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重度難聴の息子。10カ月で人工内耳手術をして、3歳の今は言葉をきいて話せるように【体験談】

更新

人工内耳手術をしたあと、退院して自宅に帰った糸優くん。耳と側頭部につけているのが人工内耳の装置です。

神奈川県に住む美砂江さん(37歳)は、6歳の女の子と3歳の男の子を育てる母です。第2子の糸優(しゆう)くん(3歳)は、生後3カ月で重度難聴と診断されました。その後補聴器を装用し、生後10カ月で人工内耳手術を受け、今は言葉をきいて話すコミュニケーションで暮らしています。美砂江さんに、人工内耳手術後の糸優くんの成長の様子について聞きました。
全3回のインタビューの2回目です。

▼<関連記事>第1回を読む

人工内耳の手術。そして音に反応するようになった息子

生後10カ月、人工内耳手術をした翌日、病院のベッドでの糸優くん。

糸優くんは、医師のすすめで生後3カ月から補聴器を装用していました。美砂江さんは糸優くんを手話で育てるのか、人工内耳手術をして聴覚活用するのか、何人もの話を聞き、夫の朋也さんと話し合いました。そして、糸優くんが人工内耳手術を受けることを決めたのは、人工内耳手術の適応基準が、体重8kg以上または年齢1歳以上に変更となったころでした。

「息子は体重の条件は早々にクリアしていたので、医師と相談し、生後10カ月で手術を受けることに決めました。その後は医師から手術の方法の説明があり、さらに人工内耳のメーカーを決めるように指示がありました。当時手術が可能だった人工内耳のメーカー2社に問い合わせると、各メーカーの担当者は直接説明をしてくれました。

人工内耳は、体外部分のマイクで拾った音を電気信号に変換し、体内に埋め込んだインプラントに送信します。それが、内耳の蝸牛(かぎゅう)に挿入した電極に伝わり、聴神経を直接刺激することで、脳に音を伝えるようにする装置です。メーカーによって、マイクで拾える音の幅や、流す電流の刺激数、また電池の持続時間などが違うんですが、それも夫婦で悩みながら相談して決めました。

そして、息子は生後10カ月で全身麻酔による人工内耳手術を受けました。手術は両耳で5時間に及び、4泊5日の入院となりました」(美砂江さん)

手術を受けてからしばらくは、人工内耳の音の調整をするマッピングというもののために、2週間に1度の通院を続けました。

「手術を受けて数カ月後に、息子のきこえに変化が見られ始めました。今まで反応しなかった、電子レンジの音や、はと時計の音がきこえると、ん?と振り向いたり、動きが止まったりといろいろな反応をするようになり、『あ、この音も今まではきこえてなかったのか!』『こんな音もきこえるようになったのか!』と私も驚きと発見の日々でした。 息子の音の世界が広がったことがとてもうれしかったです」(美砂江さん)

きこえとことばの力を伸ばすために

1歳10カ月の糸優くん。人工内耳装置はカラフルでとってもおしゃれ!

美砂江さんは糸優くん聴覚の力をのばすため、自宅から1時間ほどの距離にある療育施設に週2~4回通っていました。そのほかにも、美砂江さんは独自にオンラインで難聴児の親向けの講座を受講し、自宅での糸優くんの言葉の練習に役立てたそうです。

「いろいろと調べていたら、AVT(オーディトリーバーバルセラピー)という海外の難聴児の音声言語学習法とlanguage trainingという海外の母語教育(language Arts)をかけあわせた難聴児の親のための講座に出会いました。AVTとは、難聴児が聴くことを通して音声言語を学習することに最も重点を置いたアプローチです。ご縁があって海外在住のAVTの有資格者から1年間学びました」(美砂江さん)

美砂江さんはAVTで学んだ技法を2人の子どもたちとの日常生活に取り入れました。

「AVTにはいくつもの技法があるのですが、その1つに、きくための注意を向けさせることがあります。子どもがなにかをしている途中に話しかけてもきく準備ができていないので、『糸優くん、見て』と言葉をかけて、きく準備をしてもらいます。注意が向いたら、先に言葉を伝えてからものを見せます。たとえば「バナナ食べる?」と言ってからバナナを見せる、という具合です。

日常生活では、なにかを見せる前に必ず音声で伝えてから言うことを徹底し、なるべく本物を体験させることも心がけていました。たとえば絵本に出てくる『りんご』のイラストと、写真の『りんご』、本物の『りんご』がすべて同じ『りんご』なんだとつながるように繰り返しきかせたり見せたりしました。また、これ、それ、あそこなどの『こそあど言葉』はできるだけ使わないようにもしていました。
日常の中で自然にいろんなものに触れられるように、言葉を使ったコミュニケーションを楽しむ気持ちを育てていくようにしました」(美砂江さん)

