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先天性小腸閉鎖症で、生後3日から何度もの手術をした息子。「助からないかもしれない」と背筋が凍ったことも・・・

更新

産後翌日、NICUにいる玲陽くんと両親で。

関東近県に住む上杉彩香さんは、夫と4歳の女の子、2歳の男の子を育てる母親です。第2子の玲陽(れお)くんは先天性小腸閉鎖症という病気のために、生まれてから現在までに何回もの手術を乗り越えてきました。看護師として働きながら子育てする彩香さんに、玲陽くんの妊娠中から出産後すぐの治療のことなどについて聞きました。全2回のインタビューの前編です。

エコー検査で赤ちゃんに先天性の病気が発覚

生まれてすぐから、玲陽くんの体にはさまざまなチューブやモニターがつけられました。

看護師として消化器外科、脳外科、泌尿器科などで働いてきた彩香さん。長女を授かった1年後に、第2子を妊娠します。長女と同じ産科クリニックで妊婦健診を受けていましたが、妊娠20週のころにエコー検査で赤ちゃんに異常が見つかりました。

「エコーで赤ちゃんのおなかがうまく映らなかったんです。翌週再び診察してもらうと『やはり小腸がうまく映らない。狭窄(きょうさく)している可能性がある』と、大きな総合病院を紹介されました。紹介先の胎児スクリーニング外来で診てもらった結果、小腸閉鎖症の可能性が高いとのことでした」(彩香さん)

赤ちゃんに先天性の病気があることがわかり、総合病院で出産することになった彩香さん。「小腸閉鎖症」と聞いて「不安ばかりだった」と言います。

「まさか自分の子どもが病気をもって生まれてくるなんて、思ってもいませんでした。看護師としての経験から『小腸閉鎖症』なら絶対に手術が必要になるはずとわかりました。小さな体で手術に耐えられるのか、もし助からなかったらどうしよう、などと悪いことばかりを先回りして考えてしまいました。

ネットで調べてみると治療したあとの成長についての情報はほとんど見つかりません。先生は『手術をすれば大丈夫』と言ってくれたし、私も『一緒に頑張ろう』と思いつつも、先が見えないことがとても怖かったです」(彩香さん)

赤ちゃんがおなかの中で吐いて、羊水が緑色に

生後14日、NICUで玲陽くんを抱っこする彩香さん。


2023年5月、彩香さんは胎児の状態を詳しく調べるためのMRI検査や、おなかに針を刺して羊水を採取する羊水穿刺(せんし)の検査を受けました。

「先天性小腸閉鎖症は赤ちゃんの小腸の一部が詰まったり狭くなったりするために、おなかの中で赤ちゃんが吐いてしまうことがあります。羊水穿刺で採取した羊水は胆汁の緑色をしていて、赤ちゃんが胎内で吐いていることがわかりました。

赤ちゃんが胎内で吐くと、吐いたものに含まれる消化酵素が臍帯を溶かしてしまう“臍帯潰瘍(さいたいかいよう)”を起こすリスクがあり、へその緒が溶けて大出血を起こしたり、胎盤を損傷して母子ともに助からないこともあるそうです。
また、羊水穿刺の影響で陣痛が起こる可能性があるとのことで、妊娠31週ごろから入院して張り止めの点滴を受けることになりました」(彩香さん)

張り止めの点滴の副作用が強く、彩香さんは入院中ずっと体調が悪い状態が続きました。できるだけ赤ちゃんをおなかの中で育てるために安静にしていましたが、検査の結果、羊水内の消化酵素の数値が高いために妊娠33週になる5月下旬に出産することになりました。

「私は経産婦なので陣痛誘発剤を使用して計画的な経腟分娩の予定だったのですが、予定した日の前日に赤ちゃんの心拍が一時的に落ちてしまったため、その日のうちに帝王切開で出産することになりました。

出産したときのことは、麻酔の影響でぼんやりしていてあまり覚えていません。生まれてすぐ、赤ちゃんは処置のためにNICU(新生児集中治療室)に運ばれました。体重1866g、身長45cmだと聞きました」(彩香さん)

