「赤ちゃんを車に乗せると泣きやむ!?」気になるその理由は?【小児科医が解説】
10カ月の男の子の診察後、お母さんと少し話をしていた陽ちゃん先生。お母さんから「車が走っているときはおとなしくなり、止まると泣きだす」という体験を聞いて、赤ちゃんの気になる反応について説明を始めます――。
赤ちゃん、ママやパパにいつもやさしく寄り添う陽ちゃん先生こと、小児科医の吉永陽一郎先生が、日々の診察室で起きた、印象深いできごとをつづります。先生は育児雑誌「ひよこクラブ」でも長年監修として活躍中です。「小児科医・陽ちゃん先生の診察室だより」#29
車に乗せた赤ちゃんがおとなしくなる理由は「振動」と「音」
その日来院したのは、10カ月の男の子とそのお母さんです。診察が終わり、少し話をしていたときのこと。
「この前、うちの子を車に乗せて出かけたんですよ。するとこの子、車が走っているときには静かになって、信号待ちで車が止まると、途端に泣き出すんです。不思議ですよね?」
――ああ、そういう赤ちゃんは多いようですね。
「車に乗っているときの、あの振動がいいんでしょうか」
――そうですね。振動が心地よくて眠りに誘われるのは、大人でもありそうですものね。
車が走りだしたら、ぐずっていた子が泣きやみ、いつの間にか寝ていたという経験は、多くの家族がしているようです。
――自動車メーカーによると、走行時の振動だけではなく、エンジン音も影響していると報告されているようですよ。
「車のエンジン音ですか?」
――そうです。エンジン音を聞かせると、多くの赤ちゃんが泣きやんだり、心拍数が安定したという研究がされています。
「へぇー!それはどうしてなんでしょうね」
――どうやら、赤ちゃんがお母さんのおなかの中で聞いていた音に近いからではないかと考えられているようです。
「おなかの中では、そんな音がしているんですか?」
――どこかの研究で、お母さんの心臓の鼓動に合わせておなかの中の動脈を流れる血液の音が、子宮の中だと「ザーザー」と聞こえるという話を聞いたことがあります。
「では、電車などの乗り物の音でも同じ効果があるのでしょうか」
――そうですね。赤ちゃんを安心させるために、エンジンの音が鳴るぬいぐるみなどもあるそうですよ。
動物の赤ちゃんは、移動中におとなしくなる本能が!?
ひとしきり話して、納得して帰ろうとしているお母さんに、ついつい話が止まらなくなる私は、さらに続けました。
――動物の赤ちゃんは、抱かれているだけよりも、移動が加わるほうがおとなしくなるって話は知っていますか?
「え、どういうことですか?」
帰りかけていたお母さんが、また座り直します。
――みんなで食事をしているとき、赤ちゃんがぐずりだして、だれか1人が抱っこして席を離れてあやしに行くと泣きやむ…なんて経験はないですか?
「ええ、うちではしょっちゅうあります。わが家では、食事中にあやすのはだいたい主人の役割ですね。場所が変わって、赤ちゃんの気がまぎれたということではないんですか?」
――場所の変化の影響もあるかもしれませんが、移動すること自体が、子どもを静かにさせるんです。
「へぇ。聞いたことありませんでした」
――自然界の動物を想像してください。たとえば、巣穴に天敵が迫っていると感じたら、どうするでしょうか。
「そりゃあ、安全なところに移動したり、隠れたりしますよね」
――そうですね。ですが、動物の赤ちゃんはまだ長い距離を早く移動できないので、親が首のところをくわえて移動させないといけません。
「そうですね」
――そのとき、赤ちゃんが嫌がって暴れてしまったら、移動に時間がかかって危険ですよね。
「なるほど」
――さらに動物の赤ちゃんが何匹かいたら、親はその数だけ往復して連れていかないといけませんからね。動物の赤ちゃんは、移動中おとなしくなるようにプログラムされているようです。
「それ、本当ですかー!?」
――マウスの実験でも証明されています。親が赤ちゃんマウスを移動させている最中は、赤ちゃんマウスはおとなしいんです。そして、薬で赤ちゃんマウスの感覚を抑えてしまうと、本来備わっている「おとなしくする」という力が発揮されず、運ばれているときに暴れ、移動させるのに手間取ったり時間がかかったりすることがわかっています。
動物の実験でわかっていることは、もちろん哺乳類である人間でも同じように考えることができると思います。
「では、赤ちゃんがぐずったときには抱っこをして移動するのは効果的なんですね。そして、車だと心地よくなる音も加わるので落ち着くというわけですか」
――そうですね。ただし、車に乗せるときは抱っこではなく、しっかりチャイルドシートを使ってくださいね。
構成/ひよこクラブ編集部