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酔った勢いで…梅原佐波、後悔してもあとの祭り【小説「ご懐妊!!」Vol.4】

更新

『ご懐妊!!』Vol.4
スターツ出版文庫の大人気小説『ご懐妊!!』が、たまひよWEBにて連載中。「たまごクラブ」でもおなじみの産科医・大浦訓章先生のひと言解説もお見逃しなく。

●これまでのあらすじ
広告代理店で仕事に打ち込む佐波。悩みといえば、上司のイケメン鬼部長・一色が苦手なことくらい。それなのに、お酒の勢いで彼とキスしてしまい…。


二ヵ月②

唇が離れ、そのあまりに優しい感触が嬉しかった私は、『もう一回』と笑った。
 部長が私の身体を引き寄せ、今度は深くて熱いキスをする。
 この人のキス、めちゃくちゃ気持ちいい。
 私も彼の頭を手繰り寄せ、キスを深くする。そして、私たちは床に倒れ込んだ。
 頭の隅ではいろいろなことがよぎった。
 おいおい、この人は一色褝だぞー、苦手な上司だぞーとか。彼氏いるのになぁとか。あれ? 生理終わって何日だっけ? などなど……。
 でも、すぐにどうでもよくなった。お酒のせいもあったし、キスだけでこれほど気持ちいいなら、この人との先もしてみたい。……なんて思ってしまったわけ。
 その夜のエッチは、私の経験した中では最高のものだった。それは間違いない。
 当然といえば当然だけど、翌朝オフィスで目覚めたときの衝撃は半端なかった。
 私たちは、そそくさと後片づけをして、何事もなかったかのように別れた。
 翌週、オフィスで会ったときには、部長はいつもの鬼軍曹に戻っていた。
 私は忘れることにした。
 まぁ、一度くらいの間違い、大人ならあるかも……だよね。
 それが、まさかこんなことになるなんて。

 金曜日の夜、私は新宿駅の西口に立っていた。
 十一月とはいえ、割と暖かい晩だ。病院に行ってから二日が経っていた。部長がシンガポールから帰るのは、まだ先になる。
 一昨日、病院で私が『妊娠』と告げられたとき、おじさん先生は言った。
『再来週にまた来てください』
『はぁ』
『心拍が確認できると思うから。母子手帳もらうなら、それからね』
 どういうことだろうと思ってネットで検索する。
 なるほどね、胎児の心拍が確認できると、初期流産のリスクがぐぐっと下がるんだ。
 しかし私の頭の中で、間違いなく望んでいることがある。
 このまま自然に流産になってくれないかな。
 妊娠を望んでいる女性や、流産経験のある女性からしたら、私の思考は最低最悪だ。そんなのわかってる! だけど、ふと願ってしまう。このお腹の命が、なかったことになるなら。
 急にスマホが振動を始めた。涼也からメールだ。
【ごめん、あと少しで着く】
 私は今までの煩悶をしばし忘れ、嬉しくなった。
 今夜は、彼氏の涼也と待ち合わせをしている。会うのは一ヵ月半ぶりだ。涼也は整骨院に勤めている同い年の男子。付き合って一年になる。とにかく優しくてお人好しなやつで、整骨院でもおじいちゃんおばあちゃんに大人気らしい。涼也の優しさには今までずいぶん救われてきた。
 ……待てよ? 私の最低思考はくるくる回転する。
 このお腹の子、涼也の子だって言えないかな? だって、正直わかんないでしょ? 妊娠週数のこととか、いつしたから何ヵ月とか。
 優しい涼也のことだ。『赤ちゃんできたよ!』なんて言ったら疑うことなく、『やった! 結婚しよう!』ってなるに決まっている。そういうやつなの。バカがつくくらい真面目な男!
 まー、問題は猿系の涼也から、顔かたちの整った子が産まれたときのことだよね。部長、イケメンだからな……。
 私が最低な考えを巡(めぐ)らせていたときだ。
「お待たせぇ。ごめんなぁ、佐波」
 雑踏の中から、片手を挙げた涼也が現れた。
「涼也!」
 私は嬉しくて彼に駆け寄る。そのままふたりでチェーンの居酒屋に入った。お蕎麦(そば)も楽しめるし、店内も落ち着いているしで、よく利用するのだ。
「久しぶりやなぁ」
 涼也は関西弁を話す。小さい頃、大阪にいたらしいけれど、私はエセ関西弁だと思っている。なんか雰囲気だけっぽいんだよね。そういうところも可愛いんだけど。
「ごめんね、私が忙しかったから。もうその仕事は終わったよ!」
 いつも通り焼酎を頼もうとして……いかんいかん、ジンジャーエールにします。
「佐波、あのな、会えなかった期間に俺もいろいろ考えたんや」
 うんうんと頷きながら考える。
 ん? もしや、この流れはプロポーズ!? 会えないのはつらいから、一緒に住もうとか!?
 期待で身を乗り出す私の眼前で、涼也が突然、ばっと両手をテーブルについた。
「ごめん! 佐波! 俺と別れてくれぇ!!」
 彼は深々と頭を下げていた。
 え? あれ? プロポーズは?
「……どういうこと?」

つづく
【小説「ご懐妊!!】次回をお楽しみに


著者/砂川雨路  イラスト/くにみつ 監修/大浦訓章先生

この小説はスターツ出版文庫から刊行されている『ご懐妊!!』より掲載しています。たまひよWEB版は産婦人科医大浦訓章先生の監修のもと一部改訂しております。


砂川雨路
Profile
群馬県出身。東京都在住。著書に、『愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~』『クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした』(ベリーズ文庫)、『僕らの空は群青色』(スターツ出版文庫)などがある。現在、小説サイト「Berry's Cafe」「ノベマ!」にて執筆活動中。『ご懐妊!!』(スターツ出版文庫)は現在3巻まで発売中。テキストリンクなどもはれる。

大浦 訓章先生
Profile 
南流山レディスクリニック院長 慈恵医大卒。産婦人科准教授、同大付属病院総合母子健康センター産科部門長、東京母性衛生学会理事、日本周産期新生児学会評議員・副幹事長、日本周産期新生児学会新生児蘇生法委員などを歴任。現在、周産期メンタルヘルス学会評議員、女性スポーツ研究会理事、2020年産科婦人科学会、医会産科診療ガイドライン作成委員、2023年同評価委員。「たまごクラブ」でも監修をつとめる。

南流山レディスクリニック

ご懐妊!!3~愛は続くよ、どこまでも~

OLの佐波は、苦手な超イケメンの鬼部長・一色とお酒の勢いで一夜を共にしてしまう。しかも後日、妊娠が判明! 迷った末、彼に打ち明けると…。大人気シリーズ、ついに3巻発売!

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