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誰だって明日を迎えられるのは奇跡 〜 赤はな先生と院内学級の子どもたち

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ワンオペ育児、孤育て、長時間労働、少子化…。本特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、誰ひとりとりこぼすことなく赤ちゃん・子どもたちの命と健康を守る世界のヒントを探したいと考えています。今回は院内学級の先生のインタビューを3回にわたってお届けします。

病院の外に「幸せ」があるの!?

みんなからは赤はな先生と呼ばれる副島賢和先生は、院内学級の教諭として、これまで二千人以上の病気の子どもたちに関わってきました。その姿は、大泉洋さん主演のドラマ『赤鼻のセンセイ』(2009年日本テレビ)のモチーフとなったり、NHK『プロフェッショナル仕事の流儀』で紹介されたりしたことも。2006年に昭和大学病院内院内学級「さいかち学級」の担任になってから14年、「病気の子どもに限らず、誰しも明日が来ることは奇跡だ」と、とても大切なことをニコニコと穏やかな口調で話します。でも、教え子の痛みは副島先生の痛み。これまで関わってきた全ての子どもが副島先生の原動力となっているようです。

第1回は、院内学級の存在意義、副島先生が院内学級の教諭になった理由などをお聞きします。

―― 院内学級に関わられるようになったきっかけを教えてください。

(副島先生 以下敬称略)
僕も子どもの頃からよく病気をして、入院したり退院したり、学校を休んだりすることがありました。教員になって6年目に肺の病気になり、その後、3回の入退院を繰り返しました。当時僕は6年生を担任しているのに、子どもたちを修学旅行に連れて行けなかったんです。

僕が入院しているとき、大人の病棟に子どもが入院していたんです。「ずっと病院にいる子」だって看護師さんに聞いて、「学校はどうしているのかな?」と思いました。でもそのときはそれ以上考えず、退院したら忘れちゃっていました。

なぜなら当時の僕は、病院は「不幸」で外に「幸せ」があると思っていました。でもまた再入院することになって、「ずっと病院にいるあの子」のことを思い出したんです。もし病院に幸せがないとしたら、あの子は幸せじゃないじゃん」って。

―― その気付きが副島先生を院内学級へ導くのですね。

(副島) そこから「病院の中にいても子どもが幸せでいられることはできないのかな」と思い始め、ずっと頭の隅にあったんだと思います。その後、東京都の派遣研修で東京学芸大学に行かせてもらい心理学の勉強をしました。

大学のゼミの担当をしてくださっていたのが小林正幸先生だったのですが、そこで子どもたちに直接聞いた「学校に行けない理由」という資料を見せてもらいました。驚いたのは「病気」が理由で学校に行けない子どもが14パーセントもいたんですよ。心理の勉強をして初めて、この14パーセントの子どもに学校は何もしていないって気づきました。

勉強は元気になってからすればいいんじゃない?

―― 「病気だから学校へ行けない」のは仕方ないことだと思っていました。

(副島) それまでは僕も生徒が病気になったら、「今は勉強なんてしなくていいからゆっくり休んでね。一日も早く治すことの方が大事だよ」。そう連絡帳に書いていましたしね。でも、14パーセント近くの子どもは、良くなっておうちに戻ったからといって簡単に学校に復帰できる体力も精神状態もありません。これは放っておけないと思いました。

ちょうどその頃、高校生になった小学生のときの教え子が病気で亡くなったんです。約束をしていたのに、急で会いに行けませんでした。このようなことが重なっていろいろ調べたら、普通学級の教師も院内学級の教師になれることがわかったので、「ぜひやりたい」と手を挙げました。

―― そして、念願かなって、品川区立清水台小学校で院内学級の担任になられたんですね。

(副島) はい。ご縁をいただいて、昭和大学病院内さいかち学級に異動させてもらいました。病弱・身体虚弱児特別支援学級といわれる場所です。院内学級というと長く入院している子が通っているイメージがあるかもしれませんが、実は全国の子どもたちの平均入院日数は10日くらい、長く入院している子ばかりではないんですよ。

―― 10日くらいの入院なら、学校に行かなくてもいいのかなと思うのですが……。

(副島) 勉強だけのことを考えるなら、学校は必要ないかもしれません。でも子どもは、入院してつらい治療を受けるだけでもたくさんの傷つきを抱えるのです。そしてその傷は、退院したからといってすぐに回復できるわけではありません。その傷をできるだけ軽くして発達を保障するためには、教育が欠かせないのです。だから一日でも子どもが入院するなら、医療のなかにもそのための場や人が必要なんです。

また、おっしゃるように「勉強なんて元気になってからでいい」といわれますが、10日で済まない長期入院だったり、病気の完治が難しかったりする子どもたちはそれまで「勉強するな」ということになります。子どもは一日一日確実に成長・発達しているのに、入院中は教育的な刺激を与えず、患者として受け身であることを強要され存在しているだけでいいのでしょうか? 

どんなときでも「そういう自分もいいよね」と思えるように

―― 入院期間に関係なく、病気や入院が子どもに与える影響が大きいということですね。

(副島) 「病気」になると、体が言うことを聞かなくて夢があってもあきらめなくてはならないなど、自分で自分を裏切ることを考えてしまいがちなので、多くの子どもは自分のことを好きになれないんです。いわゆる自尊感情が低い子どもが多いんです。短い入院でもその後いろいろな場面に影響していく可能性があるので、入院していても、病気であったとしても、「そういう自分もいいよね」と思えるような働きかけをしていく必要があるんです。

また、長期入院を余儀なくされた子どもの不安は計り知れません。医学の進歩でいろいろな疾病が治るようになり、亡くなる子どもの数もこの30年で1/3くらいになりました。しかし難病を抱えながら生きている子たちは身近に自分のモデルがいません。この先どうやって生きていくのかわからないという不安を抱えています。それはご家族も同じで、この子をどうやって支えていけばいいかわからないのだろうと感じます。

―― そういった不安を取り除く為にも「教育」が必要なのですね。


(副島) 院内学級の教師になったばかりの頃は、入院した子どもの調子が良くなってくると、スムーズに学校に復帰させるために、こういう勉強をしなくちゃ、学校に連絡しなくちゃ、先生とつなげなきゃなどで頭がいっぱいでした。もちろん、それも大切な仕事です。あれから僕自身も経験を重ねてきたことで、目の前にいる子どもが一生病気を抱えながら生きていかなければならいのであれば、「生きていく」ための力を付けてあげることも院内学級でできる仕事だと気付いたんです。

実は僕は都の教員を辞めて、2014年から昭和大学附属病院内学級を担当しています。小学生のとき入院していた子が、中学生、高校生になって再度入院するとき、「ソエジいる?」て来るんです。教室のドアをガチャって開けたときに知らない先生しかいなければやっぱりいいですってなってしまうのではないかと思うんです。それもあって異動のない環境を選択したんです。


取材・文・写真/米谷美恵

院内学級のプロフェッショナルとして新たな出発をされた副島先生。第2回では、副島先生が病気を抱える子どもたちと関わるときに大切にしていることを教えていただきます。

副島賢和先生(そえじままさかず)
Profile
昭和大学大学院保健医療学研究科 准教授。昭和大学附属病院内学級担当。大学卒業後、25年間、東京都の公立小学に教諭として勤務。2006年より品川区立清水台小学校・昭和大学病院内「さいかち学級」担任。2014年より現職。学校心理士スーパーバイザー、ホスピタルクラウンとしても活動。

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