【医師監修】「子宮内膜症」の主な症状は「痛み」。その原因と治療法を知っておこう
30代に特に多く、増加傾向にあると言われる「子宮内膜症」。不妊の原因となることも多く、不妊治療と内膜症の治療との兼ね合いで悩む人も少なくありません。どのような病気で、どんな治療をするのか、妊娠との関係など、東京大学医学部産婦人科学教室主任教授・藤井知行先生に聞きました。
子宮内膜症は、子宮内膜の類似組織が子宮内膜ではない場所に発生する病気です
子宮内膜症とは、本来は子宮内にしか存在しない内膜や、内膜のような働きをする組織が、他の場所に発生し発育する病気です。
発症のメカニズムとしては、体外へ排出されるべき月経血が、何らかの原因で卵管から腹腔内へ逆流し、月経血に混ざっている子宮内膜細胞が、他の組織にくっついて育つという学説が有力です。
発症する場所は、卵巣、子宮と直腸の間のくぼみ、子宮と膀胱の間のくぼみ、子宮を後ろから支える靭帯(じんたい)などが多く、稀に肺や腸にできることもあります。
これらは本来の子宮内膜同様に、月経期になるとはがれて出血を繰り返します。しかし、体外に排出されずに体内にたまるため、卵巣や卵管などいろいろな臓器と癒着するなどして痛みやトラブルを引き起こします。
現代の女性は初潮を迎える年齢が早まり、女性ホルモンが分泌される期間が長くなっています。また、晩婚化が進んで出産年齢が高くなり、さらに生涯に出産するお子さんの数も減っているため、20〜40代の女性が経験する月経回数が昔より大幅に増えています。そのため、子宮内膜症が増えていると言われています。
月経がある10~40代の女性のうち、10~15%が子宮内膜症といわれています。20~30代で発症することが多く、ピークは30代です。
「チョコレート嚢胞(のうほう)」も子宮内膜症の1つです
子宮内膜症が卵巣にできて悪化すると、「チョコレート嚢胞」になります。月経のたびに起こる出血は卵巣に袋(嚢胞)を作り、中にたまった経血は時間が経つに従い酸化します。どろどろに溶けたチョコレートのようになることから、この名前がつけられました。
チョコレート嚢胞は普通の卵巣組織よりも、がんになりやすいといわれています。年齢が40歳以上の方や、若くてもチョコレート嚢胞が大きい場合は、特にリスクが高まります。
代表的な症状は「痛み」、合併症には「不妊症」があります
子宮内膜症の代表的な症状の1つが「痛み」です。
初期の頃は月経痛が中心で、進行すると他の組織との癒着によって性交痛が起こることがあります。月経時以外にも腰痛や下腹痛、排便痛などが起こる場合もあります。
また、子宮内膜症は不妊症になりやすいのも特徴で、子宮内膜症の方の約半数に不妊症が起こるといわれています。特にチョコレート嚢胞ができると卵巣にある卵子の質と量が低下するため、不妊症を発症する可能性が高くなります。
薬を飲まなくては耐えられないような強い月経痛がある場合には、たとえそれが1回でも婦人科を受診しましょう。月経の周期が40日前後と長くなったり、貧血などの症状がある場合も早めの受診が必要です。
検査は婦人科診察と超音波(エコー)が基本
検査では、触診などの婦人科診察と超音波(エコー)検査を行います。症状が進んでいる場合にはMRI検査をすることもあります。
超音波(エコー)検査は、人の耳には聞こえない周波数の音波である超音波を当て、その反射を受信して体内を画像化し診断します。音波なので被曝の心配がなく、痛みもありません。妊娠していても問題なく検査を受けることができます。
子宮内膜症は慢性疾患。閉経まで継続的な治療が必要です
治療法は大きく分けて、薬と手術に分かれます。症状の種類や重症度、年齢、妊娠の希望などを総合的に判断して最適な治療法を選択しますが、基本的には鎮痛剤の投与による薬物療法からスタートします。
薬による治療:偽妊娠(ぎにんしん)療法
鎮痛剤で効果が得られない場合、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲスチン)の合剤である「LEP(レップ)製剤」を用いて、「偽妊娠療法」を行う場合があります。妊娠すると子宮内膜症が改善することが多いことから始められたもので、人為的に「妊娠」状態をつくり出す治療法です。
「LEP製剤」は経口避妊薬と同等の薬ですが、子宮内膜症や月経困難症の治療を目的としている薬剤で、病巣に作用させて症状を緩和させる働きがあります。
副作用として、軽い頭痛、軽い嘔気などが起こることがありますが、飲み続けると徐々に改善します。
ただし、重要な副作用として、血管が血の塊で詰まる「血栓(けっせん)症」が起こる場合があります。頻度は低いものの注意が必要です。
薬による治療:偽閉経(ぎへいけい)療法
女性ホルモンの濃度を閉経レベルまで低下させる治療です。治療中は排卵がなくなり、月経もなくなることから、月経に伴う症状(月経痛など)はなくなり、貧血も改善します。
