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9歳で脳幹グリオーマを発症した息子。効果的な治療法がないと医師に告げられ…。必死に治す方法を探す父の思い【小児がん・体験談】

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北海道大学での臨床試験に参加したときの写真。学校の宿題をしています。

大門海智(かいち)くん(11歳)は9歳のとき、脳幹に腫瘍ができる脳幹グリオーマを発症。効果的な治療法がないと医師から告げられた父親の恭平さんは、治療法を探し出すために、多方面の医師に意見を求めるとともに、寝る間も惜しんで、国内外の論文をしらみつぶしに調べました。
全3回のインタビューの2回目は、効果が期待できそうな薬にたどり着き、検査のための手術を受けたことや、臨床試験に参加したときのことなどについて聞きました。

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「6時間」と言われた手術がいつまでも終わらない・・・恐怖と不安の待機時間

腫瘍の一部を切り取る生検の手術のあと。傷の大きさから、とても大変な手術だったことがうかがえます。

海智くんに効く薬を探し出すために、恭平さんは仕事以外の時間はすべて脳幹グリオーマについて調べることに当てるくらい、必死になって論文などを調べました。そして、分子標的薬の「ダブラフェニブ」にたどり着きました。

「海智と同じ脳幹グリオーマで、ダブラフェニブがターゲットとする遺伝子の『BRAF』に変異がある子どもに投与したところ、すごく効果があったと報告されている論文を見つけました。海智にも効くに違いない!!と一筋の光が見えた思いがしました」(恭平さん)

しかし、この薬が海智くんに効くかどうかを調べるには、手術で海智くんの腫瘍の一部を切り取って調べる「生検」を行わなければいけません。

「脳幹は生命維持に重要な機能をつかさどっている器官。そこにメスを入れるわけですから、大きな障害が残ったり、寝たきりになってしまったりするリスクがありました。
妻と何度も何度も話し合い、2人とも眠れなくなるほど悩みました。

当時、海智の容態は急激には悪化していませんでしたが、右手のまひが強くなってペットボトルのふたを開けることができなくなっていたし、つばがうまく飲み込めなくて、はいてしまうことも増えていました。徐々にそして確実に進行していたんです。少しの余裕もないと感じていました。

論文などから、生検によって大きな障害が残る割合を調べ、さらに医師の説明などを総合的に考え、生検をすることを夫婦で決めました」(恭平さん)

手術中、恭平さんと妻の真矢さんは、病院の中にあるカフェで待っていました。

「事前の説明では手術は6時間程度と言われていたので、6時間を過ぎたころ、そろそろ終わるだろうと待ち構えていました。ところが、だれも呼びに来てくれません。何の説明もないまま7時間、8時間・・・と時間だけが過ぎていきます。
手術中にアクシデントがあったのではないか、海智に何かあったのではないか、不安と恐怖で押しつぶされそうでした。あんな怖い思いをしたのは生まれて初めてでした」(恭平さん)

ダブラフェニブは子どものがん治療は未承認。自己負担だと年間2000万円が必要

臨床試験の途中で通院に切り替え、母子3人で北海道のマンションに滞在していたころの写真。

手術は9時間にも及びましたが、海智くんは無事に乗り越え、恭平さん夫婦の元に帰ってきました。

「検査の結果、海智のがん細胞にはダブラフェニブが有効だと確認できました。これで薬が使える!海智の病気を治すことができる!!リスクを覚悟して生検を受けたかいがあった・・・と、夫婦で喜び合いました」(恭平さん)

ところが、衝撃的な事実が明らかになります。

「日本では、ダブラフェニブを子どもの腫瘍に使うことは、保険適用の対象になっていなかったのです。大人のがんへの使用は承認されていて、国内に薬があるのに、子どもには使えないのです。
しかも当時、国内での子どもの臨床試験は終わっていて、海智には臨床試験に参加するチャンスもない・・・。

いえ、正確に言えば、薬を使うことは可能です。保険適用となる医療としてではく、自費診療であれば使えるんです。それには、年間約2000万円を支払わなければいけません。この薬は基本的に永久に服用する必要があるので、毎年2000万円を支払い続けることになります。一般的に支払える金額ではないのではないでしょうか。もちろん私には無理です。
海智が発病するまで、妻はフルタイムで働いていましたが、看病に専念するために仕事を辞めたので、それでなくても経済的な余裕はありません。

海智の病気を治してくれるかもしれない薬が目の前にあるのに、アメリカやカナダでは子どもにも承認されている薬なのに、日本では使えない。海智に飲ませてあげられないのがつらくて苦しい。
私たちが直面しているこの大きな壁が、『ドラッグラグ(※)』と呼ばれるものなんだと、このとき初めて知りました」(恭平さん)

※海外で使われている薬が、日本で承認され、使えるようになるまでに時間差があること

できていたことができなくなる中でも前向きになれるよう、家族で楽しい体験を

海智くんは家族で一緒にいることが大好きなので、旅行にもたくさん行きました。

薬がすぐには使えないとわかったのは、海智くんが発病してから半年が過ぎたころでした。

「主治医と相談して、分子標的薬ではない抗がん剤治療を始めることになりました。でも予想したとおり、効果は見られませんでした。効果はないのに抗がん剤の副作用で体調をくずすことが多くなり、吐き気にも苦しめられていました。しかも病気の進行は進んでいて、右手や体幹の筋力低下、バランスの低下、体力の低下など、さまざまな機能障害が見られるようになりました。私も妻も『1日でも早く薬を飲ませたい』、そのこと以外考えられませんでした」(恭平さん)

