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12年の人生をかけぬけた少女。「絵本作家になって世界中の人を笑顔にしたい」が夢。その夢は続く

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完成した『ビーズのおともだち』を手にして、うれしそうなわかちゃん。(写真提供/大西優子さん)

12歳のとき、小児がんの神経芽腫でお空に旅立ったおおにしわかちゃんは、『ビーズのおともだち』という絵本で絵本作家デビューをしています。入院中の女の子の病室に虹色のビーズや星のビーズなどの妖精が現れ、女の子に“がんばりパワー!”をくれるというお話です。
その絵本の中に出てくる妖精キラちゃんが2024年6月22日~25日に横浜で行われた第16回国際小児がん学会アジア大会(SIOP Asia2024)のイメージキャラクターに選ばれました。
わかちゃんの絵本が完成するまでの道のり、絵本に込めた思いなどについて母親の優子さんに聞きました。
また、わかちゃんとともにFoorin楽団で活動した元Foorinの池下リリコさんと吉田日向さんに、『ビ―ズのおともだち』を読んで感じたことなどを教えてもらいました。
全2回のシリーズの2回目です。

「絵本作家になって世界中の人を笑顔にしたい」。小学校3年生から持ち続けた夢

学芸発表会で「絵本作家になりたい」と宣言した小学校3年生のわかちゃん。(写真提供/大西優子さん)

――わかちゃんは小さいころから、絵を描いたり工作をしたりするのが好きだったそうですね。

優子さん(以下敬称略) わかは4歳で神経芽腫と診断され、治療が始まりました。病室や家の中で過ごす時間が長かったこともあり、机に向かって何かを描いたり、作ったりするのが大好きだったんです。
私の母も手先が器用で、わかが描いたイラストをぬいぐるみにしたり、わかのデザイン画をもとにスカートを作ってくれたりしたので、おばあちゃんに似たのかなと思います。

――絵本作家になりたいという夢を、わかちゃんはいつごろから抱いていたのでしょうか。

優子 デザイナーや漫画家などもいいなと思っていたようですが、絵本作家になると初めて宣言したのは、2020年1月、小学校3年生のときです。学芸発表会で将来なりたい職業として、わかは「絵本作家になって世界中の人を笑顔にしたい」と発表したんです。
たくさんの人の前で発表するのって、決意表明だったりしますよね。わかは本気で絵本作家になりたいんだ、と思いました。だったら本気で応援しようって、私と夫も決意したんです。

――2019年に、わかちゃんはリリコさんや日向さんと共に、Foorin楽団のメンバーに選ばれ、ミュージックビデオの撮影などに参加していました。

優子 わかは『パプリカ』が大好きだったので、治療と並行して練習に参加したり、ミュージックビデオの撮影をしたりするのが楽しくてしかたがない様子でした。
ミュージックビデオの公開後、Foorin楽団のステージがいろいろと計画され、わかはステージに立つことを目標に、治療を頑張りました。ところが、新型コロナ感染症の緊急事態宣言で、イベントはすべて白紙に・・・。
「だったら、今は絵本作りという夢を育てることを第一に考えよう」と、わかも私も気持ちを切り替えることにしたんです。

絵本をたくさんの人に読んでもらうために、「プロの手」を借りることに

『ビーズのおともだち』の元となった、わかちゃんの手書きの「ビーズようせいたち」のキャラクター設定。(写真提供/大西優子さん)

――わかちゃんがプロの絵本作家としてデビューするまでの道のりを教えてください。

優子 2021年5月、小学校5年生のときに「シャイン・オン!キッズ キャンプカレッジ2021」というオンラインのイベントに参加したのが、大きな転機となりました。参加した子どもたちの絵をトートバッグに印刷して仕上げるというワークショップで、指導してくださったのが絵本作家さんでした。わかは「私も絵本作家になりたいです!」と画面越しに絵を見せて、すごく盛り上がっていました。

――このイベントで、絵本の出版元であるニジノ絵本屋さんのことを知ったとか。

優子 そうなんです。ニジノ絵本屋さんは作家さんと絵本を作ることもあると聞き、「これだ!」と。その年の秋、わかが描いた絵本の原作を持ち込み、「この絵本を出版したいんです」と相談に行きました。

ニジノ絵本屋さんは、「思い出作りであれば、このまま絵本を作ることはできます。でも、一般に流通させることを考えているのであれば、プロの手を借りてブラッシュアップしたほうがいいと思います」とアドバイスしてくれました。

