外出先で「パパはバレーボール選手で~す!」と紹介する長女がかわいすぎる【プロ男子バレー・高橋健太郎】
バレーボール男子日本代表チームのミドルブロッカーとして活躍している高橋健太郎選手。2025年秋からは、プロ選手としてSV.LEAGUEのジェイテクトSTINGS愛知に入団し、妻や娘たち家族と離れて暮らしています。いつも応援してくれる妻への感謝や、4歳と2歳の娘たちの存在でアスリートとして成長できたことなどについて話してくれました。
全2回のインタビューの後編です。
離れて暮らす家族の形
――現在愛知県のチームに所属、家族は神奈川県で生活をされているとか。単身で暮らしているのでしょうか。
高橋 はい。結婚後からしばらくは静岡に住んでいたんですが、僕が愛知のチームに入団することになり、妻は結婚前に務めていた職場に戻ることになって、今は妻と娘たちは神奈川県、僕は単身で愛知県に暮らしています。
だから今はすべての子育てを妻が担ってくれている状況です。妻は毎朝出勤前に子ども2人を自転車に乗せて保育園に送り、出勤して、仕事が終われば買い物をして帰宅、保育園のお迎え、そして夕食づくり、寝かしつけまですべて1人でやってくれています。このスタイルは、妻と徹底的に話し合って決めましたが、本当に妻には感謝しかありません。
――2024年、プロ選手への転向を考えたときにも妻の伊織さんが背中を押してくれたそうです。
高橋 背中を押された、というか蹴飛ばされたぐらいの感じです(笑)。父親として、大学卒業後に入団した東レアローズでプレーすることは、大企業の社員としての安定という大きなメリットがありました。でもその一方で、プロとしてチャレンジしてみたい、という気持ちもずっと持ち続けていました。
僕たち夫婦は週に1回、子どもたちが寝たあとに晩酌をするんですが、そこで「プロになって挑戦してみたいけど、子どもたちのことを考えると生活が不安定になることが心配」という話をよくしていたんです。2年くらいずっと迷い続けていた僕を見かねて、あるとき妻が「安定の部分は私が担うから、バレーボールに集中してプロでやってみなさい」と言ってくれました。妻のその言葉で勇気が持てました。
妻のキャリアも応援したい
――大好きな家族と離れて暮らすのは寂しいのでは?
高橋 自分の夢を追いキャリアを形成するために単身でやると決めたけれど、家族で一緒にいたいしすごく寂しいです。
一方で、妻も働く上での自分の夢があり、それに向かって頑張る姿はとてもすてきですし、僕とは違う彼女のキャリアを応援したい気持ちもあります。妻自身、頑張って働いている母親の姿を子どもたちに見せたいという思いもあって、今は家族が離れて暮らす形になっています。
――毎日ビデオ通話しているそうですね。
高橋 子どもたちの夕食の時間にビデオ通話しています。妻が食卓の僕の席にスマホを置いて、家族で一緒に食卓を囲んでいる感覚を作ってくれています。でも、最近娘たちはすぐに「パパ通話切っていい?」「パパ、バイバーイ」って切っちゃうんですよ! ボタンを押すのが楽しいのか、よくわからないんですけど(笑)
――月に何回くらい家族に会っていますか?
高橋 月に2~3回です。オフの日はできるだけ会いに行きたいんですが、遠征先が遠方だと行けないこともあって。普段は新幹線で帰りますが、時間がなくてもどうしても会いたいときは夜に車で向かいます。
毎年クリスマスシーズンには家族でディズニーランドに行くのが恒例行事で、先日も行ってきました。その前日、大阪での試合で帰宅が遅くなって新幹線の最終便がなくなってしまったので、22時くらいから車を走らせました。電気自動車を充電しながら6時間くらいかけて明け方近くに自宅に到着し、仮眠を取って出発。その日は娘たちと夜までディズニーランドで遊びました。なかなかハードでしたね。
――外出先で、ファンの人に声をかけられませんか?
高橋 僕の休みは平日で、妻は出勤なので、僕が1人で娘2人を連れて出かけることが多いです。そういうときは写真をお願いされても「ごめんなさい」とお断りしています。2歳の二女がやんちゃ盛りで、ちょっとでも目を離すと1人でどんどん走ってどこかに行っちゃうんですよ。
だけど、長女は「あの人パパのこと気づいてるよ」「写真撮ってあげなよ」とか言うんです。僕のことをじっと見てる人を見つけると「パパはバレーボール選手です~!」って紹介したり(笑)。本当にかわいいですね。
子育ての経験がチームスポーツにいかされる?
――子育てを経験して、自身の変化を感じることはありますか?
