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新学期が始まる春。“魂の殺人”性被害から子どもを守るために知っておきたいこと【小児科医】

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●写真はイメージです 写真提供/ピクスタ

新学期が始まる春。新入園や新入学など、子どもの環境が変化するなかで、改めて考えたいのが子どもの性被害についてです。
子どもを性被害から守るために知っておきたいことについて、SNSで「ふらいと先生」としても知られる小児科医の今西洋介先生に聞きました。
3人の娘さんがいる今西先生は、「まだ幼かった長女を連れて一緒に男湯に入り、ただならぬ視線を感じたことがある」と言います。

被害者の3分の1は男の子

――最近、小児への性暴力事件の報道をよく目にします。日本では男の子は性被害に遭いにくいだろうという先入観をもつ人が多いように感じますが、実際はどうでしょうか。

今西先生(以下敬称略) 「小児性被害の対象となるのは女の子」というのが思い込みであることは、2023年に報道されたジャニー喜多川氏の性加害事件で示されたと思います。

2011年に発表された調査研究の分析(※1)によると、18歳になる前に男の子の7.9%、女の子の19.7%が性被害に遭っていたと報告されました。世界的な認識では、小児性被害の男女比は、およそ1:2と言われています。つまり3分の1は男の子が被害者ということです。

――「男の子だから大丈夫」と思ってはいけないのですね。

今西 男の子は女の子よりも性被害の経験を打ち明けることが少ないとわかっています。さまざまな理由がありますが、「弱みを見せる男は情けない」と見なされるような社会だとすると、性被害を受けたこと自体を悪いことだととらえ、隠してしまうこともあるでしょう。

また、男児の小児性被害でも加害者のほとんどが男性です。年長の男性から性被害を受けても何をされているかわからないことが、男の子が性被害を相談できない理由のひとつでもあります。「性暴力は魂の殺人」と言われますが、それは女の子だけではなく、男の子も同じです。

――男の子の親は、自分の子どもが性加害者になってしまわないかと心配することもあるようです。

今西 ひと昔前は、男の子同士がプライベートゾーンに触れてふざけ合うことはしばしば見られました。それが遊びや笑いとして成立した時代もありましたが、やはり、人のプライベートゾーンに触れることはよくないことだと教えなくてはいけません。それは「包括的性教育」のひとつです。包括的性教育とは、性に関する幅広い知識を体系的に学ぶ教育のことです。

私は現在アメリカに住んでいますが、保育園や学校だけでなく家でも包括的性教育の文化が根づいているので、5〜6歳の子どもたちがどれだけふざけ合っていても、同級生の体を触るようなことはしません。プライベートゾーンを露出するようなアニメも放送されません。お子さんが何歳であっても、親は「人のプライベートゾーンには触れない」ことを教えるべきです。

性被害に遭った男性が、将来的に自分のトラウマを隠すように加害者になってしまうパターンも少なくありません。万が一被害を受けてしまったら、適切に治療を受けることが大切です。なによりも、性被害・加害を予防するためには、家庭や学校での包括的性教育が不可欠です。

家庭で日常的にできる性教育は?

――家庭での性教育はどんなふうに進めるといいでしょうか?

今西 本来、包括的性教育は教育現場で取り組むべきですが、日本の教育現場ではなかなか進んでいない現状があるので、家庭での性教育が必要でしょう。WHO(世界保健機関)は5歳前からの包括的性教育を推奨しています。
子どもの年齢や発達状況に合わせて学ぶために、まずおすすめなのは絵本です。最近は『だいじ、だいじ、どーこだ?』(大泉書店)のように性について自然に学べる絵本があります。日々読み聞かせをしてあげれば、小さいうちからプライベートゾーンの大切さを自然に身につけることができるでしょう。

また、日常生活ではおふろの時間も性教育に最適です。始めから「ここは赤ちゃんができるところだよ」など生殖について教える必要はありません。まずは「ここは自分だけの大切なところだよ」「ほかの人に見せても触らせてはダメだよ」と、プライベートゾーンについて日常的に教えてあげるといいでしょう。親が子どものおむつ替えをするときに「おむつを替えてもいいかな〜」とか、着替えをさせるときに「着替えるから脱がせてもいい?」と、その都度子どもに聞くことも大事だと思います。

