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赤ちゃんの股関節脱臼、予防と早期発見・早期治療が大切。自治体保健師や小児整形外科医の協働で試験的な取り組みがスタート【専門家】

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●写真はイメージです 写真提供/ピクスタ

日本小児整形外科学会によると、赤ちゃんの股関節脱臼は、「赤ちゃんの脚の付け根の関節がはずれる」病気です。股関節脱臼は、早期に発見して適切に治療することが大切ですが、なかには診断が遅れてしまうことも。

股関節脱臼を含む発育性股関節形成不全の予防の研究をしている、東京大学大学院医学系研究科 地域看護学・公衆衛生看護学分野准教授 吉田京子先生に赤ちゃんの股関節脱臼の早期発見のポイントや吉岡先生のグループが赤ちゃんやママ・パパ、行政保健師、医師らと協働で取り組んでいる、新生児訪問指導等で股関節脱臼を発見する試験的な試みについて聞きました。

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股関節脱臼は、遅診断だと入院や手術も

赤ちゃんは股関節脱臼になっても、とくに痛がる様子はありません。また歩くこともできるので、ママ・パパは気づきにくいと言われています。

――赤ちゃんの股関節脱臼に、すぐに気づくことは難しいのでしょうか。

吉岡先生(以下敬称略) 赤ちゃんは股関節脱臼になっても、痛がる様子はなく歩行も可能と言われています。そのためママ・パパが気づくのは難しいかもしれません。
また股関節脱臼は、乳幼児健診等で気づかれることが多いのですが、歩き始めてから見つかるという、遅れて見つかる事例が問題になっています。
日本小児整形外科学会が2011~2013年に行った全国調査では、股関節脱臼と1歳以降に診断されたのは199件(約15%)、3歳以降は36件(約2.7%)でした(n=1295件)。

――股関節脱臼は治療が必要なのでしょうか。

吉岡 股関節脱臼は治療が必要です。早期発見して軽度の場合は、抱っこ指導やリーメンビューゲルなどの装具を装着して、通院治療を行うそうです。

診断が遅れたり重症な事例では、入院してけん引療法をしたり、ときには手術が必要になることもあります。

左右の股関節を開いて、両脚がM字になっていないなど、心配なときは受診を

赤ちゃんの股関節脱臼は、赤ちゃんが痛がらないため気づくのが難しいですが、ママ・パパが気づけることもあります。

――早期発見のためにママ・パパができることはありますか。

吉岡 赤ちゃんの脚の姿勢などをチェックしましょう。ポイントは、次の2点です。

【M字姿勢】
赤ちゃんがあお向けで寝ているとき、左右の股関節と脚がM字姿勢になっているかを確認しましょう。M字に開かない、おむつを替えるときに股が開きづらいなど、気になることがある場合には受診しましょう。

【太ももや足の付け根のしわ】
両脚の股関節を開いて、太ももや足の付け根のしわを確認して、しわの数、長さ・深さに左右差がある場合、リスク因子である女児・骨盤位(さかご)・家族歴ありのいずれか2つ以上に該当しているときや、気になる様子があるときも医師等に相談しましょう。

――気になるときは、何科を受診するといいでしょうか。

吉岡 まずはかかりつけの小児科等で相談してください。

股関節脱臼を予防・早期発見するため「超音波検査」を行う試験的な取り組みが

図は、吉岡先生のグループが3つの地方自治体で試験的に行っている、股関節脱臼を含む発育性股関節形成不全の予防、早期発見・早期治療の流れ。

吉岡先生のグループは、現在3つの地方自治体の保健師や小児整形外科医らの協力を得て、股関節脱臼を予防し、早期発見・早期治療につなげる試験的な取り組みを行っています。

――先生のグループが行っている、赤ちゃんの股関節脱臼の早期発見・予防の取り組みについて教えてください。

吉岡 現在、沖縄県と愛知県の合計3自治体に協力いただいて、乳児を対象とした股関節の超音波検査スクリーニングと、保護者に予防的な保健指導を行っています。沖縄県の自治体は2024年2月から、愛知県の自治体は2024年9月からスタートしています。