高橋 周囲からは、子どもが生まれてから「人間性がガラッと変わった」「マイルドになった」とよく言われます。以前はチームメイトやコーチから、「健太郎は子どもだな」と言われていたんです。ちょっとしたことで腹を立てるし、プレー中に熱くなってけんかになったこともありました。自分のプレーのよしあししか考えていなかったんですよね。
でも子育てを経験して、人のことを考えられるようになりました。子育て中って、言葉が話せない子どもの表情から感情を想像しますよね。今怒ってるのかな、眠いのかな、どう思ってるのかな、とか。
その経験から、プレーしているときにもチームの選手がどんなことを考えているのかなとか、ストレスを抱えてるのかなとか想像するようになりました。試合中、この選手にストレスがかかってるから、分散させるように僕がもう少し頑張ろう、と考えられるようになったことは、チームプレーにもいい影響があると思います。
――子育ての経験がプレーにも影響するんですね。
高橋 僕自身のバレーボールのキャリアにも影響しています。子どもが生まれてからはつらい練習にも苦手な練習にも真摯(しんし)に向き合うようになって、22年から3年連続でVリーグの個人賞であるブロック賞を受賞でき、目に見える形で成長できたと思います。オリンピックに出場することもそうですが、これまで目標としてきたことが、子どもが生まれてからすべてかなえられました。
男性アスリートと育休
――ほかのパパアスリートにも、育児にかかわることをすすめたいですか?
高橋 そうですね、周囲の男性には「絶対に出産に立ち会ったほうがいい」と話しています。壮絶な出産の経験を目の当たりにすると、命の尊さやすばらしさを実感して、子どもへの愛着がかなり変わると思うんです。妻が命をかけて産んでくれたことにも感謝できるし、子どものことをより大切にしたいと思うし、父親としての覚悟や責任感も生まれると思います。
ただ、奥さんが立ち会ってほしくない場合ももちろんありますよね。そういう場合は、子どもが生まれてから育児にかかわることを大事にしてほしいと思います。
――インタビュー前編では「育児にかかわれる時間は貴重だ」と話していました。アスリートは自分のパフォーマンスのための調整も大変だと思いますが、今後は男性アスリートも育休を取ったほうがいいと考えますか?
高橋 そういった面では、今の日本のアスリートたちの環境は、世界から見ると少し遅れているかもしれないと感じています。休んではいけないという固定概念があったり、育休を取ったらチームからはずされるかもしれない、このポジションを離れたら、代わりのだれかが入ってもう戻れないんじゃないかという不安もあると思います。
先日、ニュージーランドのラグビーのオールブラックスの選手が妻の出産立ち会いで大会をキャンセルして帰国していました。海外のバレーボールの選手でも妻の出産のために帰国する人もいます。海外のアスリートはそういうことが当たり前になりつつあると思います。
日本の選手ではあまり聞いたことがありませんでしたが、僕の場合は、1人目の出産には立ち会いましたし、2人目が生まれたあとは代表チームでの世界選手権出場を辞退して育児の時間に充てました。僕にとっては、自分のキャリアも大事だけれど、それ以上に子育てにかかわる時間のほうが大事だと判断したからです。
――これからどんな家族になっていきたいですか?
高橋 何より妻をいちばんに大切にしたいです。先ほど話したとおり、子育ての大変なことはすべて妻がやってくれています。今後、妻のことを第一に考えながら、どんな生活にするか模索していきたいです。
僕たち家族は今、離れて生活をしていてなかなか会えないからこそ、子どもたちに寂しい思いをさせたくないという思いが強いです。時間は短くても、どれだけ愛情を持って濃密な時間を過ごせるかだと思っているので、時間を見つけて家に帰って、子どもたちと過ごす時間を大切にしています。
娘がロスに行きたいなら、オリンピックに再チャレンジも
――オリンピックの準々決勝終了後、代表引退などと報道されていましたが?
高橋 準々決勝敗退したすぐ後に、プレスの囲み取材で、今後の展望を聞かれました。そのときは感極まっていて、口がすべって「代表に来るのはもう最後なので」と言ってしまったんです。でもその発言をした直後に、ロッカールームで「もう1回オリンピックに出たい!」と泣いてたんですよ(笑)
帰りのバスに乗ったら「高橋健太郎、代表引退を明言」ってネットニュースになってしまって、「やばい」って(笑)。みんなに「メディアに日本代表を辞めさせられる男」って散々いじられました。「『前言撤回します』って来年も来ればいいじゃん」と言ってくれた選手もいました。笑われながらですが・・・。
――2028年のロサンゼルスオリンピックもめざしますか?
高橋 まだ決めていません。もう1度めざすとなると、やはりまた4年間の厳しい期間が始まることになります。日本代表チームに参加すると、SV.LEAGUEのシーズンオフの期間も代表練習になり、家族の時間が作れないことになりますから・・・、妻と相談して決めたいと思っています。
でも、もし娘たちがロスに行きたいと言うなら、もう一度オリンピック出場をめざします!
お話・写真提供/高橋健太郎選手 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
高橋選手は「子育てを通して自分が成長させてもらえることの方が多い」と話してくれました。高橋選手の言葉からは、妻・伊織さんと2人の娘さんへの深い愛情を感じます。
高橋健太郎選手(たかはしけんたろう)
PROFILE
1995年生まれ、山形県出身。身長201cm、ポジションはミドルブロッカー。中学で野球に打ち込んだもののひじの故障で断念。米沢中央高校でバレーボールの道へ。筑波大学を卒業後、東レアローズを経て2024年ジェイテクトSTINGS愛知に入団。2014年から日本代表チームに参加。2022年から3年連続Vリーグブロック賞を受賞。
※高橋健太郎さんの「高」は、正しくは「はしごだか」です。
●記事の内容は2024年12月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。