小学6年生で身長191cm、「俺だって、みんなと同じなのに・・・」。子ども時代は背の高さが原因で傷ついたことも【プロバスケ選手・谷口大智】
プロバスケットボール選手で、B1リーグ島根スサノオマジックに所属している谷口大智選手。谷口選手は6歳、5歳、2歳、1歳の子どものパパでもあります。谷口選手は2024年秋、『はいるかな』という絵本を監修しました。絵本のテーマは「みんなと違う自分の個性」「コンプレックスこそ長所だ」です。
谷口選手に、バスケットボールとの出会いや自身の子ども時代のこと、4人の子どもたちの育児などについて聞きました。全2回インタビューの前編です。
1日11時間の睡眠のおかげ!? 小学生のときは1年間で10cmずつ成長
谷口大智選手は奈良県の出身です。バスケットボール一家で育ちました。
――谷口選手がバスケットボールを始めたきっかけを教えてください。
谷口さん(以下敬称略) 僕の両親は高校でバスケットボール部の指導者をしていました。休日の練習のときなどは体育館に僕を連れて行っていました。そのため僕にとっては2歳ごろから、バスケットボールが身近にあった感じです。
――谷口選手は身長201cmですが、いつから大きくなったのでしょうか。
谷口 幼稚園のころからまわりの子よりは頭ひとつ分大きかったです。小学1年生のとき身長が140cmあり、1年間で10cmぐらいずつ伸びて、小学6年生のときは191cmありました。にょき、にょきという感じで背が伸びたので、僕の背中には皮膚が急に伸びたことでできた線のようなものがあります。妊娠線のようなものです。
――小学6年生で身長191cmはすごいですね! 両親も大きかったのでしょうか。
谷口 父は身長185cm、母は175cmです。僕には弟と妹がいます。弟・谷口光貴もプロバスケットボール選手で、ライジングゼファー福岡に所属しています。妹は保育士をしていますが、ずっとバスケットボールをしていて、高校時代はウィンターカップに出場しています。家族みんな身長が高いのですが、気づけば家族の中で僕がいちばん大きかったです。
――大きくなるために何か特別なことはしましたか。
谷口 とくに特別なことはしていません。牛乳は1日1リットルぐらい飲んでいた時期もありましたが、それも牛乳が好きだったからです。幼稚園や小学生のときは、とにかくよく寝ていました。毎日、夜8時には布団に入り、朝7時には起きる生活です。それも寝るのが好きだったからで、身長を意識したものではありません。
小学2年生のとき、交通事故にあって足を骨折して、学校を休んでいた時期があったのですが、運動不足で太り始めてしまって・・・。足が治ってからは、朝6時に起床して、父とジョギングをしてやせる努力をしましたが、それが登校前の日課になりました。
規則正しい生活と運動が、よかったのかもしれません。
子ども時代は、いろいろなスポーツを楽しんでほしい
谷口選手がバスケットボールに専念するようになったのは中学生から。それまでは、いろいろなスポーツをしていたと言います。
――谷口選手は、子どものころからバスケットボール一筋だったのでしょうか。
谷口 小学生のころは両親への反発もあって「バスケットボールはしない!」「サッカーのゴールキーパーになる」と言っていた時期もあります。習い事も小学生のときは、ミニバスのチームに入りながら、体操やスイミングにも通っていました。野球チームにも体験で入ったことがあるのですが、雨の日の練習が嫌でやめました。
――谷口選手は4人の子どものパパですが、子どもたちはバスケットボールを習わせたり、教えたりしていますか?