わかの夢は、自分の絵本で世界中の人を笑顔にすること。世の中のたくさんの人に読んでもらうには、プロの仕事にレベルアップしなければいけないと理解しました。
夫とも話し合い、絵やお話のプロの手を借りて、わかにプロの仕事をさせよう。プロの作品として絵本を世の中に出そうと決めました。

ニジノ絵本屋さんの紹介で、絵本作家の大川久乃さん、イラストレーターののだかおりさん、アートディレクターの高橋まりなさんといったプロが、わかの絵本をブラッシュアップするお手伝いをしてくれることになりました。

わかちゃんが伝えたいことを、よりふさわしい表現にするための作業が続く

絵本の制作風景。プロのアドバイスを受けながら、わかちゃんの思いを形にしていきました。(写真提供/大西優子さん)

――『ビーズのおともだち』の主人公は入院中の「わたし」です。治療のたびにもらうビーズが次々に妖精の姿になり、“がんばりパワー!”をくれる物語です。

優子 わかが作った原作にプロの意見を加えて、よりすてきな作品に作り上げていく作業を行いました。わかが伝えたいことをもっとふさわしい表現にするために、一つ一つ言葉を選んでいく作業が続きました。
みなさん、わかの希望や気持ちを受け止め、寄り添ってくれました。わかはプロの意見を聞きもらすまいと集中していました。すごく濃密な時間でした。

作文教室の先生との会話の中で生まれた“がんばりパワー!”

「ビーズ・オブ・カレッジ」でわかちゃんが受け取ったビーズ。わかちゃんに“がんばりパワー!”をくれるものでした。(写真提供/大西優子さん)

――『ビーズのおともだち』には、小児がんや重い病気の子どもが治療のたびに受け取る「ビーズ・オブ・カレッジ(勇気のビーズ)」(※)のビーズが妖精となって登場します。わかちゃんにとってビーズはどのような存在だったでしょうか。

優子 治療を頑張った自分を励ましてくれる、“がんばりパワー!”をくれるものだと感じていたと思います。だからこそ、ビーズをとてもかわいい妖精に描き、妖精とともに過ごす病室は笑顔であふれている、というストーリーにしたのだと思います。

――ビーズの妖精たちが“がんばりパワー!”ととなえて「わたし」を元気にしてくれます。わかちゃんはこの言葉を、いつ思いついたのでしょう。

優子 絵本の原作となる物語をつくっていたときです。オンラインで習っていた作文教室の先生との会話の中で生まれました。
先生から「妖精が魔法をかけるときの呪文は何にする?」と質問され、「がんばりパワー!」にすると。”がんばりパワー!”がわかの中から生まれた瞬間でした。

病室のカーテンが閉まるときの表現は、ディスカッションを繰り返して決定

病室でのわかちゃん。9歳のとき。わかちゃんの笑顔は、みんなを元気にしてくれました。(写真提供/大西優子さん)

――『ビーズのおともだち』の中では、病室のカーテンも印象的に描写されています。

優子 その部分の表現は、絵本作家の大川さんとわかが、一緒にこだわったポイントです。
カーテンが閉まるのは、わかがひとりぼっちになることを意味しています。だから「カーテンが閉まる音が嫌い」なんですが、単に「嫌い」ではなく、ベッドの上で感じた気持ちを思い返し、どんな言い回しがいちばんフィットするか、表現を探していました。

最終的にわかが選んだのは「わたし カーテンが シャーッとしまる このおとが ちょっと きらいです」でした。
でもそのあと、もらった虹色のビーズを見ていて「こころが きらきら してきたみたい」という一文が続きます。
ひとりぼっちになる寂しさやせつなさを表しつつも、ビーズが独りの時間を支えてくれたことがわかるので、心が温かくなります。読んだ方もそう感じてくださるといいなと願っています。

わかちゃんの優しさと明るさが詰まった絵本は、リリコさんと日向さんの心にも届く

SIOP Asia2024のオープニングセレモニーにスペシャルサポーターとして出演したときのリリコさんと日向さん。(写真提供/大西優子さん)

――リリコさんと日向さんは、わかちゃんが絵本を制作していることをご存じでしたか。

リリコ はい。わかちゃんはとっても絵が上手なので、絵本が出来上がるのを楽しみにしていました。でもその一方で、わかちゃんの病気のことがずっと気になっていました。

わかちゃんらしい優しい表現で、読むとほっこりする

リリコさんが「わかちゃんらしい」と感じた、カーテンが閉まることを描いたシーン。ビーズはわかちゃんから分けてもらったもの。(写真提供/大西優子さん)

