11月はSIDS対策強化月間。「うつぶせ寝」はどれくらい危険?乳幼児突然死症候群のためにできること【小児科医】
こども家庭庁は、毎年11月を乳幼児突然死症候群(SIDS)の対策強化月間と定めて啓発活動を行っています。乳幼児突然死症候群(SIDS:Sudden Infant Death Syndrome)は元気だった赤ちゃんが突然、亡くなるという病気で、原因はいまだに不明です。連載「ママ小児科医さよこ先生の診療ノート」の11回目は、SIDSの対策についての解説です。
うつぶせで寝てしまう・・・まずは「寝返り返り」ができるかチェック!
「寝返りできるようになってから、寝るときも、すぐ寝返ってしまって・・・窒息も突然死も心配だけど、夜中じゅう見張っているのは、もう限界です」(生後5カ月)
うつぶせ寝が好き、という赤ちゃんの相談は、外来でもオンライン医療相談でも、非常によく受けます。
「寝るときはあお向けにしないと、突然死のリスクがある」ということを知っている保護者の方は多いと思います。しかし一度寝返りをマスターすると、うつぶせ寝を好む赤ちゃんが多いのも事実。どうしたらいいのでしょうか?
結論から言えば「寝返り返り」ができたら、うつぶせ寝も許容範囲内です、と伝えています。つまり「あお向け→うつぶせ」だけではなく「うつぶせ→あお向け」もできている子なら、うつぶせ寝をしていても、毎回毎回あお向けに戻す必要性は高くないよということです。
そもそも、なぜ「うつぶせ」だとSIDSのリスクが高くなるのでしょうか?実は医学的に明らかな理由はわかっていません。
たしかに「うつぶせで寝ている赤ちゃん」のほうが、「うつぶせで寝ていない赤ちゃん」と比べると、SIDSを生じるリスクが高くなるというのは、数々の研究で報告されています。またあまり知られていませんが、横向き寝も、うつぶせ寝と同じくらい、SIDSのリスクが高くなるという報告もあります。
これらの報告を受けて、アメリカ小児科学会や日本の厚生労働省でも、少なくとも1歳までは「昼も夜も、あお向け寝で!」と推奨しているのです。
ただし「うつぶせ」だけでSIDSになるわけではないのでは?という医学的な見解が複数あります。というのも、SIDSを引き起こしやすい遺伝子異常や、それによる自律神経(血圧や脈拍の調整などを司る神経)の機能が未熟であること、また心臓や免疫など、「うつぶせ」以外にもさまざまな因子が報告されています。
「うつぶせ」だけでSIDSになるわけではない。ということで、「寝返り返り」もできるくらいの筋力や発達がみられている赤ちゃんであれば、うつぶせ寝も許容しうる、とアメリカ小児科学会も提案しています。
「寝返り返り」ができない場合は、とにかく安全な睡眠環境を
「うちの子、うつぶせからあお向けになるのは、まだできなくて・・・こういう場合は、やっぱりうつぶせ寝していたら、毎回戻さないといけないんでしょうか?」(生後4カ月)
寝返りができるようになる時期は個人差が大きいですが、早いと生後2〜3カ月ごろから寝返る子も。ただし多くは「うつぶせ→あお向け」がまだできず、やはり寝ている間の心配はつきないものです。
「寝返り返り」ができない場合については、世界を含め、公的な機関から正式な声明は出ていません。「寝返り返り」ができる赤ちゃんに比べると、やはりうつぶせ寝によるSIDSのリスクは低くないと考えられるからです。
この場合は「安全な睡眠環境をとにかく整えること」で、保護者も休める時間をつくる、というのが現実的な案になります。
最も大切な対策は「ベビーベッドの中に、何も置かないこと」です。アメリカ小児科学会では、赤ちゃんのベッドに置いていいのはシーツのみであり、枕や布団などはいっさい置かないことを推奨しています。部屋が寒いなど体温調整が必要な場合は、「スリーパー」と呼ばれる寝袋のようなものを赤ちゃんに着せます。日本では産院でも家庭でも赤ちゃんに布団をかけることがありますが、これはSIDSの観点からは非常に危険です。今年度から、SIDSの啓発ポスターにも、布団・ぬいぐるみ・タオルを置かないこと」が明記されるようになりました。
またアメリカ小児科学会のSIDSに関する提言は2022年に改定されたのですが、そこに「バウンサーなど、傾斜のある場所で寝かせないこと」が新たに加わりました。赤ちゃん専用の、かためのマットレスで寝かせることなどはもともと推奨されていましたが、その後、バウンサーやベビーラックなどで赤ちゃんが寝ている間に突然死する報告が相次ぎました。もちろん、一時的に赤ちゃんをあやしたりするためには、バウンサーは使っていいのですが、寝ついたあとは、ベビーベッドなど安全な場所に移動させることが大切です。
なお、寝返り返りができていたとしても、これらのポイントはとても大切です。寝ている間にうつぶせになってしまい、それに気づかなかったとしても、少しでも安全な環境で過ごせるように、今一度、睡眠環境を見直してみましょう。
起きている間の「うつぶせ」タイムで、SIDS対策!
