働くママの心に寄り添う点が人気!シニア世代「おせっかい」がウリの「ご家庭サポートサービス "東京かあさん"」
「家事育児はママもパパも一緒に」という考えが浸透しつつあるものの、今の社会制度ではまだ家事育児の負担が女性に大きくのしかかる現実も。パパが家事育児に積極的でも、共働き夫婦2人で家事育児を行っている場合、子どもの急病など突発的なアクシデントが発生したときの対応には苦心しているという人も多くいます。そういった問題を解決するため、家事支援サービスやベビーシッターなどを利用して家事育児をアウトソーシングする家庭も増えています。
そんな家事支援サービスで注目を集めているのが、2019年から東京都と神奈川県・千葉県の一部で展開されている、ちょっとおせっかいな「ご家庭サポート"東京かあさん"」です。原則60才以上のシニア世代が「お母さん」として登録。利用者がお母さんにお願いできるのは、掃除、料理、片づけ、洗濯といった家事全般のほか、子どものお世話、ペットのケア、話し相手などお母さんができることなら何でもOK。その中でも特に、利用者と担当のお母さんのコミュニケーションに重きが置かれているという部分にたまひよ編集部は注目しました。このサービスを生み出した株式会社ぴんぴんころりの代表・小日向えりさんにサービス誕生のきっかけ、ほかの家事支援サービスとの違いを聞きました。
「お母さん」と利用者がコミュニケーションをすることで、いい“おせっかい”が生まれる
――『東京かあさん』を思いついたきっかけから聞かせていただけますか?
すべては自分の経験からです。80才近くまで働いていた祖母が、仕事を辞めた途端元気がなくなり、ケガで入院してしまったんです。そのことがとてもショックで、高齢になっても働き続けられるような就労支援の必要性を感じ、2017年にシニア世代の就労支援サービスを行う企業を創業しました。さらに、バリバリ仕事をしていた姉の妊娠がわかったときに「おめでとう!」と電話をしたら、キャリアが止まってしまうことを悲観していて。女性の社会進出に課題があることを実感したことも『東京かあさん』誕生のきっかけのひとつです。
――ご自身の経験をいかして誕生したサービスなんですね。60才以上のシニア世代が家事や育児を支援してくれるサービスと聞くと、自治体のファミリーサポートやシルバー人材センターなどもあると思うのですが、『東京かあさん』との大きな違いはなんでしょうか?
ファミリーサポートでお願いできるのはお子さんの育児の援助のみで、家事はお願いできません。また、シルバー人材センターでは子どもの送迎はしてもらえないところが多いと思います。『東京かあさん』の場合は、1カ月で利用する回数と上限時間のみが決まっていて、当日「今日はお料理をしてほしい」「今日は子どものお迎えも」と頼んでも、派遣されているお母さんができることならやってもらえます。その柔軟性が『違い』だと思っています。
――家に来てくれる「お母さん」ができることでさえあれば、何をお願いしてもいいのですか?
そうですね。お母さんができることであればOKです。事前にお客様の希望を聞いてマッチングしたあと、詳細な依頼内容を決めていくのですが、その中でお母さんができないことが出てくる場合もあります。その際、お客様と「お母さん」でしっかり話し合い、折り合いをつけながら決定していきます。
――人対人のコミュニケーションありきのサービスなんですね。
はい。基本的にお世話好きなお母さんばかりなので、お客様との関係が深まってくると、頼んでいないことも先回りしてやってくれることもありますね。
――その「おせっかい」がとても特徴的だと感じました。「おせっかい」が心地よくあるためには、お母さんと利用者との相性がとても重要だと感じますが。
そうですね。データベースからお客様の自宅から近くて、求めているスキルが合うお母さんを何名か選びますが、そこからはお母さんの性格とお客様の性格を考えて、最も相性がよさそうなお母さんをご紹介しています。いいお母さん・悪いお母さんというのはいないんですよ。すべてお客様と合うか合わないかだと思います。運営側が「このお母さん、家事スキルはそんなに高くないけど大丈夫かな?」と心配していても、「子どもの面倒をみてもらいたい」というお客様とマッチングしてみると、「子どもがお母さんに来てもらうのを楽しみにしています!」と言っていただけたり、話し相手を求めていたお客様からとても喜ばれたりするんです。
シニア世代が「お母さん」として活躍することで、誰もが幸せになる社会に⁉
――実際にサービスをスタートさせてみて、意外だったことはありますか?
一般的な家事代行サービスのように「あれをやってください」と細かく指示しなくても、お母さんの判断で動いてくれるので、ひとり暮らしの男性の利用が多いと思っていたんです。それが始めてみると、子育て家庭の利用が8割と、思いのほか多くて。ただ家事や育児をやってもらう物理的なサポートだけでなく、合間に育児の悩みを相談したり、ちょっと愚痴を聞いてもらったりするのが心理的サポートにもなるみたいです。確かに「お母さんに助けてほしい!」と一番思うのは、子どもが生まれた直後かもしれないですよね。
――とてもよくわかります。「お母さん」として登録されているのは、主婦経験者の方ばかりでしょうか?
そうですね。子育ても経験されていてお世話好きな方が多いです。お客様のところに何度も通っているうちに、愛情がわいて娘や息子のように思えてきて、あれもこれもやってあげたいという気持ちが芽生えるようです。料理や裁縫などが得意という家庭的な方も多いですね。料理が得意なお母さんに来てもらったことで、家族が早く帰宅して家でご飯を食べるようになったというお客様もいらっしゃいました。
――お客様にいい変化があると、登録されているお母さんにとっても、やりがいがありますね。
前はしょっちゅう体調を崩していたのが生活にはりが出て、健康にも気をつかうようになったことで、風邪もひかなくなったというお母さんもいます。今、登録してるお母さんの中では81才の方が最高齢ですが、とても元気です。「大好きなお料理をして、おいしいと言ってもらい、その上お金までいただけて、こんなにいいことってあるのかしら?」と言ってくださいます」
――お母さんとして活躍することで、長く元気でいられて、働く世代も家事や育児がラクになり、仕事も頑張れるって、みんなが幸せになれるサービスですね。物理的にも心理的にもサポートしてくれる人がいたら、ひとりと言わず、2人、3人と子どもが生めるかもしれません。
そうですね。少子高齢化という課題はやはり強く意識しています。あと20年くらいしたら女性が子どもを生んでも働きやすい社会制度が整っていくとは思うのですが、それを待ってはいられないので。今は『東京かあさん』のようなサービスで社会を支えていけたらと思っています。
家事支援サービスは身近なものになっていますが、どこかで「家事を人に頼むなんて…」と罪悪感を持つ人もいるかもしれません。でも『東京かあさん』のようにシニア世代の活躍を支えるサービスであれば、利用することで自分が助かるだけでなく、シニア世代の雇用も生み出しているという考え方も。また、コミュニケーションを伴うサポートということで、「お母さん」たちはこれまで蓄えた家事の知識を次世代にシェアすることができ、働く世代はこなしきれない家事を誰かにシェアすることができるのも『東京かあさん』ならでは。両世代にとって幸せな、新しいビジネスかもしれません。
(文・古川はる香)
●Profile
小日向えり
歴ドル(歴史好きアイドル)として信州上田観光大使、会津親善大使、関ヶ原観光大使も務める一方、2017年に起業し、株式会社ぴんぴんころりの代表に。シニア世代の健康と生きがいの創造を目的に、シニア世代の就労支援サービスの開発と運営などを行う。