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「こどもホスピス」建設を支援する小児科医が考える、「いのち」をめぐる子どもとの対話

Sasiistock/gettyimages

特集「たまひよ 家族を考える」では、子育てのさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも育てやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。
今回は、「こどもホスピス」建設に奮闘する父、小児科医、患児家族の物語を3回にわけて紹介します。前回の「6歳でこの世を去った娘から託された願い―父親が『こどもホスピス』建設に向け奮闘」に引き続き、2回目は横浜こどもホスピスプロジェクトの理事を務める医師と考える、「医療現場における子どもへの告知や対話」についてです。

子どもから突然「ママ、死ぬってどういうこと?」と聞かれたら

突然ですが、お子さんからの質問にどのくらい真剣に答えていますか?

「ママ、あれなあに?」「チョウチョは、どうして飛べるの?」
忙しい日常のなかで、好奇心旺盛な子どもたちから投げかけられる、さまざまな疑問。その都度、対応していくのは至難の業ですよね。ただ、「正解のある質問」であれば、調べられるぶん、まだ答えやすいのかもしれません。

一方、「ママ、死ぬってどういうこと?」「死ぬと、どうなるの?」
このようなドキッとする質問だったら、どうでしょう? 大人だって、実はわからない。正解のない問いをどのように受けとめ、どんな言葉を返せばいいのでしょうか。

今回は、医療の現場で子どもから発せられる、さまざまな疑問に答えてきた、東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座教授(医学博士)であり、NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクトの理事を務める、柳澤隆昭先生にお話を聞き、「子どもとの対話」や「対話による関係づくり」について考えます。

●Profile 柳澤隆昭
東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座 教授
脳脊髄腫瘍、眼部腫瘍を専門とする小児科医。治癒困難な腫瘍の救命の道を見いだすこと、更に腫瘍・治療による障害を最小限にしてquality of life (QOL:生活の質)を向上させる治療を開発すること、子どもたちやご家族の直面するあらゆる問題に対応し、生涯にわたり支援することが可能なトータル・ケアを確立することを目標に診療・研究を続けている。


3歳の子どもにも病状を告知するイギリス

「僕ね、治療を始めたばかりなんだけど、薬の効果がよく出ているみたいなの」

今から20年以上前、柳澤先生がイギリスのがんセンターに赴任し、初めての回診を行ったとき、3歳の患児が話した言葉です。柳澤先生は、まだ幼い子どもたちが、自身の病状や治療内容について話す姿を見て、衝撃を受けました。

イギリスでは、子どもに対しても、‟自身が置かれている状況を知る権利がある”と捉え、病状や治療方針を告知するといいます。余命までは伝えないとしても、イラストを使って身体のなかで起こっていることをわかりやすく解説したり、専門用語を使わずにこれからどのような治療を行うのかを伝えたりするそうです。

「一方、日本では子どもへの告知内容は‟親(保護者)の意向”が尊重されることが一般的です。親が『病名や病状を告げずに、これからの治療方針だけを話してほしい』と希望すれば、ほとんどの場合、病院側はその思いを汲んで対応します。

子どもにどこまで告知をするか。治療の意思決定を誰が行うのか。このことは、子どもの年齢や性格、病気の進行状況はもちろん、『子どものアイデンティティをどう捉えるのか』『どのような親子関係を築いているのか』という家庭事情や国柄に加え、医療環境をめぐる歴史的背景が大きく反映されており、単純にその優劣を比較することはできません。

ただ、世界的には、幼い子どもであっても、一つひとつ丁寧に話をすれば十分に理解できるという考え方が主流であり、子どもを中心に治療方針を決めることがより良い治療に繋がると考えられています」(柳澤先生)

実は知らないふりをしているだけ? 親を気遣う子どもたち

「私はなんの病気なの?」「僕は死んじゃうの?」
こんなふうに両親や医療関係者に病名を問いただしたり、病気について尋ねたりする、日本の子どもは案外少ない、と柳澤先生は語ります。

子どもは、「自分はがんだ」と病名を知っていても、あえて知らないふりをすることがあるそうです。実際、柳澤先生が診た患児のなかにも、無事に退院できることになって初めて、「オレ、中学に入学できると思っていなかった」とぽろっと本音をこぼした子がいました。両親は、息子に病名を告知していませんでした。本人は重篤な病気であることを悟っていましたが、あえて知らないふりをしていたのです。
「親を困らせたくない」「これ以上悲しませたくない」と親を気遣う子どもが、実は多いのです。

