チャイルドシートは4歳ぐらいまで後ろ向き使用のほうがいいってホント?【小児科医】
日本では、1歳を過ぎるとチャイルドシートを前向きにして使用するママやパパが多いようですが「1歳を過ぎたら、前向きにして座らせないといけない」と思っていませんか? しかし、それは勘違いです。
今、専門家の間では「1歳以降も後ろ向きで使えるチャイルドシートならば、できるだけ長く後ろ向きで! 前向きだと万一、事故に遭ったとき、子どもの命を守りきれない」といわれています。1995年から日本でチャイルドシートの普及活動をしている小児科医 山中龍宏先生と、自動車メーカー・ボルボに、適切なチャイルドシートの使い方について話を聞きました。
チャイルドシートは、できるだけ長く後ろ向きに座らせるのがベスト
車での外出には欠かせないチャイルドシート。日本では2000年4月1日に着用が義務づけられました。
国土交通省の『チャイルドシートアセスメント2019.3』によると、チャイルドシートは、以下を目安に、子どもの成長に合わせて使い分ける必要があるとしています。
【乳児用】(後ろ向き)
体重:10Kg未満
身長:70cm以下
年齢:新生児~1歳ぐらい
【幼児用】(前向き)
体重:9~18Kg
身長:65~100cm以下
年齢:1歳~4歳ぐらい
ただし体重などの目安は、チャイルドシートの機種によって異なります。新・安全基準「R129」のチャイルドシートの場合は、以前のように体重ではなく身長を目安に選び、後ろ向きに使う期間も、1歳3カ月未満までに延びているので、必ず説明書を見て確認しましょう。
山中先生も「説明書を見て、可能な限り後ろ向きで使ってください。これからチャイルドシートを購入するママやパパは、できるだけ長く後ろ向きで使えるタイプを選んだほうがいいでしょう」と言います。
山中先生が「できるだけ長く、チャイルドシートは後ろ向きで!」という理由には、ある交通事故が関係しています。
「平成29年大阪で、急に飛び出してきた小動物を避けようとして、軽自動車が道路わきの電柱に衝突する事故が起きました。
後部座席でチャイルドシートに座っていた2歳半(当時)の男の子は、一時、意識不明の重体に。その後、意識は回復したものの、首から下にまひが残り、残念ながら自由に体を動かすことができなくなりました」(山中先生)
重傷を負った原因は、チャイルドシートが前向きだったため!?
山中先生によると、男の子が重傷を負った原因は、チャイルドシートの設置のしかたにもあったと言います。
「当時、男の子は国土交通省のルールに合わせてチャイルドシートを前向きに設置して使っていましたが、後ろ向きに設置していたら、もっと軽傷だったのではないかと考えられます。
後ろ向きに座っていると、万一、事故に遭っても、上の図のように衝撃を背中全体で受け止めて力が分散されます。しかし前向きに座っていると、体はベルトで固定されているものの、頭だけが前に放り出され、首周辺の骨や神経を傷めたりします。男の子が重傷を負ったのもそのためでしょう」(山中先生)
スウェーデンの自動車メーカー・ボルボの調査では、時速56kmで正面衝突をした場合、前向きでチャイルドシートに座っていた子どもの首にかかる負担は、後ろ向きに座っていた子どもの約6.8倍になることがわかっています。
アメリカの小児科学会では2歳まで。ヨーロッパでは4歳まで後ろ向きを推奨
山中先生によると、アメリカは州によって異なりますが、アメリカの小児科学会では、2歳まではチャイルドシートを後ろ向きに設置して使うことを推奨していて、ヨーロッパでは、4歳まで後ろ向きをすすめていると言います。
「日本では、1歳を過ぎたら前向きにしていいと考えられていますが、1歳では首の骨もしっかりしていないので、万一、事故に遭ったときたいへん危険です。
日本の車は小さいタイプも多いので、チャイルドシートを長い期間、後ろ向きで使うのは難しいかもしれません。また前述の大阪の事故では、2歳半で前向きに座っていても大事故につながってしまいましたが、それでもアメリカの小児科学会が推奨するようにせめて2歳までは後ろ向きで使ったほうがいいと思います。
また“後ろ向きに座らせると景色が見られない”“DVDが見せられない”というママやパパもいますが、車で移動するとき第一に考えてほしいのは、子どもを事故から守ること、ということを忘れないでほしいです」(山中先生)
いくら体が大きくても、子どもの首の骨の成長は年相応。事故の衝撃は大人以上!
スウェーデンでは、4歳まではチャイルドシートの後ろ向き使用が推奨されていますが、ボルボは「日本でも、なるべく長くチャイルドシートを後ろ向きに設置するように」と呼びかけています。
ボルボ・カー・ジャパン広報 赤堀さんは「“1歳を過ぎたから”“体が大きくなったから”という理由で、チャイルドシートを前向きにするのは危険」と言います。
子どもの首の骨は、やわらかくて未発達
上の図は、大人と子どもの首の骨の比較。左が1~3歳の首の骨。右が大人の首の骨。子どもの首の骨は、空洞部分があり未発達なことがわかります。
赤堀さんも、痛ましい子どもの交通事故が数多く起きていることを念頭にして、ママやパパには子どもの首の骨の未熟さを理解してほしいと言います
「ボルボの研究所で、シニアテクニカルリーダーを務めるロッタ・ヤコブソン博士によると、子どもの首の骨は、やわらかくて未発達です。大人の首の骨は、万一、事故に遭い頭が前方に投げ出されても、図のように1つ1つの頸椎(首の骨の一部)が互いに鎖のように絡み合って支えます。
しかし子どもの頸椎は、不完全で絡み合っていません。そのため事故で衝撃を受けると、首や背骨がずれてしまい、時には重傷を負い、重い障害が残ることもあるのです。
また子どもは大人より頭が重いので、チャイルドシートに前向きに座っていると、大人以上に頭が前のめりになります。
日本では、体が大きくなるとチャイルドシートを前向きに変える家庭が多いのですが、ロッタ・ヤコブソン博士によると首の骨の成長は体重や身長とは関係ないそうです。小柄な子も大柄な子も、1歳ならば1歳、2歳ならば2歳の骨の成長と考えてください」(赤堀さん)
車の事故は、いくら注意していても防ぎきれないことがあります。そのためできる限り、後ろ向きで座らせることを心がけましょう。
お話・監修/山中龍宏先生 取材協力・図版提供/ボルボ・カー・ジャパン株式会社 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
ママやパパが、チャイルドシートを前向きにする理由の1つに「後ろ向きだと、車酔いしそう」という心配もあるようです。しかし山中先生は「4歳ごろまでは三半規管が未発達なので、後ろ向きに座っても車酔いの心配はほとんどない」と言います。
新型コロナの感染を防ぐために「移動は電車より車で!」という家庭も増えていると思いますが、交通事故を決してひとごととは思わないで対応しませんか。