元TBSアナウンサー・久保田智子、特別養子縁組で迎えた娘は5歳に。「もう1人、生みの母もいるんだよ」と家族と向き合い、真実を伝えることの大切さとは
TBSアナウンサーとして活躍して、現在は「TBS NEWSDIG」編集長を務める、久保田智子さん。久保田さんは2019年に特別養子縁組で、生まれたばかりの女の子・はなちゃんを迎えています。はなちゃんとの生活や、特別養子縁組では避けては通れないといわれている真実告知などについて話を聞きました。
久保田さんは、はなちゃんを迎えてからの家族との日々を撮影したドキュメンタリー映画『私の家族』(2024年3月15日より全国6都市で順次開催)の監督・ナレーションを務めています。
夫婦だけの時間も楽しかったけれど、娘が来てから毎日がにぎやか
久保田さんは、20代のとき生理不順のため産婦人科を受診し、医師に「妊娠は、無理だと思ってください」と告げられました。結婚後、夫婦で話し合い、特別養子縁組で子どもを迎えることを決めました。
――はなちゃんを迎えてからの生活について教えてください。
久保田さん(以下敬称略) 夫と2人だけの時間も十分楽しかったのですが、娘が来てから、本当に毎日がにぎやかで楽しくなりました。
生まれたばかりの娘を迎えて、しばらくは外に出られない生活だったのですが、家の中で娘のお世話をしているだけでも楽しかったです。こんな時間は私の人生で初めての経験でした。ミルクもたくさん飲む子で、よく寝てくれるので育てやすかったです。乳児湿疹などはできましたが、丈夫で元気な子です。
夫も娘がいることで、自分の存在価値を感じると言っています。
――最近のはなちゃんについて教えてください。久保田さんと似ていると思うところはありますか。
久保田 娘は5歳で、保育園の年中です。うちは共働きなので、夫と仕事の都合を見ながら、保育園の送り迎えをどちらがするか決めています。今日は、仕事が終わったら、私が迎えに行く日です。
娘は明るくて、活発でおしゃべりが大好きな子です。私は夫のことを名前で「のり」と呼んでいるのですが、私とそっくりな口調で娘も夫を「のり」と呼ぶんです。ママ・パパのことをよく見ているな~と、つくづく思います。
血はつながっていなくても、一緒に暮らしていると不思議とだんだん似ていくんだなと感じています。
――特別養子縁組について教えてください。
久保田 特別養子縁組とは、さまざまな事情で生みの親が子どもを育てられない場合に、子どもが家庭環境の中で健やかに育つことができるように育ての親に託す、子どものための制度です。生みの親との親子関係は解消され、戸籍上も育ての親の子どもとなります。私も2019年に、生まれたばかりの娘を特別養子縁組で迎えました。
避けては通れない真実告知。はなちゃんには2歳半ごろから生みの母のことを伝える
映画『私の家族』では、久保田さんがはなちゃんに真実告知をする様子が収められています。真実告知とは、育ての親が子どもに、生みの親がいることやその人は事情があって、育てることができなかったことなどを伝えることです。
――はなちゃんへの真実告知について教えてください。
久保田 特別養子縁組で子どもを迎えると、真実告知は避けては通れないことです。子どもが何歳になったとき真実告知をするか、どのような方法で伝えるかは家庭によって異なります。成長してから真実告知をすると、ショックが大きいとも言われていて、わが家では娘が2歳半ごろから日々の生活の中で「ママとは別に、はなちゃんのことを産んでくれたお母さんがいるんだよ」「生みの母がいるんだよ」ということを伝えていました。
――言葉だけで伝えているのでしょうか。
久保田 言葉だけで伝えてもいいのですが、娘の成長がわかる写真絵本も作りました。私は民間のあっせん団体を通して、特別養子縁組をしたのですが、写真絵本の1ページ目には、あっせん団体から預かった生みの母と父の写真を入れています。娘が見たいときに、いつでも手にとれるように娘の本棚に置いています。
この写真絵本を作るときも、夫婦で構成について話し合いました。私は最初「私たちは、どんどん家族になっていく」という文章を入れようと思ったのですが、夫が「娘からしたらもともと家族だよ。それに幼い娘には理解できないのでは?」と言われ、その案は却下。私の言いたいことを押しつけないように考えて「ずっと一緒だよ」という文章に変えました。物心ついたとき娘が読んでどう思うかということを考えて、言葉選びは慎重に行いました。
