同じ悩みをもつ低出生体重児のママ達が、共感や安心感を得られるピア・サポートの役割って?【専門家】
摂南大学看護学部看護学科教授の井田歩美先生は、ベネッセコーポレーションの投稿サイト「ウィメンズパーク」に寄せられるコメントから、ママが求めているもの・解決したいことなどを、10年にわたって分析しています。2021年3月20日・21日にWEB開催された第35回日本助産学会学術集会で発表された「コミュニティサイトにおける投稿内容の分析による低体重児を育てる母親の情報ニーズ」をもとに、低体重児のママがコミュニティーサイトに期待していることや、コミュニティーサイトとのつき合い方などについて聞きました。
病院で解決できなかったことを、コミュニティーサイトで質問することが多い
低体重児を出産したママは自分を責めやすく、育児不安も大きいと言われます。また、育児書は正期産児のことを中心に書かれているため、「読んでも役に立たない」という話もよく聞きます。
――低出生体重児のママの投稿には、「教えてください」「アドバイスをいただきたい」という単語の頻度が多かったとのことですが、低出生体重児を育てるための情報が、ほかの方法では得られないからでしょうか。
井田先生(以下、敬称略) 低出生体重児のママの投稿には「病院で〇〇と言われたけれど意味がわからなかったので教えてください」「〇〇な処置を行うと言われたのですがどう思いますか」など、病院で受けた説明について、投稿サイトで質問する例が多く見られました。
つまり、医療従事者の説明が理解できていなかったり、納得できていなかったりしているということだと考えられます。病院で説明を受けたときに「よくわからない」「それってどういうこと?」と感じても、解決できずに帰宅しているわけです。
医療従事者は「わからないことは何でも聞いてくださいね」と言いつつ、ゆっくり質問を受ける時間が取れていなかったり、ママが質問しにくい雰囲気を無意識のうちに作ったりしているのだと思います。医療従事者は常に忙しく動いているので、ママが質問するのを遠慮してしまうこともあるでしょう。
子どもの治療やフォローアップで受診した際に、ママが疑問や不安を解決できないのは問題です。医療サイドが考えるべき事項として、問題提起していく必要があると感じています。
コミュニティーサイトには「ピア・サポート」も求めている
先生の調査によると、乳児を育てるママの投稿件数は年間13万4000件超で、低体重児に限定したコミュニティーサイトでの投稿件数は2年間で約1300件とのこと。
――コミュニティーサイトで読める低出生体重児のママの体験談などは、同じ境遇のママにとってかなり貴重なものと言えますね。
井田 そうですね。低出生体重児のママ友が近くにいるとは限らないので、コミュニティーサイトで同じくらいの月齢・年齢の子どもを持つママのコメントを読むと、「うちの子だけじゃないんだ」とほっとできるでしょう。また、少し上の年齢の子どもを育てるママのコメントは、先の見通しに役立ちます。低体重児のコミュニティーサイトのコメントは、育児をするうえでの大きな安心材料になっていると思います。
――今回の発表の中で「低体重児のママは、低体重児限定サイトに、ピア・サポート(仲間同士の支え合いを)期待している」と述べられていました。ママが求めているのは、情報を得ることだけではないんですね。
井田 「みんな同じ悩みを持っている」という共感や、同じ境遇のママとつながっている安心感なども求めているのだと思います。また、質問されたことに答え、「自分の経験が誰かの役に立っている」と感じることは、ママの自己肯定感を高める効果もあるでしょう。
当事者同士では解決できない専門的なことは医療従事者に相談してほしい
ネット投稿の誹謗中傷が問題になっていますが、コミュニティーサイトに参加することは、そういうリスクもあると思われます。ピア・サポートを期待しているサイトで傷つけられると、ママの自己肯定感が下がり、育児にも影響が出そうです。
――コミュニティーサイトに参加する際には、どのようなことに注意すべきだと思われますか。
井田 コミュニティーサイトには暗黙のマナーやルールみたいなものがありますよね。それを理解しないで投稿すると、「失礼な人」と言われがちなようです。これを防ぐには、しばらくは閲覧のみにして様子を見るのがよさそうです。読んでいるうちにサイトの雰囲気や投稿する人の個性などが分かってくると思うので、「大丈夫そうだな」と思ってから投稿するといいと思います。
10年間ウィメンズパークの投稿を見てきましたが、当初は気づかなかった「辛口コメントはご遠慮ください」と断りを入れている投稿が増えつつあるようです。ネット社会での自衛手段だと思います。先輩ママたちのこうした対策も参考にするといいですね。
――ネット上に情報があふれている今、有益な情報は活用しつつ、情報に振り回されないようにすることも大切ですね。
井田 コミュニティーサイトで「教えて」の話題に上っているテーマの中には、医療従事者に相談しないと解決しないと思われるものも多くあります。当事者の体験談では解決しないこともある、ということは理解してほしいと思います。
一方、医療従事者側は低出生体重児を育てるママの思いをくみとり、不安や困難を相談してもらえるような信頼関係を築けるようにしていくことを、早急に進めなければいけないと考えています。
取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
低出生体重児を育てるママは、コミュニティーサイトに投稿したり、投稿を読んだりすることで、共感し、支え合っているようです。コミュニティーサイトは育児の助けになるものですが、当事者同士では解決しない専門的なことは、医療従事者に相談することも大切です。