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1歳でわが子がガンに。自責の念でつぶれそうなママに看護師がかけた言葉は――

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(書籍『こどもホスピス 限りある小さな命が輝く場所 より)

特集「たまひよ 家族を考える」では、子育てのさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも育てやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。
ここでは「こどもホスピス」建設に奮闘する父、小児科医、患児家族の物語を3回にわけて紹介します。
前回までの「6歳でこの世を去った娘から託された願い―父親が『こどもホスピス』建設に向け奮闘」、「『こどもホスピス』建設を支援する小児科医が考える、『いのち』をめぐる子どもとの対話」に続き、今回はわが子がガンであると告知された母の物語です。

病気の子をかかえる親のエピソードからみる「孤立しない子育て」

難病や重い障がいを持つ子どもは、日本全国に約20万人。日本には、病気や障がいと闘っている子どもや家族がたくさんいます。

わが子に重い病気や障がいがあると知ったとき、平静でいられる親はいません。
「うちの子が病気になるなんて」と悲嘆したり、「なにが悪かったのか」と原因を突きとめようとしたり、「もっと早く病院に連れてきていれば」と過去を悔やんだり……自責の念にかられ、途方にくれる親は多いです。
一方、「子どもの問題は親が解決すべき」「家族の問題をオープンにするべきではない」という風潮も根強く、このことが家族の孤立化に拍車をかけます。

今回は、病気の子どもを抱える親たちのエピソードを通じて、「孤立しない子育て」について考えます。

涙がでない日はないほど、自分を責めて暮らしていた

安井恵子さんの第一子である伸吾くんは、市で行われる3カ月健診で、体重の増え方がゆっくりであることを指摘され、大学病院の小児科に通うことになりました。恵子さんは、初めての子育てで不安いっぱい。まだ1歳にも満たないわが子を連れて、緊張しながら、何度も大学病院に通いました。

レントゲン室に行くと、部屋の前でパッと子どもをとりあげられ、裸にされ、冷たい台のうえに寝かされ、動かないようにネットをかけられる。当然、火がついたように泣く息子。必要な処置だとわかっていても、その声を聞くのが切なくて、悲しくて、たまりませんでした。

「なぜ、体重が増えないの?」「息子は、いつまでこの検査を受けなければいけないんだろう」……疑念と不安は深まるばかりでした。

あるとき、恵子さんはこども専門の総合病院への転院を決めます。その病院を訪れた初日、看護師さんが恵子さんの横に座り、こんなふうに声をかけました。

「お母さんは、大丈夫? これまで本当に大変でしたね」

まったく思いもよらない言葉に恵子さんは、驚きました。
「えっ? 息子だけではなく、‟私”のことまで心配してくれるの?」
言葉にならない感情が押しよせてきて、次の瞬間、恵子さんは、わあっと号泣しました。

恵子さんはこう語ります。
「当時の私は、誰のせいでもないとわかっていても、やはり自分を責めて暮らしていました。なにか悪いことをしたのかなあ。妊娠中に変なものを食べたかなあと、ずっと考えていたんです。それでも私が頑張らなきゃいけない。母親として、私がしっかりしなくてはと気を張っていたところに、優しい言葉をかけられて、感情が爆発してしまった。もう一人で抱え込まなくてもいいんだって、力が抜けました」

伸吾くんは、このあとの検査で、小児がんを告知されます。息子の命にかかわる、さまざまな治療の決断をしなければならないことは、恵子さんにとってあまりにつらく大変なことでした。しかし思い悩む恵子さんの傍らにはいつも、優しく寄り添う看護師さんの姿がありました。

「お母さん、今どんなことを考えているか、気持ちを聞かせて」
そう声をかけ、背中をさすりながら、話を聞いてくれたのです。親の気持ちを理解し、寄り添ってくれる人がいるかどうかで、親の負担は小さくも大きくもなり得るのだと感じます。

こどもホスピスの役割のひとつは「母親を休ませること」

「こどもホスピス」をご存知でしょうか。この言葉自体、初めて聞いたという方も多いかもしれません。

こどもホスピスとは、命を脅かされる病を抱えた子どもと家族が、安心して楽しく過ごせる小児緩和ケア専門施設のこと。
治療や緩和ケアに精通した看護師や保育士が常駐し、子どもの学びや遊びを支援。家族には休息の時間をもたらし、病児の親同士のつながりもつくります。「病気の子どもと家族を、家庭というコミュニティのなかだけに押しこめ、孤立させない」ことも、こどもホスピスが果たす大切な役割です。

ここで、書籍『こどもホスピス 限りある小さな命が輝く場所』(田川尚登著)に収録された、ドイツで暮らす日本人のお母さんのエピソードを紹介させてください。

病気の長男を育てていた、このお母さんは、医師からこどもホスピスの利用を勧められました。「子どもは重篤な状態ではないのに、なぜ利用しなければならないのですか?」、そう医師に尋ねると「お母さん、あなたを休ませるためです」と言われたそうです。彼女は「自分自身の休息のために、息子を預けてもいいの?」と驚いたといいます。

このお母さんは、年間28日、無料でこどもホスピスを利用しました。こどもホスピスは、息子さんの病院と連携しており、なにかあれば医師の診察を受けることが可能でした。そのため、安心して子どもを任せられたそうです。
また、彼女が住んでいる地域にはこどもホスピス以外にも、子どもたちの面倒を見てくれる団体が複数あり、気軽に子育てをシェアできました。長男を病院に連れていくときや、買い物に行くとき、きょうだいの預かりを頼むこともできたそうです。