生まれた赤ちゃんは先天性小腸閉鎖症によって小腸が途中でつまっているために、小腸の入り口付近が太くふくらんでいるような状態でした。

「赤ちゃんは、出生直後に『イレウス管挿入』といって、鼻から入れた管を小腸まで挿入して、太くなった腸管の内容物を吸引し、減圧する処置を受ける必要がありました。生まれてすぐにその処置が行なわれたのですが、赤ちゃんの体温が下がってしまったりしてかなり時間がかかったそうです。13時ごろに出産して、赤ちゃんの処置が終わったのは夜の21時ごろ。主治医の先生はそのあとに赤ちゃんの状態についてていねいに説明してくれました」(彩香さん)

生後3日で人工肛門を作る手術に

生後13日の玲陽くん、父親の亮祐さんに抱っこされて。

彩香さんと亮祐さんは、生まれた赤ちゃんに「これから困難が待ち構えている中でも強く生きてほしい」と願いを込め「玲陽(れお)」と名づけました。彩香さんがNICUにいる玲陽くんに会ったのは出産の翌日のことです。

「小さな体にたくさんの点滴やモニターなどがつながれた姿は本当にせつなかったです。でも、それでも生きていることが本当にすごいなって。医療の力にも、玲陽自身の生命力にも感動しました」(彩香さん)

生後3日目、玲陽くんは小腸に2つの人工肛門を作る手術を受けました。

「子どもはこれから成長するための栄養吸収に影響するので、小腸を1cmでも多く残すことが大切なのだそうです。小腸をできるだけ切らずに育てるために、玲陽の場合は2つの人工肛門を造設する手術が必要とのことでした。

1つ目は、飲んだミルクが消化液と混ざったものを小腸から排出するためのルート。2つ目は細くなっている小腸に体外から栄養剤やミルクを注入するためのルートです。2つめのルートから細い小腸に栄養を注入して太く育てるのだそうです。注入された栄養は、少しずつ大腸に運ばれ排泄されます」(彩香さん)

人工肛門を造設しての治療は2カ月ほどに及びました。

「2カ月ほど小腸を育てたあと、7月に人工肛門を閉鎖する手術をしました。小腸のもともと太い部分と、成長した小腸とを縫合してつなげ、腸の機能を回復させる手術でした。

そしてさらに2カ月後、生後4カ月になった玲陽は退院に。弟に会うことを待ち望んでいたお姉ちゃんは大喜びしてくれました。そのときは玲陽の体に管やモニターがなにもついていない状態で、授乳も哺乳びんでできていました。毎日面会に通っていた私も、やっと少しゆっくり育児ができるな、と少しほっとしました」(彩香さん)

しかし、退院後4日を過ぎて経過を見るために受診した外来で、肝機能が悪化していることがわかります。

「再入院になってしまいました。そのときの玲陽はミルクを飲んでも体重が増えず、かなりやせていたんです。そして検査すると癒着性イレウスといって、手術した小腸が癒着して腸閉塞を起こしているとわかり、すぐに3回目の手術を受けることになりました」(彩香さん)

2回目の退院後、容態が急変。腸捻転を起こしていた

手術を受けたあとの玲陽くんと、付き添う彩香さん。

玲陽くんは2023年9月に腸閉塞の手術をしたあと、消化吸収されやすいミルクを飲みながら少しずつ体重を増やし、11月に退院。自宅で家族と一緒に過ごしていましたが、2024年2月のある日容態が急変します。

「風邪が重症化して肺炎を起こし、自宅近くの小児科に入院した翌日のことでした。朝に突然激しく泣き出したんです。それまで聞いたことのないほどの叫ぶような泣き声で、何をしても泣きやまず、どんどん顔色が真っ白になっていって・・・。CTや心電図で検査しても異常は見られず、その小児科では対応できないと、手術を受けた総合病院への搬送になりました。

救急車の中で、玲陽はあまりの痛みのせいかほとんど意識がなく、ぐったりしていました。『もしかしたら助からないかもしれない』と思ってしまうほど具合が悪そうでした」(彩香さん)