寝ている間の安全な睡眠環境はもちろんですが、起きている間に「うつぶせ」タイムを取ることは、SIDS対策になります。
具体的には、赤ちゃんが退院した直後から、数分間などの短い時間からスタートします。あお向けに寝た親のおなかの上に、赤ちゃんをうつぶせで乗せてあげると、トライしやすいです。こうして徐々に時間を増やしていき、生後2カ月ごろまでには、1日の合計で15〜30分をあてるといい、という提唱もあります。この「うつぶせ」タイムは「タミータイム」ともよばれ、アメリカ小児科学会がかかげるSIDS対策として、2022年の改訂から、さらに推奨度が高まりました。
なぜ起きている間のうつぶせタイムが有効なのかというと、「普段からうつぶせに慣れていない赤ちゃんが、寝ている間にうつぶせになってしまうことが、SIDSのリスクを高める」という報告があるからです。なお、うつぶせタイムを取ることは頭の形(絶壁、左右の非対称)の対策にもなるため、一石二鳥ですね。
「温めすぎない」のも大事
「赤ちゃんが寝るときの、室温とか、服装とかって・・・何を基準にしたらいいのでしょうか?」(生後1カ月)
ベッドには何も入れない。起きている間のうつぶせタイム。そのほか、SIDS対策としては家族全員の禁煙などのポイントがありますが、意外と知られていないのが「温めすぎない」ことです。
SIDSにはさまざまな因子が報告されている、と書きましたが、赤ちゃんの体を温めすぎることもSIDSのリスクになる、という報告があります。詳しいメカニズムは不明な部分が多いですが、赤ちゃんの体温が温まりすぎると、呼吸などの自律神経系の調整がうまくいかなくなり、結果として突然死につながることが報告されています。
しかし具体的に、部屋の温度や、赤ちゃんの服装については、公的機関の見解はありません。というのも、部屋の空調温度を同じにしたところで、部屋の湿度や、部屋の空調の種類、部屋の広さなどによって、実際に生じる赤ちゃんの体温は異なるからです。
唯一の公式見解として、アメリカ小児科学会は「大人が着ている枚数以上に、赤ちゃんに厚着をさせないこと」「赤ちゃんがスリーパーを着ている場合は、ブランケットはいらないこと」を提示しています。また、複数の医師が世界中の研究を分析し記事を執筆している「UpToDate」という医療サイトでも「大人が薄着して、ちょうどいいぐらいの温度がいい」「ヒーターや直射日光の当たるところで、赤ちゃんを寝かせないように」という提案が示されています。
また赤ちゃんの胸を触って熱いと感じる場合や汗をかいている場合などは、厚着のさせすぎや「暑すぎる」というサインです。冬場はつい毛布を使ったり、室温を高くしたりしがちですが、毛布ではなくスリーパーで調整し、大人よりも厚着させないことを意識しましょう。
市販のベビーモニター・ベビーセンスに「SIDSを予防できる」というエビデンスはない?!
どれだけ対策しても、とにかくSIDSが不安。それなら、機械の力に頼ろう!ということで、ネット通販などでベビーモニター、ベビーセンスなどを検索したことがある方もいるかもしれません。これらは赤ちゃんの無呼吸を感知すると、アラームで知らせてくれるということをうたい、販売やレンタルされています。
ただし結論からいえば、こうした機械に、SIDSを予防できるという医学的なエビデンスが示されたものはありません。実際に、アメリカ小児科学会も、こうしたセンサーはむしろ使わないように、と提言しています。
そもそもSIDSとは「それまでの健康状態および既往歴からその死亡が予測できず、しかも死亡状況調査および解剖検査によってもその原因が同定されない」突然死のことです。つまり、亡くなる前後で明らかな原因が見当たらないのに、亡くなってしまったというケースを指します。かみくだいて言えば、仮にベビーモニターで無呼吸を検知したところで、その後どんな処置や対応をとっても、助からないケース、それがSIDSといってもいいでしょう。
むしろこうしたセンサーやモニターをつけているかと油断して、前述したようなSIDSの基本的な対策を怠ることの方が問題なのです。
文・監修/白井沙良子先生 構成/たまひよONLINE編集部
赤ちゃんが寝ているときに、もしものことがあったら・・・と不安はつきません。「正しく知り、正しく対策することで、少しでも保護者の方が安心して休息を取れる一助になれば」と白井先生は話します。
【参考文献】
UptoDate, Sudden infant death syndrome: risk factors and risk reduction strategies