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先天性風疹症候群で生まれた娘を18歳で亡くし…。「妊娠前にワクチンを接種していれば」後悔してもしきれない。赤ちゃんを守りたい、母たちの願い【体験談】

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笑顔で立つ若い家族
●画像はイメージです
hisa nishiya/gettyimages

妊娠初期から妊娠20週ごろまでに風疹(ふうしん)にかかると、「先天性風疹症候群」といって、赤ちゃんに難聴、白内障、心疾患などの障害が現れる可能性があります。
風疹は5〜7年周期で定期的に流行する傾向があり、今でも先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれています。先天性風疹症候群の娘さんを出産後、その娘さんを18歳で亡くされた経験から、風疹をなくそうと活動をされている可児佳代さんに話を聞きました。

先天性風疹症候群で生まれた娘は、難聴、白内障、心疾患をもっていた

――娘さんの出産から病気がわかって、病気と闘うまでのことを教えてください。

可児さん(以下敬称略) 私は妊娠初期に風疹に感染し、おなかにいた娘が先天性風疹症候群になり、難聴、白内障、心疾患をもって生まれました。不妊治療を経てようやく授かった子どもでしたが、出産後に初めて、妊娠前に風疹ワクチンを接種していれば風疹症候群を防げることを知りました。防げる方法があったのに防げなかった…と、自分を責め続ける日々でした。娘は手術や治療を繰り返しながらも元気に成長しましたが、高校3年生の卒業式を前に心臓病が悪化し、18歳で亡くなりました。

「不妊治療を始める前にワクチンを打っていれば」「もしこの子に障害がなかったら、どれだけの可能性があっただろう」・・・とどれだけ後悔したことか。こんな後悔はもうだれにもさせたくないと強く思っています。

「不妊治療の前にどうして風疹のワクチンを打たなかったの?」という看護師の言葉が忘れられない

――妊娠中は風疹ワクチンの接種はできませんが、妊娠を希望している女性なら接種できます。

可児 妊婦さんは風疹ワクチンの接種はできませんが、妊娠初期に風疹の抗体検査をしますよね。一方、妊娠を希望している女性は、ワクチン接種ができます。お話ししたように、私は不妊治療をしていましたが、娘を出産したあと、看護師さんに「なんで不妊治療を始める前に風疹ワクチンを接種しなかったの?」といわれてとても驚いたし、とってもショックでした。今でもあのときことは忘れられません。

風疹ワクチンを接種すると2カ月間の避妊が必要になるため、少しでも早く赤ちゃんを授かりたいと思うと、ためらってしまう人も多いのですが、せっかく授かった赤ちゃんを守るためにも、妊娠を希望している女性とパートナーなど周りの家族は風疹の抗体検査をしていただきたいです。そして抗体が低ければ、ぜひワクチンを接種してください。

また、あまり知られていませんが、自治体の多くが、妊娠を希望する女性と同居している家族に風疹の抗体検査およびワクチン接種を実施しています。

出産後、数年たってから病気がわかる「見えない先天性風疹症候群」も。当事者ママたちが語る、風疹体験

――可児さんが共同代表を務める「風疹をなくそうの会」には当事者のママたちからどんな声が届いていますか?

可児 出産後に先天性風疹症候群だと気づいたケースがいくつかあります。たとえば、産後に赤ちゃんにミルクを飲ませているとき、眼振(眼球がけいれんしたように揺れ動くこと)に気づき、病院で診てもらったら白内障であることがわかったそうです。
そのママは妊娠中の風疹の抗体検査で、抗体価が低かったと言いますが、妊娠中に風疹にかかったことに気づかなかったのです。
風疹は軽い症状で済んでしまうことや、自覚症状がないこともあるため、そのようなことも起こります。
また妊娠中に風疹にかかり、出産したあと2年たって判明したケースもあります。生後、難聴もなく安心していたら、2歳になっても言葉を話さないので検査をしたところ、進行性の難聴だったそうです。

難聴や白内障などの症状があとから出てきても、風疹ウイルスの排出は1歳くらいまでの間に終わってしまうので、1歳以降に検査をしても原因がわからないこともあります。私はこれらの症状を「見えない先天性風疹症候群」と呼んでいます。

「妊娠17週で風疹に感染し、帝王切開で生まれた二男は両耳に障害が」

「二男が先天性風疹症候群と診断されました。両耳に障害がありますが、元気にすくすくと成長しています。妊娠17週で風疹に感染したと診断され、産婦人科医に『おろすならほかの病院に行って』という悲しい言葉も受けました。その後、とてもていねいに説明してくださる産婦人科医に出会い、『耳に障害が残る可能性がある』といわれました。産むべきかどうか迷ったことは事実です。でもおなかの中で動き始めた赤ちゃんがかわいくて、まるで『生きたい!』と言っているよう。そして何より私がこの子に会いたかった・・・。妊娠38週に帝王切開で出産。

羊水(ようすい)検査では陰性でしたが、耳に障害が残りました。長男の妊娠時の抗体検査で風疹抗体が低いのを知っていたのに『なぜ風疹ワクチンを打たなかったのか』と後悔は尽きません。『自分がかかるはずがない』という甘さがあったのです。私の体験を通し、風疹の怖さ、正しい知識を知ってもらえたらと思います。不安はありますが、今は家族みんなで協力しあって、たくさんの笑顔で子どもの成長を見守っています」(しまこさん)

