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娘は日本に10人しかいないと言われた難病。「同じ病気の子どもが生まれた家族が迷子にならないために」家族会を立ち上げた母の思い【体験談】

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ロスムンドトムソン

静岡県在住の山口有子さんは、長女(14歳)、長男(8歳)、パパの4人家族。長女のひーちゃんは12歳のときにロスムンド・トムソン症候群と診断されました。

ロスムンド・トムソン症候群は、日光を浴びることで悪化する皮膚症状、顔面、手足などの皮膚委萎縮、母指欠損や上腕骨の奇形、小柄な体形などを特徴とする遺伝性の難病です。

山口さんはそんなロスムンド・トムソン症候群の情報を共有・発信するために、患者とその家族のための「ロスムンド・トムソン症候群 家族会」を立ち上げました。今回はそのきっかけと活動への思い、ひーちゃんの現在の様子についてお話を聞きました。全2回のインタビューの後編です。

▼<関連記事>前編を読む

娘の行動を制限してしまう日々…。この不安な気持ちを解消したい!

ロスムンド・トムソン症候群と診断された12歳のころのひーちゃん
ロスムンド・トムソン症候群と診断された12歳のころのひーちゃん

現在、「ロスムンド・トムソン症候群 家族会」の代表を務める山口さん。家族同士の交流や情報交換を目的としたコミュニティづくりをはじめ、多くの人にロスムンド・トムソン症候群の存在を知ってもらおうと取り組んでいます。

「娘がロスムンド・トムソン症候群と診断されるまでの11年間、すべてが手探りで不安なまま子育てをしてきましたが、12歳で診断が出ると、今度はこの11年間に適切なケアをできなかったことへの不安が押し寄せてきました。

ネットでいろいろ調べてみたけれど、出てくるのは医学的な情報ばかり。生活する上での具体的な対策やケア方法は見つからなかったんです。正解がわからない生活の中で、ささいなことにも神経質になってしまい、気持ちが病んでいきました。

『学校にどう伝えよう?紫外線フィルムはどこまで貼ればいい?大好きな外遊びも、毎年楽しみにしていた海にも連れていけないのか…』わからないことへの不安から、徐々に娘の行動を制限するように。

このままではいけないと思うと同時に、ほかの患者さんがどうやって生活しているのか気になって、患者さんを探したいという気持ちが強くなったんです」(山口さん)

娘と同じ病気の子どもが生まれたとき、その家族が迷子にならないために

初めての交流会の様子
初めての交流会の様子

「それから半年後、主治医から『研究医がZOOMでロスムンド・トムソン症候群だけにスポットを当てた市民公開講座を開く』という情報を得て、参加することに。そこで奇跡的に私たちを含め3家族とつながることができました。やはりどのご家族も、情報の少ないこの病気の子どもをどう育てていけばいいのかという不安を抱えていたんです。

『3家族でつながれただけで十分…』とも思いましたが、今後同じ病気の子どもが生まれたご家族が、私のように迷子にならないためにも、集まれる場所をつくるべきではないかと感じ、家族会の立ち上げを決心。“患者会”とせず“家族会”としたのも『患者家族のサポートをしたい』という思いからです。

家族会を立ち上げることになって、いちばん戸惑っていたのはパパでした。そのころは私も仕事を再開していて、自分の両親の介護もはじまっていたので、仕事と育児と介護のトリプル状態。私がさらに家族会の活動を始めることに対して、『本当にできるの?』という疑問を持っていたようです。とくに、私が会の運営に時間をさくことが増えたため、最初は理解しづらかったと思います。

ただ、実際に活動を続ける中で、家族会を通じて得られる情報の大切さや、同じ悩みを持つ家族とつながることの価値を知って、パパの考えにも変化が。今では、交流会や学会のブース出展の際、積極的にサポートしてくれるようになりました」(山口さん)

家族会のおかげで娘の未来に希望が持てるように。“この病気のことをもっと知ってもらいたい”

ブース出展の様子
ブース出展の様子

家族会では、患者や家族同士の情報交換を目的として定期的な交流会を開催。3カ月に1回はオンライン上で集まり、病気に関する最新の情報や、日常生活の工夫を共有しあっています。また、年に1回は対面の交流会を実施し、直接顔を合わせる機会も設けているそう。

加えて、医療関係者向けの啓発活動も行い、学会での発表やパンフレット配布などを通じて、病気の認知度向上に努めています。

「家族会を立ち上げたことで、『ひとりじゃない』と思えるようになりました。また、同じ病気の子どもを持つご家族とつながることで、『こんなときはこうすればいいんだ』と具体的な対応策が見えることも。

ほかのご家族と情報を共有することで、この病気は症状にかなり個人差があることもわかりました。娘の場合はロスムンド・トムソン症候群の症状以外にてんかんや水頭症もありますが、この病気の症状だけの患者さんもいて。皮膚や骨の症状の出方も患者さんそれぞれ違いがあります。