すべてを赤裸々に語るのが必ずしもいいとは言いきれませんが、子どもは大人が想像している以上に、周囲を観察し、さまざまなことを察しているのかもしれません。大人が正直に語らなかったり、なにかを隠そうとしたり、タブー視したりしてしまうことで、子ども自身もまた感情を吐露しにくくなる側面があるのではないでしょうか。

「死」について語り合うことは、「生きる力」に繋がる

柳澤先生は現在、「横浜こどもホスピスプロジェクト」の理事として、日本にまだ2つしかないこどもホスピスを横浜に開設する活動を支援しています。こどもホスピスとは、命を脅かされる病気の子どもと家族が安心して楽しく過ごせる小児緩和ケアの専門施設です。

「横浜こどもホスピスプロジェクト」の発起人である田川尚登さんは、開設準備のため、こどもホスピスの先進国であるイギリス、オランダ、ドイツの施設を視察しました。各国のこどもホスピスを見て感じたのは、家庭的であたたかな雰囲気。そして死をタブー視するのではなく、「生」の延長線上にあるものとして捉える思想です。
たとえば海外のこどもホスピスでは、死について考えをめぐらせるワークショップが行われることがあります。死について描かれた本を読みあったり、「死んだあとの世界は?」をテーマに絵を描いたりすることもあるようです。死んだあとの世界がどうなっているのか、もちろん大人もわからないわけですから、誰も「正解」を持ち合わせていません。大人も子どもも、ジャッジされることなく、自由な発想で想像の翼を広げ、語り合うことができるでしょう。

「死」について思いをめぐらせることは、「生きること」について考えることだと田川さんは語ります。筆者が読んだ「こどもホスピス」について綴られた書籍には、「死」について語り合ったことで、かえって死への恐怖が消えた病児のエピソードが書かれていました。また、子どもを亡くした母親・父親のなかには「『たとえこの世を去ったとしても、あなたと私たちはずっと一緒』と生前に伝えられたことで、いつまでも子どもとの絆を感じられている」という人もいるそうです。
「死」への深い対話は、「誰と一緒にどう生きていきたいか」という心の真実を語り合う場にもなり得るのだと感じます。

子どもの問いに、真摯に耳を傾けてみよう

もしも、子どもからドキッとするような質問がなげかけられたとしたら、それは子どもと深く語り合うチャンスかもしれません。

柳澤先生は、病気の子どもから「私は死んじゃうの?」「これからどうなるの?」と問われたら、「すぐに返答しようとしなくていい」と教えてくれました。
「『親としてきちんと答えなければならない』『正しいことを教えなければならない』と身構えず、『なんて答えたらいいかわからないから』と会話を早く終えてしまおうとせず、落ち着いてひと呼吸おき、子どもに向き合ってみましょう。まずは「なぜ、そう感じたの?」「なぜ、聞いてみたいと思ったの?」などと、子どもの気持ちや意図を確認する質問を返してみましょう」(柳澤先生)

これは病気の子から発せられる質問だけに限った話ではないのかもしれません。語り合う自信がないこと、できれば隠しておきたいことも、子どもから問いかけられたときには、その気持ちを受けとめてみる。「あなたはどう思う?」と対話を始めてみる。子どもの話をさえぎったり、親の意見を押しつけたりせずに、子どもの思いをそのまま受けとめることさえできれば、お互いに「話せてよかった」「聞いてよかった」と思えるのではないでしょうか。親と子で深く語り合った体験は、子どもの考える力、対話する力を育て、親子の関係をより一層深めてくれるはずだと筆者は思います。

「こどもホスピス」建設に奮闘する父、小児科医、患児家族のエピソードを通じて、家族や子育てを考える本連載。次回は、限りある子どもの命に精一杯向き合った家族のエピソードを紹介します。

(文/猪俣奈央子)
※写真はイメージです

●Profile

田川尚登
1957年、神奈川県横浜市生まれ。2003年、NPO法人スマイルオブキッズを設立。2008年、病児と家族のための宿泊滞在施設「リラのいえ」を立ち上げる。2017年、NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクトを設立し、代表理事に就任。ほか、NPO法人日本脳腫瘍ネットワーク副理事長、一般社団法人希少がんネットワーク理事、神奈川県こども医療センター倫理委員を務める。2019年12月、初著書となる「こどもホスピス 限りある小さな命が輝く場所」を出版。「病気や障がいがある子どもと家族の未来を変えていく」をモットーに、小児緩和ケアとこどもホスピスの普及を目指している。

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