コロナで大学の入学志願者増のスウェーデン。移住ママが語る「第二の人生」のスタートしやすさ
新型コロナウイルス拡大の影響で、解雇や倒産などの雇用問題がますます深刻になっています。そんな中スウェーデンでは、キャリアチェンジを考え大学で学びなおす人が増えているようです。今回は、スウェーデンへ家族で移住し、子育てしながら現地で翻訳家・教師として働く久山葉子さんに、スウェーデンにおける「キャリアチェンジ」「キャリアアップ」の考え方について綴ってもらいます。
※この記事は2020年12月3日時点 の情報です。
【久山葉子(クヤマヨウコ)】
1975年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部英文科卒業。スウェーデン在住。翻訳・現地の高校教師を務める。著書に『スウェーデンの保育園に待機児童はいない(移住して分かった子育てに優しい社会の暮らし)』を執筆、訳書にハンセン『スマホ脳』、ラムステッド『北欧式インテリア・スタイリングの法則』、ペーション『許されざる者』、マークルンド『ノーベルの遺志』、カッレントフト『冬の生贄』、などがある。
スウェーデンも連日、不景気なニュースばかり
冬も近づき、世界各地でコロナがふたたび 猛威を振るっていますね。スウェーデンでも仕事はなるべく家からするよう推奨され、今年の春のように「人が集まる場所には行かないように」といった勧告が出ています。
コロナ感染の心配だけでなく、コロナによる不景気の影響もじわじわと出てきています。わたしの住む地方都市でもたくさんの人が失業しました。もともと林業や製紙業で栄えていた街なので、ペーパーレスの時代背景を受け地元産業自体が傾いてきていたのですが、コロナに最後のとどめを刺されたような感じです。また、ものが売れないせいで、大手チェーン系列の小売店もいくつも街から撤退しました。地元新聞では連日、解雇や撤退のニュースが続いています。
今年は世界各地でこのような状況が起きていて、大勢の人が経済的・精神的安定を 失って辛い思いをされていることと思います。
「失業」からの大学入学へ、その理由は…
この状況を反映するかのように、この秋の新年度、スウェーデンの各大学はこれまでにない入学志願者数だったという報道がありました。
「社会人になってから大学に通いなおす」という図式が成りたつのは、スウェーデンでは大学の授業料が無料だからです。たとえ失業したとしても、小さい負担でキャリアチェンジの準備をすることができます。また、オンラインのコースも充実しているので、地方に住んでいる人でも大学で勉強しやすい環境にあります。
わたし自身も娘の保育園時代に、他のママたちが大学に通い直してキャリアチェンジするのも見てきました。まったく違う職種へチェンジする人もいますし、キャリアアップのための資格を大学で取る人もたくさんいます。
子連れで突然の海外移住でも、第二の人生がスタートできた
40代の今、わたしは20代の頃とはまったくちがう業界で働いています。日本の大学を卒業したあといわゆる「新卒」で旅行業界に入り、その後は日本でスウェーデン・日本間のビジネスコンサルタントをしていました。
ところが30代半ばでスウェーデンに移住。今はスウェーデン文学の翻訳と高校の日本語教師という、若い頃とはぜんぜんちがう仕事をしています。移住するにあたって日本での仕事を辞めたので、30代半ばで再スタートを切らざるをえませんでした。しかも異国で、2歳の子連れで!
キャリアチェンジしたいと思ったときに、それを実現できるような環境が整っていたことは本当にありがたいことでした。私自身、移住後すぐに大学へ通い直したわけではないのですが、就職活動中から小さい子どもを保育園に預けられる権利があることや、パパも育児休業を取りやすい環境だったのが助かりました。今は高校で日本語を教えていますが、正式な教師の資格取得を目指して働きながら大学に通っています。大学が無料だというのはやはり大きいですね。大学で勉強中の人も、もちろん保育園に子どもを預ける権利があります。
今回のコロナで失業した人、失業までいかなくても新しい人生について考えた人が、大学で学び直したいと考えるのももっともだと思います。そんな中スウェーデンでは「大人になってからキャリアチェンジしやすい環境が」が充分にそろっているので、とてもありがたいことだと改めて感じています。わたしの周りのママたちのキャリアチェンジ・キャリアアップについては、著書『スウェーデンの保育園に待機児童はいない』でもいくつか具体例を挙げていますので、ご興味があれば読んでみてくださいね。
(文・久山 葉子)