長期休み明けに多い子どもの“登校しぶり”。「学校に行きたくない」と言ったらどうしたらいい?【児童精神科医に聞く】
小中学生の不登校は約35万人と過去最多を更新し、「クラスに1人は不登校の子がいる」という現状です。子どもが入学直後や長期休み明けに「学校に行きたくない」などと言ったり、明確に言葉に出さなくても学校に行きたがらない様子があったら、親はどう対応すればいいのでしょうか。また、不登校と発達特性は関係があるのでしょうか。児童精神科医の本田秀夫先生に、不登校の現状や親のかかわり方について詳しく聞きました。
不登校児童が増加する今、学校は土台を作り直す時期に来ている
――最近の日本の不登校の現状と課題について、先生はどのように考えていますか。
本田先生(以下敬称略) 小・中学生の2024年度の不登校は約35万4000人(※)で過去最多。10年前の12万人より約3倍に増加し、クラスに1〜2名は不登校の児童・生徒がいるという状況です。しかも、年間90日以上欠席するケースも多く、長期化・慢性化している傾向が見られます。学びの多様化が進んでいる一方で、学びの中心になるはずの学校自体が、いろいろな子どもを受け入れる力を弱めている印象があります。
不登校ぎみの子どもが増えてきたとしても、登校が楽しくなるような努力をする工夫もゆとりもなくなっている。それは決して先生方個人の責任ではなく、日本の義務教育システム自体が立ち行かなくなってきているのでしょう。たとえるなら建物そのものの土台が老朽化しているように思います。壁紙を張り替えるようなリフォームではなく、基礎工事からやり直さないといけない時期に来ているのではないでしょうか。
――土台から直すとは具体的にどういうことでしょうか。
本田 1つ目は、学年ごとに同じ内容を一斉に学ばせるしくみを見直すことです。6~18歳くらいまでの12年間を学習期間と考えること自体はよいと思いますが、すべての子どもが学年ごとに学ぶ内容を固定されてしまうことで、苦しくなる子がいます。12年間、子どもがやりがいをもって学べる環境を保障し、何をどう学ぶかは個別に調整する必要があると感じています。
2つ目は、教員の量と質の充実です。カリキュラムを個別に調整するには教員の数を増やさなくてはいけませんが、少子化が進み、教員の定員数も減少しています。教員をめざす人も減っていますし、過酷な現場で辞めてしまう教員も増えています。教員の職場環境の改善や、身分保障の必要性を感じます。教育が先細りすると、国の衰退につながるのではないかと危機感を覚えています。
「おなかが痛い」と学校に行くことができなくなった女の子
――では、小学校低学年の登校しぶりで受診する場合、具体的にどんなケースがあるか教えてください。
本田 拙著に掲載した事例を紹介します。小学校3年生の女の子が、ある朝突然「学校に行きたくない」と言いました。親御さんが理由を聞いても「わからない」との答え。その日は休み、翌日は登校しましたが数日後の朝、再び「おなかが痛いから行きたくない」と休み、それから不調を理由に欠席することが増えました。親が励ますと登校できることもありましたが、やがて、ある朝、玄関で靴を履いているときにランドセルを背負ったまま泣き出し、動けなくなってしまいました。それ以来まったく登校できなくなり、親子で相談に来ました。
――この女の子のように低学年の登校しぶり、不登校が見られたら、子どものどんな様子に注目するといいでしょうか。
本田 ゴールデンウィークなどの大型連休や夏休み明けに登校しぶりが出る子は多いですが、実はその前から「学校を楽しめていない」ことが多いんです。
保育園や幼稚園には楽しそうに行っていたのに、小学校に入ってから朝起きづらくなったり、「行きたくない」と言い始めたりする。最初は「そのうち慣れるだろう」と思って頑張らせるけれど、長期休みをきっかけに動けなくなる、という流れはよくあります。
――子どもが学校に行きたくない理由がわからないと、親もどう対応していいか迷います。
本田 子どもは楽しいと思える場所には喜んで行くし、楽しくないと思ったら行きたがらないものです。本来、小学校の低学年は、学校を楽しいと思える時期のはずですが、学校に行きたがらないんだとすると、楽しくない理由があるはずです。
日本人の親世代の多くは「学校はつらくても頑張って行くところ」だと思っていますよね。しかし大切なのは「学校はつらいものだから我慢させる」のではなく、「なぜこの子は楽しいと思えないんだろう」と考える視点です。まずは理由を探ってみること。子どもに聞いても低学年のうちはとくに「よくわからない」ということが多いので、早めに学校の先生に連絡を取って学校での様子を聞いてみましょう。
――就学前から、心がけておいたほうがいいことはありますか?