谷口 遊びの一環で、子どもたちとバスケットボールをすることはあっても教えるという感じではありません。
長男は6歳、長女は5歳ですが2人ともスイミングを習っています。長男は大谷翔平選手が大好きで、最近「野球がしたいからバットがほしい!」と言われました。あとはスケボーにも興味があるみたいです。
二男は2歳、三男は1歳なのでまだ習い事はしていません。でも二男が、いちばんバスケットボールに興味を示しています。
自分の経験からですが、子どものころはひとつのスポーツだけではなく、いろいろなスポーツを楽しんだほうがいいと思うんです。また僕はアメリカの留学経験がありますが、アメリカのプロスポーツの選手は、幼少期や学生時代はいくつものスポーツに取り組んでいる人が多いです。
スポーツによって体の使い方は違うので幼稚園、小学生のころは、いろいろなスポーツをしながら、バランスよく体を使ったほうがいいと思います。
ミニバスの試合では相手チームの保護者から敵視されたことも
谷口選手は、2024年10月に絵本『はいるかな』を出版しました。絵本のテーマは「みんなと違う自分の個性」です。谷口選手も子どものころ、みんなと違うことに悩んだ時期があったそうです。
――絵本『はいるかな』を出版した理由を教えてください。
谷口 絵本『はいるかな』のグラフィックアーティスト左右田薫さんと、僕は一緒に「WORLD ANIMAL NARRATIVE」(以下WAN)というブランドを立ち上げているんです。WANのコミュニティサイトで「WANの絵本を作ってほしい」という声が多くあり、制作することにしました。
――絵本のテーマは「みんなと違う自分の個性」です。このテーマを選んだ理由を教えてください。
谷口 先ほども話したように、僕は小学6年生で身長が191cmでした。ミニバスのチームでも群を抜いて大きかったです。小学生のころミニバスの試合に出て、僕がシュートを決めると相手チームの保護者から聞こえよがしに「大きいからずるい!」「バスケなめてる!」とか言われたことがあります。
小学校でもテストのとき、のぞけないようにみんな机を少しずつ離すのですが、担任の先生から別室でテストを受けるように言われたことがあります。「谷口は背が高くて、少しのぞき込めば見えてしまうだろうから」って言うんです。僕は怒り、そのとき教室を飛び出して自宅に帰ろうとしました。ほかの先生に校門のところで止められて連れ戻され、理由を話したんです。校長先生は「それはよくないね。ごめんね」と謝り、担任の教師が注意をされたという結末になりました。本当に嫌で悔しかった体験です。
また僕が通っていた小学校は、制服がある学校でした。白いポロシャツにグレーの半ズボンに校帽を着用して登校していました。小学生でも身長191cmあったので、登下校では知らない人にジロジロ見られたこともあります。
電車に小人料金で乗ろうとすると、駅員さんに呼び止められたこともあります。「僕だって、みんなと同じなのに・・・」と思い、子ども心に傷ついた経験がいっぱいありました。
――身長のコンプレックスを、どのように乗り越えたのでしょうか。
谷口 ミニバスの試合では、シュートを決めるとチームメイトや両親が喜んでくれたり、ほめてくれました。そのうち味方がわかってくれるなら、それでいい!と思えるようになったんです。
またバスケットボールを本格的に始めてから、この身長が僕の長所だし個性と考えられるようになりました。
――谷口選手は、4人の子どもたちに絵本『はいるかな』を読み聞かせましたか。
谷口 子どもたちに読み聞かせをしたら、すごく喜んでくれて「もう1回読んで!」「もう1回読んで!」と言われて、その日だけで6回も読み聞かせました。
絵本ではいろいろな動物がシュートを放つのですが、うまくいかない動物もいるんです。ある小学校では授業で、この絵本を教材にして、多様性についてみんなで話し合ってくれたそうです。
昨年秋、絵本が出版されたときには、僕も島根県の保育園に絵本の読み聞かせに行ったのですが、70人の子どもたちが目をキラキラさせて、ときには笑いながら絵本を見てくれました。「みんなと違ってもいい」ということが伝わるとうれしいです。
お話・写真提供/谷口大智さん 協力/株式会社バンダイナムコ 島根スサノオマジック 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
谷口大智選手は、現在、チームがある島根県に単身赴任中。家族は、自然豊かな山口県の周防大島で暮らしています。
インタビューの後編は、離れて暮らすからこそ大切にしたい家族との時間やスラムダンク奨学金の奨学生に選ばれ、アメリカに留学した経験を聞きます。
谷口大智選手(たにぐちだいち)
プロバスケットボール選手。高校時代にはウィンターカップ3連覇を達成し、その後スラムダンク奨学金の第2期奨学生として、アメリカに留学。2025年現在、Bリーグ島根スサノオマジック所属。3男1女の父。
●記事の内容は2025年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『はいるかな』
動物たちがバスケットボールにチャレンジ。うさぎや猫、きりんなどいろいろな動物がそれぞれのシュートを放つ、ほのぼのとした繰り返し絵本。谷口大智監修・字 はっとりひろき・左右田薫作・絵/1430円(ニコモ)