいいところです。
加藤 それは、絵本ならではの楽しみ方かもしれませんね。
吉田 文字が読めない年齢では、子どもは絵本の絵をよく見ています。以前娘に『ママだいすき』(まど・みちお 文、ましませつこ 絵/こぐま社)を読んだときのこと。いろんな動物の親子が出てくるお話で、ぶたのお母さんのおっぱいをぶたの赤ちゃんみんなで飲んでいる場面があります。そこで1匹だけおっぱいを飲めない子ぶたがいました。それを見て娘が「このぶたちゃん、おっぱいが飲めなくてかわいそうだね」と言ったんです。子どもは絵の情報をこんなところまで感じているんだな、と実感しました。
大人はノルマをこなそうとするかのようにどんどん読み進めようと思いがちですが、さらっと読んでしまうよりは、途中まででも「今日はここまでにしよう、続きは明日ね」と分けて読んでもいいと思います。年齢が上がって読むお話が長くなると、親も読むのが負担になってしまうので、「3回に分けて読もうね」という読み方でもいいと思います。
加藤 つい、ちゃんと最後まで読まなきゃ、と思っていました。少しずつでも、親子で絵本に触れる時間が本に親しむ一歩になるんですね。
仕事も子育ても、両方あるから頑張れる
吉田 仕事で子どもの保育園の行事に参加できなかったりすると、親としてすごく葛藤を感じます。加藤さんはそういうときどうしていますか?
加藤 親を必要とする時期なんて一生のうちにほんのわずかなんだから、運動会とかクリスマス会などの行事くらいすべて参加してあげたい、私自身も参加したいという気持ちはあるものの、仕事と重なってどうしても参加できないことがありますよね。子どもに「お仕事のほうが大事なんでしょ!?」って言われて切ない思いをしたこともあります。仕事と子育て、比べられるものでもなく、どっちも大事だし、仕事をしながらも早く子どもを迎えにいきたい気持ちはありますよね。
そういえば、私も絵本で助けられたことがありました。『よるくま』(酒井 駒子 作/偕成社)という絵本で、よるくまがお母さんを探しに行くんですけど全然見当たらないんです。やっと見つかったお母さんは魚を釣るお仕事をしていた、というお話でした。このお話を読んで、長男は「お母さんがいないのは僕たちのためにお仕事をしているんだ」と共感してくれたようでした。言葉で説明しても飲み込めなかったことも、よるくまに自分を重ねて「自分だけじゃないんだ」という気持ちになってくれたんだと思います。
吉田 私は仕事のほうはなんとか調整してもらって、誕生日やお遊戯会などのイベントがあるときには参加しています。ただ、私は月~金の毎朝生放送のラジオ番組のパーソナリティをしているので、日の出前に家を出て、子どもたちに会えるのは夕方の保育園のお迎えのときなんです。
仕事で平日はいっしょにいられない寂しさはあるけれど、土日は子どもたちに全力を注ぐ、そうすれば子どもたちには愛情は伝わるのかな、と信じて、なんとか自分を保っています。
加藤 毎朝の生放送の仕事は本当に大変ですよね。
吉田 家族の協力があってなんとかできています。先日、3歳の息子に将来の夢を聞いたら「ラジオでお話をする」と言ってくれて、すごくうれしかったですね。初めてのことでした。朝のしたくをする時間に、夫が私のラジオを流してくれているみたいで。5歳の娘には「ママ、ラジオの声が変!」とかって爆笑されちゃいますけど・・・。いつも話している声と全然テンションがちがうから、おもしろいみたいです(笑)
加藤 私は2023年の秋から年末にかけて、久しぶりに連続ドラマと舞台の仕事が重なったんです。舞台は12年ぶりでした。私が留守にしている間、夫がワンオペですごく頑張ってくれました。仕事をしながら、土日は子どものサッカーの試合もあって、そのお弁当作りもやってくれたりして。そんなふうに家族が協力してくれて「いってらっしゃい」と送り出してくれるからこそ、私も全力で仕事を頑張ろう!と。そして帰宅したら仕事のスイッチは切り替えて、100%お母さんとして子どもと接したいな、と思っています。でも、切り替えが下手なんです・・・。(笑)
お話/加藤貴子さん、吉田明世さん 撮影/アベユキヘ 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
「実は読み聞かせが苦手」という人にとっても、参考になるお話だったのではないでしょうか。絵本の選び方、読み聞かせのポイントから、仕事と子育てのバランスのことまで、盛りだくさんの対談となりました。
加藤貴子さん(かとうたかこ)
PROFILE
1970年生まれ。1990年に芸能界デビューして以降、数々の作品に出演。代表作として『温泉へ行こう』シリーズ(TBS系)、『新・科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)、『花より男子』(TBS系)などがある。
吉田明世さん(よしだあきよ)
PROFILE
1988年生まれ。2018年5月に女の子を、2020年12月に男の子を出産した。TBSのアナウンサーを経て、19年にフリーとなり、東京FM「ONE MORNING」(月~金6時~9時)「THE TRAD」(月・火15時~16時55分)レギュラー。ほかにTV、イベント、コラム連載など幅広く活躍中。保育士資格のほか、絵本専門士の資格も取得。2022年、初の絵本「はやくちよこれいと」(インプレス)を出版。
●記事の内容は2024年1月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。