総合病院で検査を受けたところ、玲陽くんは小腸が何カ所もねじれてしまう「腸捻転」を起こしているとわかりました。

「玲陽の小腸は通常と違い太さや位置にばらつきがあって癒着しやすいらしく、そのためにねじれてしまったようでした。腸捻転が重症化して絞扼性(こうやくせい)イレウスという血流障害を起こせば非常に緊急性が高い状態になることは、看護師として知っていました。助からないかもしれない・・・と背筋が凍るようでした。

すぐに小児外科の先生が来てくれて手術に。5〜6時間かかってねじれた小腸を切らずに元に戻す手術をしてくれました」(彩香さん)

さらに小腸に潰瘍ができ、出血も・・・

初めての端午の節句は病室でお祝いしました。

手術後、玲陽くんは栄養をとるために鼻から胃に通すチューブと、腸の太い部分を減圧するために鼻から小腸に通すイレウス管チューブとを、両方の鼻の穴から入れていました。

「手術から2週間ほど経った3月上旬、そのチューブの所から血が出てきました。緊急で内視鏡検査をすると、捻転を戻した部分の小腸が潰瘍になって出血しているとわかり、すぐに内視鏡で止血の処置をして、ICUに入ることに。しばらくして状態が落ち着いて病棟に戻ってきたのですが、今度は玲陽が泣くと出血するようになってしまいました。泣かないように座薬などで寝かせようとしても、何回も使った薬への耐性がついて効かなくなってしまっていました。

泣けば出血する、でも子どもを泣かせないようにするのは難しい。ずっと付き添い入院していたのですが、いつ出血するかと毎日、毎日恐怖でいっぱいでした」(彩香さん)

約5カ月間に渡る入院期間、彩香さんと夫の亮祐さんは交代で付き添い入院をしていました。長い入院生活は付き添う親にとっても精神的に負担の大きいものでした。

「私の実家が自宅から近いので上の子は私の母にお願いして、夫にも育休をとってもらい、私と夫で交代して付き添い入院しました。付き添い入院中はいつ出血するかと不安でたまらず、玲陽から一瞬も目を離したくなかったんです。私がおふろに入るときは夫に来てもらっていましたし、夜中もあまり眠れずに様子を見ていたと思います。

治療の間、玲陽はミルクを飲んではいけませんでした。そんな玲陽のそばで親だけが食べたり飲んだりするのはかわいそうで・・・、付き添う私たちも玲陽の部屋では何も口にしませんでした。玲陽が寝静まってからこっそり食事をするような生活です。
そんな私を見かねて、看護師さんたちが『1時間見てるからごはんを食べてきて』『おふろに行って大丈夫だよ』と時間を作ってくれ、とても助かりましたしありがたかったです」(彩香さん)

【下島直樹先生より】小腸の途中が閉鎖して母乳やミルクが通らない生まれつきの病気

先天性小腸閉鎖症は小腸の途中が閉鎖して母乳やミルクが通らない生まれつきの疾患で、手術により閉鎖した部分をつなぐ必要があります。玲陽くんは小腸の始まり付近で閉鎖しており、閉鎖部の口側と肛門側の口径差が大きいため段階的につなげる治療を行いました。腸がつながったあとはミルクが通るようになりましたが、その後、癒着性腸閉塞や腸捻転を合併し、その都度緊急手術をうけることになりました。捻転により腸は血流障害を受けましたが、何とか大量小腸切除はせずに済みました。この後、残せた小腸がいかに機能してくれるかがポイントになります。

お話・写真提供/上杉彩香さん 医療監修/下島直樹先生 協力/ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>後編

小さな体で何度もの手術を乗り越えてきた玲陽くん。先が見えない治療の日々、「わが子のつらそうな姿を見ることが何よりつらかった」と彩香さんは言います。後編では、東京の病院へ転院して治療を受けてから、現在までの玲陽くんの病状や成長について聞きます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

下島直樹先生(しもじまなおき)

PROFILE
国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部 外科 診療部長。
1997年慶應義塾大学医学部卒業、米国メイヨークリニック移植外科研究員、慶應義塾大学小児外科講師、東京都立小児総合医療センター外科部長などを経て、2023年7月より現職。

●記事の内容は2025年11月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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