ワクチンで防げる病気から命を守って!「HPVワクチン」の情報を集めて、定期接種を【小児科医】
HPVワクチンは、ヒトパピローマウイルス感染症によっておこる子宮頸がん、中咽頭がん、肛門がんなどを防ぐワクチンです。現在日本では、小学6年生から高校1年生相当の女子まで定期接種の対象とされています。
2013年4月1日に定期接種がスタートしました。その後2013年6月14日に「積極的な接種勧奨の一時差し控え」が決定されましたが、2022年4月に「積極的な接種勧奨が再開」されています。
「再開されたのは、改めて安全性についての特段の懸念がないことが確認され、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると認められたためです」と太田先生は説明します。
「小児科医・太田先生からママ・パパへ、今伝えたいこと」連載の#40は、HPVワクチンを取り巻く最近の状況についてです。
国が一時積極的勧奨をとめていたHPVワクチン、9年ぶりに完全復活
小学6年生以上の女児・女性、そしてその家族の皆さまへ、まずは、広島市が作成した60秒ユーチューブ動画を見ていただきたいと思います。
子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)啓発動画(広島市公式YouTubeチャンネル)
シンプルでわかりやすい内容です。病気とワクチンの説明の後に、振り向いたお嬢さんが「私は打ちました。」と言って歩き去る、まさにこれです。この動画の内容が今の地方公共団体の共通した考え方です。
HPVワクチン、国は一時積極的勧奨をとめていましたが、9年ぶりに完全復活。
その理由は、世界中でのワクチン効果の高評価を知りえたこと。諸外国の副反応の状況とそれに対する対応をしっかりすれば、積極的勧奨に値するワクチンだと再評価したこと。この二つが再出発した理由です。
定期接種対象年齢は以前と変わらず、小学校6年生~高校1年生相当の女児。接種者は徐々に増えてきています。
私のクリニックに定期接種で接種しに来た小学生・中学生に「打った友だちいる?」と聞くと「いますよ」と答える子も多いです。中には「△ちゃんと〇ちゃん」と具体的に答えてくれる子も。そんな姿を見ているママは、え?そうなんだとビックリした顔をします。子どものほうがこだわりがなく、このワクチンは子宮頸がんを防ぐ大事なワクチンだと認識しているんだと感じます。
HPVワクチンが始まったころには、まだ“筋肉注射”のハードルが高かったですね。医者も不慣れ、打たれるほうも痛いんじゃないかと緊張。ところが新型コロナのワクチンも筋肉注射。日本でも筋肉注射そのものが普及してきました。筋肉注射、受けてみるとあまり痛くない。そして痛みや発熱があれば我慢しないで鎮痛解熱剤投与がすすめられていました。痛み対策をHPVワクチン接種にも使えることが、接種前の緊張感を下げてきたのかもしれないな、と考えています。
9年間の溝を埋める、キャッチアップ接種制度を利用して
2022年4月に、積極的勧奨が再開されたときに、定期接種対象者だけでなく、接種が済んでいない(勧奨を控えていた9年間の)対象者全員にも適応できる、3年間のキャッチアップ接種制度もできています。1997年4月2日~2006年4月1日生まれの女性が対象で、無料で接種できます。
しかし、キャッチアップ対象者の反応は鈍く、接種率が上がらず、接種期限の2025年3月31日までに三回接種を終わらせるためには、2024年(今年です!)の夏までには初回接種を済ませないと無料での接種ができなくなってしまいます。
9年間にわたった積極的接種勧奨を控えていた期間中も、希望すれば定期接種は可能でしたが、個別への勧奨通知もなく接種者は激減していました。自分は接種を希望するなんて親にも友人にも相談できる雰囲気もなく、定期接種がなくなったと思い込んでいた人もいたようです。それを突然、あなたも接種できるワクチンですよ。それを今さら、接種していないなら打てますよと通知が来ても、社会人はそう簡単にワクチン接種のための時間をさくというわけにはいかないのでしょう。
日本より7~8年前からワクチン接種を始めた欧米やオーストラリアでは、ワクチンの有効性が報告され、子宮頸がんが減少しています。スウェーデンの報告では、17歳未満のワクチン接種で子宮頸がんリスクが88%減少、英国では12~13歳のワクチン接種で87%減少しました。
オーストラリアでは2028年までには子宮頸がんはゼロになるところまで効果が上がっていると言います。
HPV感染が原因の中咽頭がんや肛門がんなど性差なく発症するがんにも抑制効果があると評価されているとか言われても、眉唾にしか聞こえないかもしれません。
日本でHPVワクチン接種がすすめられていない間に、世界的にはこのワクチンの接種対象には男性も含まれることになってきました。今使われている9価ワクチン、日本では男性対象にはまだ認可されていません。これもまたガラパゴス化ですね。
HPVワクチンのキャッチアップ接種を、集団で!
わが国では定期予防接種は基本的には、個別接種です。これも接種率低迷の要因の一つかも。その解消策として、各地の大学が職員や学生対象に、自主的に集団接種を始めています。1日の接種者は数十人と多くはありませんが、自分で医療機関に行かないでも、職場や学校で接種できるのが特徴です。微力ながらですが、教育機関の取り組む集団接種が、全国の自治体にも広がって行けばと願っています。住民票のある自治体での接種、自分で接種医療機関を探すなど手続き上のハードルも高いですが、がんになるリスクを避けるためには自ら行動し始めることも大事です。
ワクチン接種をしないままなら、年間一万人が発症。約2900人が命を落とすと言われている子宮頸がんは、撲滅可能な疾患です。家族、友人、職場の同僚にHPVワクチンキャッチアップ接種対象者がいるなら、国が提供しているキャッチアップ情報の掲載されているサイトの活用も提案してほしいと思います。
構成/たまひよONLINE編集部
HPVワクチンの情報。動画も活用して情報収集しましょう。
太田先生は「どういう年齢の人が対象なのか、ワクチンの効果がどうなのかについては、私が役員をしている『NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会』のHPのHPVワクチン解説ページがわかりやすいです。ぜひ確認してください」とい言います。
●記事の内容は2024年1月31日の情報であり、現在と異なる場合があります。