小児脳科学者が懸念する「子育ては夫婦で協力して」から起きている新たな問題。子育ての軸を3つもつことのすすめ
パパ育休の広がりや働き方の多様な変化で在宅ワークが増えるなど、パパが家にいて子育てにかかわるケースが増えているようです。小児脳科学者の成田奈緒子先生は「”子育ては夫婦が協力して行うもの”という考え方が広まるのはとてもいいことですが、新たな子育ての問題が起きている」と言います。
その1つが子育てにおけるママ・パパの溝です。成田先生に、夫婦で一緒に子育てをしていくために大切なことを聞きました。全4回インタビューの1回目です。
パパが積極的に子育てにかかわる家庭が多くなり、新たな子育ての問題も
成田先生は、子育て支援事業「子育て科学アクシス」の代表を務め、多くのママ・パパたちの相談を受けています。しかし、ママ・パパからの相談内容が変わってきたと言います。
――「子育て科学アクシス」での、最近の相談内容の傾向を教えてください。
成田先生(以下敬称略) 以前は、ママから子育ての悩みを相談されることが中心でした。幼児の相談内容では「幼稚園で集団活動ができない」「お友だち関係がうまくいかない」「朝、起きられない」などさまざまです。
しかし最近は、ママから「パパの子育てに不満がある」と相談されたり、パパから子育て相談を受けたりするケースが増えてきました。
――たとえば、どのような相談でしょうか。
成田 ママから受けた相談には、「パパが教育熱心すぎて心配になる」「パパが食事のしつけに厳しくて、子どもが食事を食べなくなった」というものもありました。
食事のしつけに厳しいパパは、家族で食事中、5歳の子どもが大皿に盛られていた最後のからあげを食べたところパパが「“最後の1つ食べてもいい?”と聞きなさい。空気を読みなさい!」としかったそうです。
「食事のたびにはしや茶腕の持ち方なども注意してばかりで、食事の時間がゆううつです。子どもも食事をあまり食べなくなりました」とママが悩んでいました。
またその逆もあり、ママの子育てのしかたに不安を抱いているパパもいます。
――子育てのカタチが変わってきたのでしょうか。
成田 コロナ禍以降、パパが在宅ワークで家にいることが増えたり、下の子が生まれて、パパが育休を取得して上の子の面倒を見るなど、パパが積極的に子育てにかかわる家庭が多くなってきました。それはとてもいいことですが、ボタンをかけ違うと、新たな子育ての問題・夫婦の問題が生じてしまうのだと思います。
「寝る時刻と起きる時刻を守ること」「死なない、死なせない」の子育ての軸を持つ
子育てのボタンをかけ違わないためには、夫婦で共通の子育ての軸を持つことがポイントだと成田先生は話します。
――夫婦で一緒に、子育てをしていくのは難しいことなのでしょうか。
成田 「これだけは厳守する!」という子育ての軸を夫婦で共有すれば難しくありません。そのうちの2つの軸はすべての家庭で共通です。
【軸1 寝る時刻と起きる時刻を守ること】
子どもの年齢に合わせて、寝る時刻と起きる時刻を決めて、それを日々厳守しましょう。乳幼児時期は、十分な睡眠が脳の土台(からだの脳)を作ります。睡眠不足で脳の土台がしっかり築けていないと、その後の脳の成長に影響します。
1日の睡眠時間の目安は、次のとおりです。
●1歳6カ月 13時間30分
●3歳 12時間
●5歳 11時間
たとえば5歳ならば、1日に11時間の睡眠時間が必要です。朝7時に起きるなら、夜8時には寝なくてはいけません。「今日は、パパが帰ってくるまで起きていてもいいよ」などと、大人の都合で寝る時刻をズラしてはいけません。勉強が理由でも同じです。
軸1が定着すると、しだいに子どものほうから「夜8時に寝るから、ゲームは7時半で終わらせよう」と計画を立てるようにもなります。
【軸2 死なない、死なせない】
2つ目の軸は、大けがにつながったり、命にかかわる危険なことは徹底的に教えることです。交通ルールを守らない、ちっ息・転落・転倒などの危険があるときは、厳しく注意しましょう。お友だちを危険な目にあわせたときも同様です。
たとえば子どもが道路に飛び出したら、「危ない!」と厳しくしかりましょう。床にはさみが落ちていたら「片づけなさい! 踏んだらけがするよ」と注意をしてください。
ただし軸に反すること以外は、しからないようにしてください。
3つ目の軸は、勉強以外のものを。迷ったらお手伝いを軸にして
両親がぶれずに共に子育てに向き合っていくためには、子育ての軸が3つあるといいそうです。軸を持っておくと、何か目につくたびにしかるということが減ります。前述した2つの軸のほかに、家庭で話し合ってもう1つの軸を決めましょう。
――3つ目の軸作りのポイントを教えてください。
成田 3つ目の軸は、勉強のこと以外でしたら、ママ・パパで話し合って決めていいです。
たとえばわが家では、3つ目の軸は「弱いものが優先」というものでした。私が病院の小児科で働いていたときは、病気の子どもたちを診ていたので、帰りが遅くなっても、娘は病気の子どもたちが優先ということを理解していました。
また犬も飼っていたのですが、娘は自分よりも犬は弱い存在とわかっているので、帰宅後、犬にエサをあげてから、夕食のしたくをすることなども、当然のこととして受け入れていました。
お手伝いや子どもに役割を持たせることを3つ目の軸にするのもおすすめです。ママ・パパから「ありがとう」「助かるわ」とお礼を言われることで、子どもは家族の一員として必要とされている実感がわきます。
――子育ての軸を作らないと、どのようなことが起きますか。
成田 目についたことを注意して、しかってばかりの子育てになりやすいです。軸に反する行動をしたときだけ注意をしたり、しかったりするようにすると、1日中ガミガミ言う必要はなくなるはずです。
先ほど話したからあげのことも、軸を作ればしかることではありません。そもそも5歳の子に「“最後の1つ食べてもいい?”と聞きなさい。空気を読みなさい!」としかって、子どもは理解できると思いますか。
ママ・パパが過干渉で、しかってばかりいれば親の顔色をうかがって、空気を読むようになるかもしれませんが、それは健やかな成長ではありません。
パパ・ママが笑いながら「からあげ最後の1つ食べたかったな~」と言って、子どもの気づきをうながすくらいでいいのです。厳しくしかることではありません。
お話・監修/成田奈緒子先生 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部
成田先生は、過干渉で子どもをしかってばかりいるのは、子どもの育ちに悪影響を与えると言います。紹介した「軸1 寝る時刻と起きる時刻を守ること」「軸2 死なない、死なせない」を徹底するだけでも、本当は十分だそうです。
インタビューの2回目は、時代とともに変わる「普通」という考え方について紹介します。
●記事の内容は2024年11月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『パパもママも知っておきたい 子どもが幸せになる「8つの極意」』
子どもの脳の育て方、子育ての方針の決め方、コミュニケーションの取り方など、夫婦で共有しておきたい8つの極意を紹介。パパにもママにも読んでほしい、子も親も幸せになる新時代の子育て論。成田奈緒子・上岡勇二著/1650円(産業編集センター)