ただし、副作用としてのぼせ、ほてり、発汗、頭痛などの更年期の症状が出ることがあります。また、更年期の方と同様に骨がもろくなる骨粗(骨祖)しょう症も問題になるため、6ヶ月以上の持続投与は原則的にできません。
投与を中止すると再び月経が始まり、子宮内膜症が進行する可能性があります。
薬による治療:黄体ホルモン療法
最近では「黄体ホルモン療法」という方法も行われています。黄体ホルモン製剤は、子宮内膜を委縮させる効果があります。
副作用として、不正出血、月経出血日数の延長、月経周期の変化などが起こることがあります。
子宮内膜症は慢性疾患のため、いずれの薬物療法でも完治はしません。閉経まで継続的に薬物療法を行うのが一般的です。
手術による治療
病巣部がはっきりしていたり症状が進んでいる場合は、手術を考慮します。
妊娠を望んでいる場合には、病巣部のみを切除して子宮や卵巣の正常部分を残す手術を選択します。妊娠を望まない場合は、病巣の他に子宮、卵巣および卵管などを摘出することもあります。
チョコレート嚢胞はがん化することがあるため、40代以上で一定以上の大きさがある場合は手術して病巣部分を切除します。
また、手術をしても子宮内膜症は繰り返すことがあるため、術後は薬物療法を行います。
妊娠を希望する場合に知っておきたいこと
不妊症になりやすい子宮内膜症で妊娠を希望する場合、主に2つの方法が取られます。1つは手術で子宮内膜病変を取り除く方法。もう1つは、体外受精などの不妊治療を、内膜症の治療を行わずに先行することです。
どちらも必ず妊娠するとは言えませんが、希望する場合は早めに対応することが大切です。
妊娠すると、子宮内膜症は一時的に良くなります。ウソのように治ってしまう人もいますが、多くの場合、子宮内膜症は慢性疾患のため完治することはありません。子どもが幼稚園や保育園に入るころに再発するケースがほとんどです。
第2子を希望する場合は、第1子を出産した後、2カ月くらいから薬物療法を再開することが望ましいとされています。授乳中でも問題なく使用できる薬剤があるので、問題なく服用を続けることが可能です。
先輩ママの体験談「手術、妊活、出産…私が選んだ子宮内膜症の対応法」
月経痛が強くなったらMRI検査を受けて!
「排卵痛がひどくなって婦人科でMRI検査をしたら、子宮内膜症と分かりました。今は内科的治療で経過観察です。その前に行っていた病院では、超音波検査と内診のみで、“ちょっと子宮内膜症があるかもしれないね”と軽く流されていました。
放置していると、どんどん痛みが強くなります。私は鎮痛剤が効かないくらいまで痛くなってから今の病院に行ったので、本当に辛かったです。もし、どんどん痛みが強くなる場合は、費用はかかるけれどMRIできちんと調べることをおすすめします」
手術をすすめられたものの、決断できずにいます
「2年ほど前に子宮ガン検診でチョコレート嚢胞が見つかり、治療を続けています。現在、4センチ弱ですが、今後妊娠を望まないこと、現在42歳で閉経までまだ年数があること、チョコレート嚢胞は卵巣がんになるリスクが高いことなどから、医師に子宮と片方の卵巣をとる手術をすすめられています。今すぐ手術しなければいけないというわけではないので、なかなか決断できずにいます」
薬物治療は受けずに不妊外来を受診し、妊活中
「流産した後の定期検診で右卵巣に腫瘍(しゅよう)が見つかり、精密検査の直前に激痛に襲われ大学病院へ。チョコレート嚢胞が破裂したとのことで、その日のうちに緊急手術(腹腔鏡手術)を受けました。
現在、チョコレート嚢胞が再発しています。でも、妊娠を望んでいるので、不妊外来で経過を見ながら妊活しています。チョコレート嚢胞が5センチ以上になればまた手術も考えるけど、妊娠希望なのでなるべく2回目の手術は避けたいと、先生と私たちの意見が一致しているので、安心して治療を受けています。自分がきちんと納得できる治療を受けるのが一番だと思います」
内膜症だけど不妊治療で2人目を妊娠!
「鮮血の出血が少量ある状態が数日続き、病院に行きました。結果、“子宮内膜症でチョコレート嚢胞がある”と言われました。内膜症は妊娠しづらいので、不妊治療専門に通った方が良いと言われ、そうしたところ2人目を妊娠できました!」
子宮内膜症は慢性疾患のため完治しにくく、再発も多い病気です。でも、月経のとき以外は痛みがなかったり、あっても弱い場合が少なくありません。また、症状は永遠に続くわけではなく、閉経とともにおさまってきます。症状や希望に合った治療で痛みや負担を軽減しながら、上手に根気よく付き合いたいですね。
(取材・文/かきの木のりみ)
■文中の体験談コメントは口コミサイト『ウィメンズパーク』の投稿を再編集したものです。
初回公開日 2019/10/31
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