「日本では、『家族の看病は家族が行うもの』と考えている人が多い気がします。頑張ってあたりまえ。つらい思いをして当然。家族なのだから仕方ない。そんな雰囲気を感じるのです。でもドイツでは、母親が『看病がつらい!』『もうしんどいよ!』と周囲に伝えていいムードがありました。そう告げても、あまり大袈裟に受けとられないのです。まわりにいる人も、そのつらさをあたりまえのこと、自然にわきあがってくる気持ちだと受けとめてくれました。『そうよね。大変よね。じゃあ、手を貸そうか?』とサラッと言ってくれるのです。自分一人で頑張らなくてもいい、自分の気持ちを隠さなくてもいい文化は、とてもありがたかったです」

病気と闘う家族を支える、第二のわが家

ファミリーハウス「リラのいえ」(書籍『こどもホスピス 限りある小さな命が輝く場所 より)

書籍『こどもホスピス 限りある小さな命が輝く場所』の著者であり、現在、横浜市にこどもホスピスを建設しようと奮闘している田川尚登さんは、次女はるかさん(6歳)を小児脳幹部グリオーマという難病で亡くしました。

娘さんの闘病中、目にしたのは、病院のロビーや駐車場の車のなかで寝泊まりする親の姿です。「病気と闘う子どもと家族のために、安心して寝泊まりできる宿泊滞在施設が必要だ」と感じた田川さんは、2008年、神奈川県の小児がん拠点病院から徒歩5分の場所にファミリーハウス「リラのいえ」をつくりました。

「リラのいえ」が目指すのは、帰ってきたときに‟ほっ”とできる第二のわが家です。スタッフは利用者に対して、「いってらっしゃい」「おかえりなさい」と心をこめて挨拶し、心地よい適度な距離感を大切にしながら、利用者からの求めがあれば、いつでもなんでも相談に乗ります。

お子さんの入院中、「リラのいえ」に宿泊していたお母さんが、田川さんに話をしてくれたことがありました。
「この施設を利用する前は、子どもの入院中、私はマンスリーマンションを借りて生活していました。病院の近隣に宿泊場所がないため、面会時間が終わった22時頃からバスや電車を乗り継いで、借りた部屋に戻る生活。着いた頃にはもう深夜です。食事をとる気力も残っておらず、コンビニで買ったおにぎりを無理やり口に入れて、ベッドに倒れこみます。心も体も悲鳴をあげているのに熟睡できず、どんどん気持ちも沈んでいきました。

リラのいえを利用するようになって、私は本当に救われたんです。リラのいえに戻れば、管理人さんが『おかえりなさい』と迎えてくれます。その瞬間、どれだけほっとしたか。病院から近く、すぐに行き来できる利便性ももちろんありがたいのですが、私にとっては、誰かがいつも居てくれるということが心の支えになりました」

大切にしたい、家族同士のゆるやかな「つながり」

病児と家族の宿泊滞在施設「リラのいえ」では、リビングに人がいるあいだは、何時であっても灯りを消さないのが管理人のルール。「リラのいえ」を立ちあげ、今もなお当直で寝泊まりしている田川さんは、肩を寄せ合うようにして夜遅くまで話し込む、お母さん方の姿をよく見かけます。病気の子どもを持つ親にとって、子どものことを気兼ねなく話せる、相談できる時間は貴重なもの。たとえ病気の症状や状況がちがっても、「ひとりじゃない」と心強く思えるのではないでしょうか。

家族が孤立化しやすい現代において、家族同士がゆるやかにつながりを持つことは、とても大切です。子どもが病気でも、健康でも、お互いにあたたかい関心を寄せ合い、「大丈夫?」「なにかあったら声をかけてね」と気軽に言いあえる関係が、今、切実に求められているのを感じます。

横浜にこどもホスピスを立ち上げる計画は、建設予定地が決まり、建設費用のための募金額は3億円を達成しました。2021年夏の開所までもう一歩です。開設後は、病気の子だけではなく、地域に暮らすさまざまな子どもや大人が訪れられる交流の場になればと、田川さんは考えています。

6歳で亡くなった娘さんのこと、田川さんのこれまでの活動の軌跡は、書籍「こどもホスピス 限りある小さな命が輝く場所」にまとめられています。本記事でご紹介した安井恵子さんはじめ、限りある小さな命と精一杯向き合ったご家族の姿や世界のこどもホスピス事情も綴られています。一人でも多くの方に「こどもホスピス」の存在を知ってもらい、病気の子やその家族にあたたかい関心が寄せられる社会になってほしい。そんな願いが込められた1冊です。
(文/猪俣奈央子)

●Profile

田川尚登
1957年、神奈川県横浜市生まれ。2003年、NPO法人スマイルオブキッズを設立。2008年、病児と家族のための宿泊滞在施設「リラのいえ」を立ち上げる。2017年、NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクトを設立し、代表理事に就任。ほか、NPO法人日本脳腫瘍ネットワーク副理事長、一般社団法人希少がんネットワーク理事、神奈川県こども医療センター倫理委員を務める。2019年12月、初著書となる「こどもホスピス 限りある小さな命が輝く場所」を出版。「病気や障がいがある子どもと家族の未来を変えていく」をモットーに、小児緩和ケアとこどもホスピスの普及を目指している。

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