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剣を振り回す遊び、やめさせるべき?「2・3歳の男の子の不思議」をプロに聞く

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子供とバルーン殺陣
Radist/gettyimages

男の子の行動や考えていることがわからないというママは少なくないようです。とくに行動が激しくなる2歳・3歳ごろというのは、何をいっても聞いてくれず、「どうしてそんなことするの!」「何回もいってるでしょ!」と声を荒らげてしまうこともあるかもしれません。「男の子ってよくわからなくて大変!」と感じているママがラクになる、いい方法はないものでしょうか。男の子の父親であり保育士のキャリアも持つ大阪教育大学教育学部准教授(家政教育講座)の小﨑恭弘先生に聞きました。

「不思議の国のアリスくん」がそこにいる!

――ズバリ、2歳・3歳ごろ男の子の育児に悩むママがラクになる方法はありますか?

小﨑先生:「わからなくてもいい」と開き直ることです。ママが感じるしんどさやストレスは、「男の子ってわからない」というところから来ています。自分がおなかを痛めて産んだ子なのに、「どうして?」「なぜ?」というクエスチョンが次から次に出てくる。そのことにショックを受けやすいのです。ママにとって、息子は自分からいちばん近い存在に思えるかもしれませんが、実はママと息子の関係はいちばん遠い。男と女、大人と子ども、親と子。対極にいる存在だから、理解できなくて当然なんです。

――近いようで遠い。少しせつない話ですね…。

小﨑先生:でも、わからないことは決して不幸ではないんですよ。わからないから理解しようとする。これはとてもすてきなこと。最初から全部理解できていたら、新しい発見もありませんよ。ママは、「不思議の国のアリスくん」と暮らしていると思えばいいんです。せっかく息子と大冒険に出かけるチケットを手に入れたのだから、努力するだけでなく楽しみましょう。楽しくないのに努力しても、しんどいだけですから。

――男の子のフシギについて、最初はどんなことから理解すればいいでしょうか?

小﨑先生:まずは男の子の傾向をつかむことが大切です。もちろん個人差があることなのでいちがいにみんなそうとは決していえませんが、たとえば一般的に男の子は女の子に比べて、「運動能力が高い」「言葉のコミュニケーションが苦手」「プライドが高い」「負けず嫌い」などといわれることがあります。
そのような傾向があるかもということを踏まえてさえおけば、子どもがたたく、押す、かむといったことをしたときに、「まだきちんと話せないから身体的なコミュニケーションを取りやすいんだな」と考えることができます。傾向がわかっていないと、「どうしてこんなに暴力的なんだろう?」と思うかもしれませんが、2・3歳ごろはまだ考えるより先に体が動いているだけのことが多いのです。

――そういった傾向は環境によって決まることもあるのでしょうか?

小﨑先生:そんなふうに育てていないつもりでも、また、ジェンダーフリーの考え方が出てきていても、社会からそういった“男の子像”を植えつけられていることもあります。テレビ番組や子ども用のおもちゃなんかも、まだまだ「男の子は強くて立派でリーダーシップがある」というイメージをもとに作られているものが多いですよね。まわりの大人が「男の子なんだから泣かないで」ということもあります。男の子も自分が何をいわれているかは理解していて、「男らしくないといけない」とプレッシャーを感じやすくなっています。

剣を振り回す遊び、やめさせるべき?

――「お友だちにけがをさせたくない」という思いから、たたいたり押したりということは注意したいでしょうし、おもちゃの剣を振り回すような遊びはなるべくさせたくないというママも少なくないと思います。

小﨑先生:「剣を振り回してはいけません」「けがをさせてはいけません」というのは、大人が決めている社会のルールです。そのルールに「合わせなさい」というのは、一見正しいように思えますが、2歳・3歳の子どもには理解できません。この年ごろの子どもというのは、夢と現実が混ざり合ったドリーマーで、自分独自の世界観を持っています。その世界に、ママのほうから飛び込んでみてください。剣を振り回していたら、ときどきママも本気で遊んでみる。その中で発見があるでしょう。「この剣はかたくて当たると痛いから、新聞紙を丸めて遊ぼう」とか。そもそも剣のおもちゃがダメだというなら、剣道はどうですか?

――剣道はスポーツなのでいいと思いますが…。

小﨑先生:剣道はルールの中でやることだから、いいと思うんでしょうね。それなら、おもちゃの剣の遊びも、ルールを覚えさせていく方向に持っていったらいいと思いますよ。ママが本気で戦ってくれたら、「大好きなママが僕の世界に来てくれた!」と子どもは喜びます。ずっとやるとしんどいから、“たまに”でいい。そこで満足すれば、外で危険に振り回すこともなくなると思いますよ。

――「ルールを覚えさせる」ということでいうと、みんなで遊ぶおもちゃを独り占めしないように注意されても友だちに貸したがらない子どももよく見かけます。みんなと仲よく遊べない場合はどうすればいいんでしょう?

