変化が激しい時代。ママ・パパの「普通」は、これからの子育てに通用するのか!?【小児脳科学者】
目まぐるしく変化する時代の中で、子育てをするママ・パパたち。小児脳科学者の成田奈緒子先生は、ママ・パパたちの価値観や培ってきたこれまでの経験が、子どもたちには通用しなくなってきていると言います。子どもが幸せになるための親のかかわり方について、成田先生に話を聞きました。全4回インタビューの2回目です。
4年制大学を4年間で卒業して、正社員として3年以上勤務するのは16.3%
成田先生は、長年にわたりママ・パパたちから子育て相談を受けています。しかし、ママ・パパたちと話していると、時代が止まっていると感じることがあると言います。
――時代が止まっているとは、どういうことでしょうか。
成田先生(以下敬称略) 私が代表を務める子育て支援事業「子育て科学アクシス」(以下、アクシス)に相談にくるママ・パパたちは、比較的年収が高い人が多いです。会社員の場合は、有名大学を卒業して、有名企業に正社員で入社して、順風満帆な人生を歩んでいるような人が多いです。
そうしたママ・パパはよく「うちの子は普通でいい」と言うんです。しかし、その普通の中身について聞くと、「いい大学に入って卒業して、有名企業に就職すること」なんです。とくに教育熱心なママ・パパたちは、それが普通だと思う傾向が強いです。
しかしある調査(※)で、2009年3月に卒業した全国の中学生1000人を対象に、その人たちがどのような進路をたどったか調べたところ、高校→4年制大学を4年で卒業→正社員として就職→3年以上勤務という、一見普通に見える道をたどったのはわずか16.3%でした。「有名企業に就職」という振るいにかけたら、さらに割合は低くなります。
ママ・パパたちが「普通」と言うのは、自分たちの経験が基準になっているようですが、時代的にそれは「普通」でなくなっていることに気づいてほしいです。
※「現場で使える教育社会学」(中村高康・松岡亮二/編集、ミネルヴァ書房)の第10章「進路が実質的に意味する生徒の未来」(日下田岳史)より
ママ・パパの普通を押しつけると、子どもはだんだん無気力に
成田先生は、ママ・パパの普通を子どもに押しつけると、子どもは心身ともに疲弊し、大きな家庭問題につながることがあると言います。
――ママ・パパの普通を押しつけると、子どもにはどのような影響が出やすくなりますか。
成田 ママ・パパの普通を押しつけられると子どもは、だんだん無気力になっていきます。子ども自ら「〇〇したい!」と思わなくなってしまうんです。
実際にあった話をもとにした架空の事例を紹介します。
ママ・パパが教育熱心で子どもを5歳から塾に通わせて、私立小学校に入学させました。そのまま附属の中学校に行くこともできる学校でしたが、ママ・パパは、より上のレベルをめざして中学受験を経験させました。その子はママ・パパが望んだ中学校に入学することができましたが、しだいに子どもは無気力になって不登校になりました。
その後、親が尽力して通信制の高校に入学しましたが、その子は学校に行かず部屋にひきこもるようになりました。そして、ママ・パパに「お前たちに人生をもてあそばれた!」とどなるように・・・。このような状態になってアクシスに駆け込む、こういう家庭は少なくありません。
――ママ・パパの価値観を押しつけないようにするには、どうしたらいいのでしょうか。
成田 子どもへの過干渉をやめることです。たとえばテストの点数を気にしない・見ないようにするのも一案です。
20点だと、ママ・パパは「うちの子、大丈夫?」と心配したり、子どもをしかります。100点だと「すごいね~」と子どもをほめます。
でも子どもからしたら、20点でも100点でも、ママ・パパに点数だけで評価され続けるのはつらいです。20点の子は、ママ・パパから心配されすぎるのがつらいですし、100点の子は「次も100点をとらないと!」と過度のプレッシャーを感じて、しだいにつぶれてしまうこともあります。
私は、子どもに過干渉なママ・パパには自分自身の時間を意識して作ることをすすめています。専業主婦で、子ども中心で生活しているママには「何か仕事をしたら?」とすすめることもあります。