――はなちゃんは、生みの母のことを理解しているのでしょうか。
久保田 娘は、5歳になりましたが生みの母がいるということを理解しています。自分から「生みの母どうしているかな?」と言うときもあります。でも娘が、これから成長するに従い、もっといろいろなことを聞きたいと思うときがきっと来ると思います。私は、そのときごまかしたりせずに、娘ときちんと向き合って対話をしようと思っています。
家族だからこそ、じっくり対話をして相手の気持ちを知ることが必要
久保田さんは、はなちゃんを迎えて、改めて家族の対話の必要性を感じています。
――特別養子縁組で子どもを迎えるとき、両親・親族などにはどのように伝えましたか。
久保田 特別養子縁組で子どもを迎えるということは、夫婦だけの問題ではありません。民間のあっせん団体の担当者からも「もし久保田さん夫婦が事故などで亡くなってしまった場合、子どもはどうなりますか? 責任を持って育ててくれる人はいますか?」と聞かれたことがあります。
特別養子縁組をするにあたり、まずは私の両親と話しました。夫のほうは、両親が他界しているので兄夫婦に、なぜ特別養子縁組で子どもを迎えたいのか、説明しました。そして、万が一夫と私が子どもより先に亡くなるようなことがあったら、家族として子どもを見守ってほしい、というようなこともお願いしました。みんな真剣に考えてくれて、理解してくれました。
――とことん話し合ったのでしょうか。
久保田 そうですね。特別養子縁組については、ていねいに話し合いました。話し合うことで、夫や家族でも初めて知る一面があると思います。
私は家族って、一緒に過ごす時間は長いはずなのに、お互いに知らないことが多いように思います。あえて踏み込み過ぎないようにしている面もあるかもしれません。私も両親とは仲が悪いわけではないのですが、どこかで心の距離を感じることがありました。家族だってお互いをわかり合うために、努力していくことが大切です。
――映画の中では、特別養子縁組で子どもを託したある生みの親と会い、インタビューしています。
久保田 生みの親には、さまざまな事情があります。経済的な事情やパートナーや家族の問題などで「産んで、自分で育てたい」と思っても、育てられない女性もいます。これは社会問題として考えていかなくてはいけないことです。
私自身は、娘の生みの親とは娘が生まれたときに一度だけ会っていますが、あっせん団体のルールでその後のやりとりはできません。どういう事情があって特別養子縁組で子どもを託すことになったかはわかりません。でもおなかを痛めて産んだわが子を手放すのはつらかったと思います。そうした生みの親への思いに目を向けることで、きっと娘への伝え方も変わってくると思います。
お話・監修/久保田智子さん 協力・写真提供/TBSテレビ 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
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久保田智子さんの初監督作品『私の家族』は、特別養子縁組に関心がある人たちだけでなく、子育て中のママ・パパにもぜひ見てほしいドキュメンタリー映画です。家族のあり方を見つめ直すきっかけになります。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年2月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『私の家族』
久保田智子さんは、子どもを授かることができず、2019年に特別養子縁組で新生児を家族に迎えた。 「ママとパパが大好き」。そう笑う2歳になった娘に、久保田さんは「もう一人、生みの母もいるんだよ」と話しかける。“真実告知”という、子どもに出自を伝える時期に入り「 娘にちゃんと話したい」と、久保田さんはある後悔から、強くそう思っていた。家族の過去と向き合い、産んでも育てられなかった女性との交流を重ね、たどり着いた“真実”と伝え方とは…。
久保田智子 初監督映画『私の家族』は「TBSドキュメンタリー映画祭2024」にて上映。2024年3月15日より東京、大阪、名古屋、京都、福岡、札幌の全国6都市で順次公開。