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身長100cmのママ 、留学から学んだ「誰だってワンオペ育児は無理」

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撮影:Kensuke Sato

ワンオペ育児のツラいことと言えば、自分が大変なときに誰も代わりがいないこと。気持ちや時間に余裕がなく、つい子どもを怒鳴ってしまうことも。さらには注意が届かず、子どもを危険な目にあわせてしまうかもしれず、子どもにとっても危険がいっぱいなことも…。

「お母さんなんだから、ひとりで子育てできなきゃ!」と言う人もいるかもしれませんが、誰かに頼るのは決して「ズルいこと」や「手抜き」ではありません。『ママは身長100cm』の著者・伊是名夏子さんは生まれつき骨が弱い障害があり、2人のお子さんを育てるために、他者の手を借りることが不可欠。現在は10名以上のヘルパーさんやボランティアさん、ファミリーサポートの方とともに子育てをしています。「家族以外のサポートは誰にだって必要」という伊是名さんに、みんなで子育てすることの大切さや他者の手を借りるためのポイントについて聞きました。

デンマーク留学をきっかけに「苦手なことは人に頼っていい」と気づいた

伊是名さんは沖縄から東京の大学に進学。一人暮らしを始めた頃はヘルパー制度を使わずに生活していましたが、デンマークに留学したことをきっかけに考えが変わったと著書で記しています。
―――なぜ、デンマークに留学を決めたのですか?

「父が英語教師だったこともあり、幼い頃から留学が身近でした。中学のときはスピーチコンテストで賞をとり、アメリカのサマープログラムにも招待されました。高校のときもハワイへ。それをきっかけに大学に入学したらちゃんと留学したいなと思って、まずアメリカに留学したんです。アメリカでは車いすユーザーだから、障がいだから、という理由で差別されることは全くなかったのですが、人種による差別を経験したことや競争社会であることに疲れてしまって……。競争の少ない国に行きたいと思ってアメリカからそのままデンマークに行ったんです」

―――デンマークでは、自己紹介の時に「得意なこと」だけでなく「苦手なこと」も話す。それが不思議だったと書かれていましたね。

「そうなんです。何のために『苦手なこと』を話すのか、はじめはわからなくて。でも競争が少ないデンマークだからこそ、できないことがあるのは怒られることでも恥ずかしいことでもなく、人にはできることとできないことがあるのが当然だと思っている。だからこそ、できないことが多い障害者はヘルパーさんを使うのが当たり前。私もデンマークでの生活を通して『苦手なことは人に頼っていい』と思えるようになったんです」

―――ヘルパーさんに頼るようになってどんなことが変わりましたか?

「今までなら2kgのお米しか買えなかったのがヘルパーさんと一緒に買い物に行けば5kgのお米も買える。できないことをひとりでやるために工夫する生活も楽しかったですが、ヘルパーさんをお願いすることで一気に選択肢が広がりました」

たくさんの大人と触れ合って、苦手な人とのつきあい方を知ってほしい

ママができないおんぶもヘルパーさんが担当!『ママは身長100cm』(伊是名夏子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)より

―――ヘルパーさんたちと一緒に「みんなで子育て」をしたいと思ったのは、デンマークでの経験が大きいのでしょうか?

それもありますが、留学後に姉の子どもの面倒をみていたのも大きいですね。子どもはかわいいし、子育ても楽しいけれど、子どもが歩くようになると私ひとりで対応するのは無理だと実感したのも大きいです。子どもを育てるときを見据えて、ヘルパーさんを長期的に使うような生活にシフトしていこうと思うようになりました。
あとは、私の両親も共働きだったので、両親がいない時間が多かったんです。祖父母や姉、近所の方などいろいろな人の手を借りて生活していた結果、大変なこともあったけど地域に居場所もできてよかったと思っていて。自分の子どもにもいろいろな大人と出会うことで、好きな大人ができたり、あるいは苦手だと感じる大人もいるというのを感じてもらいたかったんです。

―――大人という存在が親だけというより、世界を広げたかったということですよね?

そうですね。私、親って全面的に子どもの味方になるのは難しいって思っているんです。子どもを育てるためにいっぱいやることもあるし、しつけもしなきゃダメ。危ないことをしたら「ダメ!」と怒らなきゃいけないし、時間に合わせて行動させるため「早く食べなさい!」とか「あと10分で家出るよ!」とかやっぱり言わなきゃいけないし。そういうときにうまく誘導できる人もいるんだろうけど私は怒鳴っちゃうことも多いです。だからこそ親とは別におじいちゃんおばあちゃんみたいにとにかく甘やかしてくれる、いつでも味方になってくれるような大人がいたほうがいいなと思いました。


―――たしかに、親だって先生だってだれだって、子どもとの相性もあるのではないかと思います。

そうですね。みんなから人気のある担任の先生だけど、自分とは合わないこともあるでしょうし、世の中には気が合う人もいれば合わない人もいて、合わない人と出会ったときにどうするかということも、多くの人と会うことで学べるかもしれない。合わない人とはかかわらない方法もあるけど、うまく接しながらほかにも楽しい場所を見つけるという方法もあります。だって社会に出ると、苦手な人とどうつきあっていくかが一番大変なことかなあと。