本田 「家庭を、平和に楽しく過ごせる居心地のいい場所にする」ことを心がけていただきたいです。子どもが親に自分の気持ちや悩みを相談できる、良好な親子関係であることが大切。不登校になっても、安心できる環境で休んで子どもの心が回復してくれば、子どもの興味や意欲が出てきます。
子どもの「行きたくない」は要注意
――子どものどんな様子に注意すればいいでしょうか。
本田 朝行きたがらなくても、登校してしまえば元気に過ごす子は少なくないですし、低学年の子は帰宅すると学校が嫌だったとは言わないことが多いです。先生から見ても普通に過ごしているように見えるでしょう。でも、実は「過剰適応」といって、周囲の期待や環境に合わせようと、無理に頑張りすぎる状態になっている可能性もあります。そのまま無理を重ねると、心や体に不調が出てしまいます。
「朝、行きたがらない」ということは、子ども側からのSOSのサインなのです。大人の側からすれば問題の始まりに見えますが、そのサインを出すまで子どもは精いっぱい頑張った末の最終段階かもしれません。そんな子どもの様子を見てほしいと思います。
――理由がよくわからず学校を休ませるのも不安です。どう判断すればいいですか。
本田 最初から「無理しなくていいよ」と休ませるのではなく、「ちょっと頑張って行ってみよう」と声をかけてみてもいいと思います。学校の先生と情報共有しながら理由を探りつつ、どうしてもつらそうであれば休ませます。不登校になったときの対応の基本は、休養と相談です。心身をゆっくり休ませて、親が子どもの気持ちを受け止め、話を聞いてあげましょう。そして長期的な視野で、その子にとってどんな対応が必要か考えましょう。
――発達障害やグレーゾーンといわれる子は、不登校になりやすいのでしょうか?
本田 発達特性がある子の場合、「テレビを見るなど、今やっていることをやめたくない」だけで登校を嫌がるケースもあります。その場合は、時間の見通しをわかりやすく伝えたりするなど、かかわり方の工夫で改善することもあります。
学校以外でも子どもにあった居場所づくりを
――冒頭でも教育システムについての話がありましたが、児童精神科医の立場から、不登校に関しての学校の課題についてはどう感じますか?
本田 現場の先生方は本当に大変だと思います。厳しい環境で一生懸命、教育に携わってくれていることは承知しています。ただ理想を言えば、カリキュラム消化よりも子どもが楽しそうに活動に参加しているかどうかを見てほしいと思います。
昔は教科書が1年間で終わらなくてもあまり問題になりませんでしたし、親ものんびり構えていましたよね。今はカリキュラムが厳しく設定され先生方も余裕がありませんし、カリキュラムをこなさないと、上司や保護者の目が厳しいんじゃないでしょうか。そのしわ寄せが、子どもにきている部分はあると思います。
理想的なのは、子どもたちが楽しそうにしてるかどうかを先生方に確認してもらえることだと思っています。
――子どもの不登校が長期化すると親側も子どもの将来が心配です。親はそのような自身の不安とどう向き合えばいいでしょうか。
本田 不登校を経験した子も、大人になると社会参加できている人がほとんどです。不登校から完全な引きこもりになる人は一部です。だから子どもの将来をあまり悲観的に見る必要はないと思います。
ただ、だれともつながらず家に閉じこもる状態が長く続くと、後々に外に出づらくなることはあります。だから大切なのは、子どもが学校以外でも安心して参加できる居場所を見つけること。最近はフリースクールや教育支援センターなども増えています。子ども自身が楽しく過ごせる場所を何らかの形で確保すれば、その中で社会性を身につけながら成長していくでしょう。
――そのような学校以外の学びの場は、どうやって探せばいいでしょうか。
本田 各自治体に情報が集約されていると思います。教育委員会や子ども家庭センターに相談すると、フリースクールや教育支援センターなどを紹介してもらえることもあります。学校の連絡アプリなどで案内される場合もありますが、基本的には自治体の相談機関に直接問い合わせるのが確実です。
不登校の子どもの中には、勉強が好きすぎて学校では物たりない子もいますが、そういう場合は学習塾に通うほうが適していることもあります。どうしても学校に行かせなければ、というよりは、その子の個性に合った居場所を探し、本人がやりがいを感じられる場所を見つけられれば、それでいいと思います。
お話/本田秀夫先生 イラスト/フクチマミ 取材・文/早川奈緒子 編集・構成/仲村教子(entente)、たまひよONLINE編集部
不登校が増加の一途をたどる今、学校に通うことだけを目標にしない視点も大切です。子どもが安心して過ごせ、自分らしく育つには何が必要か。そんな問いをもつことが、不安の中にいる親子の支えになるのかもしれません。
本田秀夫先生(ほんだひでお)
PROFILE
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。精神科医。医学博士。
1988年東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、1991年から横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授。2023年より長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。
●記事の内容は2026年4月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
『発達障害・「グレーゾーン」の子の不登校大全』
子どもが「学校に行きたくない」と言ったとき、すぐに対応するための支援策を網羅した1冊。児童精神科医としてたくさんの子どもを診療してきた本田先生が、発達障害や「グレーゾーン」の子どもの不登校に焦点を当てて、要因や対策の考え方を解説する。本田秀夫著/1760円(バトン社)


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