――テストの点数は見なくても、勉強を見てあげるのはいいのでしょうか。
成田 ママ・パパが厳しく勉強を教えるのはすすめません。
就学前ならば遊びの中で、子どもと言葉を出し合うゲームをしてもいいでしょう。たとえば「いす」「いし」など、「い」がつく言葉を、子どもがスラスラ言えるならば、1分間に12個出し合うことを目標にしてみましょう。クリアできたら12個から15個に増やすなど目標をアップしたり、「ざ」「ぎ」「ね」など、難易度を上げます。
また、計算などはタイマーを5分セットして「この問題、5分で解けるかな?」とチャレンジさせて、できたときは「3分でできたね。すごいね!」とほめて、やる気をはぐくむことが大切です。
過干渉をやめて、幼児期から自立を促す子育てを
今の時代を生きる子どもたちに大切なのは自立。自立とは、自分1人の力で生きることではなく、「お互いさま」と周囲の人と支え合い、助け合って生きていけることです。
――これからの時代を生き抜くために、子どもたちにはどのようなことを教えていくといいのでしょうか。
成田 子どもには、幼いうちから「自立」について教えてほしいと思います。自立とは、自分1人の力で生きることではありません。
人は自分1人では生きていけません。困ったときはまわりの人に助けてもらい、そして自分もだれかを助ける。人は、助け合わないと生きていけないということを教えてください。
そして人に助けてもらったときは「ありがとう」「ごめんね! 助かった」と言える子に育てることが大切です。
――自立を促すには、どのようにするといいのでしょうか。
成田 ママ・パパが過干渉だと、自立は促せません。
たとえば公園でわが子が、友だちの輪に入れないとき、ママ・パパが「入れてって言ってみよう」と誘ったり、「うちの子も入れてあげて~」と、子どもに代わって言うのは控えてください。黙って見守っていてほしいと思います。
もし、子どもが自分から「入れて」って言えたら「よく言えたね! 前は言えなかったもんね。成長したね~」ってほめましょう。お友だちのほうから「一緒に遊ぼう」と声をかけてきたら「〇〇ちゃん、優しいね」と伝えましょう。
子どもは、お友だちや先生などに助けてもらう経験をすることで、自分も人を助けるようになっていきます。
しかしママ・パパが過干渉だと、周囲から「ママ・パパがいるから大丈夫!」と思われて、助けてもらう機会を奪ってしまいますし、子ども自身も周囲に助けを求めたり、助けてあげたりする機会を失ってしまいます。
――見守って待つということが必要なのでしょうか。
成田 子育ては、心配を信頼へと変えて行く旅です。幼児期は心配9:信頼1の割合かもしれませんが、それを18歳になったときに心配0:信頼10に変えないといけません。
でも、ママ・パパが過干渉だと、いつまでたっても心配が信頼に変わっていきません。子どもは失敗を繰り返して、成長していきます。心配を信頼に変えるには、失敗がつきものです。過干渉になって失敗させないようにすると、子どもは成長できません。
ママ・パパには、18歳になったときに心配0:信頼10をめざして、子育てをしてほしいと思います。
お話・監修/成田奈緒子先生 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部
成田先生は「ひと昔前は、子どもへの過干渉は、ママの問題のことが多かったのですが、今はママ・パパの問題になっています」と言います。最も避けたいのは、ママ・パパともに、子どもに過干渉になることです。夫婦で、子どもとの関係を改めて見つめ直してみましょう。
インタビューの3回目は、子どもの習い事と子どもの夢について紹介します。
●記事の内容は2024年11月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『パパもママも知っておきたい 子どもが幸せになる「8つの極意」』
子どもの脳の育て方、子育ての方針の決め方、コミュニケーションの取り方など、夫婦で共有しておきたい8つの極意を紹介。パパにもママにも読んでほしい、子も親も幸せになる新時代の子育て論。成田奈緒子・上岡勇二著/1650円(産業編集センター)