「妊娠後期に帝王切開で生まれた娘は、心臓と目と耳に障害が」

「風疹の予防接種は中学生のときにしていたので、自分が妊娠中に感染しているとは思いませんでした。妊娠後期になっても子どもが大きくならずに帝王切開で出産することになりました。
出産後、医師から書ききれないほどの症状を記した紙を渡され、おそらくは感染症のどれかだと告げられました。生後すぐに心臓の手術、その後、人工内耳の手術をしました。目は軽度白内障ですが眼鏡をかければ見えます。いろいろなことがありました。トラブルもあるし、悩みもあります。でも娘はたくましく成長してくれ、たくさんの人に助けられ、いい人に巡り合える幸運の持ち主だとつくづく思っています。子どもは大切な宝物。どうか、大切な命がこれからも守られることを切に願います」(さくらさん)  

「風疹の抗体がないとわかっていたのに、第2子を妊娠して」

「第1子のときに風疹の抗体がないといわれていたけれど、どこで予防接種をすればいいのかわからず、そのまま第2子を妊娠しました。喜んだのもつかの間、妊娠7週で風疹に感染。妊娠中は健診の度に担当してくださる医師や助産師、看護師さんに「風疹にかかってしまったので…」と伝えねばならず、それが辛くて待合室で泣いたこともありました。
妊娠34週で出産、耳はまだ正式な診断は出ていませんが、補聴器はいらないとのこと。先天性風疹症候群でも、産後に現れる子どもの症状は千差万別で、生後半年から1年はウイルスの排出が続くことも知らず、びっくりすることも多かったです。ママは自分を責めてしまうかもしれないけれど、おなかの中で亡くなってしまう可能性もあった命。まず目の前の命に『ありがとう』と感謝しています。なんといっても数々の難関を突破してきた強い子なのですから」(ハナコトバさん)

これから生まれてくる赤ちゃんのためにママができること

風疹ワクチンを2回接種しないまま妊娠してしまったらどうすればいいのでしょうか。

――風疹ワクチンを2回接種しないまま妊娠が判明したり、抗体価が低い状態で妊娠してしまったらどうすればいいですか。

可児 風疹はせきやくしゃみなどの飛沫(ひまつ)感染が主ですが、接触感染によっても感染します。風疹の抗体価が低い妊婦さんは、新型コロナウイルス感染症の予防のときと同様に、手洗いやうがい、外出時は人ごみを避けるなどして予防しましょう。

そして、無事赤ちゃんを出産したら、すぐに風疹ワクチンを接種してほしいと思います。これは次のお子さんのためでもあり、多くの未来の子どもたちのためでもあります。

また、私はよく、「産後入院中、退院するまでに風疹ワクチンを接種しましょう」とお伝えしています。せっかく病院にいるのですから、このときに接種できると安心です。

――2000年以降に生まれた子は、風疹ワクチンが定期接種になっていますね。

可児 はい、2000年以降に生まれた子のほとんどは、MRワクチン(麻しん風しん混合ワクチン)を定期接種として2回受けているので、まず安心です。

ところが、コロナ禍で受診控えをしたご家庭が多かったせいか、ここのところ接種率が少し下がっているとも聞きます。将来のお子さんのためにも、未来のお孫さんや、社会のためにも、ぜひお子さんが生まれたらMRワクチンを2回接種してほしいと思います。

【時田先生から】親子で風疹の対策を

お子さんをお持ちのお母さんは、1歳のお誕生日にMRワクチンを、年長さんにも忘れずにMRワクチン接種をお願いします。万が一定期接種の時期を逃しても、公費負担で接種できる制度が市町村にございます。それだけ大切なワクチンなのです。ワクチン接種 の記録がないなど、風疹の感染が心配な場合は、妊娠前にご自身の風疹抗体価を念のため調べることも安心につながります。

お話/可児佳代さん 監修/時田章史先生 取材・文/樋口由夏、たまひよONLINE編集部

風疹をなくそうの会『hand in hand 』

「妊娠を考えている女性だけでなく、パートナーやまわりの家族も、ぜひ抗体検査を受けて、未来のママと赤ちゃんを守って欲しいです」と可児さん。「自分だけは大丈夫」「自分が感染するはずがない」だれでもそう思ってしまいがちですが、風疹症候群はワクチンで防げる命であることを、すべての人に知って欲しいと思います。

可児佳代さん(かにかよ)

PROFILE
風疹をなくそうの会『hand in hand 』
共同代表。風疹が大流行した1982年、不妊治療の末に妊娠したものの、自身が風疹に感染。出産した長女が先天性風疹症候群と診断される。難聴、先天性白内障、心臓病の障害を抱え、手術や治療を繰り返しながら元気に成長するも、高校3年生の卒業式を前に天国に旅立つ。
その後、同じ苦しみを誰にも繰り返してほしくないと、風疹をなくすための活動を個人で開始。再び風疹が大流行した2013年、お子さんが先天性風疹症候群の母親たちと「風疹をなくそうの会」を立ち上げ、現在もセミナーや講演会などで活動を行なっている。

時田章史先生(ときたあきふみ)

PROFILE
クリニックばんびぃに・院長。順天堂大学医学部卒。1991年~1993年オーストラリアGarvan医学研究所留学、順天堂大学医学部小児科講師などを経て2015年より現職。日本骨代謝学会評議員、東京小児科医会理事、港区医師会理事。NPO法人VPDの会理事として、小児の感染症対策、予防接種の啓発に取り組む。現在東京産婦人科医会と4つのV(VitaminK&D、HTLV-1、HPV)対策のため活動中。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年1月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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