ベビーカーのハンドルに荷物を提げて転倒する事故に注意!【専門家監修】
ベビーカーのハンドルに重い荷物を提げるのはNGって知っていますか。ベビーカーの取扱説明書にも、その旨記載されています。しかしベビーカーのハンドルに重い荷物を提げることによって、ベビーカーが転倒してしまい赤ちゃん・子どもがけがをする事故は後を絶ちません。小児科医で、子どもの事故に詳しいNPO法人Safe Kids Japan理事長 山中龍宏先生に、ベビーカーの事故について聞きました。
ベビーカーのハンドルにフックを付けているのは73%。大きな事故につながることも
国民生活センターが「ベビーカーに後から自分で付けた付属品」について聞いたところ、1000人中732人のママやパパが「ハンドルに荷提げフックを付けた」と回答しています。
しかし後付けの荷提げフックが、時には大きな事故につながることもあるようです。
ベビーカーごと転倒あるいは子どもが転落した原因として考えられるもの
グラフは、国民生活センター調べのデータです。「ベビーカーごと転倒あるいは子どもが転落した事故」の原因のトップは、ベビーカーのハンドル部分に荷物を提げたためで、転倒と転落を合わせると270人の子が事故に遭っています。
山中先生のクリニックにも「ベビーカーから転落した」という状況で、受診する子は多いと言います。
「ベビーカーから転落すると、頭や顔を強く打つ子が多いです。外傷がなくても頭を打っている場合は必ず小児科を受診して、48時間は様子を見てください。いつもより元気がない、食欲がない場合は、再診しましょう。転落した後嘔吐(おうと)やけいれんを起こした場合は、すぐに救急車を呼んでください。様子を見ている48時間以内に嘔吐(おうと)やけいれんを起こした場合も同様です。
ベビーカーの事故は、ハンドル部分に重い荷物を提げてはいけないとわかっていてもやってしまったり、シートベルトをきちんと着用していないために起こることが多いのですが、事故を防ぐには、どんな場所で、どんな事故が起きやすいか知っておくことが大切です」(山中先生)
ベビーカーの事故の体験談には、次のようなものがあります。この体験談は医療機関ネットワーク事業(*1)に寄せられたものです。
【7日間の入院】
駐車場のスロープを下りていたら、ベビーカーがかけていた荷物に引っ張られるように倒れました。子どもはシートベルトをしておらず、地面に転落。“外傷性くも膜下出血”と診断されて7日間入院しました。(1カ月の男の子)
【頭と顔を打撲】
上の子と手をつないで片手でベビーカーを押していたところ、ベビーカーから少し手を離した瞬間、ハンドルに提げていた荷物の重みでベビーカーが転倒。シートベルトをしていなかったので、赤ちゃんがアスファルトに放り出され、頭と顔を打撲しました。(3カ月の女の子)
*1 医療機関ネットワーク事業は、消費者庁と国民生活センターとの共同事業で、消費生活において生命または身体に被害が生じた事故に遭い、参画医療機関を受診したことによる事故情報を収集するもので、2010年12月から運用を開始しています。
「ベビーカーを毎日のように使うのは0歳代なので、ベビーカーの事故は低月齢の子が多いです。体験談でも1カ月で、外傷性くも膜下出血で入院した例がありましたが、事故が起こるパターンを知っておくと、危険性が高い事故を避けることができます。決してひとごととは思わないでください」(山中先生)
3㎏の荷物を提げると、わずか1~12度の傾斜でもベビーカーは転倒
国民生活センターでは、乳児のダミー人形(3.9kg)を乗せてゆるやかな坂を上る実験をしました。
ハンドルに荷物をかけていないベビーカーは、転倒に至る傾斜が約17~27度に対し、ハンドル部分に3kgの荷物を提げたベビーカーは、約1~12度の傾斜で転倒しました。
「こうした結果を見ると“荷物を提げたときは、ハンドルから手を離さないように気をつけよう!”と思うママやパパもいるかも知れませんが、そう思っても防ぎきれないのが事故です。ベビーカーのハンドルに荷物を提げないのが第一です」(山中先生)
ベビーカーのシートベルトは必須! 嫌がっても装着する習慣を
万一、ベビーカーが転倒したとき、子どもを守るのはシートベルトです。しかし「子どもが泣くから」「近くのスーパーに行くだけだから」といった理由で、シートベルトをしないママやパパも。
ベビーカーに乗せたとき、子どもにシートベルトを装着させる割合
グラフは国民生活センター調べ(回答はモニター1000人)です。ベビーカーのシートベルトの装着について聞いたところ、「装着しないことが多い」「ほとんど装着しない」と回答したのは14%でした。
シートベルトをしていなかった場合
万一シートベルトをしていないと、ベビーカーが転倒したとき、赤ちゃんは写真のように地面に放り出されてしまいます。頭や顔を強く打つだけでなく、車が来てひかれるなどの事故も十分考えられます。
シートベルトをしていた場合
しかしシートベルトをしっかりしていたら、ベビーカーが転倒しても、地面に放り出されることはありません。
「子どもを事故から守るためには、どんなに嫌がってもシートベルトを着用することが必要です。シートベルトは、腰ベルトだけだと抜け出してしまう可能性があるので、できるだけ腰と肩を固定できるベルトを着用してください。
今、座面が高いベビーカーも人気ですが、座面が高いほどベビーカーから転落したり、放り出されたりしたときは衝撃が強いです」(山中先生)
またシートベルトは、ベビーカーの転倒時に赤ちゃんを守るだけではありません。
山中先生によると、ママが立ち話をしていて、ベビーカーに座っている子どもから少し目を離したすきに、シートベルトをしていなかったために急に立ち上がり、バランスを崩して、ベビーカーから転落したケースもあるそうです。
「ベビーカーのハンドルに重い荷物を提げること、ベビーカーに赤ちゃん・子どもを乗せたときにシートベルトをしないことは、事故につながるということを忘れないでほしいです」(山中先生)
お話・監修/山中龍宏先生 写真・データ提供/国民生活センター 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
この記事を読んで「うちもやっている!」と思ったママやパパは意外と多いのではないでしょうか。山中先生によると、ベビーカーは折りたたむときに、子どもが急に手を出してきて指をはさんだり、段差でベビーカーを持ち上げるときに、バランスを崩してベビーカーごと親も倒れるなどの事故もあると言います。あらためてベビーカーの使い方を見直して、赤ちゃん・子どもを事故・けがから守りましょう。
山中龍宏先生(やまなかたつひろ)
Profile
小児科医、医学博士。緑園こどもクリニック院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児をみとったことから、子どもの事故予防に取り組む。NPO法人 Safe Kids Japan理事長、内閣府教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員などを務める。