コロナ禍で増えている女性の自殺。産後うつが原因のことも! どうやって防ぐ?【精神科医】

コロナ禍で、女性の自殺者が増えています。2021年1月、警察庁、厚生労働省では、2020年の1年間で女性の自殺者は前年比885人増(6976人)と発表しました。原因は定かではありませんが、その中にはママ世代の女性も含まれています。産後うつに詳しい、ママ精神科医 蟹江絢子先生に、コロナ禍での産後うつについて話を聞きました。蟹江先生は「コロナ禍という先行き不透明で不安定な時代だからこそ、産後うつに注意が必要」と言います。
気軽に外出できない、ママ友だちと出会えない…コロナ禍特有の産後うつの理由
蟹江先生は、病院でうつの診療にも当たっています。コロナ禍の今、診療をしているとママの産後うつが増えていると言います。
「コロナ禍で産後うつが増えている原因はいくつか考えられますが、自由に外出ができず、低月齢の赤ちゃんと家にこもる生活が続いていることがあるでしょう。赤ちゃんを連れてお散歩に行ったり、実家に遊びに行ったりするのを控えているママは多いと思います。
ほかには自治体の乳幼児健診が中止になったりして、ママ友だちと知り合う場が少なくなったり、保健師さんなどママをサポートしてくれる人たちとつながりにくくなったというのも原因の1つではないかと考えられます」(蟹江先生)
また赤ちゃんを連れて歩いていると、以前ならば近所の人や知らない人から「赤ちゃん、かわいいですね」「子育て頑張っているわね」など、声をかけられることがありました。しかしコロナ禍で、そうした機会が、少なくなったことも産後うつが増えた要因ではないかと蟹江先生は言います。
「新型コロナの流行前は、知人や地域の人からかけられる何気ないひと言で、心が救われたり、“頑張ろう”と思えたりしたママは実は多いです。でも、今は人との交流が減ってしまって、そんなシーンが少なくなってしまいました」(蟹江先生)
授乳や発育・発達の悩みなどの“後知恵バイアス”から発症するママも
産後うつは、産後4週ごろまでに発症するママが多いのですが、早期にケアをしないと長引いたり、症状が重くなったりすることもあるといいます。
3カ月の子をもつママからは、次のよう声も聞かれます。
●精神科で産後うつと診断され、薬を服用しています。毎日、つらいです。子どもが生まれて混合授乳で育てていましたが、体重が順調に増えていたので、1カ月から完全母乳にしました。でもしばらくしたら、子どもは機嫌が悪く、なかなか寝ないように…。抱っこして、やっと寝かしつけていました。当時の私は、子どもが不機嫌な理由を深く考えませんでした。多分、ほかのママなら「なぜ泣くのか?」考えたと思います。私は「体重が増えていない!」とわかってから、「あっ! おなかがすいていたんだ!」と初めて気づきました。
それ以来、私は自分を責める毎日です。おなかがすいていたわが子を思うと、かわいそうでなりません。
この体験談のように授乳や赤ちゃんの発育・発達、体の気がかり、よく泣くことなどがきっかけで、産後うつになるママは多い、と蟹江先生は言います。
「体験談の中で、ママは“ほかのママなら、なぜ泣くのか?考えたと思う”とありますが、何か問題が起きたとき予測できたはずなのに…と後悔する心理的傾向を“後知恵(あとぢえ)バイアス”と言い、“こうもできたかもしれない”と考え、自分を責めてしまうことで、落ち込むことがあります。
しかしよく考えてみましょう。このママは、赤ちゃんのためには完全母乳がいいと思って、その時点ではベストと考えられる選択をしたわけです。
同じような悩みを抱えているママも、悪い結果になるようにとやったわけではないのだから、どうか自分を責めないでほしいと思います」(蟹江先生)
産後うつは精神科が専門。受診前に、治療方針などをチェックして
産後うつは、早期のケアが大切です。ただし症状が重くなってくると「気力がわかない」「無関心になる」「自分の育児を否定されるのではないか」と考えることもあり、自分からSOSを発せない状態になることも。そのため「おかしいな!?」と思ったときは、パパや周囲にいる人のサポートが欠かせません。
「“産後うつかどうかわかないけれど、なんか気になる。でも受診するのは抵抗がある”というときは、インターネットなどで、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)を検索して、セルフチェックをしてもいいでしょう。
受診する場合は、うつ病は精神科が専門です。精神科はハードルが高いと思わずに受診してほしいと思います。また、ストレス性のぜんそくや胃痛など、内科の診療も必要なときは心療内科がいいでしょう」(蟹江先生)。
精神科とひと口に言っても、病院・施設によって治療方針は異なると蟹江先生は言います。
「とくに産後うつの場合は、症状によっては薬を服用するため、断乳が必要といわれる場合があります。もし授乳を続けたいならば、授乳しながら服薬する方法を考えてくれる精神科や、認知行動療法で治療を行う精神科を受診しましょう。ホームページなどで調べられると思います。
認知行動療法とは、その人のものの受け取り方や考え方(認知)に働きかけて、気持ちをラクにする精神療法です。認知行動療法を取り入れている精神科であれば、服薬をしないという選択肢もあるかもしれません」(蟹江先生)
精神科って不安と思う場合は、まずは地域の保健センターや、産後ケアのスタッフに相談するのも一案です。
お話・監修/蟹江絢子先生 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
産後うつの原因には、睡眠不足もあります。もし気持ちが晴れず、眠れない日が続いた場合は、精神科で相談してもいいそうです。蟹江先生によると「たとえば風邪をひいて、せきが出て眠れないときは内科を受診しますよね? 赤ちゃんが低月齢のうちは寝られず、気持ちや体が疲れることもあるので、無理をせずに精神科を受診してください」と言います。産後うつを重症化させないためには、症状が軽いうちに専門家に診てもらうことが大切です。
蟹江絢子先生(かにえあやこ)
Profile
精神科医・医学博士。筑波大学医学専門学群医学類(医学部)卒業。現在は、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター勤務。2歳、4歳の2児のママ。
※文中のコメントは口コミサイト「ウィメンズパーク」の投稿からの抜粋です