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日本にはたった47人しかいない、チャイルド・ライフ・スペシャリスト。病気の子ども・家族・きょうだい児の心の支えに【体験談】

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治療の影響でごはんが食べられなくなった女の子の病室で、お弁当を作る遊びをしました。

「チャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下CLS)」は、入院・通院で治療を行う子どもと家族に寄り添い、支援する専門職。残念ながら、日本ではまだ限られた病院にしか配置されていませんが、米国小児科学会は「質の高い小児医療のためには欠かせない要素」と言っているそうです。横浜市立大学附属病院でCLSとして働く石塚愛さんに、CLSの仕事について聞きました。全2回のインタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

小児科で治療する15歳ごろまでをメインにしつつ、高校生・大学生のケアも

石塚さんは1歳4カ月の長男を子育て中のママでもあります。

――CLSは医療現場でどのような仕事をしているのでしょうか。

石塚さん(以下敬称略) CLSは子どもの発達や、ストレスへの対処法などの専門知識を持ち、病院で治療を受ける子どもとその家族の心をサポートする専門職です。治療によって子どもが受けるストレスや不安を減らし、前向きに治療に取り組めるように支援しています。

――小児科は主に15歳ごろまでの子どもが対象だとか。CLSが支援するのも15歳くらいまでですか。

石塚 メインは15歳ごろまでの子どもですが、高校生や大学生も対象になります。この年代は小児とも大人とも違うニーズがあるのに、それが拾われにくく、支援が十分に行き届かないことがあります。それは病気と闘う意欲に強く影響してしまうので、彼らの求めるものを見極め、支援することもCLSの重要な仕事となっています。

――石塚さんの1日のお仕事の流れを教えてください。

石塚 1歳4カ月の息子がいるので、今は16時までの時短勤務中です。朝8時半に出勤したら、まず入院中の子どものカルテを見て、その日だれがどのような検査や手術を受けるのかをチェック。9時になったら小児科病棟の申し送りに参加して、子どもたちの状態を看護師や保育士と共有します。
続いて病棟を回り、子どもたち1人1人に朝のあいさつをしながら様子を確認。入院したばかりの子には自己紹介をして、その子の好きなことや、入院生活で困っていること、心配なこと、検査処置の感想などを教えてもらいます。その後、検査や手術を受ける子どもたちに付き添い、午前中は終了です。

午後は成人病棟にいる子どもの様子を見に行ったり、面会に来た両親と話をしたり。また、治療に前向きに取り組めるように、ストレス緩和や不安軽減につながる遊びを個々に提案し、一緒に遊ぶ時間を作ります。
そんな感じで、1日があっという間に終わります。

遊びは治療のつらさをやわらげ、子どもをポジティブにしてくれる大切なもの

石塚さんが勤務する小児科病棟のデイルーム。おもちゃがたくさん置いてあり、入院している子どもたちは自由に遊べます。

――ストレス緩和や不安軽減のための遊びとは、どのようなものですか。

石塚 子どもの年齢や個性、何を不安に感じているかなどによって変わりますが、たとえば、注射針をつけていないシリンジに絵の具を入れて、お絵描きをします。医療機器に慣れ親しむことで、恐怖心をやわらげるのが目的です。

治療や入院生活に後ろ向きになっている子には、嫌なことをホワイトボードに水性ボールペンで書いてもらい、その文字めがけて、ぬらして丸めたティッシュペーパーを思いっきり投げる遊びをします。「嫌なこと」が水に流れて消えていくのを見ることによって、自分の気持ちを整理し、治療に前向きになってくれることをめざしています。

「お医者さんごっこ」もします。子どもが医師や看護師役になり、これから受ける治療や、すでに受けた治療を再現するんです。治療前はこれから受ける治療への見通しや心構えができ、治療後は遊びを通して検査や処置を振り返りながら、子ども自身が言葉で伝えるのが難しい気持ちを表現し、心を癒やすことに役立ちます。

――子どもたちの間ではやっている遊びをチェックすることもあるとか。

石塚 子どもが好きなことは、子どもに聞くのがいちばん。病棟にいる子どもたちが、私の知らないおもちゃやゲームなどで遊んでいるときは「それ何?どんな遊び?」と聞いて、教えてもらっています。また、はやっているボードゲームなどはつねにネットでチェックしていて、「これは喜ばれそうだな」というものを購入し、子どもたちを誘って遊んだりもします。

シェービングクリームと絵の具を使い、一緒にお弁当作り。女の子に笑顔が・・・

小児科病棟の処置室。子どもたちの不安が少しでも軽くなるように、とてもかわいい作りになっています。

――これまで支援してきた子どもたちとのエピソードで、印象に残っていることを教えてください。

石塚 治療のために、小児病棟から別の場所に移った小学生の女の子がいました(※)。治療の影響でごはんが食べられなくなり、まわりにお友だちもいなくて、とても元気がなくなっていたんです。
少しでも楽しい気分になってほしくて、シェービングクリームと絵の具を病室に持っていきました。紙コップの中にシェービングクリームを出して絵の具で色を付け、トレイの上で目玉焼きや焼き鮭、おにぎりなどの形にして、お弁当を作ったんです。
女の子がとてもうれしそうに遊んでくれたのが印象的でした。「食べたいけど食べられない」気持ちを遊びの中で表現しつつ、楽しい時間を共有できたなと、私もうれしくなりました。

