身長100cmのママ、子育てでつながる仲間は「みんなちがってみんな同じ」
生まれつき骨が弱いという障がいを持ち、身長100cm、体重20kgと超小柄な2児のママ・伊是名夏子さん。「子育ては、障がいのあるなしにかかわらず誰にとっても大変なときがある」と、彼女の強い思いを綴った著書『ママは身長100cm』を2019年夏に出版しました。この本には「みんなちがうし、みんな同じことで悩んでいたりもするよね」と、共感できるところがいっぱい。新しい視点を与えてくれる伊是名さんの著書から、彼女の生い立ちや障がいに対する考え方をお届けします。
歩ける人も歩けない人も、できることとできないことがある
伊是名さん8歳のときのお正月。家族と一緒に。『ママは身長100cm』(伊是名夏子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)より
沖縄で教師をしている両親のもと、3姉妹の三女として生まれた伊是名さん。生まれてすぐに骨が弱くて折れやすい障がい「骨形成不全症」があることがわかります。そのため、赤ちゃんの頃から骨折することも多く、入退院を繰り返すことに。
すべてが2人のお姉さんと同じようにはいくわけではないということは、幼心にも理解していたそうですが、3歳上のお姉さんと公文や習字教室、ピアノ教室など習い事も一緒に通うなど、「わたしもやってみたい!」という気持ちを大切にしていたそうです。
伊是名さんを応援しているお姉さんですが、ときには伊是名さんがお姉さんを助けることも。裁縫など細かい作業が苦手なお姉さんに頼まれて、家庭科の宿題のエプロンを縫ったり、バレンタインのお菓子ラッピングを手伝ったりしていたそう。そんな経験を通じて伊是名さんは「歩けてもできないことはたくさんあるし、歩けなくてもできることがたくさんある」と気づけたといいます。
お父さんが地域とのつながりを大切にしていたことから、地域に自分の居場所があったことも大きかったと伊是名さんは振り返ります。家族をはじめ、まわりの大人がたくさんほめてくれることで、差別のような経験はあってもどこかに必ず自分を受け入れてくれる環境があると思えたことが、「どんなことがあっても大丈夫」という自信につながったようです。
そんな幼い頃の経験を通じて
「ほめてもらえること」
「信頼できる大人がいること」
「地域のあちらこちらに受け皿があること」
この3つはどんな子どもにも大切なことではないかと気づいた伊是名さん。自分の子育てでもこの3つを大切にしているそうです。
「信頼できる医師」と出会い、2人の子どもを出産
『ママは身長100cm』(伊是名夏子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)より
高校を卒業し、進学した大学で出会ったパートナーと2010年に結婚。1年後に妊娠がわかりました。伊是名さんにとって自分の体がどこまで妊娠に耐えられるのか、赤ちゃんをいつまで胎内で育てられるかは重要な問題。そのため「信頼できる医師」に診てもらうことをいちばんに考えていたと言います。伊是名さんを見て、まともに診察すらしてくれない医師もいたからです。障がいを持つ伊是名さんの妊娠をポジティブにとらえ、必要な準備、サポートを提案してくれる産婦人科医に出会えたことが、妊娠出産の決め手となったようです。
残念ながら、最初の妊娠では流産を経験した伊是名さん。2年後の2013年、大学院の卒業を控えた頃に再び妊娠がわかりました。医師と伊是名さんは医療の力で命を救える可能性が高くなる妊娠27週、体重1000gまで赤ちゃんをお腹の中で育てることを目標にしました。
できるだけ体に負担をかけない生活のしかたを工夫したのもあったのか、妊婦生活は順調に進み、結果妊娠35週のときに帝王切開で体重2160gの元気な男の子を出産。さらには2015年に第2子となる女の子を出産しました。
「慣れること」でお互いのちがいを受け入れられるように
大学院では特別支援教育を学び、フリースクールのスタッフをしていたこともある伊是名さん。さまざまな子どもと出会い、「障がいのある子」「障がいのない子」で分けるのではなく、誰もが自分にあった教育やサポートを受けられるようになるといいと考えています。障がいのあるなしに関わらず、そもそも人はみんなできること、できないこと、得意なこと、不得意なことがちがうもの。「人は一人一人ちがうこと」をもっとみんなで考えていきたい。それが伊是名さんの思いです。
お互いのちがいを受け入れるために必要なことは「慣れること」。一緒に過ごす時間が増えるうちに「ちがい」に目がいかなくなり、ちがいよりもお互いの共通点を見つけて、一緒に笑いあったりケンカをしたりができるようになっていく。そう考えるからこそ伊是名さんは新聞のコラムや講演会を通じて自身の体験を伝え続けています。障がいのあるママに慣れてもらい、みんなと同じように笑ったり、悩んだり、落ち込んだりするママのひとりだと感じてもらいたいという思いがあるのです。
「どうぞ!」と声をかけて譲り合える世の中に
『ママは身長100cm』(伊是名夏子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)より(撮影/上垣喜寛)
子育てを通じて「歩けない人はお出掛けが大変だ」と初めて気づくママもたくさんいる、と伊是名さん。例えばベビーカーで出かけたときに、駅や商業施設のエレベーターがずっと満員で、何回待っても乗れない。エレベーターでないと移動が難しいのに…なんて経験をしたことがあるママも多いはず。出かけるときは電動車いすを使う伊是名さんも同じ。2回待って乗れないときは、3回目に自分から「すみません! 2回待っていても乗れないので、だれか譲ってもらえませんか?」と声をかけるそうです。
エレベーターも電車内の優先席も、車いすやベビーカーユーザー、高齢者など本当に必要な人だけが使うべきものとは伊是名さんは思っていません。疲れているとき、急いでいるときはみんながどんどん使っていい。ただ、必要な人に気づいたときは「どうぞ!」と譲ってほしい。できるときにできる人が譲るだけ、というのが伊是名さんの考えです。
親も子も、子育ても「みんな同じ」なんてありえない!
それぞれのちがいをお互いに尊重しながら、ともに生きていく「ダイバーシティ&インクルージョン」が提唱される現在。親だって子どもだってひとりひとりちがいます。障がいのあるなしにかかわらず、子育てについて「みんなと同じようにできないと!」なんて考えなくてもいいのだと改めて気づかされました。
伊是名夏子さんの『ママは身長100cm』には、全てのママが「私も同じ」と思えるところがあり、「ちがっていることも良いね」と感じられる1冊。今まで「自分とはちがう」と思っていた人たちの「ちがい」を理解して尊重し、共通点も見つけあえるようになれば、きっと誰もが生きやすい世の中になるだろうと感じます。
(文/古川はる香)
●Profile
コラムニスト 伊是名夏子
1982年沖縄県生まれ。骨の弱い障がい「骨形成不全」で日常生活に電動車いすを使用。身長100cm、体重20kg、右耳が聞こえない。ハイリスクや妊娠、出産を乗り越え、6歳と4歳の子育てを、ヘルパーやボランティア、ファミリーサポートなど、総勢15人以上に支えられながらこなしている。「障がい者は助けてもらうのではなく、お互いに助け合う存在」をテーマに全国で講演のほか、ファッションショーや舞台でも活躍中。