スウェーデンの男性が家事を得意とする、本当の理由は!?
「ワンオペ」「孤育て」など育児の大変さを象徴する言葉が次々と生まれてしまう日本…どうすれば子育てしやすい環境を作ることができるのでしょうか?
そのヒントを手に入れるべく、子育てに優しい国として有名なスウェーデンへ家族で移住したのは、『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』の著者である久山葉子さん。
育児・共働きを経験して感じたことを、自身の言葉で綴ってもらいます。連載【スウェーデンでのくらしが気づかせてくれた、大切なこと】第二弾は、「スウェーデンでは男性も家事が得意なのはどうして?」について。
お互いの得意な家事を分担できるよう工夫をしている
スウェーデンに来て驚いたのは、料理やパン・ケーキ作りが上手な男性がたくさんいること。「うちはパパが夕食を作ることのほうが多いよ」という声も聞きます。
それを可能にしているのは仕事から帰って家事をする時間があるから。基本的に残業はないので、ママとパパどちらが作るのかは、“その日、早く家に着いたほう”や“料理が得意なほう”になります。「うちはパパが料理好きなので、夕食はほとんど作ってもらってる。その代り、パパは排水溝のぬめりが苦手なので、掃除はわたしがやることが多いかな」と言ってるママもいました。お互いに自分の好きな家事を担当できれば、ストレスも少なそうですね。一緒に住むにはそのあたりの相性が大事なのかも?
「親が子どもに口出しする権利がなくなる」も自立の理由
そもそも、スウェーデンの男性はいつどういうきっかけで料理ができるようになるのでしょう。それには、若者が自立する時期が大きく関わっているように感じます。
わたしは現地の高校で日本語を教えているのですが、生徒たちは三年生のときに大きな節目を迎えます。それは、18歳の誕生日を迎える日。その日を境にその子は成人し、一人前の大人になります。日本だと成人と言っても、成人式があるくらいですが、スウェーデンでは人生におけるビッグイベント。クラスの中でも、“大人になった子”はそれだけで誇らしげです。法的にはお酒を飲んだり免許を取れるようになるし、親は子どもに口出しをする権利を失います。一例を挙げると、生徒に問題があった場合、18歳になるまでは学校は親を呼び出すことができますが、18歳を過ぎるともうそれができなくなります。大人だから保護者は存在しなくなり、自己責任で行動することになるのです。
高校を卒業すると、大学に進学して他の街で独り暮らしをするのが一般的。地元の大学に通ったり就職したりする場合でも、“大人”なのに実家暮らしは恥ずかしいという風潮があり、みんななんとか独り暮らしをしようとします。成人すると経済的にも親から独立し、大学に通う間も親からの仕送りではなく、国から学生ローンを借りて生活します。もちろんワンルームマンションなど借りる余裕はなく、共同キッチンのある 学生寮で暮らす人がほとんど。頻繁に外食するお金もないし、必然的に自炊を強いられます。
インスタントラーメンや冷凍のピザにはすぐ飽きてしまい、下手でもいいからなんとか手作り。「学生時代は、スパゲッティーを茹でただけのものをパスタ・ビアンコ(白)、それにケチャップをかけたものをパスタ・ロッソ(赤)って呼んでたな」と笑う友達もいました。そこから試行錯誤して、自分が食べたいと思うものを作れるようになっていくのでしょう。
「料理が得意な理由」をスウェーデン男性に改めてインタビュー!
この連載のために、改めて周りのスウェーデン人男性に料理を覚えたきっかけを尋ねてみたのですが、やはり学生寮での自炊を挙げる人が多くいました。ほかにはも、もっと早い時期に料理を覚えたという男性もちらほらいました。「家庭科の調理実習で習ったよ!」というストレートな答えも。そういえば、子どもがまだ生まれて数カ月のときに、夫の同僚たちが出産祝いに家に遊びにきてくれたことがありました。お菓子作りなどしたことがなかったわたしは、子どもが寝ているすきに必死でスコーンを焼いて彼らを待ち受けたのですが、身長二メートル、体重百キロのスウェーデン人(リカルドという名前だったので、皆にリカちゃんと呼ばれていた)に、「これ、小学校の調理実習で習った」と一笑に付された思い出が。
子どもの頃から料理に興味津々で、いつも大人と一緒にキッチンに立っていたという男性も多いよう。わたしたちの世代だと、親は共働きが普通で、その頃からパパが夕食を作るのはちっとも珍しいことではなかったし、男の子がキッチンに立っていても、誰もおかしいなんて思わない時代だったそうです。でもその上の世代になると、おばあちゃんが専業主婦で、妻に先立たれたおじいちゃんが料理できなくて困ったという話も聞きます。スウェーデンでは、その二、三十年の間に男性も料理をする習慣が浸透したようですね。
スウェーデン男性も日本人男性も考え方は同じ…?
でも、なかでも一番「なるほど!」いうのが「料理が上手いと、学生寮で女の子にモテたから!」という正直な答えです。わかる。みんな寮暮らしで美味しいごはんに飢えていたら、そりゃモテるよね……(そんな彼は今、うちの街で一番人気の中学校の校長先生です)。
週末、自宅で料理の腕を振るう校長先生
今は料理をする男性はカッコいいという風潮がスウェーデン全体にあり、男性の料理率を上げるのをあと押ししているように思います。街に出ると、男性の心をくすぐるような男らしいキッチングッズがたくさん売られています。革のエプロン、どこぞの鉄でできた重そうなフライパン、有名男性シェフ監修の包丁セットなどなど……。夫が自ら楽しんで料理の腕を振るってくれるならば、多少のグッズ出費も許そうと思えてきます。日本でも料理のできる男性が素敵という風潮が高まっていると思います。もしかすると、「素敵な男性だと思われたい!」という根源的な欲求が、家事分担の新しい風を呼び起こす日も近いかもしれません。
かといって、スウェーデンの男性が平日から有名シェフばりのごちそうを作っているというわけではありません。夕食の準備にかける時間は、20~30分。切っただけ、焼いただけ、といったシンプルな調理が多いです。次回は、スウェーデンの食卓に並ぶ時短料理をご紹介したいと思います。
(文・久山葉子)
さて、スウェーデンの人々が「男性も家事をするのが当たり前」だと考えているのは、同国の社会的制度やすでに形作られつつある「協力の文化」があるからだとは思います。
ですが、制度・文化に加え、「素敵な人だと思われたい」というような人間らしい欲求も、時代を形作っていくのかもしれませんね!
【スウェーデンでのくらしが気づかせてくれた、大切なこと】第三弾は、「スウェーデン人は『賢く手抜き』が当たり前!現地のママたちが教えてくれる時短料理」についてです。どうぞお楽しみに!
Profile●久山葉子(クヤマヨウコ)
1975年兵庫県生まれ、2010年よりスウェーデン在住。翻訳・現地の高校教師を務める。訳書にネッセル『悪意』、ペーション『許されざる者』、カッレントフト『冬の生贄』他。主にミステリの翻訳を行う。
今年6月に育児目線でスウェーデンを綴ったエッセイ『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』を上梓。福祉国家が実際にどのように機能しているのか、デメリットも含めて余すことなく描いている。