日常生活は、きいて話すコミュニケーションに

美砂江さんが表情豊かに話すことを心がけていたおかげか、糸優くんの表情もとっても豊かです。

美砂江さんのAVTの学びの効果もあり、糸優くんのことばはどんどん伸びていきました。

「今では日常会話はほぼ音声言語でコミュニケーションが成り立つようになりました。3歳を過ぎ、最近言葉のバリエーションが急に増えました。今まではなんでも『イヤ!!』だったのが、『ちがうよ』『やらない』『できない』など否定の言葉を使い分け、家族の名前やお友だちの名前も言えるようになりました。とくに車が大好きで『しょうぼうしゃ』『きゅうきゅうしゃ』『しゅうしゅうしゃ』など言い分けてるのはすごいなと感心してしまいます。音楽も大好きで、音楽が鳴ると踊り始めます(笑)

街の音に関しては、救急車の音がかなり遠くからきこえてきても気がついたり、飛行機の音がきこえると空を見上げて探したり、私でもびっくりすることがあります。初めて耳にする音がきこえると耳に手を当てて、『なんのおと?』と聞いてくることもあります」(美砂江さん)

人工内耳の装置は、体外部分にマイクが、体内には電気信号を聴神経に伝えるインプラントが埋め込まれて、耳の上あたりで磁石でくっつくようになっています。糸優くんは人工内耳があるから音がきこえる感覚をわかっているのだとか。

「夜寝る前にベッドで絵本を読みきかせたあとには『ねんね』と言って自分で人工内耳をはずしたり、逆に朝起きると、自分でテレビをつけ、観たい動画を選んで一時停止した状態で、「みみ(つけて)」と言ってきます。人工内耳をつけてあげてから動画を再生している様子に、音のある世界とない世界を使い分けているんだなぁと感心しています 」(美砂江さん)

それでも、やはり糸優くんのことばの発達に心配があったという美砂江さん。

「頭では難聴児だから言葉が遅いとわかっていても、同じ年齢の健聴児のお友だちに会うと、言葉の発達や明瞭度が全然違うので少しあせってしまうことがありました。上の子がこの月齢のときはこんなこと話してたなぁ~と思ってしまうこともあります。まわりと比べないように、ゆっくり糸優のペースで!と何度も自分に言い聞かせました。

難聴児の発達は、実年齢ではなく『聴年齢』で言われることが多いんです。人工内耳をつけた年が0歳なのです。同じ3歳の子どもであっても、息子は10カ月で人工内耳を装用したので、言葉の発達は2歳2カ月相当ということ。息子は今、2語文や3語文を話しています 」(美砂江さん)

会話するのが楽しい!気持ちを育みたい

2歳1カ月、ママの美顔器でコロコロ〜する糸優くん。

人工内耳手術をしてから、糸優くんがきいて話す力を伸ばすことに注力してきた美砂江さん。今後は手話を学ぶことも考えているそうです。

「わが家は今まで、聴覚活用して音声で言葉を獲得することに重点を置いてきました。決して手話を使いたくないわけではありません。むしろ息子は音声で100%きき取ることは難しいから、手話を併用することでよりよいコミュニケーションができたらいいと思っています。かなりきくことが身についてきたので、これから先は少しずつ手話を学び始める準備をしようかと考えています。

大切なのはコミュニケーションを楽しめることだと思うんです。その手段が、音声言語でも、筆談でも、手話でも相手と心を通わせることができたら、息子の人生はさらに豊かなものになっていくと思います。だから今はコミュニケーションが楽しい!会話するのが楽しい!という気持ちを育んでいきたいなと思っています。どんどんいろんなことに挑戦して世界を広げていってほしいです 」(美砂江さん)

その上で美砂江さんは、糸優くん自身が自分の障害特性を理解し、困りごとを伝えられるように育てたいと考えています。

「私たちが親としてできることは、何か困ったことがあったときに自分で説明できる子に育てることです。聴覚障害は治すことができる病気ではないので、自分の障害特性をよく理解することも大切だと思っています。自分のことをよく知った上で『僕は今こんなことに困っている』『こうしてもらえると助かる』と自分の言葉で伝えられるように育てていきたいなと思っています。

また、相手の方に難聴だということを知ってもらうこと、気づいてもらうことも大事だと思うので息子の人工内耳はあえて目立つ色にしています。かっこいい柄にしたりしているので、よく子どもたちにそれなにつけてるの?と聞かれることがあるので、そんなときはチャーンス!と思って、難聴のことや人工内耳のことを簡単にわかりやすく伝えるようにしています」(美砂江さん)


お話・写真提供/美砂江さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>第3回

人工内耳の機器は片耳約100万円と非常に高額です。故障の場合は1割負担のことが多いようですが、紛失は自己負担で支払う必要があるのだとか。補助金は自治体によって差があるため、美砂江さんは「人工内耳や補聴器は難聴の方にとって体の一部なので、日本全国どこにいても平等に補助や支援が受けられるようになってほしい」と言います。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年9月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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