2022年4月から不妊治療が保険適用に。適用範囲はどこまで?いくらかかる?回数や年齢に制限も【FPに聞く】
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2022年4月からの診療報酬改定により公的医療保険が適用され、患者の負担が治療費の3割になることが注目されている不妊治療。具体的には、人工授精や体外受精、顕微授精などに適用され、体外受精、顕微授精は43才未満の女性が対象になります。自身も不妊治療(体外受精)で3人の男の子を授かったファイナンシャル・プランナーの宮野真弓さんに、4月以降の不妊治療費の目安とマネープランについて聞きました。
体外受精、顕微授精、男性不妊の手術が保険適用に。ただし回数制限あり
まず、不妊治療にはどのような治療があるのかを整理します。
【1】検査(原因検索)
【2】原因疾患への治療(精管閉塞や子宮奇形など)
【3】一般不妊治療(タイミング法・人工授精)
【4】生殖補助医療(体外受精・顕微授精・男性不妊の手術)
「これまでも検査と原因疾患への治療は保険が適用されていましたが、2022年4月から一般不妊治療と生殖補助医療も保険適用になる方針を厚生労働省が打ち出しています。生殖補助医療は、2022年3月までの助成金事業では特定不妊治療といわれていたものです。
ただし体外受精と顕微授精は、女性の年齢によって保険適用の回数が変わります。不妊治療を開始した時点で女性の年齢が40才未満だと、両方を合わせて最大6回まで、40才以上~43才未満だと同じく最大3回までが保険適用となります。なおこの回数には、過去の治療実績や助成金利用実績は含まれません。
また、『1子につき』の回数なので、たとえば体外受精6回目で第1子を妊娠・出産した人が2人目の不妊治療を行う場合も、40才未満であれば再度1子につき最大6回まで、40~43才なら最大3回まで保険適用となります」(宮野さん)
●タイミング法:排卵のタイミングに合わせて性交を行うように指導する
●人工授精:精液を注入器で直接子宮に注入し、妊娠を図る技術
●体外受精:精子と卵子を採取して体外で受精させたあと、子宮に戻して妊娠を図る技術
●顕微授精:体外受精のうち、卵子に注射針などで精子を注入するなど、人工的な方法で受精させる技術
●男性不妊の手術:射精が困難な場合などに、手術用顕微鏡を用いて精巣内から精子を回収する技術
体外受精は、投薬などを含めて1回につき15~20万円程度になる見込み
どのような不妊治療を受けるかはケースバイケースですが、3割負担となる4月以降の不妊治療費を宮野さんに試算してもらいました(※)。
なお、投薬などに関しては個人差が大きいため、金額はあくまでも目安と考えてください。
【一般不妊治療】
検査費:3万円程度
●タイミング法:6000円程度/周期
6回で3万6000円程度
●人工授精:5460円/回
6回で3万2760円
(+投薬、注射、エコー費用など)
「一般不妊治療は保険適用の回数制限はなく、年齢や卵子・子宮の状態などにより異なりますが、それぞれ6回程度でステップアップするのが一般的なようです。そのため、それぞれ6回ずつ行った場合の費用を試算しました。
仮にタイミング法と人工授精を6回ずつ行うとすると、タイミング法6回+人工受精6回(投薬など込み)で合計10~14万円程度になります」(宮野さん)
【生殖補助医療】
<女性が40才未満のケース>
●体外受精
6~9個採卵できて6個の胚盤胞(受精卵)ができ、1個を新鮮胚移植、残り5個を凍結した場合
・採卵 2万6100円(6~9個は同一料金
・体外受精 1万2600円
・培養管理料(胚盤胞まで) 3万2700円
・胚凍結保存管理料(5個) 2万1000円(2~5個は同一料金)
・新鮮胚移植 2万2500円
1回目の胚移植までで合計11万4900円
+投薬、注射、エコー費用など
合計15~20万円程度
「2回目以降については、凍結・融解胚移植が1回につき3万6000円で、これに投薬、注射、エコー費用などが加算されます。6回行った場合は、投薬などを含めて合計28~40万円程度になります。胚盤胞が6個できず、もう一度採卵が必要な場合は、採卵費用などがさらに加わります」(宮野さん)
●顕微授精
・1個 1万4400円
・2~5個 2万400円
・6~9個 3万円
・10個以上 3万8400円
「顕微授精で6回胚移植を行う場合は、 顕微授精6個、新鮮胚移植1回、凍結・融解胚移植5回に投薬などを含めて30~45万円程度になると思います」(宮野さん)
<女性が40~43歳未満のケース>
●体外受精