少し大きな子になりますが、中学生の女の子のお話です(※)。いつもは友だちと遊ぶのが大好きな明るい子ですが、体の痛みがつらく、ふさぎがちになってしまって・・・。体に負担をかけずにできて、その子が喜ぶ遊びは何かなと考え、その子、同じ病棟の友だち、スタッフ、私の4人で、カードゲームをしようと誘いました。
体力の関係でひと勝負しかできなったのですが、久しぶりにその子の顔に笑顔が戻り、「またやりたい!」と次への意欲を見せてくれました。

このような経験を通して、子どもにとって遊びは、生活の質を高めてくれるとても重要なものだと感じています。

※ 個人情報保護の観点から、実例をもとにアレンジしています。

きょうだい児も応援したい。その思いから「きょうだいLove♡通信」を制作

「きょうだいLove♡通信」の誌面。この号では、きょうだい児のさまざまな疑問に答えました。

――きょうだい児の支援も行っています。

石塚 きょうだいが病気になり、入院・治療を行うことで、きょうだい児さんは不安や心配、罪悪感、寂しさなどさまざまな感情を抱きます。私が勤めている横浜市立大学附属病院では、CLSだけでなく看護師、病棟保育士と連携して、きょうだい児の応援をしたいと考えていて、きょうだい児さんに向けた「きょうだいLove♡通信」を制作しています。年2~4回の発行で、だれにでも持ち帰ってもらえるように、小児科病棟の入り口と小児科外来に置いてあります。

この冊子を作っている目的は、「病院にもみんなのことを応援してる人がいるんだよ」と、きょうだい児さんに知ってもらうこと。そして、きょうだい児さんと家族が一緒に読んでもらう中で、病院のことや、入院しているきょうだいのことについて、フランクに話してもらえたらいいなと願っています。

――きょうだい児向けの工作キットの配布も行ったとか。

石塚 横浜市立大学で学ぶ看護学生にも協力してもらって工作キットを作り、きょうだい児さんに渡しました。病気の子どもがいる両親は、きょうだい児さんにかかわる時間が少なくなってしまうこともあります。きょうだい児さんと家族が楽しく過ごすきっかけになったら、と思って渡しました

――きょうだい児の両親からの反応はいかがでしたか。

石塚 「きょうだいだけがもらえるという特別感がよかったようです」「おにいちゃんとゆっくり楽しい時間を過ごすことができました」といった感想をいただきました。喜んでもらえたとホッとしています。
病院だけでなく大学とも連携して、きょうだい児支援の輪を広げていきたいと考えています。

――病気を患う親を持つ子どもへの支援もしているとか。

石塚 入院中の親御さんから、「自分の病気のことを子どもにどう説明すればいいのかわからない」と相談を受けることがあります。その際は、子どもの年齢や性格、今の時点で伝えていることなどを聞き取り、その子の理解に合わせた資料を親御さんと相談しながら作成し、お渡ししています。

親がターミナル(終末)期を迎えたお子さんには、その子の年齢や発達に合わせた言葉でわかりやすく伝え、最後の思い出作りを提案することもあります。
看取りの場も一緒にいて、病院を出るまで付き添うようにしています。

国内でCLSの資格を取れるようになれば、小児医療の質の向上につながるはず

「きょうだいLove♡通信」は小児科病棟入り口と小児科外来に置いてあり、だれでも自由に持ち帰ることができます。

――アメリカでは、CLSは「質の高い小児医療のためには欠かせない要素」と言われているそうですが、日本ではまだ限られた病院にしか配置されていません。

石塚 2024年1月現在、日本国内のCLSは47人。35の施設で勤務しています。微増を続けていますが、まだまだ全然たりません。CLSという職種があることを、一般の方にはあまり知られていないのではないかと思います。

――日本には、CLSの専門課程がある教育機関がないと聞きました。

石塚 そうなんです。CLSの認定試験の受験資格を得るには、北米の大学・大学院で学ぶ必要があり、現地での600時間のインターシップも必須。私は日本の大学を卒業後、アメリカの大学院で勉強し、インターシップを経験しました。
今後、日本でもアメリカと同等の教育体制が整い、国内で資格が取得できるようになったらいいなと思っています。それによって小児医療の質の向上も期待できるでしょう。CLSとして働く身としても、子育て中の母親としても、そういう日が早く来てくれることを願っています。

お話・監修・写真提供/石塚愛さん 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

入院・通院する子どもたちを支援するだけでなく、きょうだい児や、病気を患う親を持つ子どもにも寄り添うCLS。子どもたちの笑顔のために、日本の病院でも増えていくことを期待したいです。

石塚愛さん(いしづかあい)

PROFILE
2015年青山学院大学教育人間科学部心理学科卒業。2017年アメリカ・カリフォルニア州のMills College MA in Child Life in Hospitals卒業、修士号取得。同年Certified Child Life Specialistの資格取得。2018年1月から横浜市立大学附属病院にて、チャイルド・ライフ・スペシャリストとして勤務。夫、1歳4カ月の息子との3人暮らし。神奈川県二宮町出身、横浜市在住。

●記事の内容は2024年12月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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