上の図は、この取り組みのしくみですが、東京大学から小型の超音波診断装置・システムを貸与し、新生児訪問指導や来所で行っている育児相談等で、保健師が超音波診断装置を用いて、赤ちゃんの股関節の状態を観察・撮像します。同時に股関節脱臼を防ぐ抱っこのしかたなども指導しています。

検査データは、協力いただいている医療機関に送り、小児整形外科医に確認してもらいます。赤ちゃんに股関節脱臼や臼蓋形成不全の疑いがあった場合は、医師から連絡を受けた保健師がママ・パパに早期受診をすすめて、治療が遅れないようにします。

この取り組みによって、とくに離島やへき地など医療資源の少ない地域における乳児の股関節脱臼の予防・早期発見の推進が期待されています。

――なぜ新生児訪問指導等で検査をするのでしょうか。3~4カ月ごろの乳児健診での検査では遅いのでしょうか。

吉岡 乳児健診では、ほぼ100%の自治体で医師が股関節の状態を手で確認しています。しかし、新生児訪問指導で看護職らが股関節の状態を観察している自治体は57%で、看護職の技術や指導力の標準化が遅れています。赤ちゃんの股関節脱臼は新生児期でも起こりますし、早く見つかれば軽い治療で済むことが多いので、予防が大切です。

また、全員にアプローチできるという公平性・医療機関で実施するよりも費用負担が少なく抑えられる点からも、地方自治体の行っている新生児訪問指導や育児相談等の母子保健事業は重要な機会です。遅診断をゼロにするために、1人でも多くの赤ちゃんの股関節脱臼を確実に予防し、早期発見・早期治療につなげたいと考えています。

スクリーニング検査の結果、約10%の股関節に正常以外の所見が見られ、早期受診をすすめた

吉岡先生のグループが行った研究では、254人の赤ちゃんに新生児訪問時に股関節の超音波検査を行いました。

――検査の結果を教えてください。

吉岡 医師の確認後、正常以外の所見が見られた24児と、撮像失敗が続いた2児の合計26児(10.2%)のママ・パパに対し、早期受診をするようにすすめました。続けて撮像が失敗する赤ちゃんは、脱臼している場合もあるからです。

――超音波検査のメリットを教えてください。

吉岡 超音波検査は、X線検査と異なり、被ばくの問題がないことが最大のメリットです。赤ちゃんの股関節脱臼の検査は、医師や看護職が触診と視診で股関節の開き等を診るのが主です。しかし両側とも脱臼している事例は、股の開きが悪くない場合もあり、見分けがつきづらいこともありますが、超音波検査なら見分けられます。また股関節の臼蓋と呼ばれるくぼみが十分に形成されていない臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)は、超音波検査でないとわかりません。


ただし超音波検査にも課題があります。赤ちゃんを横向きにして検査をするのですが、横向きの姿勢を嫌がって泣く赤ちゃんは意外と多いです。赤ちゃんが泣いて活発に足を動かしたりすると、検査が難しくなります。また、看護職の検査技術の向上も課題です。これらの課題を解決して、みんなで力を合わせて遅診断ゼロを達成したいと考えています。

とくに手の検査では見つけづらい臼蓋形成不全は、将来、変形性股関節症になり、痛みや歩きづらさを引き起こすことがあります。悪化すると人工股関節に入れ替える手術が必要になることもあります。股関節は一生ものなので、赤ちゃんのときから予防の視点を大切にしてほしいと思います。

お話・監修・画像提供/吉岡京子先生 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部

赤ちゃんの股関節脱臼は、予防と早期発見・早期治療が可能です。診断が遅れると手術が必要になったり、将来の歩行に影響を及ぼす可能性もあります。吉岡先生は「地域での股関節脱臼の遅診断ゼロ」を目指し、予防を推進しています。

吉岡京子先生(よしおかきょうこ)

PROFILE
修士(保健学)、博士(保健学)。東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 地域看護学・公衆衛生看護学分野准教授。専門分野は地域看護学・公衆衛生看護学。発育性股関節形成不全の予防・早期発見、地域ケアシステムの開発、サービスの質保障の研究に取り組む。

●記事の内容は2025年11月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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