どのニュースを信じればいいの? 子どもに教えるべき「メディアリテラシー」を専門家に聞く
私たちの身のまわりにあふれるパソコンやスマートフォン、タブレットなどの情報機器は、今や大人だけではなく子どもにとっても身近なものです。
しかし、便利な情報機器も上手につき合っていかなければ、誤った情報に振り回されてしまったり、トラブルに巻き込まれてしまうことも。
これからのネット社会を生きるわが子には、正しくメディアを使いこなす力を身につけてほしいと願うママやパパも多いのではないでしょうか。
3児のママである、明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科専任准教授・五十嵐悠紀先生に「メディアリテラシー」について聞きました。
メディアリテラシーを身につけて正しい情報を手に入れよう
――-ネットが普及し、SNSなどを利用する人も多い中でよく「メディアリテラシーを身につけなさい」ということを耳にするのですが、そもそもメディアリテラシーとはどのような意味なのでしょうか?
五十嵐先生:ひと言でいえば“情報を伝達するメディアを使いこなす力”のことです。
いろんな情報が入ってきたときにすべてをうのみにせず、「その情報には信頼性があるか?」「ソースは?」と自分の目で見きわめ、自分に必要な情報を選択する、ということができるかどうかということです。“情報を読み解く力”ともいえるでしょう。
――-さまざまなメディアの普及で、手軽に情報が手に入れられる分、間違った情報もあふれていますよね。
五十嵐先生:間違った情報もありますし、一つのニュースでも新聞、テレビ、ネット、週刊誌で違う見方をしていることもあります。
情報はいろんな伝え方ができるので、隠ぺいや誘導もできてしまうんです。
――自分で情報を取捨選択していかないと、膨大な量の情報に都度振り回されてしまったり、偏った見方をしてしまったりしそうですね。
五十嵐先生:実際に大学の授業で、“一つのニュースをピックアップして、いろいろな媒体でニュースを調べる”という課題を出したことがあるのですが、課題を終えた学生からは「一つの媒体だけでそのニュースを見るのと、いろんな媒体でそのニュースを見るのとでは、持った印象が違った」という声があがりました。
多方面から見つめることで、その本質をより理解することができるのではないでしょうか。
メディアリテラシー、子どもにどう伝える?
――-最近では幼児から情報機器を使っているケースも増えていますが、子どもにもメディアリテラシーを身につけさせていくとき、どのように伝えればいいでしょうか?
五十嵐先生:子どもはまだメディアやネットの世界のことなど、理解できていない部分も多いと思うんですが、子どもの身のまわりで起こったことをきっかけに話すのがいいのではないでしょうか。
――具体的にはどのようなことでしょうか?
五十嵐先生:たとえば、子どもがアプリで遊んでいるときに個人情報の入力を求められた場合、それをきっかけに「安易に個人情報を入力していいのか?」、「アプリを使う上で必要だからざっくりとした情報なら入力してもいいのか?」など親子で話し合うきっかけにするんです。
また、個人情報に関しては「オンライン上で入力するということは、あなたが公園で自分の名前や住所を叫んでいることと同じだよ」と、実生活とリンクさせて話をするとより伝わりやすいかもしれません。
――子どもの経験に基づくことであれば子どももイメージしやすそうですね。
五十嵐先生:また、アプリというのは企業が作っている有料のものから個人で作った無料のもの、情報収集のために悪意を持って作られたものなどさまざま。
ただの懐中電灯のアプリなのに“電話帳へのアクセスを求めています”などの表示が出たら注意が必要です。その都度子どもにもどうして注意が必要なのか、ということを伝えていきましょう。
――子どもがどんなメディアをどのように使っているのか、というのはしっかり把握しておく必要がありますね。
五十嵐先生:そうですね。本当は何か起こる前に説明できればいいのですが、何か起こる前だと幼児のうちはまだ理解できないことも多いので、しっかり見守って「危なっかしいな」と思ったときにその都度説明したほうがわかりやすいと思います。
幼児の場合はメディアを使った失敗もそんな大ごとにはならない場合が多いですしね。
――子どもがオンラインで遊ぶときは必ず親の目が届く場所で遊ばせることが大切ですね。
五十嵐先生:幼児期は受け身なことが多いですが、徐々に自分から発信もできるようになるので、小さいうちから家族でメディアの使い方を意識して話し合っていけるといいですね。
ママやパパも常に情報をアップデートして
――ネット社会を生きる子どもたちを育てるママやパパができることはどんなことでしょうか?
五十嵐先生:私たちを取り巻く環境は、技術の進歩とともに日々変化し、その都度必要とされる能力も変わっていきます。
“一回勉強したから終わり”ではなく、さまざまなアンテナを張って常に意識していくことが大事です。
――今は子どものほうが知っていることも多く、情報をアップデートしていかないと、あっという間に子どもたちに追い抜かされてしまいそうです。
五十嵐先生:ママやパパも毎日忙しいと思いますが、情報や情報機器を与えっぱなしにするのではなく、一緒に遊び、一緒に学ぶ姿勢を大切にしてほしいと思います。
そうすることで、子どもの興味のタネがどこにあるのか、勉強のきっかけや学びたい気持ちがどこにあるかを知ることもできます。
子育てはもちろんいつかは手を離さなくてはいけないときがきますが、幼児期から親子での会話を大事にして、大きくなってもメディアの使い方について話ができたり、悩みごとを打ち明けられたりする関係を築いていけるといいと思います。(取材・文/大月真衣子、ひよこクラブ編集部)
SNSに画像や文章をアップするとき、「本当にアップして大丈夫なのか」ということをいったん立ち止まって考えることも大事なメディアリテラシーの一つです。
ささいなことですが、自分や家族の身を守るためにも、大人の私たちから正しいメディアリテラシーを身につけて、子どもと一緒に考えていきましょう。
■監修/五十嵐悠紀先生
(明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科専任准教授)
1982年生まれ。お茶の水女子大学理学部情報科学科卒業、東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻修士課程修了。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。著書に「AI世代のデジタル教育 6歳までにきたえておきたい能力55」(河出書房新社)や「スマホに振り回される子 スマホを使いこなす子 (ネット社会の子育て) 」(ジーアス出版)など。