幼児教育先進国NZ発祥の「ラーニング・ストーリー」で前向き育児、始めよう!
オーストラリア大陸にほど近い島国、ニュージーランド。真っ先に思い浮かぶのは、豊かな自然かもしれませんが、実は、幼児教育の先進国といわれているのを知っていますか? 多文化主義や環境教育を、国の教育カリキュラムとしていち早く提唱したナショナル・カリキュラム「テ・ファーリキ(Te Whariki)」が有名です。テ・ファーリキは乳幼児の保育に日々かかわっている先生たちの声から生まれ、ニュージーランドの教育省が幼児教育の基本目標として1996年に発行したものです。そのいちばんの柱が、幼児教育の先生たちが書く「ラーニング・ストーリー」という取り組み。
世界から注目されるニュージーランドの「ラーニング・ストーリー」について、東京都市大学講師の杉本裕代先生に伺いました。
「ラーニング・ストーリー」とは?
「『ラーニング・ストーリー』とは、子どもの日々の様子を”成長の物語”としてとらえ、写真を交えて、子ども1人につき月に1回記録するものです。
子どもを”できる””できない”や、目標を達成できたかで”判定”(ジャッジ)するのではなく、子どもの興味や気持ちに目を向け、肯定的にとらえようというのが目的。
ニュージーランドの保育の現場では、先生たちが「テ・ファーリキ」の5つのキーワード(下記参照)を手がかりに、子どもたちの言動を観察、記録してA4サイズ用紙にまとめ、毎月ファイリングして、園内で保護者や子どもたちみんながいつでも見られるようにしています。こうして、子どもと、子どもにかかわるみんなで、成長の喜びやステップアップを共有しているのです」
自分たちの保育実践を振り返り、保育の喜びを受け止める
こうした保育の「記録」を、どうして「ストーリー」と呼ぶのでしょうか?
「『ラーニング・ストーリー』の第一人者、マーガレット・カーは、それは単なる記録ではなく、いくつもの「対話」が織り込まれた、先生たちが自分の視点で語る文章だからだ、と言っています。
また、ラーニング・ストーリーの多くは、保育者から子どもたちへ語りかけるように書かれています。そして、それは、保護者たちとも共有され、さらに、保育者が自分たちの保育を振り返り、保育者として大切にしていることを振り返るきっかけになっているのです。
子どもを肯定的にとらえた記録は、その子の興味や気持ち、可能性が表れたものになります。それを見て、「成長の物語」の主人公である子どもは愛情を感じ、安心感や自己肯定感を深めることができるでしょう。また、保護者や保育者は成長の喜びを共有できるだけでなく、今まで以上に子どもの気持ちを理解できるようになり、子どもに肯定感を持って接することができるようになるでしょう」
“5つのキーワード”で子どもに語りかけてみよう! ママ発信のラーニング・ストーリー
二ュージーランドの保育の現場で行われている「ラーニング・ストーリー」の手法を、家庭にも取り入れるにはどうすればいいでしょうか。子どもを見る視点には「テ・ファーリキ」の“5つのキーワード”が不可欠。
それは、以下の5つです。
①Wellbeing(心身の健やかさ)
②Belonging(自分の居場所を持っている)
③Contribution(積極性)
④Communication(言語や文化の多様性を大切にする)
⑤Exploration(経験を通じての学び、探求)
「まずは、こうしたキーワードが、子どもたちの経験や行動と重なるシーンを探してみましょう。下の例文のように、今まで“否定的”に見えていた子どもの一面が、5つのキーワードを通すことで“肯定的”にとらえられるようになるはずです。そして、それをママ自身の発見として、いつもの写真に、楽しく文章を添えてみませんか。何気ないFacebookやInstagramの投稿も、あなただけのラーニング・ストーリーになるはず。ぜひ、パパなど家族にも見てもらって、子どもの成長の喜びをみんなで共有しましょう」
(例)
「ぬいぐるみを離さない子どもは、甘えん坊?」
→「くまちゃんがいれば、いつでもお家にいるような気持ちになれるよね」
(キーワード:Belonging自分の居場所を持っている)
「お店に行って楽しくなって、帰りたがらない。自制心がないのかな?調子にのって大変!」
→「たくさんのおもちゃに、好奇心わくわく。おもちゃを見たらすぐ、遊び方を思いつくきみは、考える力が成長中。ほかの子にも、遊び方を教えたりして、すごいなぁ! 頭と体が刺激されて楽しそう。でも、ママは疲れたよ…!」
(キーワード:Contribution, Exploration 積極性、経験を通じての学び、探求)
子どもを肯定的にとらえ、その子の可能性を見い出すことができる「ラーニング・ストーリー」によって、子どもは自己肯定感を持ち、のびのびと可能性を伸ばしていくことができるんですね。また、子どもだけでなく、ママにもメリットが。自分の子育てを肯定し、「できる」「できない」から解放され、その子の可能性と向き合い、伸ばしていこうと前向きになるきっかけになるはず。記録が難しいという場合は、視点を取り入れるだけでもいいでしょう。ぜひ、家庭でも取り入れてみてください。(取材・文/ひよこクラブ編集部)
監修/杉本裕代先生
東京都市大学 共通教育部 外国語共通センター講師。英語学習・アメリカ文学の研究・指導のほか、子育て世代向け、子ども向けのワークショップも精力的に行っていらっしゃいます。ニュージーランド・クライストチャーチのカンタベリー大学での滞在を契機に、「語ること」と保育が交差する魅力に気づき、日本でのラーニング・ストーリーの実践を研究・調査しています。
※この記事は「たまひよONLINE」で過去に公開されたものです。