小﨑先生:2歳・3歳であれば、まだお友だちと仲よく遊べなくても問題ありません。「いやだー!」「これ僕のー!」と、自分を思いきり出す時期だからです。たとえば保育園で10人の子どもに10個の人形を用意したとしたら、1人の子が10個独占するようなことはよくある話。「1人1個」はあくまで大人の都合で決めているルールで、「この世界のものは全部自分のもの」と思っている2歳・3歳の子どもに対しては意味がありません。ママにいわれて変わるというよりも、自分が世界の中心なのにうまくいかないという葛藤の中で、がまんしたり、ゆずったりといったことを学んでいくのです。

子どもをコントロールするのではなく、環境を整える

――今すぐいうことを聞いてほしいというママには頭の痛い話ですね。

小﨑先生:まず、「自分の息子はいうことを聞くものだ」という思い込みを捨てましょう。自分の世界に夢中な子どもは、ママのいうことなんて聞いていません。保育園などに通い始めたら、使ってほしくない下品な言葉もたくさん覚えてきますよ。そのうち「バカー」とか「ウンコー」といって喜びだすでしょう。いい言葉だけ覚えるなんて、そんな都合のいいことはありません。子どもは親にとって都合のいいこと、悪いこと、何でもスポンジのように吸収します。それが成長というものです。

――親は見守るくらいでちょうどいいということでしょうか?

小﨑先生:親がしてあげられることは、子どもが自分で取捨選択をできるようにすることくらいだと思います。子どもの好きな方向に親がつき合うと、子どもは驚くほどの力を発揮します。親がうまくコントロールしようとしても、子どもとの軋轢(あつれき)が生まれ、親にも子どもにもストレスになるだけです。

――事故などの危険を回避するためは、コントロールが必要になることもあるのでは?

小﨑先生:幼児の死因として「不慮の事故」は上位にあるものなので、その点には注意しないといけません。そのために必要なのは、コントロールではなく「環境を整える」ということ。危ない状況になってから対応するのではなく、危ない状況になる前に対策しておくのです。そうするとイライラも減ります。たとえば道路側に子どもを立たせない、歩かせない。親が道路側に立っておけば、多少子どもが動いても大丈夫ですよね。大事なものは高いところに置く、鍵つきの箱に入れておく。ポイントをおさえたうえで、子どもの自由にさせるのです。

「元・男の子」のパパを活用してみる

――筆者は二児の父親なのですが、個人的な実感として息子への対応がわからないとき、ママはだれに相談すべきでしょう?

小﨑先生:身近な相談相手としては、パパやじいじ、すでに男の子を育てている先輩ママがいいと思います。

――個人的な実感として、パパの意見はあまり参考にされていないような気がしますが…。

小﨑先生:「ほっときゃいいじゃん」などと言いがちではありませんか?

――いいますね…。

小﨑先生:ママにはフシギに見える行動でも、「元・男の子」のパパにはそれが理解できてしまうので、そういってしまうのです。でもそれではママの参考になりません。ママがイライラしてしまう根底には不安があるので、ママの気持ちに寄り添いながら、パパが「大丈夫だよ」とちゃんといってあげることが大事ですね。

――なるほど。パパがそういうママ目線を持つことも大切ですね。

小﨑先生:一方のママも、「パパは役に立たない」と決めつけるのではなく、パパをもっと活用すべきです。たとえばパパと息子を一緒に遊ばせる。子どもの遊びについていけないパパも多いと思いますが、無理に子どもに迎合しなくても、パパが得意なことに巻き込めばいいのです。スポーツ観戦が好きなら、子どもを一緒に連れて行くとか。そういったことをしながら、子どもはいろいろなことに興味を持ち始めます。自分が楽しいこと、好きなことをやっているときに、男の子は成長していくのです。

「男の子ってわからない!」とイライラする妻に、「ほっときゃいいじゃん」以外にも、「大げさ」「そんなもんでしょ」などと返していた筆者(4歳・0歳男児の父)。パパに見えている世界とママに見えている世界が少し違うかもしれないことに、気づいていなかったのだと思います。「元・男の子」の自分が忘れていた、あるいは自覚していなかった男の子の傾向のようなものを少し考えてみようかな、と思いました。
(取材・文/香川 誠、ひよこクラブ編集部)

■監修/小﨑恭弘先生
大阪教育大学教育学部教員養成課程准教授(家政教育講座)。西宮市初の男性保育士として活躍したのち、大学の准教授やNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の顧問として活動中。3男の父。

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