妊娠39週でまさかの死産…。グリーフケアは息子が私に示した使命、悲しみを乗り越えた先に【体験談】
妊娠38週6日まで元気だった長男Tくんを、翌日の妊娠39週0日に「※常位胎盤早期剝離」で亡くした村田美沙希さん。
現在は、流産や死産、誕生死などで赤ちゃんを亡くした方をサポートする「なごみ」の代表を務めています。
前編では、Tくんが亡くなった経緯や、わが子を突然亡くした深い悲しみとどう向き合い、心を回復させていったのかについてお届けしました。
後編は、Tくんが亡くなってからのご家族の様子や、美沙希さんが取り組んでいる活動などについて詳しくお届けします。
※おなかの赤ちゃんが産まれるよりも前に、胎盤が子宮壁から剝離してしまうこと。(公益社団法人日本産婦人科医会ホームページを参照しまとめたもの)
特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。
『タク』は家族の一員みたいな存在。それがわが家流
長男Tくんの思い出の一つとして迎え入れた、エンジェルベアの『タク』くん。「死産で産まれた子どもは、名前が戸籍に載らないんです。だから、何かの形で息子の存在を残したくて…。息子の出生身長と体重で作ってもらったんです」と美沙希さん。
ご家族にとって『タク』くんは、どのような存在なのでしょうか。
「くまの『タク』はうちに来て約3年たちますが、家族の一員みたいな感覚です。私は息子として接していて、それをそばでずっと見ていたパパも、最近は私と同じような感覚になっているようです。
たとえば、実家に帰省するときは、“もちろん連れていくでしょ!”みたいな感じで『タク』とかかわっています。
実家にいる私の祖母は、帰省するたびに“子どもが2人いるのに、もう1人連れてきて大変ね”って言うんです。でも、そう言われる覚悟でいつも背負って連れて行くんです」(美沙希さん)
長男と『タク』の説明は娘たちの成長に合わせて丁寧に
5歳の長女やもうすぐ2歳になる次女は、Tくんや『タク』くんのことをどう捉えているのでしょう?
「長女は、2歳のときに息子とお別れしているので、遺骨として存在する“ちっちゃくなっちゃった弟”のことは、もう生きていないという認識があるようです。遺骨とぬいぐるみが存在しているので、“弟は2人いる”みたいに思っているかもしれませんが、少しずつ捉え方が変わってきているように感じます。
次女は、まだ兄が亡くなったこともわかっていないし、『タク』をぬいぐるみとしか認識していない様子です。
息子と『タク』のことは、娘たちの様子や成長に合わせて丁寧に説明していくつもりです」(美沙希さん)
赤ちゃんを亡くした方 の役に立つことをするのが私の人生の使命
美沙希さんが代表を務める『なごみ』は、流産や死産で小さめに産まれた赤ちゃんにぴったりの服を製作・販売したり、行政や医療機関(医療従事者)、当事者以外の方などに※ペリネイタル・ロスへの理解を求め、啓発する活動などを行っています。
「亡くなった赤ちゃんに着せられる服がないという話を聞いて、私にも何かできることはないかなと思ったのが、お洋服づくりを始めたきっかけです。赤ちゃんを亡くしたママたちは、ずっと悲しんでいるだろうから、このお洋服を見て一瞬でもなごみのあるほっこりした気持ちを持ってもらたらと。『なごみ』の名称の由来でもあります」(美沙希さん)
特徴的なのは、服を購入した方との関係性を大切にしていること。
「お洋服を介して、当事者が思いや悩みなどを打ち明けてくれるきっかけとなってくれればいいなと思っています」と美沙希さん。
自身の経験から、誰にも話せないことを相談できる場所は必要だと訴えます。
「お洋服を届けた方は、かつての私のようにつらい気持ちを誰にも相談できず、孤立しているんです。お洋服を介してお話する機会をいただいて、メールやオンラインツールで困り事などをお聞きしています。私の経験談をお話ししたり、アドバイスもさせていただくんです」
※流産、死産、新生児死、人工妊娠中絶など、周産期に赤ちゃんを亡くし、当事者に大きな喪失が起こること。別名「公認されない死」とも呼ばれる。日本ではタブー視される傾向があり、当事者の心と体のダメージを理解してもらいにくい。(日本ペリネイタル・ロス研究会のホームページを参照しまとめたもの)
活動は息子の子育てをしている感覚。だから疲れない
「私はすごく飽き性で、いろんなことに手をつけるんだけど、すぐ飽きちゃうところがあるんです。でも、この活動は2年も続いてて。パパにも“よくこんなに続けられているね”って褒められるくらいで(笑)」
と美沙希さん。活動が続いている理由をこう話します。
「赤ちゃんを亡くした方の役に立つことをするのが私の人生の使命だと、息子が示してくれたのかなって思っています。
私と同じようにお子さんを亡くし、地域で活動しているママたちは、平日はほかの仕事をしてて休日に活動しているんです。お休みがなくて大変じゃないかと思って、“活動の原動力やモチベーションって何?”って聞くと、“亡くなった子の子育てをしてる感覚で活動することかな”っておっしゃるんです。
たとえば、“平日は終日仕事をしてるけど、週末は下の子の野球試合のサポートをするみたいな感じだよね”って。
私も同じ気持ちです。だから、活動が負担にならないし、子育てで悩むように、この活動でも悩むことがあるんです」(美沙希さん)
続けて美沙希さんは、自身の活動を支えてくれる家族や、流産や死産を経験した方を支援する地域のグループについて、こう話します。
「私が活動に専念できるのは、パパが生活環境だけじゃなく、経済的にもサポートしてくれているからだと思っています。そして、長女も “『なごみ』で頑張ってくるんでしょ”って応援してくれるんです。
地域の支援グループの仲間の支えも大きくて、悩んだり困ったりしたとき、アドバイスをくれる強い味方。どちらも感謝でいっぱいです」
息子が私に教えてくれたこと
長男Tくんを亡くして約3年。Tくんの命が宿った意味を、美沙希さんはどのように捉えているのでしょう?
