子どもの学力は何で決まる? 家庭環境や遺伝との関連は? 教育の専門家が回答
地方で子育てをするママから、口コミサイト「ウィメンズパーク」に以下の不安の声が寄せられました。
子どもの学力は環境で変わる?
「住んでいる町はだいぶ田舎で、ひとつの町に小学校中学校が1校しかありません。私の子どもはまだ0歳と3歳ですが、同じ年に生まれた子が30人前後だそうです。過疎化が進んでいる田舎で学校に通う子どもが可哀想というか…学力や人間関係に漠然とした不安があります」
子どもの学力は、そもそも持って生まれたものなのか、それとも、育つ環境や親の関わり方が影響するのでしょうか? 教育社会学に詳しい青山学院大学特任教授・耳塚寛明先生に聞きました。
トンビは鷹を生まない? 学力と遺伝は関係するの?
「学力が遺伝するかどうかと言われたら、人間も動物なので遺伝子が子どもの能力に何らかの影響を及ぼすことは否定できません。しかし、行動遺伝学という研究領域の成果を見ると、学力は、環境効果が小さいという法則が成り立たない、例外的な領域のひとつです。つまり、学力は、親から受け継ぐ遺伝的資質だけでなく、親の働きかけなどの家庭的背景や、その子どもの努力次第で変わる可能性を示唆しています。(耳塚寛明先生)
遺伝の影響は否定できないものの、学力の向上には「家庭的背景」が重要なようです。
では、「家庭的背景」とは具体的にどのようなことなのでしょうか?
家庭的背景を構成する3つの要素
「子どもの学力に影響すると言われる家庭的背景には、「経済的環境」「文化的環境」「人的ネットワーク」の3つがあります。
経済的環境は親の収入や教育費の投資額のこと。文化的環境は、書籍や美術品などが家庭にある環境、子どもの学業や行動経験(博物館、科学館などの文化的な経験)、自然体験を重視する価値観、子どもの計画性や自立を促す行動様式ことです。人的ネットワークは、子育ての助言を受けたり、助けてもらえたりするような人間関係づくりを指します。こうした3つの家庭的背景を整えている家庭ほど、学力が高くなる傾向があります。
経済的環境を急に変えることは難しいですが、文化的環境と人的ネットワークは、親の関わり次第で変えることは不可能ではありません。
親の意識や関与で子どもの学力は変わる!
これまでの研究で、子どもの学力に及ぼす影響は、保護者の社会経済的背景(SES= Socio-Economic Status。家庭の所得、父親や母親の学歴を合わせた指標)が高い家庭の子どものほど、学力が高い傾向にあることがわかっています。たしかに経済的に恵まれた家庭ほど文化的な環境を整えることにお金をかけることができますが、経済力が決定的に重要というわけではありません。
文部科学省が国立大学法人お茶の水女子大学に分析を委託した『学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究』(※)によると、
SESに関わらず親の働きかけが子どもの学力に及ぼす影響も大きいというデータが発表されました。
このグラフでは、標準化係数の値が大きいほど、学力に強く影響する可能性があることを示しています。SESの影響を取り除いたSES統制後のデータを見ると、「読書活動」「信頼関係・コミュニケーション」など、親の関わりが多いほど学力が高い傾向にあることがわかります。
中でも読書活動の影響は大きく、『子どもに本・新聞を読むようにすすめる』『小さい頃に読み聞かせをした』といった家庭ほど、学力が高いことがわかりました。親子の信頼関係・コミュニケーションの点では、『子どもと社会の出来事やニュースについて話をしている』という家庭ほど、学力が高い傾向にあります。
これは、親のSESの高さが必ずしも子どもの学力に相関するのではなく、読書活動や親子のコミュニケーションなど親の働きかけ次第で学力は高くなるということです。
普段から親子で読書をしたり、社会の出来事やニュース、将来の夢などを話題にコミュニケーションをとりながら、子どもの興味・好奇心を広げて、そこから学びを促すほうが子どもの学力アップに影響するということではないでしょうか」(耳塚寛明先生)
学力は、遺伝や親の経済力によって決まるものではなく、育つ環境や親の意識・関与による影響も大きいようです。トンビが鷹を生む可能性は…あり得るのだ!と取材を通して感じました。(文・酒井範子)
耳塚寛明先生
青山学院大学,コミュニティ人間科学部,学部特任教授。専門は教育社会学。著書に『平等の教育社会学 現代教育の診断と処方箋』などがある。
(※)出典:国立大学法人お茶の水女子大学『全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究』2013年度所収「家庭環境と子どもの学力」(垂見裕子)
https://www.nier.go.jp/13chousakekkahoukoku/kannren_chousa/pdf/hogosha_factorial_experiment.pdf