「頼る」ことで、まわりの人もハッピーに

―――今のママは「苦手なこと」も克服して、「全部自分でできなきゃ!」と頑張りすぎな人が多くいます。
そうですね。自分が「全部自分でやらなきゃ!」と思う人は多いですよね。また、頑張りすぎているからなのか、誰かに手伝ってもらっている人を「ズルい!」とか「インチキ!」と言う人も少数ですがいますよね。本当なら手伝ってあげられるのに「私もひとりでやったからやりなよ?」と言ってしまったり。それはすごく恐ろしい考え方だと思うんですよね。
そうは言っても私も頑張りすぎてしまうことはあります。そのせいで疲れてイライラして夫やヘルパーさんに八つ当たりしてしまうことも(笑)。なので、自分の中で「ここまでやる」というラインを決めているんです。例えば、頑張れば毎日子どもの幼稚園のお迎えに行けるけど、そうするとめちゃくちゃ疲れてほかのことができなくなる。だったらお迎えは週1回にして、ほかの日は誰かにお願いしたほうが自分もイライラしないから、まわりの人もうれしい。
頑張りすぎる人は「これができたからもっと」と、目標をどんどん高くしてしまうけど、私は逆で目標をなるべく低くしてるし、日によって変更もします。いつもは洗濯物をたたむこともできるけど今日はあえてやらないとか。だって体調や予定や気分で人は変わるものですから。頑張らないことを頑張ってるんです!(笑)

―――頑張りすぎないために、誰かを頼ろうとしても、なかなか第一歩が踏み出せないというのもよく聞きます。頼るコツなどありますか?

そういう時は、あらかじめ「頼る」ことを練習して成功体験を積んでおくのが良いと思います。す。急に人に頼ると、いろいろ自分の思った通りに行かなくて、がっかりしてしまうので。たとえば、本当に自分が熱を出したときにシッターさんを頼むのではなく、あえて元気なときに週1回くらいのペースでシッターさんを頼んでおくのはどうでしょうか。普段から少しずつ頼る先、依存する先を見つけてつながりを作っておくと、安心して過ごせると思います。

自分が譲れないところを探っておくのが人にうまく頼るコツ

『ママは身長100cm』(伊是名夏子/ディスカヴァー・トゥエンティワン)より

―――たくさんのヘルパーさんとうまくやっていくために、伊是名さんが心がけているのはどんなことですか?

頼ることのデメリットも心しておくことでしょうか。例えばヘルパーさんに「ふきんでテーブルを拭いてください」とお願いしたとき、拭き終わったふきんをどうするかって、人によって全く違うんですよ。半分に折って干す人もいるし、そのまま台に置く人もいるし、そのまま洗濯機に入れる人もいる。ただ「ふきんをテーブルで拭く」ことひとつでも、すべて自分の思った通りにしてもらうのは、とても難しいんです。だから自分でも譲るところは譲るし、どうしても譲れないところを探っておく必要がある。

―――なるほど、受け入れる点、そうでない点を明確にするということですね。パートナーともそのようにして関係を築いているのでしょうか?

そうですね。パートナーとはしょっちゅうケンカもしてますよ(笑)パートナーシップはどんな人間関係よりも難しいのかも!!

たくさんの大人と出会って「社会にはいろいろな人がいる」と子どもも学ぶ

今、伊是名さんのところに来ているヘルパーさんは事業所などを通さず、すべて友達や知り合いを通じて自分で探した人ばかりなのだそう。高校生やお坊さん、保育士、パティシエ、ピアニスト……と世代も職業もさまざまな人が集まっています。お風呂上がりに子どもの顔や体に保湿クリームを塗るのも、丁寧に塗る人もいれば、パパっと手早くやる人も。そんな経験をしていれば「社会にはいろいろな人がいる」ということを自然と学んでいけそうと思うそうです。

また、年に2回伊是名さん宅でヘルパーパーティを開催することで全員が顔見知りになり、普段は会うことがなくてもお互いのことを思いながら家事にをしてくれるのだそう。頼ることも助けることも素敵だなと感じてくる伊是名さんの子育てについてもっと知りたい方はぜひ著書『ママは身長100cm』を読んでみてくださいね。
(文/古川はる香)

●Profile
コラムニスト 伊是名夏子
1982年沖縄県生まれ。骨の弱い障がい「骨形成不全」で日常生活に電動車いすを使用。身長100cm、体重20kg、右耳が聞こえない。ハイリスクや妊娠、出産を乗り越え、6歳と4歳の子育てを、ヘルパーやボランティア、ファミリーサポートなど、総勢15人以上に支えながらこなしている。「障がい者は助けてもらうのではなく、お互いに助け合う存在」をテーマに全国で講演のほか、ファッションショーや舞台でも活躍中。

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