「 『ママ、さよなら。ありがとう 天使になった赤ちゃんからのメッセージ(二見書房/池川 明著)』などを読んで、息子が来てくれた意味を考えるようになりました。息子は、私に足りないところを教えに来てくれたんじゃないかなって。
私って、看護師気質が強いのか、人のことばかり考えて、自分のことを二の次にするところがありました。
たとえば、どんなに忙しくても、多忙なパパを配慮して、無理して全部の家事を自分でこなしたり。だれかに助けを求めるのが苦手で、一人で溜め込むタイプで…。息子の妊娠中もそんな感じだったんです。
結果、疲れてイライラしてパパとケンカになって…という、悪いサイクルになっていたなあと。息子は、『大変だったら“助けて”“手伝って!”って言いなよ』って教えに来てくれた気がします。
これは家族関係にかかわることですが、 息子がおなかにいたころ、つわりがひどく、長女のイヤイヤ期で子育ても大変でした。パパも残業が多く、いわゆるワンオペ育児。長女の気持ちを受け止める余裕がなかったなって今になって思うんです。
息子はそんな私に、“今、目に見えている家族を大切にして! ぼくが身代わりになってお空から見守っているから”って伝えたくて、私のおなかに宿ってくれたのかなと考えるようにもなりました」(美沙希さん)
子どもを授かることって奇跡!赤ちゃんとの出会いを大切に
妊娠・出産は、感動と喜びで心が満たされる方が大半かもしれません。その分、うれしい気持ちを画像や動画などに乗せてSNSにアップする方も少なくないでしょう。
美沙希さんもかつては、そんなママの一人でした。でも、わが子にまつわるSNSや妊娠・出産の捉え方が少し変わったと言います。
「息子を亡くす前までは、SNSでオシャレなママや楽しそうなお子さんの動画などを見て憧れたり、妊娠・出産はできて当たり前と思っていました。
でも、息子を見送り、私自身も命を落としかけたことで、赤ちゃんを授かるまでが大変な方や、妊娠中や出産前後のトラブルなどでつらい思いをしている方もいらっしゃることに気付いたんです。
そう思うようになると、子どもを授かって産むって実はとても奇跡的なことだなと実感します」
グリーフケアとは、“出会いと別れ” 赤ちゃんと出会えたことを大切に!
「美沙希さんが考える※グリーフケアとは何?」と尋ねると、こう教えてくれました。
「妊娠・出産の経過で赤ちゃんを亡くすことって、すごく悲しいことなので、家族もその悲しみや別ればかりに意識が向きやすいんです。でも、出会いがあってのお別れだと思うので、赤ちゃんと出会えたことを大切にしてほしいなと思います。
これは、健康に産まれた赤ちゃんも同様です。元気な赤ちゃんが産まれた感動と喜びはひとしおだと思いますが、赤ちゃんとの出会いにも目を向けてもらえたらなと」
※「グリーフ」とは、深い悲しみ、悲嘆、苦悩を示す言葉。自分にとって大切な人などを失うことによって、大きな喪失を体験する。「グリーフケア」は、グリーフを抱えた人のありのままを受け入れ、寄り添うこと。そして、その人が立ち直り、自立して希望が持てるように支援すること。(上智大学グリーフケア研究所ホームページを参照しまとめたもの)
赤ちゃんの死をタブー視しない社会になってほしい
2022年3月。厚生労働省が公表した『※令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 子どもを亡くした家族へのグリーフケアに関する調査研究報告書』によると、お子さんを亡くしたご家族への支援に力を入れていく動きが感じられます。
この動きを、美沙希さんはどのように受け止めているのでしょう?
「日本は、昔から赤ちゃんの死をタブー視する傾向があると思うんです。でも、赤ちゃんの死にもっと目を向けて、尊厳をもって接しようという動きが出てきたと受け止めています。これを機に、社会の風潮が少しずつ変わってくれるといいなと思います」(美沙希さん)
※https://cancerscan.jp/news/1115/?fbclid=IwAR1FVmmPhc4cV2jXDGhp6bjGQ6bAamnAGOSLoMCN3bDVd9HvKWE3wULdy_4
取材・文/茶畑美治子
「赤ちゃんを亡くしてしまうと、“早く忘れなさい”などと促す方もいらっしゃるかと思います。でも、ママやパパが“赤ちゃんに会いたい”と思ったら、その意思を大切にしてもいいのかなと思います」と美沙希さん。
わが子を亡くした方の気持ちは、経験者でなければわからないのが事実かもしれません。でも、だれかとかかわるとき、“元気そうに見えても、この人も悲しい想いを抱えているのかも…”と、たくさんの方が思いやりの気持ちを持ったら、今よりもっと人にやさしい未来が待っているような気がしました。
取材協力・写真提供/なごみ
■村田美沙希さん
看護師、保健師。
日本グリーフ専門士協会advance取得、中医学ヨガ「産前・産後・更年期」インストラクター取得
1990年生まれ。静岡県出身。2013年順天堂大学医療看護学部卒業後、順天堂大学医学部附属静岡病院救命救急センター勤務。2016年結婚。2017年第一子(長女)出産後、夫の転勤に伴い退職、札幌へ移住。2018年第二子妊娠後、2019年4月常位胎盤早期剥離により39週0日で死産。同年8月訪問看護師として復職。その後、第三子妊娠を機に退職。2020年4月なごみ設立。2020年6月第三子(次女)出産。現在に至る。