障害が進行しているのを見守るしかないつらい日々が続きましたが、恭平さん夫婦は、海智くんの気持ちが少しでも上向きになるように、フォローすることは忘れませんでした。

「今まで普通にできていたことができなくなってきていたので、『これはできる!』と海智が前向きになれることを重視しました。いろいろなゲームを一緒にやったり、旅行に行ったり、バーベキューをしたり。海智が『楽しい』と思えることを常に探していました。

当時下の子はまだ2歳で、手のかかる時期でしたが、海智が弟と一緒にいたがるので、できる限り実家に預けたりせず、家族4人で一緒にいるようにしました」(恭平さん)

北海道大学での臨床試験に参加。腫瘍が小さくなり、状態がよくなってきている!!

薬の副作用で、強い痛みのある発疹が出ました。海智くんはつらそうにしていたそうです。

恭平さんはダブラフェニブを使える方法を探し続けます。そんなある日、主治医がとてもうれしい知らせをもたらします。
国内ではもうしないと思っていたのですが、北海道大学が「ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法」の小児向け臨床試験を始めることになり、海智くんが参加できるというのです。2023年6月、海智くんが10歳のときのことです。

「すぐに北海道に向かい、臨床試験に参加しました。息子本人も、薬で回復するならどんなことでもやる!という気持ちだったようです。

薬は1日2回の服用で、食前1時間、食後2時間は避ける必要があります。液体の薬で毎回手袋をしてシリンジで測りながら準備をし、その手袋はだれも触れないように捨てる、という管理が必要で大変だったようです。海智が言うには薬は苦いそうです。

飲み始めたころ、3日に1回は強い痛みを伴う発疹と39度の熱が出て、つらそうでした。その影響で、メンタル的にも不安定になっていたように感じました。でも副作用は徐々に軽くなっていき、最近はかなり楽になっているようです。
聞いたところでは、副作用には個人差がかなりあり、最初のうちはなんともなかったのに4カ月過ぎたころから副作用に悩まされるようになったり、吐き気がいつまでも収まらなかったりすることなどもあるそうです」(恭平さん)

当時、真矢さんは海智くんに付き添うために北海道にマンションを借り、恭平さんは二男と2人暮らしをしていました。

「2週間を過ぎたころ、二男が母親と離れた生活に耐えられなくなってしまい、北海道に行くことに。弟が来るなら一緒にいたいと海智が希望したこともあり、マンションから北海道大学への通院に切り替えることになりました。

調子のいいときは、オンラインで学校の授業も受けていました。見知らぬ土地での治療だったので、地元の学校の先生や同級生と話をできるのは、海智にとって大きな励みになったようです。自宅に帰ってみんなで過ごすことを目標に、頑張っていました。また、元気になったら大好きなVaundyのライブに行こうと約束。海智はその日を心待ちにしていました」(恭平さん)

薬の服用を始めて1カ月たったころ、腫瘍が小さくなっていると、医師から報告がありました。

「右手の感覚や協調性がよくなっていること、握力が強くなってきていること、体力がついてきていることなどは、私が見てもわかりました。臨床試験に参加できたことはこの上ない幸運でした」(恭平さん)

保険適用となり地元に戻って治療。自転車に乗れるほど回復したけれど・・・

2024年3月、学校の帰りに歩道橋の階段で転倒して骨折。このころはまだバランス感覚が不安定でした。

北海道での滞在費が増えていくことは、恭平さん夫婦の新たな悩みとなりました。

「北海道で2カ月間治療を受けました。私も毎週週末には海智たちに会いに行っていたので、2カ月の間の入院費や滞在費、交通費などの総額は300万円にも上りました。薬の効果が現れてくれたのは、何にも代えがたい喜びです。でも、現実的な問題として、経済的な負担が家計を圧迫していました」(恭平さん)

そんなとき、再びよい知らせが飛び込んできました。2023年11月、ついに小児に対してダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法の保険適用が承認されたのです。

「地元の病院で、保険適用で薬を処方してもらえるようになったんです。待ち望んでいたことでした。交通費や滞在費などの負担が軽減。経済的な不安からは一気に解放されました。

2024年6月ごろには、海智は友だちと一緒に自転車に乗ったり、走ったりすることを楽しめるようになっていました。薬の効果が確実に現れています。
でも、『これでもう安心』ではないんです。今飲んでいる薬は、いずれ効かなくなる可能性が高く、次の薬を探しておく必要があります。そのための行動を始めています」(恭平さん)

お話・写真提供/大門恭平さん 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>第3回

北海道大学での臨床試験に参加することで、保険適用前に薬を使えた海智くん。その後の保険適用で、今は住んでいる地域の病院で薬を処方してもらえるようになりました。でも、ほっとしたのものつかの間、今の薬が効かなくなる日が来ることを考え、恭平さんは次の薬を探し始めています。
インタビューの3回目は新たな薬のこと、ドラッグラグやドラックロスへの取り組みなどについて聞きます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年2月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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