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実家で見た、部長の意外な一面【小説「ご懐妊!!」Vol.19】

『ご懐妊!!』Vol.19
スターツ出版文庫の大人気小説『ご懐妊!!』が、たまひよWEBにて連載中。「たまごクラブ」でもおなじみの産科医・大浦訓章先生のひと言解説もお見逃しなく。

●これまでのあらすじ
広告代理店で仕事に打ち込む佐波。悩みといえば、上司のイケメン鬼部長・一色が苦手なことくらい。それなのに、お酒の勢いで彼と一夜を共にしてしまい、後日、妊娠が判明!不安と途惑いの中、部長に「赤ちゃんがいます」と告げたところ、部長の答えは「結婚」。途惑いながらもふたり暮らしを始め、会社にも報告し、いざ佐波の実家へ…


四ヵ月

喜んでいるってお母さんは言っていたけど……まさか、お父さんは反対派だったの? そんなの聞いてない!
 それでも、じっと成り行きを見守る。少しの沈黙を挟んで、父が再び口を開く。
「結婚八年目でようやく授かった、ひとり娘です。夫婦ふたりでやれることはやったつもりですが、至らぬところの多い娘です。一色さんの妻として見合うかは、わかりません。明るいだけが取り柄の子ですから」
 ひゅ、と父が息を吸い込む音が聞こえた。
「でも、あなたさえよければ、もらってやってください。幸せにしてやってください。佐波は……」
 そこまで言って、父は嗚咽(おえつ)した。目尻の皺(しわ)を伝って、大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
「佐波は……私たちの宝なんです……」
 父が厳しい表情をしていたのは、泣くのを我慢していたからなんだ……。
「あらあら早いわよ、お父さんたら。泣くのは結婚式でしょ」
 母がお茶を運んできながら、呑気な声を上げた。
 父は泣きやまない。顔を真っ赤にして、ぽろんぽろん涙をこぼして。
 ……お父さんが泣くのを初めて見た。私の涙腺も緩んでしまいそうで、危ないったらない……。
 ふと横を見ると、部長が唇を噛みしめ、俯いていた。
 え? 嘘……でしょ?
 その目に涙がいっぱいたまっているのを、私は見てしまった。
「必ず、必ず幸せにします。佐波さんとお腹の子は」
 部長は絞り出すように言った。演技でもなんでもなかった。この人は、父の涙にもらい泣きしていたのだ。
 ずっと、怖くて厳しい人だと思っていた。優しくしてくれるのは、責任からだと思っていた。でもこの人は、一色褝という人は、実はすごく感情豊かな、愛情深い人なのかもしれない。
 気づくと私は、お腹を触っていた。
 ねぇ、お腹のあなた。パパはもしかして、すっごくいい人なのかもしれないね。
父がどうしても部長とお酒を酌み交わしたいというので、私たちは日帰りの予定をキャンセルして、実家に一泊することにした。
 ふたりは早速、父の出してきた日本酒の大吟醸で乾杯し、飲み始めてしまった。私の酒好きは父の遺伝だと思う。
 母と私は夕飯の買い物に、近くのスーパーに向かった。車から降りると母が言う。
「あんたたちって、付き合って日が浅いの?」
 私はぎくっと固まる。
「なんで?」
「なんとなく。お互い話し方が初々しいなあって」
 ぼーっとしていると思いきや、意外とよく見ているね、お母さん。
 付き合う前に結婚を決めたとは言えないので、ごまかして答える。
「実は、付き合ってすぐに赤ちゃんができちゃってさ」
「ふーん。でも、それもご縁ってやつだわね」
 母はなにも気にしていない様子だ。
「私、知らなかった。お母さんたちが、八年も赤ちゃんできるの待ってたなんて」
「まあ、話さなくてもいいことかなって思っただけよ。不妊治療したわけじゃないし、私も仕事してたしね。でもお父さんは、自分が年上だからって気にしてたなぁ」
 父は母より六歳年上だ。私と部長の年の差とたいして変わらない。
 母はカートにかごをセットし、歩きだす。
「あんたが産まれたら、それまでの寂しさや不安は忘れちゃった。忙しくなったし、毎日が必死で。私もお父さんもあんたから、たくさん幸せをもらったよ。だから私は今、単純に嬉しいの」
 横を歩く母を見つめる。ブロッコリーを手にした母が若々しく笑った。
「私の産んだ娘が、母親になろうとしてることが嬉しい。佐波が子どもを授かる幸福を味わえるんだもん」
 そんなふうに思ってもらえていたなんて。私はまたしても涙腺が緩むのを感じて、目をごしごしとこする。
 子どもを授かる幸福は、誰にでも簡単にやってくるものじゃない。
 心して挑もう。たくさん愛してくれた両親のためにも。父の涙にもらい泣きしてくれた彼のためにも。

 私たちが入籍したのは翌週の金曜日。十五週〇日、大安だった。 

つづく
【小説「ご懐妊!!】次回をお楽しみに


著者/砂川雨路  イラスト/くにみつ 監修/大浦訓章先生

この小説はスターツ出版文庫から刊行されている『ご懐妊!!』より掲載しています。たまひよWEB版は産婦人科医大浦訓章先生の監修のもと一部改訂しております。


砂川雨路
Profile
群馬県出身。東京都在住。著書に、『愛され新婚ライフ~クールな彼は極あま旦那様~』『クールな御曹司の本性は、溺甘オオカミでした』(ベリーズ文庫)、『僕らの空は群青色』(スターツ出版文庫)などがある。現在、小説サイト「Berry's Cafe」「ノベマ!」にて執筆活動中。『ご懐妊!!』(スターツ出版文庫)は現在3巻まで発売中。テキストリンクなどもはれる。

大浦 訓章先生
Profile 
南流山レディスクリニック院長 慈恵医大卒業。産婦人科準教授を経て、東京産科婦人科学会評議員、東京母性衛生学会幹事長、日本周産期新生児学会評議員・副幹事長、日本周産期新生児学会新生児蘇生法委員会委員などを歴任。「たまごクラブ」でも監修をつとめる。

南流山レディスクリニック

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