3~5個採卵できて3個の胚盤胞ができ、1個を新鮮胚移植、2個を凍結した場合
・採卵 1万800円(2~5個は同一料金)
・体外受精 1万2600円
・培養管理料(胚盤胞まで) 2万4000円
・胚凍結保存管理料(2個) 2万1000円
・新鮮胚移植 2万2500円
1回目の移植までで合計9万900円
+投薬、注射、エコー費用などを含めて13~18万円程度
「3回移植を行った場合は、上記の1回目の費用と、凍結・融解胚移植2回、投薬などを加えて24~33万円程度になるでしょう」(宮野さん)
<男性不妊のケース>
顕微鏡を用いた精巣内精子採取術(マイクロTESE) 7万3800円
採卵(6個)2万6100円
顕微授精(6個)3万円
採取精子調整 1万5000円
培養管理料(胚盤胞まで) 3万2700円
胚凍結保存管理料(5個)2万1000円
新鮮胚移植 2万2500円
凍結・融解胚移植1回 3万6000円
+投薬、注射、エコー費用など
1回目の移植までで合計22万1100円
+投薬、注射、エコー費用などを含めて25~30万円程度
「2回目以降は、凍結・融解胚移植1回につき3万6000円で、投薬、注射、エコー費用なども必要になります」(宮野さん)
「多くの人が受ける治療」と認知され、職場などの理解が深まることを期待
試算を見ると、生殖補助医療は保険適用になっても高額という印象があります。
「試算してみて私もそう感じました。でも、『保険適用になるくらい不妊治療は多くの人が受ける治療』という認識が広まれば、職場も協力的になり、不妊治療を受けやすくなる人が増えるのではないでしょうか。こうしたことを考えると、保険適用になることの意義は大きいと考えています。
また、保険適用になると高額療養費制度の申請ができるようになるので、医療費の還付を受けられる場合があります。厚生労働省の指針を見ると、広く行われている不妊治療は保険適用になるようです。そのため、不妊治療で高額療養費制度を使える人が増えるのではないかと考えています」(宮野さん)
保険が適用になることで、これまで行われていた1回30万円の助成金がなくなってしまうのでは、結果、治療の負担は軽くならないのではないかという意見もあるようです。
「国からの助成金はなくなりますが、自治体によっては独自に助成金を出しているところがあります。自治体ごとに制度内容が異なるので、住んでいる自治体に確認してください。受けられる支援はすべて受け、少しでも家計の負担を減らせるようにしましょう」(宮野さん)
「不妊治療費は子育て費用・教育費の一部」と考え、かけてもいい金額を算出
‟不妊治療を始めると終わりが見えない”とよく言われますが、不妊治療後のライフプランも考えて治療を行うことが欠かせません。
「『不妊治療にお金をかけすぎてしまい、せっかく子どもを授かったのに十分な教育費が確保できない』となったら本末転倒です。不妊治療は子育て費用・教育費のスタートと考えるといいと思います。今後の世帯年収の見込み、住宅ローンなどの有無、上のお子さんがいるならその子に必要な費用、そのほか今後必要になる費用などを考えたうえで、不妊治療にどれくらいの金額をかけてもいいか、夫婦でよく話し合うことが大切です」(宮野さん)
今回の不妊治療の公的医療保険の適用は、少子化対策につながるのでしょうか。
「不妊治療を受ける人が増えると思うので、少子化対策としての一定の効果はあるのではないでしょうか。ただ、着床障害や不育症への支援については、今回は ほとんど議論されませんでした。不妊治療の保険適用だけでは、少子化対策としては不十分だと私は思います。妊娠から出産に至るまでのすべての治療を支援する体制を、国がしっかりと整えてほしいです」(宮野さん)
お話・監修/宮野真弓さん 取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
不妊治療で広く行われている治療は、4月以降は3割負担で受けられるようになるようです。これにより不妊治療のハードルが低くなり、子どもを望むカップルの笑顔が増えることが期待されます。
宮野真弓さん(みやのまゆみ)
PROFILE
FPオフィスみのりあ代表。ファイナンシャル・プランナー(1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者)。体外受精で3人の男の子を出産した自身の経験を元に、子どもを望む方や育児中の方などへ向けた講演や執筆、個別相談を中心に活動中。
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