――ほかの人に自分の大切な場所を触られたときなどに「嫌だ」とはっきり言えるようになることも大事でしょうか。

今西 はい。幼児期には、今お話ししたようなプライベートゾーンのほかに、「同意」「バウンダリー」について身につけることも大切です。

同意は、ほかの人から何かしようと誘われたときに、自分の気持ちに沿って、「いいよ(YES)」「嫌だ(NO)」を決めて伝えていいという考えです。

バウンダリーは“境界線”のこと。自分のバウンダリーはそのときの状況や気分によっても変わるものです。たとえば、お兄ちゃんに「手をつなごう」と言われて、弟は「いいよ」というときと「今は嫌だ」というときがあると思います。人は、自分のバウンダリーを大事にしていいし、バウンダリーを越えて嫌なことをされたら「嫌だ」と意思表示していいのです。

親子の日常のやりとりで「嫌だったらNOと言っていいよ」ということを伝えていきましょう。子どもが「嫌だ」という意思を受け止めてもらえる経験を重ねると、自分の意思は尊重されるものだと身についていくでしょう。

――子どもの「嫌だ」を受け止めることが難しい場面もあります。たとえば、保育園の時間がせまっているのに「行きたくない」とぐずるとき、抱っこして連れて行ってしまったことがあるのですが・・・。

今西 子育て中は時間に追われることばかりですよね。子どもが同意できなくても、やむなく連れて行かなければいけないこともあるでしょう。そのときはしかたないとしても、改めて時間をとって「あのときなんで嫌だったの」「どうしたらいいかな」と子どもと話し合うといいと思います。

親も性教育の知識をアップデートして

●写真はイメージです 写真提供/ピクスタ

――父親にももっと小児性被害に対する意識を高めてもらいたい、という声もよく聞きます。

今西 まさに私が『みんなで守る子ども性被害』という本をつくった理由の1つが、父親の意識を高めてほしいということでした。

私自身、長女が幼いころには子どもを性の対象とする大人がいることに対してまだ認識がありませんでした。ですが、妻が扁桃腺の手術で入院中に、私が2歳だった長女を公衆浴場に連れて行ったとき、娘に対する男性からの視線に恐怖を感じたことがありました。

父親の意識を高めることが子どもの性被害を防ぐ1つの対策になると思うので、もちろん父親自ら手に取ってほしいと思いますし、この本を手に取ってくれた女性は、ぜひパートナーに渡してほしいです。さまざまなデータやエビデンスに基づいているので、男性にも興味を持ってもらえると思います。

――先生には3人の娘さんがいますが、家庭での性教育はどうしていますか?

今西 わが家の場合は妻が助産師なので、娘たちに段階的に教えてくれています。妻は、時折「今はこういう性教育の段階だよ」と私に娘たちの状況を教えてくれます。子どもに性の知識を教えるのは同性の親のほうが望ましいのかもしれませんが、夫婦間でその教育方針について相談しあい、合意の上で進めていくことが大事だと思います。シングルの家庭であれば、おじいちゃんやおばあちゃんに協力してもらうといいかもしれません。

性教育は人権教育ですから、大人もきちんと学び直しをする必要があるとも思います。2017年に強制性交等罪などの性犯罪に関する刑法が改正されて以降、社会の性に対する考え方が変わりました。大人も意識をアップデートしなければこれからの社会に残っていかれないことは、最近の芸能人の性加害事例を見ても明らかでしょう。

親自身も性教育を受けていない世代ですから、ぜひ子どもと一緒に性教育などについて書かれた本や絵本を読んで、学び直すことから始めてみてほしいです。

お話・監修/今西洋介先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

日本では子どもを性被害から守る社会的なしくみや教育がまだ整備されていない現状です。まずは親が性教育の知識を学び、家庭で子どもに正しく伝えることが、子どもを性被害から守る対策のひとつになるのではないでしょうか。

※1/Wihbey.J The Journalist’s Resource2011.

今西洋介先生(いまにしようすけ)

PROFILE
新生児科医・小児科医、医学博士(公衆衛生学)、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会の代表理事を務める。「ふらいと先生」の名でSNSを駆使し、小児医療・福祉に関する問題を社会課題として社会に提起。現在は米国在住。3姉妹の父。

『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る子ども性被害』

Xフォロワー14万人以上の小児科医「ふらいと先生」が、子どもたちを性被害から守るために必要な知識と具体的な対策を解説した一冊。被害の実態、子どもへの伝え方、大人ができる予防策などを具体的な事例とともにわかりやすく解説。今西洋介著/2090円(集英社インターナショナル)

●記事の内容は2025年3月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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