症状に違いはあるものの、交流を通じて育児や生活に工夫ができるようになりましたし、ケアの方法についても学ぶことができています。そしてありがたいことに、この病気の研究医でもある金子英雄先生にご尽力いただき、今年の春からロスムンド・トムソン症候群は小児慢性特定疾病の対象疾患となりました。安心して治療に臨める体制が整ったことも、娘の未来に希望を持てるようになった1つの理由になっています」(山口さん)

また、今後は家族会の中を中心とした情報交換だけではなく、新しい活動も考えているそう。

「ここ最近は、遺伝検査の進歩もあってか、入会される会員さんの診断が早くなっている印象を受けます。ただ、娘を含め10歳代以上の患者さんは診断が出るまでに7~10年かかっていたり、別の病気を発症したことがきっかけで診断がついたりするパターンも。そのため、ほかにもロスムンド・トムソン症候群の診断が出ないまま生活をされている患者さんが潜在的にいるのではないかと思っています。

というのも、学会での登壇やブース出展をして痛感したのは、この病気の認知度の低さ。発がんのリスクが高い難病だからこそ早期の診断が必要なのに、この病気を知っている先生が非常に少ないのが現状です。

そこで、今後は“稀少疾患”や“発がん性のある病気”といった大きなくくりで、ほかの病気の患者会とつながり、啓発イベントや医療講演会などを開催していけたらと考えています。より多くの医療関係者にこの病気を知ってもらい、早期の診断や適切な医療を受けられるようにすることも大きな目標です」(山口さん)

学校では生徒会長!ピアノや裁縫が大好き。そんな娘の“できることを見極める” ことを大切に

ひーちゃんが制作した刺し子の作品
ひーちゃんが制作した刺し子の作品

現在、中学2年生になったひーちゃんは特別支援学校に通っています。学校生活や最近の様子についてお話を聞きました。

「学校では、紫外線対策のために座席を廊下側にしてもらったり、日焼け止めを定期的に塗るための時間を確保していただいたりしています。この病気で気をつけることを先生と情報共有させていただいているので、娘も安心して楽しく通えています。

娘は明るく前向きで、面倒見がよい性格。6歳年下の弟が生まれた当時は『お姉さんとしてお世話したい!』という気持ちが強く、とてもかわいがっていました。

現在は中学生ですが、『だれかのために何かをしたい』という気持ちが強いところは変わっておらず、今では生徒会長を務めるほど。学校が大好きで、積極的に活動に取り組んでいます。

また指は4本ですが手先が器用なんです。学校の作業実習で裁縫の技術を学んだことをきっかけに、 刺しゅうや縫いものが大好きになりました。家でも時間があるときは熱中して作業しています。

最近では漢字を書くことに興味を持ち始めました。就学前までは文字を書くこと自体がむずかしかったのですが、OTの先生や放課後等デイサービスのスタッフさんのサポートもあり、簡単な単語を書くことができるまでに。今は将来公的な文書を自分で書けるように、住所を書く練習をしています。

そんな娘に対して私が大切にしているのは、“できることの見極めをしっかりする”こと。

たとえば、娘はピアノも好きなんですが、音符を読むことはできなくて…。でも、色の違いは理解できるので、色音符の楽譜を自作して、鍵盤にドは赤、レは黄色…と、色のシールを貼って、色音符とマッチングさせることでピアノが弾けるようになりました。

このように、『これならできるかもしれない』という可能性をつねに探しながら、本人の得意なことやできることに合わせて環境を整えたり、工夫してサポートしたりすることをこころがけています」(山口さん)

最後に、山口さんにこれから出産・育児を迎えるママ・パパに伝えたいことを聞きました。

「なにか不安に思うことがあったときは、1人で抱え込まず、まわりに頼ることが大切だと思います。私も、たくさんの方に娘の成長に関わっていただき、支えられながらここまできました。子どもに合った育て方を見つけるために、たくさんの情報を集めて、周囲の助けを借りてほしいです。

また、もし自分の子どもに病気や障害があったとき、そのことを正しく理解し、周囲に伝えることも重要。少しでも多くの人に知ってもらうことで、支援の輪が広がることを願っています」(山口さん)

お話・写真提供/山口有子さん 取材・文/安田萌、たまひよONLINE編集部

つねにひーちゃんと向き合い、好きなことから可能性を広げるお手伝いをしている山口さん。そんな山口さんの娘だからこそ、ひーちゃんも明るく前向きな性格でいられるんだと感じました。
ロスムンド・トムソン症候群をはじめ、まだ患者さんの人数も情報も少ない病気はたくさんあります。私たちが関心を持ち、病気を知ることで、今後の研究の進展につながる大切な一歩になるはずです。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

山口有子さん

PROFILE
娘は「ロスムンド・トムソン症候群」という希少な難病。2022年末にロスムンド・トムソン症候群の患者や家族のための「ロスムンド・トムソン症候群 家族会」を設立。当事者とその家族が暮らしやすい世の中をめざして、交流会の開催やSNSでの情報発信や学会への参加などの活動を行っている。

ロスムンド・トムソン症候群 家族会のHP

ロスムンド・トムソン症候群 家族会のInstagram

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年3月の情報で、現在と異なる場合があります。

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