――リリコさんは『ビーズのおともだち』のどのシーンが印象に残っていますか。

リリコ カーテンが閉まるシーンです。わかちゃんはいつも病室で独りになると、寂しかっただろうな、不安もあったんだろうなと思うと、心がギュッと痛くなります。
でも「ちょっと きらい」というやわらかい表現を選んだところが、だれにでも優しかったわかちゃんらしくて、ほっこりもします。

わかちゃん自身が“がんばりパワー!”をくれる人だった

虹色の妖精が“がんばりパワー!”で「わたし」を元気にするシーン。このページを読むと日向さんも元気になるそう。(写真提供/大西優子さん)

――日向さんは『ビーズのおともだち』のどのシーンが好きですか。

日向 虹色のビーズの妖精、レイちゃんが、“がんばりパワー!”で「わたし」を元気いっぱいにするところです。わかちゃんはだれよりも明るく元気でパワーがありました。わかちゃん自身がみんなに“がんばりパワー!”をくれる人だったんです。
絵本の帯に、「読んでくれたみんなが、笑顔になってくれたらいいなと思います」っていうわかちゃんの言葉があるんですけど、僕はこのシーンを読むと、いつも自然と笑顔になります。たくさんの人にこの絵本を読んで笑顔になってほしいな。

わかちゃんの12歳の誕生日に、わかちゃんの夢と希望が詰まった絵本が出版された

わかちゃんは病室でも自宅でも、とても楽しそうに絵を描いていました。写真は10歳のとき。(写真提供/大西優子さん)

――『ビーズのおともだち』はわかちゃんの12回目の誕生日に出版され、わかちゃんはその3カ月後にお星さまになりました。

優子 わかは完成した絵本を手に取ることを励みに、とても頑張りました。そして自分の夢と希望が詰まった絵本を読んで、とても満足そうにしていました。

SIOP Asia2024で『ビーズのおともだち』に興味を持った医療従事者も

SIOP Asia2024ではニジノ絵本屋さんが出店し、『ビーズのおともだち』を販売しました。左は英語版。

――SIOP Asia2024ではニジノ絵本屋さんのブースもあり、参加者の関心が高かったと聞きました。

優子 スマートフォンの翻訳アプリをフル活用して、たくさんの方とお話をしました。翻訳アプリのおかげで、インドネシアの先生とは何度もスマートフォンをお互い持ち替えながら会話を繰り返しました。中国の先生は、絵本を手に取り、その場でゆっくり読んでくださいました。そのあと、翻訳アプリで会話をしているうちに私が感極まって泣いてしまったのですが、一緒に涙してくれました。これまで病気のことを人に話すのが怖かったです。でも、こんなすてきな経験をさせてもらえて、感謝の気持ちがあふれてきました。

――優子さん自身はこれからどのような活動をしたいと考えていますか。

優子 わかの思いが詰まった『ビーズのおともだち』をたくさんの人に読んでほしいと願っています。でも、私の一番の望みは「わかのお母さん」でいることなんです。『ビーズのおともだち』に関する活動は、わかの子育ての続きをしているようなもの。
わかと過ごした12年間は、私にとって誇るべき時間でした。それを心の糧にして、わかの思いをつなげる活動をしていきます。

お話/大西優子さん、池下リリコさん、吉田日向さん 写真提供/大西優子さん 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

わかちゃんは絵本の帯に、「わたしはこの絵本を、今まで助けてくれたみんなに届けたいです」とも書いています。そんなわかちゃんの優しい思いが詰まった『ビーズのおともだち』を、ぜひ読んでみてください。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

※アメリカの小児がん専門看護師が開発したプログラムで、日本では認定NPO法人シャイン・オン・キッズが実施している。

●記事の内容は2024年8月の情報であり、現在と異なる場合があります。

『ビーズのおともだち』

入院中の「わたし」が病室でひとりになると、治療のたびにもらうビーズが次々とかわいい妖精に変身。“がんばりパワー!”で「わたし」を笑顔にしてくれます。「SIOP Asia 2024」のイメージキャラクターに選ばれたキラちゃんは、お話を聞かせてくれる星のビーズの妖精です。作:おおにしわか 文:大川久乃 絵:のだかおり アートディレクション・装丁:高橋まりな/1760円(ニジノ絵本屋)

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