乳幼児期の「キレる」は止めるのではなく経験させるべき。その理由
「乳幼児でもキレるのか?」と思うことがあるかもしれませんが、実はまだ感情をコントロールできない乳幼児ほど、キレやすいのです。そんなとき、「キレる」という行為だけを押さえつけようとすると、子どもの成長の機会を阻害してしまうといいます。長期的に見れば、子どもの「キレる」は感情をコントロールする力を身につけるチャンスでもあるのです。乳幼児がキレたとき、ママ・パパはどう向き合えばいいのか。発達心理学・感情心理学が専門の東京大学大学院教育学研究科、遠藤利彦先生にたまひよONLINEが聞きました。
「キレる」ってどういうこと?
「キレる」は「怒る病」ではありません。どちらかといえば、それは「怒れない病」。正当な怒りができていないから、キレてしまうのです。乳幼児がキレてしまうのも、感情をまだうまく調整できずに、正しく怒れないからです。
では、正当な怒りに対する「誤った怒り」とはどういうものかというと、時間がたってから怒るような「タイミングを間違えた怒り」、怒りたい相手に怒るのではなく別の人に八つ当たりする「怒るべき人に怒れない怒り」、何かを壊したり誰かをたたいたりする「方法を間違えた怒り」があります。そうした怒りは、怒りとして機能していません。
乳幼児がキレたら、どうしたらいい?
感情調整のできない乳幼児はとくにキレやすい時期といえます。ただそのときに、ママやパパがどう向き合うかが大事です。お友だちをたたいたのであれば、「〇〇ちゃんのことたたいたら嫌がるでしょ」とその場で言う。そうしたタイムリーな働きかけの中で、「キレる」が「キレない」に変わっていきます。一回一回の体験を通して、子どもは「どうすれば自分は気分よくなれるのか」「相手は気分よくなるのか」ということを考え、感情調節の力を身につけていくのです。
子どもに寄り添うときは「調律と調節」をセットで
キレてる子どもに寄り添うときは、「調律と調節」をセットで行いましょう。「調律」は、子どもの気持ちを受け止めるということ。「うんうん、わかるよ。でもそれはやっちゃダメなんだよ」と、寄り添って共感を示したうえで、行為そのものはダメであると伝えます。「調節」は、崩れた感情を立て直すことです。「モノを壊した行為はダメだけど、あなたのことは好きなんだよ」というメッセージを送り、「自分は愛されているんだ」という自信を持たせてあげましょう。
気をつけたいのは、たとえば子どもがキレたときにお菓子をあげてその場をおさめようとするやり方。それで静かになることはたしかに多いのですが、そればかりだと、嫌な気持ちというものを受け止めてあげられていません。
「キレる」を非認知的な心の育成につなげる
「キレる」ことの経験を通じて、子どもは自分の感情をコントロールする力を身につけます。それはすなわち、「非認知的な心」を育てることにもつながっています。非認知的な心というのは、自立心や粘り強さ、共感や思いやりなど、数値で測れない「心の力」。「キレる」を押さえつけたり、放置し続けたりすると、その力を獲得する機会を失ってしまいます。
大事なのは、「全否定」をしないということ。行為のことを怒り、さらに子どもの人間性まで否定するようなことは避けるべきです。「もう、どっかに行っちゃいなさい」「もううちの子じゃないよ」という発言はNGです。「部分否定」を心がけてください。先述したように、行為そのものはダメだと伝えつつ、あなたのことは好きであるというメッセージを送るのです。そうすると、子どもは「こんな自分でも愛されているんだな」という気持ちになれます。いいことをしたときだけ、そういうメッセージを送っていると、子どもは「いいことをしたときしか愛してくれないんだな」という受け止め方をするので、キレたときこそ「大好きだよ」というメッセージを発信してあげましょう。
「じゃま」「きもちわるい」「どっか行って」。この全否定は、筆者が息子(4歳)に発した言葉ではなく、発された言葉です。相手も小さいので、まだなんとか大丈夫。でももう少し大きくなって言われたら、自分も全否定で言い返したりしないだろうか…。少し心配になりましたが、ひとまず子どもがキレたときは、全否定ではなく部分否定。これを心がけたいなと思いました。 (取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部)
監修/遠藤利彦先生
東京大学大学院教育学研究科・教授(発達心理学・感情心理学)。子どもの発達メカニズムや育児環境を研究する発達保育実践政策学センター(Cedep)のセンター長も務めている。
参考文献/『赤ちゃんの発達とアタッチメント――乳児保育で大切にしたいこと』(遠藤利彦著・ひとなる書房)、『言葉・非認知的な心・学ぶ力』(小椋たみ子、遠藤利彦、乙部貴幸著・中央法規出版)